『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい!2020:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第100回(1/3 ページ)
毎年の恒例企画も第7回目になりました。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
2013年から細々とお勧めマンガを紹介し続けてきた本連載も、今回でついに第100回を迎えることができました。これもひとえにご愛読くださったみなさまのおかげです。厚く御礼申し上げます。
さて、記念すべき100回目となる今回は、毎年恒例の特別企画「『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい!2020」をお届けします。その名の通り、『このマンガがすごい!2020』(宝島社)<オトコ編>と<オンナ編>計100作品にランクインしなかった作品の中から、昨年(2019年)完結したものを中心に5作品をランキング形式で紹介する企画です。
ちなみに、昨年社主のマンガ生活を振り返って、最も印象深かった出来事は、夏にインタビューをした『トマトイプーのリコピン』の大石浩二先生(関連記事)に作中で描いていただいたことです。昨年は服も着ていられないくらいの猛暑だったので、参加者全員全裸でのインタビューとなりました。
それではさっそく作品の紹介に入りたいのですが、まずは例によっておことわり。この企画は本家『このマンガ〜』の選考に異議を唱えるものではなく、社主が昨年読んで面白かった良作を推薦するものです。もちろん本家にランクインした100作品はどれも素晴らしく、特に今年オトコ編1位に輝いた遠藤達哉先生の『SPY×FAMILY』は、本連載で紹介できなかったことが悔やまれるほど社主もお勧めの一作です。
なお選考に当たっては、2019年に完結した作品を原則に「ラストまで失速せず満足できる内容であること」「男性/女性向けからバランスよく選ぶこと」を心がけました。いずれもガッカリしない読みごたえある作品ばかりを選びましたので、ぜひ実際に読んでいただければと思います。
ということで、5作品の発表です!
第1位『あの娘にキスと白百合を』(缶乃)
今年の第1位は、缶乃先生の『あの娘にキスと白百合を』(全10巻/KADOKAWA)。本作は少女同士の恋愛を描いた、いわゆる百合ジャンルのオムニバス作品です。
昨年、個人的なマンガ重大トピックの1つは、本作含む良作百合マンガ2本が立て続けに完結したことでした。完結したもう1作は、仲谷鳰先生の『やがて君になる』(全8巻/KADOKAWA)で、2018年にアニメ化もされたこともあり、ご存知の方も多いのではないかと思います。
楽しみにしていた百合が続けて完結した喪失感のショックが脚に来るほど、どちらも非常に素晴らしい作品だったので、本当なら両方ともランクインさせたかったのですが、5作中2作が百合だとあまりに趣味に走りすぎてしまうので、悩みに悩んだ結果、今回はより多くの人にお勧めしたい本作『あのキス』を選びました。
舞台となるのは、中高大一貫の女子学園「清蘭学園」高等部。中等部から高等部へ進学した白峰あやかは、品行方正、学力トップ、同級生からの尊敬を一身に集める、まさに非の打ち所がない秀才。進学後も「生徒の鑑」であり続けるかと思いきや、高等部から編入してきた一人の外部生が彼女の前に立ちはだかります。
その名は黒沢ゆりね。運動も勉強も特に努力することなく難なくこなせてしまう天才肌の彼女は、中間考査であやかをあっさりと抜き去り、学年1位に。実は負けず嫌いで、努力家のあやかは、自身が苦労して築き上げてきたそのプライドに傷をつけたゆりねを一方的にライバル視します。しかし、必死の努力も空しく、次の期末考査でもゆりねに敗北。これまで微笑の下に隠してきた本音をついに爆発させてしまいます。
「天才だか何だか知らないけど 寝てばっかりの貴女に一体私の何がわかるっていうの!?」
「貴女なんてちょっと要領がいいだけの ただの人だってことわからせてあげるわ!!」
しかし、図らずもこの宣戦布告がゆりねのハートを貫くことに。天才であるがゆえ、これまで「普通の人の気持ちが分からない」と周りから距離を置かれ、自身もいつの間にか孤独を受け入れてしまっていたゆりねは、あやかが言い放った「ただの人」という言葉に、これまで出会った誰とも違う運命を感じてしまうのです。
優等生でいることでしか自分に価値がないと考えるあやか、そして、何でもできるがゆえに何事にも真剣に取り組めないゆりね。2人の物語を軸に据えながら、本作は清蘭学園に通う少女たちの恋模様を季節の移ろいとともに描きます。あやかとゆりねのようなライバル同士だけでなく、先輩と後輩、選手とマネージャー、幼馴染、年の差などなど、様々なドラマが楽しめるところが本作の大きな見どころです。
ちなみに個人的に好きなエピソードは2巻に登場する天文部の話。星の勉強をするために外部進学を目指す天文部の先輩・真夜と、その後輩2人+1人の関係を描きます。受験会場に向かう真夜を見送るクライマックスシーンはまるで青春映画を見ているかのよう。2つの意味での「別れ」の切なさを感じさせつつ、その別れが次の新たな出会いへとつながっていく構成が秀逸でした。
ジャンルとしては百合に位置づけられるものの、少女同士の恋愛だけでなく、親との軋轢や将来の夢など、彼女たちが抱える悩みに真摯に向き合う姿に共感を覚える人も多いのではないでしょうか。
華美になり過ぎない親しみやすい絵柄でどの女の子も可愛らしく、またシリアスとコミカルのバランスの良さ、小気味よいテンポなど、マンガそのものとしてもかなりレベルが高く、「百合だから」という安直な理由で敬遠するのは本当にもったいない名作です。
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