憧れていたはずの同期が社内ニートになっていた…… はんざき朝未『無能の鷹』が社会人に問いかけるもの
「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第101回は、はんざき朝未先生のお仕事マンガ『無能の鷹』を取り上げます。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
緊急事態宣言も解除され、そろそろ会社通勤を再開されている方も多いのではないでしょうか。社主おすすめのマンガを紹介する本連載もそろそろ通常営業に戻したい所存です。
さて、第101回目となる今回は、講談社の女性マンガ誌「Kiss」にて連載中、はんざき朝未先生のお仕事マンガ『無能の鷹』(1巻~、以下続刊)をご紹介。早く職場に戻りたかった方でも、ずっと在宅勤務を続けていたい方でも、会社勤めされているなら誰もが楽しめる作品です。
憧れていた同期が社内ニートになっていた
本作の物語は、IT系コンサル企業の新卒採用試験、最終面接会場から始まります。こわばった表情のまま、待合室で自分の順番を待つ就活生の鶸田(ひわだ)は、プレッシャーに弱い豆腐メンタルの持ち主。大手の採用が軒並み全滅して追い詰められた彼に、1人の女性が声をかけます。
女の名前は鷹野ツメ子。鶸田と同じ就活生のはずなのに、まるで全く動じることなく、落ち着いた物腰で「お互い! がんばりましょう!」と余裕のエールを送る鷹野が「できる人」であることは誰の目にも明らかでした。そして、彼女が一足先に入って行った面接室から漏れ聞こえてくる面接官との談笑。でも確かに、たまに就職説明会とかにいますよね、こういう同じ新卒とは思えない「格」の違う人……。
さて、それから1年半――。何とか無事に入社を果たした鶸田は営業に配属されるも、その自信のなさから、いまだ契約が取れない日々。一方、最終面接で出会った「できる人」こと鷹野ツメ子は、変わらぬその落ち着いた物腰で、動画サイトを眺めながら、書類のホチキス止めをこなすだけの日々を過ごしていました。そう、1年半の時を経て、彼女は「できる人」から「社内ニート」へとクラスチェンジしていたのです。どうしてこうなった。
物怖じしない堂々とした口調、身のこなし、たたずまい――。最終面接の日、鶸田だけでなくあの場に居合わせた全ての人が鷹野から感じとったであろう「できる人オーラ」はまぎれもなく本物でした。しかし本物だったのは、そのオーラだけ。彼女には肝心の中身(スキル)が何もなかったのです。
好きだったお仕事ドラマを内容も意味も分からず、幼いころから見続けた結果、オーラだけを獲得した彼女ですが、雰囲気だけは大門未知子や大前春子になれても、その中身は残念そのもの。どれほど教えてもExcelどころか電卓すら正しく使えない。書類のプリントアウトもできない。同僚の言葉を借りれば「出来の悪い小学生」「シンプルにアホ」など散々な言われよう。かくして彼女は毎日会社に来てはホチキスを止めるだけの社内ニートと化したのです。
仕事ができない彼女に対して、日に日に高まる社内の「圧」を心配する同期の鶸田。人物重視を掲げて筆記試験を課さなかったこの会社にも責任の一端があるように思えますが、それはともかく、鶸田の心配をよそに、彼女は「私がこの会社を必要としてるから 会社に必要とされているかは考えないようにしてる」と、まるでドラマの決めゼリフのように堂々と答えます。何たる鋼メンタル。
しかし鶸田はそんな鷹野を見て、あることに気付きます。
営業として自分に欠けている度胸を彼女は持ち合わせているのではないか――。
分析センスや提案内容は社内から高く評価されているのに、対人スキルが低すぎて契約が取れない鶸田。そして、対人スキルだけがチートレベルに突出した鷹野。鶸田が立てたプランを、鷹野がプレゼンすれば……。
「オレと一緒に契約とってみる?」
鷹野はまるで自分が何かを成し遂げたかのようなすがすがしい笑顔で提案を受け入れます(※何も成し遂げてません)。
そしていよいよ初めてとなる2人での外回り。しかし、最初に思い描いていた鶸田の計画はいきなりつまづいてしまいます。訪問直前、緊張のあまりトイレに駆け込んでしまった立案担当・鶸田。そして、例によってその堂々たるたたずまいから、営業先でも「できる人」という信頼だけは勝ち取りつつあったプレゼン担当・鷹野。
しかし実際には、鷹野が資料の漢字をほとんど読めなかったため、状況は馬脚を現す寸前の大ピンチに。鷹野から届いた「燃費ってもえひ?」と尋ねるメッセージを見た鶸田は慌ててトイレから駆け付けますが、相手の厳しい視線を前に、またいつものように自信を失いはじめます。
「大丈夫です 彼は私などよりはるかに優秀です」
そこに鷹野からの思わぬアシスト。いや、アシストと言うか、ただ事実を述べただけなのですが、彼女が発したこの一言のおかげで、営業相手も彼に一目置いて話に耳を傾けてくれる雰囲気に。一転して生まれた話しやすい空気に鶸田の緊張も解け、ついに初契約を獲得。最初の計画とは違う形とはいえ、2人のコンビネーションが成功を導いたのです。
まるで勝利の方程式を見つけ出したかのようですが、毎回こんな調子で契約が取れるわけではありません。この先、鶸田と鷹野が対峙することになる交渉相手は、ITに全く詳しくないのに権限と威圧感だけを持った面倒くさいクライアントや、「アベイラブルなときにオルタナティブとしてジャストアイディアでドラスティックなスキームを(以下略)」と、言葉の端々にカタカナ語を混ぜてくるパートナー企業の社長などくせ者ぞろい。果たして2人はこんな強者たちを説得し、信頼と契約を勝ち取ることができるのでしょうか。
人ごとのように笑っていられるのか?
本作の大きな見どころは、もちろん鶸田&鷹野の営業が成功するかどうかですが、しかし何より読んでいて楽しいのは、鶸田・鷹野・クライアントの三者が繰り広げる会話のボタンの掛け違い。対人スキルが高すぎるため、どんなとんちんかんなことを口走ってもクライアントを納得させてしまう鷹野の暴走がすさまじく、普通ならそのまま破談になってしまいそうなのに、鶸田のとっさの機転が奏功し、最後はどういうわけか丸く収まってしまう奇跡的な展開は、まるで上質なコントを見ているようでもあります。
また、最後に「社内ニート・鷹野」という存在についても書いておかねばなりません。黙ってさえいれば有能社員に見える彼女の雰囲気と、そこから発せられる、あまりにおバカなセリフの数々のギャップに、みなさんもきっと笑ってしまうことでしょう。しかし、私たちは本当に彼女を人ごとのように笑っていられるのか、とあえて問いたいのです。
「いやいや、いくらなんでも鷹野ほど無能じゃない。Excelくらい人並みに使えるし」と反論されるかもしれません。しかし、AIや自動運転など技術の進歩によって、多くの職が機械に奪われる時代の到来が予測される昨今、今は有能とされている人でも、いつ無能の烙印を押され、鷹野のような「社内ニート」に転落するか分からない時代なのです。
ストーリー序盤、鷹野は自己弁護のために「組織には必ず2割の怠け者が必要だ」でおなじみの「働きアリの法則」を唐突に持ち出します。しかし、そんな屁理屈を主張しなくても、ここまで読んだ方なら分かるように、最初は単なる見掛け倒しに思えた彼女の「できる人オーラ」が、結果的に成功を導くカギとなったのです。
「弱肉強食」「成果主義」「自己責任」など血も涙もないキーワードでかまびすしいこの現代社会。働かない屁理屈をこねるのではなく、かと言って、ダメな自分を高めるためのスキルアップを強いるのでもなく、「今、この自分」だからこそできることがあるのではないか――。
有能に見えて実は無能な鷹野を嘲笑う「上げて下げる」ではなく、彼女にしかない能力を生かした「下げて上げる」方向で温かく笑える物語として、本作を作り上げたところに作者・はんざき先生の優しさを感じるとともに、また本作はビジネスにおける自己肯定の可能性を感じさせてくれる作品でもあるように思うのです。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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