とうとう5回目! 「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい!2018(2/3 ページ)
第3位『魔女くんと私』(縞あさと)
第3位も少女マンガから、縞あさと先生の『魔女くんと私』(全1巻/白泉社)をチョイスしました。
振り返ってみると、本作は昨年最も多く読み返した作品ではなかったかと思います。1巻完結で読みやすかったこともありますが、その理由は「なぜこの作品に惹きつけられたのか」がどうにも分からなかったから。その魅力について悩んでいるうちに年を越してしまいました。
女子高生・凪の学校にやってきた転校生・真白。凪の隣の席に座る真白は、ずっと無口でクラスになじもうとしません。彼が人を遠ざける理由――、それは彼が「魔女」だから。魔法が使える魔女自体が減っている現代で、なおかつ女の子が生まれることの多い魔女の家系に男として生まれたのが真白でした。
そして「男の魔女は女に触れていないと魔法が使えない」という理由から、家族で立場が弱かった真白は、幼いころから3人の姉におもちゃにされてきたトラウマで、女性に触られると体調を崩して魔力を暴発させてしまう女子アレルギー体質に。他人と交わらない彼の性格の裏にはこんな事情もあったのです。
そんな境遇を知り、真白の助けになろうと校内で一方的に声をかけ続ける凪。最初はうんざりしていた真白も、いつも明るい凪に引っ張られるかのように、次第に心を許すようになっていきます。
果たして真白は女子アレルギーを克服し、魔女として生まれた自分を認め、受け入れられるようになるのか。そして最初は人助けのつもりで真白と友達になろうとした凪も、次第に自分の気持ちの変化に気づいて……と書くと、「いかにも少女マンガだな」と思われそうですが、基本的に『ライアー×ライアー』のようなコメディ要素強めのラブコメが好きな社主が、どうしてこの作品をこれほど気に入ってしまったのか。
正直に告白しますが、それは「真白くんにキュンキュンしたから」と認めざるを得ません。過去に「眼鏡男子」という属性でキュンとしたことはありましたが、(たぶん)女子と同じ目線で男子にキュンを感じたのは、これが初めてのような気がします。
以前、少女マンガでは上から目線の「俺様系男子」が強いという話を聞いて、以来「やっぱり女性はそういう男の方が好きなんだな。だから少女マンガには本当の意味で共感できないのだな」と思ったのですが、本作はそういう思い込みを覆す作品でもありました。確かに通学中、カラスにもいじめられている真白くんは、「俺様」とは対極の存在でしょう。ちょっといじめたくなる、女性の中の嗜虐心をくすぐるタイプの男子が好きな人にはおすすめの作品です……と書いておいて、いったい自分は何目線でおすすめしているのかよく分からなくなってきました。
なお、かつて自分を守ってくれた年上の男性が難病治療のためコールドスリープを受け、目覚めた後にヒロインの同級生として一緒に学校生活を送るようになる縞先生の新作『君は春に目を醒ます』(1巻、以下続刊/白泉社)も連載中。こちらもぜひ。
第4位『飴菓子』(群青)
第4位は『ITAN』(講談社)にて連載されていた群青先生の『飴菓子』(全4巻)。
オオカミ族の中でも特に濃い血を持つ「古狼」は、ある年齢に達すると、食べ物を全く受け付けなくなる飢餓期に入ります。飢餓期を終わらせるために必要なのは、古狼の谷の花から生まれる「飴菓子」を1年かけて育てて食べること。
オオカミ族にとっては一種の通過儀礼ともいえる飢餓期ですが、何より残酷だと思うのは、飢えから逃れるために育て、食べなければならない「飴菓子」とは植物でありながら、自分の意思を持つ美しい少女の姿をした小人でもあるのです。
ガラス細工のように繊細で壊れやすい飴菓子は、オオカミの血をもらうことで体内の毒を抜きながら身に種を宿し、オオカミもまた飴菓子に血を吸われることで日々の飢餓感を抑え、最後に毒が抜けて熟した飴菓子を食することで飢餓期を脱する――。そしてこの共生関係のもとに成り立つ両者が谷で1年間生き延びた後、必ずやってくる「私を食べて」の瞬間。オオカミは運命の人を食べないと大人になれないのです。
本作の主人公で人間と古狼の混血・糸巻も、最愛の飴菓子との別れを経験した一人。彼は他のオオカミと違い、飢餓期を終えても飢餓感を解消できず、助けを求めて谷の近くに住む人間の研究者のもとにたどり着きます。
――それから10年。糸巻の研究をきっかけに、人間は飴菓子の人工栽培に成功。オオカミが飢餓から逃れるための生き物だった飴菓子は、その美しい姿のため、愛でる対象や毒薬の原料として変貌します。飴菓子が高額で売買される「モノ」へと姿を変えるなか、飴菓子の売買に関わる人生を選んだ糸巻は、ある時、緑色をした1人(?)の飴菓子と出会います。
谷で捕まったあと逃げまわって傷物になったせいで、「生きたまますりつぶして薬にするしかない」この元気はつらつな飴菓子は、糸巻に助けられた後、「糸巻のじょしゅ」として共に生活を始めます。
さて、本作で注目したいのは飴菓子、オオカミ、人間という3つの種族の関係性です。
「恋人 友人 そういう形では言い尽くせない」「だから苦しい どうやったって割り切れない」
自分が愛した飴菓子をこのように語る糸巻。けれど、自分が生きるため、最後はかけがえのない存在である飴菓子を食べ(殺)さなければならない。
では、飢餓期のない人間は、飴菓子を無邪気に愛でるだけなのか。そうではありません。体内に宿す毒のため、人間は完熟期が近づいた飴菓子に触れることができません。最も美しい飴菓子に恋をしてしまった人間の男が、死を間近にした飴菓子に触れられず、「自分がオオカミだったら」と涙する場面は飴菓子の魅力にとらわれてしまった人間の悲劇ともいえるでしょう。
「食べる/食べられる」という共生関係だけでなく、飴菓子の人工栽培をきっかけに生まれた「愛でる/愛でられる」という関係。飴菓子に惚れてしまった人間に比べれば、「食べる」という形で飴菓子とひとつになれるオオカミの方がまだ幸せなのかもしれません。愛のあり方を深く考えされられる一作です。
第5位『大正処女御伽話』(桐丘さな)
第5位は桐丘さな先生の『大正処女御伽話』(たいしゃうをとめおとぎばなし、全5巻/集英社)です。処女(しょじょ)ではありません、処女(をとめ)と読みます。
時は大正10年。裕福な家庭に生まれ育った志磨珠彦は、交通事故で母と右腕の自由を失ったことをきっかけに、実業家の父から療養として千葉の別荘での生活を命じられます。動かぬ右腕、そして自分に手を差し伸べようともしない薄情な家族に嫌気がさした珠彦は、「終の棲家」と決めた千葉の別荘に移ると間もなく、ただ早い死のみを願う厭世家(ペシミスト)に。
笑いを忘れ、食欲も失せ、雨戸を締め切って昼とも夜とも分からない家の中に引きこもる「生きた屍(しかばね)」と化した彼のもとに、ある冬の日、一人の少女・夕月が訪れます。
「珠彦様のお嫁さんになる為罷り越しました」
珠彦の身の回りの世話をさせるため、父が借金のかたとして買った夕月。しかし彼女はそんなツラい身の上を全く感じさせることなく、掃除、洗濯、ご飯の準備、裁縫、果ては「お背中流しましょうか?」まで、明るく献身的に世話をしてくれます。
最初は「こんな男の嫁(つがい)にあてがわれて さぞイヤだろう」と言っていた厭世家・珠彦も、心を開き始めます。1巻のかなり早い段階で珠彦が「みそ汁うまい…」としみじみ味わっていて、「お前、寝返るの早いな!」と思わずツッコんだほど。男なんて単純なものです。
「大正ノスタルジックホンワカストーリー」と銘打っているように、確かに全体として見れば、珠彦と夕月のピュアなイチャコラぶりをニヤニヤする作品であるわけですが、人生に絶望して死ぬことばかり考えていた引きこもり青年が、大事にしたいと思える女性ができたことで、最後には自分を見捨てた志磨家と真正面から向き合う勇気を持てるほどにまで成長を遂げる一青年の成長物語として読むと、「珠彦、お前立派になったなあ」と、まるでわが子の成長を見守ってきた親のようにしみじみするばかりです。
珠彦のようなペシミストは、夕月のように深く考え込まないポジ女性より、自分と同じペシミスティックな人生観を持ったネガ女性の方が相性が良さそうだと思いがちなのですが、案外そうでもないのですね。
第6位『めがはーと』(横槍メンゴ)
第6位は『クズの本懐』(全8巻/スクウェア・エニックス)などで知られる、横槍メンゴ先生の読み切り作品集『めがはーと』(全1巻/小学館)。
自分はいったい何歳で死ぬのか。自分の寿命を計測することができ、またその寿命を他の人に譲渡できる世界。もともとは結婚前の男女がお互いの寿命を知り、長生きする方がもう一方に分け与えることで同じタイミングで最期を迎えられるよう始まった「寿命の譲渡」をテーマに、命を譲った、あるいは押し付けた2人を描く連作短編集です。
本作で寿命を譲渡するのは異性/同姓カップルや、愛し合ってしまった兄妹。また、その理由も純粋な愛情であったり、歪んだ愛であったり、「呪い」であったりそれぞれ。
しかし、そこに共通するのは寿命を与えた/与えられた双方の覚悟です。愛する人から寿命を5年を譲られることは、すなわち愛する人の人生5年分を奪う行為でもあるのだから。
「僕ね…」「やっぱり自信がないんだ。」「ふ、不安なの、」「正直。」「ずっと今みたいに好きでいられるか、」「わかんない、よ、」
第1話に登場する「僕」は、年上で婚約者のアザミさんから寿命を譲渡してもらうことにためらいを感じ、ぽつりぽつりと漏らします。
「それなのに一方的に寿命押しつけられても重いって?」「罪悪感でもいいから束縛してたいの。」「そんなに綺麗な気持ちで言ってないよ。」「あたしの最期をひとりじめしてほしいし、」「君の最期をひとりじめしたいの。」
未熟な「僕」に格の違いを見せつけるかのような、アザミさんのこのセリフは本当にかっこいい。しかも、そう話す彼女の覚悟が相当なものだったことを、我々はその結末でさらに思い知らされます。
「寿命を譲渡することができる」というたった一つの仮構から、男女(あるいは女女)の心情の内面を深く描き切った力量はさすがのもの。4篇収録ですが、まだこのテーマで短編を続けられるのでは? と、ひそかに続編を期待しています。
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