周囲は理解しがたい“うつ状態のどん底”「幽体離脱」「音だけが反響する世界」 マンガ『うつを甘くみてました』インタビュー(2/2 ページ)
『家族もうつ甘』#6 やりすぎ注意
『家族もうつを甘くみてました』
その他の収録エピソードは、ぶんか社のスマホ向けマンガ配信サイト「よもんが」に掲載。また、同社Webサイトの商品ページからも試し読み、購入できます
双極性障害と向き合いきれなかった夫の葛藤
―― 両作の違いで印象的なのは、ブリ猫。さんの夫(のち離婚)の描かれ方でしょうか。1作目『うつ甘』では“双極性障害に対する理解のない悪役”のような印象を受ける一方、2作目『家族もうつ甘』では「彼(夫)には彼の葛藤があった」とむしろ認めるようなコラムもあって
ブリ猫。:『家族もうつ甘』の制作をした1年間、両親にインタビューしていくなかで元旦那さんに対して気持ちが変わっていくところがあったんです。
『うつ甘』担当編集者(以下、担当編集):お父様としては「伴侶のお前がどうして一緒にいないんだ」というところがあったと思うんですが、インタビューの最後の方は「仕方がない。そういう人もいるだろう」「僕もけっこう大変だったもん」という感じ。責める雰囲気がずいぶんなくて。
「親という同じ立場を持つ、奥様の存在が大きかった」とも話していましたね。自分は娘という1人の人間に対して、父親、母親の2人で向き合うことができた。一方、元旦那さんは夫として1対1で向き合わなければならなくて、周囲にヘルプを出すことも難しかっただろう、と。
ブリ猫。:こういう父のおかげで、私も「離れていく人がいても仕方がない」と思えるようになりましたね。「逃げ場を持った方が良い」とよく言いますが、残念ながら必ずしも持てるわけではなくて。父はたまたま一緒にいてくれましたが、夫のようにそれが難しかった人もいる。
―― 自分自身もツラいなかで、相手のツラさを理解するというのはなかなか難しいことでは
担当編集:ええ。かなり時間がかかったと思いますよ。
ブリ猫。:長かったー。10年かかりました。
うつに悩む人が“読む”だけでなく“使える”マンガ
―― 『うつ甘』の各ページには「わかる!」「超わかる!」というチェックマークがありますなぜ“自分の共感したところが記録できるマンガ”に?
ブリ猫。:本として出すときに「心の病気に悩む人が、家族に『これ読んでみて』と渡せる作品にしたいなあ」と考えていて。「特にここを読んでほしい」というポイントを示せるようにしたかったんですね。
担当編集やデザイナーと相談していく中で「読者側で線を引いてもらう」「ふせんを貼ってもらう」といったアイデアもあったんですが、心の病気を持つ側としては自分の考えを書くことができなくて。そういう作業がツラかったんですよ。
より簡易的にしようということで、共感度合いをチェックマークで表現できるようにしました。この工夫は、本を読んでくださった心療内科の先生などからも好評をいただいていますね。
―― 一方、『家族もうつ甘』では、ブリ猫。さんが使用しているという「心の交換メモ」が付録になっていますね
ブリ猫。:頭の中がまとまらず、言葉で伝えることができなくてケンカになってしまって、本当に伝えたいことが伝わらない。そういうときに「これをやってくれるとうれしい」みたいに書いたのが、この心の交換メモの始まりですね。
メモの上部では「かなりツライ」「ツライ」「まぁまぁ」の3段階に丸をつけることで、自分の今の状態をおおまかに示せるようになっています。これだけでも参考になって、両親は「今、『かなりツライ』ならそっとしておこうか」という風に介入の仕方を変えていた、と聞いています。
―― “心理的なツラさの度合い”って、他人からは見えにくいところかもしれませんね
ブリ猫。:メモの下部にある「具体的に」という枠では、「今こんな感じなのよ」と詳しく書けるんですが、文ではなくイラストを使うこともありました。例えば、「身体が鉛のように重く……」と書く代わりに、自分の上におもりがドーンと乗っている絵を描くとか。
―― 本全体を通じて「心の病気と向き合うために、いかに人間と向き合えるようにするか」という工夫を感じました。ストーリーに関しても『うつ甘』『家族もうつ甘』の2つを読むと、さまざまな立場から双極性障害が見えるようになっていて
ブリ猫。:とはいえ、私が描いたマンガはあくまでも一事例です。病気病状千差万別なので、作品を通じて「こうだったら、絶対にこうすべき」と言うつもりはなくて。読者さんに対しては「もしもこれらのマンガに使えるところがあったら、使ってください」というスタンスですね。
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