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» 2020年03月01日 18時00分 公開

「カメ止め」「1917」だけじゃない 没入感でめちゃくちゃになれる「ワンカット映画」のおすすめを5本紹介します

ライター・城戸の映画コラム2本目。ワンカット映画の魅力を紹介します。

[城戸,ねとらぼ]

 映画を撮るために上京したはずが、なぜかモノマネでウケてしまったライター・城戸による映画コラム。今回は、撮る方も見る方もめちゃくちゃ疲れる(だけど面白い)ワンカット映画の魅力について語っています。



そもそもワンカット映画ってなんなのよ?

 ワンカット映画というジャンルがあります。

 カットを割ることなく、カメラをずっと回し続けて撮影する手法です。例えるなら、インスタのストーリーで映画を撮っている感じ。長回しとも言われますね。「カメラを止めるな!」とか、「バードマン」とか、それこそ「1917 命をかけた伝令」とか、話題作で興味を持った方も多いのではないでしょうか。



 映画作りにおいて、カットや編集が使えない難しさは想像にたやすいでしょう。だってミスったら終わりですよ。咳をしたら終わり。おばあちゃんが横切ったら終わり。まさにドミノみたいなもので、終盤に近づくほど、ミスへのプレッシャーが大きくなっていくのです。僕も友人と遊び半分で短編映画を撮ったことがありますが、たった1分のシーンですら何度も何度も撮り直してました。

 そんな死ぬほど難しい手法をわざわざ取り入れる意味とは。

 あくまで素人目ですけど、ワンカット撮影で得られるメリットとしてはこんなところでしょうか。

  • 物語への没入感を高める
  • 登場人物への感情移入度を高める
  • 映像作家としての手腕を見せられる

 カメラが途切れることがないため、観客はあたかもその映画の中にいるようなリアリティーを感じることができます。

 また、ワンカット映画はその性質上、主人公が出ずっぱりで画面に写っていることがほとんどです。主人公と同じ目線、同じ時間を共有することで、没入感や感情移入の度合いをより高めてくれるでしょう。

 そんな魅力を持つワンカット映画ですが、当然デメリットもあります。

  • 何でもないシーンが長い
  • 撮影手法による制約で、物語が面白くなりづらい
  • 疲れる

 ワンカット映画では、普通の映画ならカットするようなシーンも写ります。

 ただ主人公が歩いているだけだったり、話しているだけだったり……と、その性質上、どうしても冗長になりやすいのは否定できないところです。この”冗長さ”というジレンマは、ワンカット映画とは切っても切れないテーマだったりします。

 また、撮影手法によってお話の規模は格段に縮小してしまいます。だってカメラを止められませんからね。普通の映画であれば、字幕で”モスクワ”と表示されればそこはモスクワですが、ワンカット映画の場合は場所を変えることができません。モスクワに行くためには、主人公がチケットを予約して、空港へ行って、発券して、飛行機に乗って、離陸して、少し寝て……と、ここまで描かなくてはならなくなります。こう考えると、普通の映画はなんてラクなんだと思えてきちゃいますね。

 あと疲れますよ。ワンカットの長編を見るとめちゃくちゃ疲れます。なんでですかね。

 と、そんな地獄の撮影を乗り越えて生み出されたワンカット映画の中から、筆者のオススメをいくつか紹介します。

※一口に「ワンカット映画」と言ってても、実は「ワンカット(に見える)映画」なことも珍しくありません。これから紹介する作品にもいくつか混じっています。しかし、ワンカットに見せる演出も監督の手腕ですし、そこは触れずに行きたいと思います。

「ある優しき殺人者の記録」(2014年/監督 白石晃士)


画像はamazonより

 18人を殺した凶悪指名手配犯パク・サンジュンから「自分を取材してくれ」と連絡を受けた、彼の幼馴染であり女性アナウンサーのキム・ソヨン。「日本人カメラマンと一緒に来い」という指示通り、ビビリカメラマンの田代を連れ、指定された廃墟へと足を運ぶが……。

 のっけからホラー映画で申し訳ないんですが、魅力的なあらすじだと思いませんか。

 この映画は、カメラマン田代役を監督の白石晃二自身が演じており、本編もそのカメラの映像だけで進んでいくという、ワンカットPOVです。

 “神のお告げ”で人を殺し続けたと話すこの殺人者は、どう見てもヤベー奴。近寄りたくも近寄られたくもない気狂いヤローに、取材メンバー2人もドン引き。ああ、そういう電波系ね……とお思いになるかもしれませんが、そこは日本が誇るホラー監督・白石晃二。話は思わぬ方向に転がっていき、ラストにはなぜか感動してしまうという圧倒的怪作に仕上がっています。僕はラストシーンで泣いてしまいました。

 ワンカットの映像もいい緊張感のスパイスとして機能しています。やはりワンカットはホラーと相性がいいのかもしれませんね。

「ウトヤ島、7月22日」(2011年/監督 エリック・ ポッペ)


画像はamazonより

 ウトヤ島、と聞いてピンと来る方も多いかと思います。

 この映画は、2011年7月22日にノルウェーのウトヤ島で実際に起きた、無差別銃乱射事件を描いた作品。生存者の証言をもとに製作された本作は、97分の本編のうち72分間のワンカット映像が話題となりました。

 学生たちが毎年サマーキャンプに訪れるウトヤ島を舞台に、銃乱射が始まって終わるまでを、逃げ惑う主人公を追ってワンカットで描ききった映像は、絶句してしまうほどの衝撃。

 みんなでワッフルを食べている日常に、急に聞こえてくる悲鳴と銃声。

 登場人物たちが必死で生き延びようとする姿をワンカットで観る我々は、登場人物と同じように銃声に怯え、登場人物と同じように警察の到着の遅さに憤慨し、登場人物と同じように友の死に衝撃を受けます。

 この実在の事件を知っている人も、知らない人も、ぜひご覧になることをおすすめします。不謹慎かもしれませんが、ドラマとしても非常に面白いです。

「スペイン一家監禁事件」(2010年/監督 ミゲル・アンヘル・ビバス)


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 スペインのホラー映画です。

 引っ越しを終えたばかりの平凡な3人家族の家に、3人の強盗が押し入るというお話。

 その強盗というのが結構エグい奴らで、ホラーというよりもはやバイオレンススリラーに近いかもしれません。少し「ファニーゲーム」に似た雰囲気も。胸糞の悪さも同等です。

 本作は、全編ワンカットではなく、いくつかの数十分の長回しで構成された映画になります。ワンカット特集で紹介するのはどうなんだと自分でも思いますが、好きなので。カメラを長く回していることに変わりはありません。

 そんな感じなので、本作で注目していただきたいのは長回しと工夫の凝らされたカメラワーク。二分割画面なんかも出てきて、どれも効果的に映画を盛り上げています。ところどころの演出もクール。やっぱりバイオレンスはクールでなくっちゃ!

 ホラー・バイオレンス耐性のない方にはかなりキツい映画かもしれませんが、そういうのがお好きな方なら一見の価値はあると思いますよ。

「ブッシュウィック 武装都市」(2017年/監督 ジョナサン・マイロット キャリー・マーニオン)


画像はamazonより

 長回しアクションが印象的な映画。全編ワンカットではありませんが、わずか10カットで撮影されたアクション映画です。

 地下鉄を降りると、そこは戦場だった――というキャッチ通り、地下鉄を降りた主人公が戦争状態になっていた都市(=ブッシュウィック)で逃げ惑うという、パニック要素も多い本作。途中でデイヴ・バウティスタ(もちろんめちゃくちゃ強い)と合流してからはアクション要素も増え、見ごたえが増していきます。えっどうやって撮ったの……? というシーンもあり、一番ワンカットのすごさというのが体験できる作品ではないでしょうか。

 ただ正直、若干人を選ぶかもしれません。映像には目を見張るものがあるのですが、ストーリーは若干チープというか、言ってしまえばB級映画の枠から出ていない感じ。僕はバカなので結構楽しめましたが……。

 世間の評価も決して良くはない。だけど僕はそういう映画が大好きなので是非お勧めしたいところです。ぜんぜんおもしろいよ。

「トゥモロー・ワールド」(2006年/アルフォンソ・キュアロン)

 これを紹介しないわけにはいかないでしょう。

 アルフォンソ・キュアロン監督作。「ゼロ・グラビティ」や「ローマ」は有名ですが、こちらは見ていない人も多いのではないでしょうか。


画像はamazonより

 人間から“出産”の能力が失われてしまった未来。人類は絶望し、世界は終末の一途を辿っていたが、18年ぶりに子供を身ごもった女性が現れる。彼女を守るため、主人公たちが戦場と化した世界を走り回る――というお話。

 「ゼロ・グラビティ」でも、宇宙空間での圧倒的な長回しが印象的でしたが、本作のクライマックスの長回しも超圧巻です。凄すぎます。とても言葉では言い表せないので、ぜひ観ていただきたい。今まで紹介してきた中でも、一番まっとうな傑作映画です。自信を持ってオススメいたします。




 紹介した作品以外にも、「ロープ」「ヴィクトリア」「レヴェナント 蘇えりし者」など、ワンカット撮影が印象的な映画はたくさんあります。制作過程に思いを馳せてみるのも、またひとつの楽しみ方かもしれませんよ。

城戸







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