香川ゲーム条例、パブコメ原本を入手 賛成意見「大半が同じ日に投稿」「不自然な日本語」――あらためて見えた“異常”内容(1/2 ページ)
パブコメ原本もスキャンして別途公開しています。
パブリックコメントを巡る“不正”疑惑をはじめ、条例施行後もさまざまな批判や疑念が持ち上がっている「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」。パブコメの不自然な点については既に、KSB瀬戸内海放送や朝日新聞などが原本を入手し検証を行っていますが、編集部でも4月23日にようやくパブコメの原本(正確には原本の“写し”)を受け取ることができました。
今回、編集部では開示された原本のうち、有効コメント約4000ページを全て公開するとともに、実際にパブコメ原本を閲覧することであらためて見えてきた“異常”な点を、これまで指摘されてきた点と合わせて検証しました。
※原本の配布はこちらの記事から
「賛成」の大半が2月1日・3日の2日間に集中
届いたパブコメはA4用紙で4186枚。大きく「個人」と「事業者」に分かれ、このうち「個人」のものはさらに「賛成」「反対」「提言」に分類されていました(“無効”もありましたが今回の検証では除外)。
ひとまずこれらを日付順で並べてみると、明らかに2月1日、2月3日に大きな“山”があることが分かりました。約2300件ある「賛成」の多くはこの2日間に集中しており、数えてみると、2月1日には1085件、3日には520件もの投稿が寄せられていました。全「賛成」意見のうち、およそ7割がこの2日間に送られていたことになります。
※編集部が集計した数字と、香川県が発表した数字とで差異がありますが、一部「抜け」や「重複」があったためで、編集部側の数字は100パーセント正確なものではありません(名前や個人情報が伏せられているため、厳密な重複チェックができない)
賛成意見の大半が同じ書式、同じ文章
さらに意見の内容について見ていくと、既に指摘されている通り、「反対」は比較的長文のものが多いのに対し、賛成意見の多くは“1文だけ”で、また同じ文章、同じ書式のものが頻繁に出てきます。文章や書式には複数のパターンがあり、全てがまったく同じというわけではありませんが、ざっと確認したところ「賛成」約2300件のうち1900件ほどはこうした「パターン」での投稿でした。
【氏名】【住所】【件名】といった“書式”が共通しているのは、恐らく後述する「ご意見箱」から投稿されたためとみられますが、“文章”について見てみると、「賛成」「賛同します」といった短いものだけでなく、「ネット・ゲーム依存症対策条例が通る事により、皆の意識が高まればいいと思うので賛成します」など、そこそこの長さがあり、なおかつ特徴的な文章が何度も出てくる点が気になりました。
特に多かったのは次のような文章で、多いものは100件以上投稿されています。
- ネット・ゲーム依存症対策条例が通る事により、皆の意識が高まればいいと思うので賛成します。
- ゲーム依存により、判断の乏しい大人を生み出さない為に、賛成です。
- ネット、ゲームが子供達に与える影響様々ですので、賛成します。
- 条例通過により、明るい未来を期待して賛同します。
「判断の乏しい」「与える影響様々」など、やや不自然な日本語が見られることも含め、これらが偶然一致するということはまず考えられません。仮にもし「ひな型」のようなものがあり、誰かが賛同者の取りまとめ(※)を行っていたとしても、なぜこのような文章で、しかも複数パターンを用意して集めたのかは疑問が残ります(議会事務局によれば、名前や住所はそれぞれ別々だったとのこと)。
※本当にパブコメを送ろうとしている人たちを集め、誰かがまとめて意見を提出すること。これ自体は不正ではない
ローカルIPアドレス「192.168.7.21」からの投稿が不自然に多い
これも既に指摘されていますが、ローカルIPアドレス「192.168.7.21」から送信されたものが非常に多かったのも気になりました(通常、送信者のIPアドレスは見えない仕様ですが、「192.168.7.21」についてはそのまま公開されていた)。数えてみると「賛成」約2300件のうち1901件が「192.168.7.21」からの送信で、これは全賛成意見の83パーセントに相当します。
ただ、これ自体は単に「香川県のサイトにある『ご意見箱』から投稿するとこのように表示される」という仕様だったことが、議会事務局への取材や、KSB瀬戸内海放送などの検証で明らかになっています。つまり、これ自体が直ちに不正の証拠になるというわけではありません。
しかし、香川県が案内していたパブコメの送信方法に「ご意見箱」は含まれておらず、なぜあえてイレギュラーな「ご意見箱」というルートで、これほど多くのパブコメが送られていたのかは疑問です。ちなみに“反対”パブコメでも「192.168.7.21」から送られていたものはありましたが、これは340件中わずかに1件でした。
また、特に多かった2月1日、3日の投稿の大半が「192.168.7.21」からだったのも気になったところです。2月1日の投稿を見ると、賛成1085件のうち1031件(95パーセント)が「192.168.7.21」から、2月3日に至っては、賛成520件のうち513件(98パーセント)が「192.168.7.21」からの投稿でした。
同じ誤字が複数回出てくる(依存層、条例にに、ご感て想、ゲットゲーム条例etc.)
「パターン投稿」の中には、「依存層」「条例にに」「ご感て想」「ゲットゲーム条例」など、「誤字まで同じ」ものも複数みられました。中には数十回にわたって出てくるものもあり、さすがにこれらが別々の人物・PCから偶然重なって投稿されたとは考えにくく、恐らく同じ人物が同じPCから、同じパターンを「コピペ」して投稿した可能性が高いと推測されます。
その他気になった点としては、同じ誤字が日をまたいで別の日にまた現れるケースや、「件名」には同じ誤字があるのに「意見」は異なっているというケースもありました。
不審なUserAgentが複数ある
投稿者のUserAgent(投稿者のブラウザ環境を示すパラメータ)についても一部で話題になっていましたが、これについては時間が足りず、今回は詳細な検証まではできていません(IPアドレスは「ご意見箱」サーバのものですが、UserAgentは“送信者のもの”が記録されているようです)。ただ、ざっと見たかぎり、次のような点は確認できました。
- 大量の「パターン投稿」を行っている不審なUAが“複数”ある
- 1つのUAから複数の「パターン」が投稿されている
- UAだけでなく誤字も一致していたケースあり
もちろん、UAが同じだからといって、それだけで同一PC・同一人物による投稿と断定はできません。しかし、投稿内容や投稿時間、さらに誤字の一致なども総合すると、これらが「同一PC・同一人物」からの投稿である疑いはかなり強いように感じられました。
なお、朝日新聞の調査によれば、ご意見箱から送られたパブコメ約1900件のうち、1700件以上が4種類のUAに集中していたとのこと。
1人が複数の「ひな型」を使い分けていた?
KSB瀬戸内海放送の検証によると、同じ誤字(ご感て想)があった投稿を送信時間順に並べたところ、「皆の意識が高まれば〜」「明るい未来を期待して〜」「影響様々ですので〜」「判断の乏しい大人〜」など、頻出していたパターンを網羅しつつ、しかも“ループするように”送信されていた形跡がみられたとのこと。
編集部でも確認してみると、多少の順番違いもみられましたが、確かにループしているような投稿の形跡が確認できました。投稿者のUAも同じで、送信元はいずれも「192.168.7.21」。さらに“誤字まで同じ”という状況から考えて、これらの投稿が1人の人物によって行われた可能性は高そうです。
しかしそうなると疑問なのは、なぜわざわざ“ループするように”送ったのかという点です。仮にこれが票の取りまとめによるものだったとしても、あえて毎回文章を変えて投稿するというのはむしろ不自然で、まるで「1人の人物が連続で投稿していることを隠そうとしている」ようにも感じられます。
その他気になった点
その他に気になった点としては、次のようなものがありました。
- 文章だけでなく「署名の入れ方」が同じというパターンもあった
- 「192.168.7.21」ではない、通常のメール投稿でも“同じ書式、同じ文章”のものはあった
- 2枚の紙に表組みで26人分のパブコメをまとめて送信していたケースもあった
まとめ
ここまで挙げてきた「不自然な点」をまとめると以下の通り。
- 賛成意見の大部分は「ご意見箱」から投稿されており、しかも特定の日に集中している
- 賛成意見は同じ文面、同じ書式のものが非常に多い
- 文面には頻出するパターンがあり、中には誤字まで同じものもある
- UserAgentsなどの状況から総合すると、大量投稿を行っている人物は複数人いる可能性が高い
- 大量投稿を行っている人物は、1人で複数の投稿パターンを使い分けている可能性が高い
このうち、特に気になったのはやはり「1人が複数のパターンを使い分けていた可能性が高い」という点です。
仮に誰かが票の取りまとめを行っていたとしても、わざわざ複数の文面を用意して賛同者を集めたり、またそれを“ループするように”(別の言い方をすれば“同じ意見が連続しないように”)、毎回わざわざ文章を書き換えて投稿したりするでしょうか。もっと言えば、その「意見」は本当に“賛同者から集めたもの”だったのでしょうか……? もしも投稿者がわざと文面を「バラけさせていた」のであれば、そこには“何らかの意図”があったのではないでしょうか。
その他、パブコメの不自然な点や、疑問点について香川県議会事務局に質問を送ったところ、次のような回答がありました。
―― 大量の同一文面投稿があったことについて、不自然だとは思わなかった?
事務局:パブリック・コメントの手続きは、住民投票のような単なる賛否を問うものではなく、広く意見を求めるものであるという制度上、また、意見提出者は、個人名や事業者名、連絡先などをそれぞれ記載していることなどから、氏名、住所などの記載事項が全て記載されていれば、意見を全て受け付けたものです。
―― なぜ案内していなかった「ご意見箱」からの投稿がこれほど大量にあったのでしょうか。
事務局:理由については分かりません。
―― 大量の同一文面投稿について、名前や個人情報はそれぞれ違っていた?
事務局:氏名や住所等の記載により同一人物と判断できる者から複数の意見の提出があった場合は、提出者数としては「1」としてカウントし、重複と思われるものは無効としており、別人からの意見として判断できるものについては、それぞれ意見提出者数にカウントしています。
―― 短時間に同一文面、同一UserAgentsからの投稿が多数あるのはなぜだと思いますか。
事務局:理由については分かりません。
―― 仮に「文面が同じで名前や個人情報だけが違う投稿」が「同一PCから大量に送られていた」場合、それはパブコメとして有効なのでしょうか。
事務局:パブリック・コメント手続きは、住民投票のような単なる賛否を問うものではなく、広く意見を求めるものであるという制度上、また、意見提出者は、個人名や事業者名、連絡先などをそれぞれ記載していることなどから、同じ内容の意見が多数提出されても、そうした意見を排除するものではないと考えています。なお、「同一PCから大量に送られていた」かどうかについては、当方では分かりません。
―― もしも不正が認められた場合、条例について再検討する可能性はありませんか。
事務局:仮定の話について、お答えすることはできません。
もちろん、ここで挙げてきた“不自然な点”はいずれも状況証拠レベルで、直ちに不正の証拠になるというものではありません。しかし、その点を念頭に置いたとしても、通常のパブコメでは考えにくい、あまりにも“異常”なことが複数起きているのもまた事実です。
また、議会事務局側も言っているように、パブコメ自体は賛否を問うものではなく、賛成票がいくら多く寄せられたところで本来は問題にはなりません。しかし、最後の検討委員会で「賛成多数だから、もう採決してはどうか」との発言があり(自民党県政会・氏家孝志議員の発言)、議論が不十分なまま打ち切られていたことも考えれば、この「不自然な賛成の多さ」が検討にまったく影響しなかったとはいえないでしょう。
冒頭でも書いた通り、編集部では今回、入手したパブコメ原本のうち、「無効」部分を除いた約4000件を全てスキャンし、PDFで公開しています。
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