とうとう5回目! 「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい!2018(1/3 ページ)
虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ! 第88回は、毎年恒例の特別企画。2017年の発表作からUK大おすすめのマンガベスト10を紹介。
ねとらぼ読者のみなさん、遅くなりましたがあけましておめでとうございます。虚構新聞の社主UKです。
さて、今年最初の連載は、毎年恒例となった特別企画「『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい!2018」をお届けします。
これは、「このマンガがすごい!2018」(宝島社)<オトコ編>と<オンナ編>計100作品にランクインしなかったマンガから、とりわけ昨年完結した作品を中心に10作品をランキング形式で紹介するというものです。2014年から始まったこの企画もついに5回目を迎えました。いつもお読みいただきありがとうございます。
振り返ってみると昨年は、本連載で過去に取り上げた作品のアニメ化が相次いで発表・放送された1年でした。
放送が終了したものでは『ナナマルサンバツ』『メイドインアビス』『少女終末旅行』、現在放送中、または放送予定のものとしては『からかい上手の高木さん』『ハクメイとミコチ』『ちおちゃんの通学路』『ガイコツ書店員本田さん』。後付けみたいになりますが、いずれも1巻発売時から特別なオーラを持って輝いていた作品でした。
さて、例によっておことわり。この企画は本家「このマンガ〜」の選考に異議を唱える意図はなく、社主が昨年読んで面白かった良作を推薦する内容です。もちろん本家にランクインした100作品はどれも素晴らしい作品なので、ぜひ読んでみてください。
また、これから紹介する作品は全て完結作品、または単巻作品です。マンガ好きがよく経験する「ラストで失速してがっかりした」「読み終わってモヤモヤが残る」という思いを味わうことがない作品を厳選して、男性/女性向けからバランスよく選びました。どれも満足できる作品ばかりなので、どうぞ安心してお読みください。
ということで、10作品の発表です!
第1位『のぼさんとカノジョ?』(モリコロス)
今年の1位には5年間の連載を経て大団円を迎えた、モリコロス先生の『のぼさんとカノジョ?」(全8巻/徳間書店)を選びました。
主人公の野保康久は、穏やかでマイペース、そのためちょっと鈍いところもある大学2年生。学校帰りに同棲している彼女らしき女性からメールで買い物を頼まれるなど、一見リア充な学生生活を送っています。
しかし、決定的に違うのは野保くんの同棲相手が人間ではなく「ユーレイ」だということ。
「幽霊が出る」という理由で家賃8000円と激安な下宿に住み始めた野保くん。しかし入居早々、食器やごみ箱が勝手に浮き上がり、自分めがけて飛んできます。
入居早々浴びせられたポスターガイストの洗礼。これまでの住人ならすぐに退去するところですが、心優しい野保くんは「何か伝えたいことがあるのでは」と、これまで無視したことを謝り、「言いたいことがあればこれに書いてください!」と誰もいない空間に向かってホワイトボードとペンを差し出します。
宙に浮いたボードには、震える筆跡で「ありがとう」の文字が。
目に見えないユーレイの「カノジョ」はもともと人に危害を加えるつもりはなく、気が付けば部屋から出られず居ついたままになっていたとのこと。同居人・野保くんの優しさに触れた世話焼きなカノジョは、ご飯の支度や洗濯など身の回りの世話をするようになります(冒頭の買い物メールもこういうわけです)。
記憶をなくし、成仏もできないカノジョと野保くんの、ホワイトボードを通じた関係は時とともに深まっていきます。果たしてカノジョは何者なのか。どうして部屋から出ることができないのか。カノジョは自分の過去を思い出すことができるのか。カノジョの正体が明かされていく物語中盤、同時に草食系だった野保くんが自分の気持ちに気付いた後の、周囲がイラつくほどのデレっぷりにも注目です。
とりわけ面白く、興味深かったのは、ホワイトボードを介したカノジョとのコミュニケーション。姿が見えないカノジョがボードに書く一文字一文字に、その性格や感情が表れているのです。マンガという表現なのに、彼女の姿を描かずして伝わってくる優しさや可愛らしさ。手紙や日記など「小道具としての手書き文字の強さ」をあらためて実感させられました。
本当なら涙ながらの感動シーンになるはずだったクライマックスで「やらかした」怒涛のドタバタっぷり含めて、5年間最後まで楽しく読ませてもらいました。
第2位『ライアー×ライアー』(金田一蓮十郎)
第2位は金田一蓮十郎先生のラブコメ『ライアー×ライアー』(全10巻/講談社)です。『ハレグゥ』(全10巻/スクウェア・エニックス)など、少年誌を中心に描いてこられた金田一先生初の本格的少女マンガとして2010年に始まった本作も昨年、8年に及ぶ長期連載が完結しました。
中高生の頃から女癖の悪い義理の弟・透に悩まされてきた女子大生・高槻湊は、ある日、ちょっとしたノリで友達から借りた女子高生の制服を着て街に出てみたところ、偶然にも透に遭遇してしまいます。とっさに出てきた「自分は『野口みな』で人違いだ」という嘘を信じた透を見て、何とかやり過ごせたと安心したのもつかの間、どういうわけか透はみな(=湊)に一目ぼれ。
あとですぐに正体を明かすつもりだったはずが、事もなげに10万円もする財布や専用の携帯電話をプレゼントしたり、何人もいたセフレとの関係を顔中傷だらけにして清算したり、想像以上に一途な透の行動に、だんだんと真実を言い出しづらくなる湊。それでも何とかして透と別れようと、ある時は「親がエクアドルに転勤することになった」と告げたり、はたまた貞操を守るため「うちがカトリックだから」とかわしたり嘘に嘘を重ねるものの、どうにも2人の関係は深まっていくばかり。
湊は、かつて憧れていた同級生・烏丸との再会を機に、<湊>と<みな>の二重生活にピリオドを打とうと決心しますが、そこに透や烏丸、そして湊自身の想いが錯綜し、物語はだんだんと複雑な色合いを帯びはじめます。
みなは透を傷つけることなく、自分の正体を明かすことができるのか。過去のある出来事がきっかけで破綻した姉弟関係は修復できるのか。そしてまた烏丸との関係は。たった1つの小さな嘘がきっかけでこんがらがってしまった彼女たちの関係は、どこか1カ所でも扱いを誤ると、取り返しのつかないバッドエンドに陥ってしまう――。
そんな爆弾処理のような緊張感を、ラブコメという糖衣に包んでまったく重く感じさせず、しかも最後は誰も傷つかないハッピーエンドへとまとめ上げたウルトラCのような構成の巧みさ、その手腕と安定感はさすがとしか言いようがありません。
なお、金田一先生はこの連載で初めてインタビューさせてもらった漫画家さんでもあります。5年前に先生が語った「マンガという娯楽の中はやっぱり気持ちのいい世界であってほしいな、逃げられる世界であってほしいなって思って描いているので、どんなにしっちゃかめっちゃかになろうとも、私なりのハッピーエンドを描こうと思ってます」という言葉通り、すばらしい大団円でした。掲載誌『デザート』(講談社)にて今月から始まる新連載『NとS』も楽しみにしています。
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