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» 2020年05月15日 20時00分 公開

逃げろ! 襲え! どっちもお前だ! B級映画マニアが伝えたい「人間狩り映画」のリバーシブルな面白さ

一番面白いジャンル、それが「人間狩り」……!

[城戸,ねとらぼ]

 娯楽映画に欠かせない要素って何でしょう。

 銃に車に金髪美女……考えてみればキリが無いこの問いですが、何より大切なのはスリルですよね。観ている側が手に汗握るから、映画は面白いわけです。「ダイ・ハード」のジョン・マクレーンがまったくピンチに陥らなかったら? 「ワイルド・スピード」でみんなが並走してドライブしていたら? もちろんジャンルによりけりですが、娯楽映画にはスリルが欠かせないんですね。



 今回紹介する「人間狩り映画」は、“追われるスリル”を最大限に抽出した実に魅力的なサブジャンル。ジャンルの名称自体はマイナーなのであまりピンとこない方もいるかもしれませんが、、人間狩り、いわゆるマン・ハンティング映画は、割と低予算で済むこともあり、古くから現在までコンスタントに作られ続けているジャンルなんです。

 人間狩りとはその名の通り、人間狩りです。ハンターが猟銃や弓なんかで人間を狩っていく。“獲物”である主人公は、身体や知恵を頼って生き延びていくわけです。ハンターも人間であることが多く、飛び道具や罠を使うことから、「13日の金曜日」や「ハロウィン」なんかのスラッシャーホラーと呼ばれる作品と比べると、より現実に根付いた内容が特徴。“肉体派”より“頭脳派”なジャンルと言えるでしょう。

 まあ低予算で手を出しやすいジャンルですから、つまんないやつはビックリするくらいつまんないですけど、そんな中でも傑作は眠っていますから。映画は掘るものです。


「悪の教典」



 まあ、まずはこちらを紹介させてください。貴志祐介による長編小説『悪の教典』を三池崇史監督が映画化した学園ホラー。中盤以降、猟銃で生徒たちを1人ずつ殺していく様はまさしく人間狩り映画といえるでしょう。

 公開当初から決して評判の良くない本作ですが、個人的にメチャクチャ好きです。僕は原作未読なので、原作ファンの方からはまた違った意見があるかと思いますが、今回はあくまでも映画版の紹介をさせていただきます。

 三池崇史監督による人間狩り演出の的確さはさることながら、やっぱり日本映画って懐が深いなあと感じずにはいられない作品。「バトル・ロワイアル」大好きな自分としては制服が血まみれになっていくだけで垂涎モノですし、生徒それぞれの青春ドラマがあるのに、それをあざ笑うかのように銃弾で強制終了していく伊藤英明も素晴らしい。確かな恐怖を感じながら少しクスっと笑えてしまう、ホラーとコメディの絶妙な塩梅は、彼の演技によるところが大きいでしょう。

 また、犠牲者の人数が多いのもイイ。ホラー映画でも何でもそうですけど、やっぱり犠牲者の数は多ければ多いほどいいですね。30人いれば30通りの死に方が見られるわけですからね。映画は足し算です。

 丸腰で逃げていく生徒の背中を躊躇(ちゅうちょ)なく撃ち抜く、これこそ人間狩り! と思えるシーン満載のすてきな作品。そういうのを求めてない人にとってはダラダラと見えてしまうかもしれませんが、そういうのを求めている人にとっては非常に楽しい映画だと思いますよ。まだ観ていない方は是非。僕もいい加減原作を読みます。


「グリーン・インフェルノ」



 こちらも、一部で大きな話題を呼んだ食人ホラーです。

 ホラー界の星、イーライ・ロス監督作品。アマゾン熱帯雨林の原住民を守るため、森林伐採を行う企業を止めるべく、意識の高い大学生たちが現地へ赴くも、守ろうとしたはずの原住民たちから襲撃を受ける……といったお話。

 イーライ・ロスの演出が優れているのは当然ですが、あらゆるシーンで皮肉にまみれている本作。中身のない活動家気取りな主人公たちの描写や、犠牲者を調理する原住民がすごく平和で牧歌的に撮られていたりと、思わずにやけてしまうようなアイロニーが続出。スプラッターホラーらしからぬ、ちょっとした社会的な側面を楽しむこともできる作品です。

 とはいえ、肝心のホラー部分も見事なもの。特に、真昼の空の下で行われる強気の残酷描写はかなり見応えあり。他のB級ホラーなんかはお金が無いので、暗い場所でのグロシーンが多くなるんですが、さすがはスピルバーグお気に入りのイーライ・ロスですね。

 人間狩りというよりは脱出劇がメインな本作ですが、“人間狩りに捕らえられてしまった後”のお話として、今回紹介させていただきました。


「ブラックフット」



 やはり狩りと言えば野生動物です。人間による狩りも怖いですが、常識の通用しない野生動物による狩りほど怖いものはありません。カナダの森へキャンプにやってきたカップルが、野生のクマに襲われてしまうというお話。

 この映画、とにかく描写がリアルで、熊による狩りが始まってからもそうなんですが、そこに至るまでの人物描写が非常に丁寧に描かれます。丁寧すぎて、行き当たりばったりな主人公の行動にイライラさせられること必至ですが、ゆっくりと絶望感が覆っていく展開に思わず引き込まれてしまいます。既に地獄なのにこの後クマ出てくんのかよ? みたいな感じ。

 そして人間狩りが始まってからはもう思わず目を背けたくなるような残酷描写の徹底ぶり。何より怖いんですよ。クマが怖い。当たり前だと思うかもしれませんけど、有象無象のB級アニマルパニックにおいて、その動物がちゃんと怖いのって結構珍しいんですよ。例えばふざけたサメ映画の金字塔「シャークネード」を観て「サメって恐ろしいなあ」なんて思わないじゃないですか。その点、本作はとにかくクマが怖い。これを観たらまあキャンプなんか迂闊(うかつ)に行けないですよ。

 丁寧な描写に裏打ちされたアニマルホラーの良作。ぜひご鑑賞ください。


「キリング・グラウンド」



 こちらはオーストラリア産の、正統派人間狩りスリラーです。

 山奥でのキャンプ中に人間狩りの痕跡を見つけたカップル。2人に迫る魔の手と並行して、前の犠牲者である家族の様子が描かれ……と、時系列がたびたび入れ替わり、ややこしく感じるかもしれませんが、しっかり丁寧に描かれるため頭が混乱することはありません。

 王道のストーリーを凝った構成で見せるのが本作の特徴。それが映画の面白さを高めているかというと微妙なところですが、単調になりがちな人間狩りにミステリーの要素が加わってくるのはなかなか見応えのあるところです。

 そして、この映画で何より魅力的なのはその残虐性。エログロ共に直接的な描写はかなり抑えめではあるのですが、“行為”自体を画面には写さず、淡々と”事後”を描く中盤の演出は強烈な嫌悪感を感じさせます。

 人間狩りスリラーとして王道を押さえながらも、若干の変化球を感じられる作品。とにかく胸糞の悪い話ですが、陰鬱な作品が観たい、という方にはオススメです。


「クライモリ デッドエンド」



 人間狩りを描き続ける「クライモリ」シリーズから、2作目である「クライモリ デッドエンド」を紹介。

 「クライモリ」は森にやってきた若者を獲物に、食人一家が狩りをするというお話。これまでに6作品が制作されてますが、森×人間狩りという大まかなテーマはほぼ共通。「1」は正統派ホラーにして強烈な残酷描写がウリでしたが、「2」以降はエログロを前面に押し出したB級ノリにシフトチェンジ。えたいの知れない存在だった食人一家も、「2」以降ではコミカルなキャラクターへと変貌していきます。「1」も大大大好きではありますが、僕はこの路線変更、大賛成です。

 で、その「2」にあたる「デッドエンド」は、まさにクライモリシリーズがB級ホラーコメディ路線へとシフトチェンジを始めた最初の作品。お話としては、リアリティー番組でサバイバルゲームに挑戦する出演者たちが、例の食人一家に襲われて食われたり手をちぎられたり目をつぶされたりするというもの。リアリティー番組の撮影のつもりが、人間狩りの獲物になってしまった登場人物たちのアタフタぶりは見ものです。

 筋肉バカがいたり、ビッチがいたり、意外な人物が活躍したりと、B級ホラーのツボを押さえまくったある意味で誠実な作品。加えて圧倒的なグロ描写と共に描かれる人間狩りは、思わず手を叩いてしまいたくなるほどアゲアゲです。犠牲者はバカであればあるほどいいんすよ……。

 「こういうのが見たかったんだよ!」と膝を叩く、僕のようなボンクラおじさんもきっと多いはず。前作を押さえておく必要も無いので、先にこちらから観てもまったく問題ありません。ぜひご鑑賞ください。


「裸のジャングル」



 人間狩りの元祖といえばこれ。1965年制作の「裸のジャングル」です。

 お話はとっても簡単で、象牙狩りにやってきた白人ハンターが現地の原住民に捕らえられ、人間狩りの標的にされてしまうというもの。以降、幾度となく作られる類似作品の礎を築いた作品といえるでしょう。

 誰にも役名が無く、セリフも極端に少ない、本当にただ追いかけっこに終始するシンプルな作り。随所随所でサバンナ(「ジャングル」とは言っているが、実際サバンナと言ったほうが近い)を生きる野生動物のフッテージが差し込まれ、弱肉強食の世界というものを頭に叩きつけてくる構成になっており、“人間狩り”というよりは”狩り”そのものの描写が多いのが特徴。主人公が反撃に乗り出し、”狩る側”が徐々に変わっていく展開もおもしろい。

 オープニングが超クールなのもいいんですよね……。“古典を味わう”ような感覚ではなく、今観ても純粋に楽しめる映画です。まあ、中盤を10分削ってくれたら…とか、どうしても血糊や演出がチャチだったりとか、思うところはありますが、人間狩りの傑作として一見の価値はあります。監督・主演を務めたコーネル・ワイルドの、元フェンシングのアメリカ代表選手であるという経歴もスゴイ。こういう何でもできますみたいな奴はむかつきますね。

 正直、これを観る方法ってあんまり無いっぽいんですけど、さすがに無視するわけにいかないので紹介させていただきました。ちなみに、本作へのオマージュをいたるところに感じるメル・ギブソン監督作品「アポカリプト」も素晴らしい傑作です。ぜひ併せて鑑賞してみてください。




 他にも、フリードキンの「ハンテッド」、ジョン・ウーの「ハード・ターゲット」……とにかく挙げればキリが無いほど、人間狩りの傑作はたくさんあります。

 余談ですが、かの配給会社アルバトロスが世界各国の人間狩り映画を「NAKED」シリーズとして配給してくれていて、傑作もいくつかあったんですが、現在はネットでもTSUTAYAでもほとんど見つからず……紹介は断念します。俺が高校生くらいのときはあったんだけどなあ。でも「NAKED」シリーズは本当に傑作が眠ってますよ。特に「NAKED マン・ハンティング」「NAKED ブービートラップ」あたりはサイコー。見かけたら借りてみてくださいね。

 狩られる側の気持ちを味わってみるのも良し、狩る側の気持ちを味わってみるのも良し。シンプルながら奥深い”人間狩り映画”を、これを機に味わってみませんか?

城戸

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