周囲は理解しがたい“うつ状態のどん底”「幽体離脱」「音だけが反響する世界」 マンガ『うつを甘くみてました』インタビュー(2/2 ページ)

» 2020年04月16日 20時00分 公開
[ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

『家族もうつ甘』#6 やりすぎ注意

























『家族もうつを甘くみてました』

その他の収録エピソードは、ぶんか社のスマホ向けマンガ配信サイト「よもんが」に掲載。また、同社Webサイトの商品ページからも試し読み、購入できます

双極性障害と向き合いきれなかった夫の葛藤

―― 両作の違いで印象的なのは、ブリ猫。さんの夫(のち離婚)の描かれ方でしょうか。1作目『うつ甘』では“双極性障害に対する理解のない悪役”のような印象を受ける一方、2作目『家族もうつ甘』では「彼(夫)には彼の葛藤があった」とむしろ認めるようなコラムもあって

ブリ猫。:『家族もうつ甘』の制作をした1年間、両親にインタビューしていくなかで元旦那さんに対して気持ちが変わっていくところがあったんです。

『うつ甘』担当編集者(以下、担当編集):お父様としては「伴侶のお前がどうして一緒にいないんだ」というところがあったと思うんですが、インタビューの最後の方は「仕方がない。そういう人もいるだろう」「僕もけっこう大変だったもん」という感じ。責める雰囲気がずいぶんなくて。

 「親という同じ立場を持つ、奥様の存在が大きかった」とも話していましたね。自分は娘という1人の人間に対して、父親、母親の2人で向き合うことができた。一方、元旦那さんは夫として1対1で向き合わなければならなくて、周囲にヘルプを出すことも難しかっただろう、と。

ブリ猫。:こういう父のおかげで、私も「離れていく人がいても仕方がない」と思えるようになりましたね。「逃げ場を持った方が良い」とよく言いますが、残念ながら必ずしも持てるわけではなくて。父はたまたま一緒にいてくれましたが、夫のようにそれが難しかった人もいる。

―― 自分自身もツラいなかで、相手のツラさを理解するというのはなかなか難しいことでは

担当編集:ええ。かなり時間がかかったと思いますよ。

ブリ猫。:長かったー。10年かかりました。

うつに悩む人が“読む”だけでなく“使える”マンガ

―― 『うつ甘』の各ページには「わかる!」「超わかる!」というチェックマークがありますなぜ“自分の共感したところが記録できるマンガ”に?

ブリ猫。:本として出すときに「心の病気に悩む人が、家族に『これ読んでみて』と渡せる作品にしたいなあ」と考えていて。「特にここを読んでほしい」というポイントを示せるようにしたかったんですね。

 担当編集やデザイナーと相談していく中で「読者側で線を引いてもらう」「ふせんを貼ってもらう」といったアイデアもあったんですが、心の病気を持つ側としては自分の考えを書くことができなくて。そういう作業がツラかったんですよ。

 より簡易的にしようということで、共感度合いをチェックマークで表現できるようにしました。この工夫は、本を読んでくださった心療内科の先生などからも好評をいただいていますね。

―― 一方、『家族もうつ甘』では、ブリ猫。さんが使用しているという「心の交換メモ」が付録になっていますね


心の交換メモ

ブリ猫。:頭の中がまとまらず、言葉で伝えることができなくてケンカになってしまって、本当に伝えたいことが伝わらない。そういうときに「これをやってくれるとうれしい」みたいに書いたのが、この心の交換メモの始まりですね。

 メモの上部では「かなりツライ」「ツライ」「まぁまぁ」の3段階に丸をつけることで、自分の今の状態をおおまかに示せるようになっています。これだけでも参考になって、両親は「今、『かなりツライ』ならそっとしておこうか」という風に介入の仕方を変えていた、と聞いています。

―― “心理的なツラさの度合い”って、他人からは見えにくいところかもしれませんね

ブリ猫。:メモの下部にある「具体的に」という枠では、「今こんな感じなのよ」と詳しく書けるんですが、文ではなくイラストを使うこともありました。例えば、「身体が鉛のように重く……」と書く代わりに、自分の上におもりがドーンと乗っている絵を描くとか。

―― 本全体を通じて「心の病気と向き合うために、いかに人間と向き合えるようにするか」という工夫を感じました。ストーリーに関しても『うつ甘』『家族もうつ甘』の2つを読むと、さまざまな立場から双極性障害が見えるようになっていて

ブリ猫。:とはいえ、私が描いたマンガはあくまでも一事例です。病気病状千差万別なので、作品を通じて「こうだったら、絶対にこうすべき」と言うつもりはなくて。読者さんに対しては「もしもこれらのマンガに使えるところがあったら、使ってください」というスタンスですね。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  2. 「驚愕の修理代」の金額明かす お見送り芸人しんいち、約2000万円の愛車が故障で「終わった」「お金がないです」
  3. プロ警鐘「エアコン、夏が終わったらコレやらないと……」が530万再生 水漏れや“内部のスライム化”を防ぐコツが目からウロコ
  4. “医療ミス”で両頬に大きな火傷 「鏡見るたび涙が止まらない」フォロワー24万人のモデルが悲痛の声 「周りの目が怖い」
  5. スーパーで買ったニンニクを土に植えると…… ぼこぼこ増える驚きの簡単栽培に「たくさん出来て最高」「植えてみよう」
  6. 「これは合格出せない」 リンガーハットがジョブチューン挑戦→“まさかの不合格メニュー2品”に騒然
  7. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  8. 「本当に56歳…?」 “王騎”大沢たかお、“腕と足の太さがほぼ同じ”の圧倒的肉体を披露 「かっこよすぎる」
  9. モグラに似てる“ヤベぇ虫”を、2カ月育ててみたら…… 感動の展開に「これはマジで凄い」「学術発表レベル」
  10. カインズの「撒くだけで防草できる砂」本当かどうか検証してみたら…… 驚きの結果に「魔法のような砂、買いに行きます!」「これさえあれば」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声