とうとう5回目! 「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい!2018(3/3 ページ)
第7位『モズ 葬式探偵』(吉川景都)
第7位は吉川景都先生の『葬式探偵モズ』(全1巻/角川書店)、そして『モズ』(全3巻/集英社)シリーズです(※掲載誌の休刊に伴い、移籍後の全3巻は巻数ではなく『葬式探偵の挨拶』『葬式探偵の憂鬱』『葬式探偵の帰還』副題表記になっています。)
本作は、遺影や塔婆に囲まれた不吉感あふれる研究室に身を置く、上陽大学民俗学教授・百舌一郎(モズ)と、自称助手の原田都が行く先々で遭遇した事件を解決していくミステリー作品。日本各地に残される伝統的な葬儀について調査するモズは、葬式に関する知識を駆使して各地で起こる奇妙な事件を数々解決していったことから、彼のもとにはいつのころからか「葬式探偵」として、事件解決の依頼が舞い込むように。
「橋の上に現れた白い服を着た女の幽霊」「なまはげのようなお面を身に着けた男の写真と秘宝伝説」「旧家当主の3人娘の遺産争い」など行く先々で起こる、まるで昭和の探偵小説のような事件を、モズは葬儀の準備と並行させて解決していきます。
ミステリーとしての見どころもさることながら、習俗としての葬儀をテーマとした目の付け所が秀逸。
故人の関係者が提灯や旗、地域によっては神輿を担いでお棺を墓地まで運ぶ葬列「野辺送り」のような、昔ながらの仏式葬儀だけでなく、神道にのっとって神楽を舞う神式葬儀(神葬祭)まで、「日本にはこんなに変わった葬儀があったのか」と驚かされることでしょう。「日本の喪服は本来白色で、昭和に入って初めて、西洋文化の影響で黒い喪服が一般的になった」というのも本作で初めて知りました。
社主が子どもの頃は、親族や生前親しかった人を自宅に呼んで行う葬儀が、まだぎりぎり普通だったような記憶がありますが、最近はセレモニーホールのような会場を借りて身内だけで済ませる家族葬の方が一般的になってきたように思います。火葬だけで済ませてしまう直葬が増えているとも聞きます。
「ドライブスルー式葬儀場」のような虚構新聞ばりの弔いが本当に登場してしまう現代。負担が少ない簡略化した葬式は、助かる面が大きいけれど、合理化が良しとされる時代だからこそ、本作で描かれるような時間と手間をかけた葬儀を通じて「葬儀本来の意味とは何か」を考えさせられた一作です。
第8位『アメとハレの風の旅』(新堂みやび)
第8位は新堂みやび先生の『アメとハレの風の旅』(全2巻/徳間書店)です。
気持ちがたかぶると雨を降らせてしまう少女・アメと、同じく気持ちがたかぶると木々が燃えるほどの日照りを起こしてしまう少年・ハレ、そしてネコのようなお供・ミズタマの3人が、旅の途中で見つけた珍しい苗木を、もともと生えていた「ツイノスミカ」と呼ばれる土地まで運ぶ旅物語。
3人は浮き島のように海を漂うツイノスミカを目指し、道中、砂漠の国、樹木の国、硝子の国などさまざまな地方をめぐります。どうして、アメとハレはこんな力を持っているのか。かつてその力のせいで、人を悲しませたり傷つけたこともある2人は、旅の最後にその本当の理由を知ります。
本作の魅力は、表紙を見ても分かるように、絵本のような温かみある画風と表現。スクリーントーンを全く使わず、手描きの線だけで濃淡をつけるなど、やさしい物語にフィットしたやさしい表現がステキです。
今回が初めての掲載作ということで、マンガとして分かりにくいところがまだ若干見受けられますが、本作にはそれを補って余りある個性があります。次回作も楽しみにしています。
第9位『エマは星の夢を見る』(高浜寛)
第9位は昨年の本企画で1位に選んだ『ニュクスの角灯』の作者・高浜寛先生の『エマは星の夢を見る」(全1巻/講談社)です。
ホテル・レストランガイドとして有名な「ミシュランガイド」の格付けを決めるため、日々各地を巡る元ミシュラン調査員。本作は数少ない女性調査員であるエマニュエル・メゾンヌーヴ(エマ)が、ミシュランの入社試験から新人調査員としてフランス各地、時には日本を巡る体験まで漫画化した作品です。
ミシュラン調査員と言えば、昔に見たイギリスのコメディで、シェフが「おい、今ミシュランが来てるぞ……!」と小声で話すと、そのままカメラがパンして、ビバンダム(※ミシュランのイメージキャラクター)の着ぐるみがカウンターに座っていたというコントを思い出すのですが、本当の調査は身元がバレないよう細心の注意を払い、料理のメニューや味、接客態度、店内の様子などあらゆる情報を店を出るまでメモも取らずに記憶しておかねばならないというかなり難しい仕事でもあります。
秘密のベールに包まれたミシュラン調査員の仕事を垣間見ることができる点も面白いですが、とりわけ興味深かったのは、エマが来日するエピソード。
それまではフランス料理の話が続いて、正直なところ、味の描写にピンとこなかったこともあったので、精進料理や寿司が紹介される日本ならもう少し想像できるのでは、と思って読み始めたのですが、普段舌が慣れているはずの和食ですら、本作を通すと何だか異国の料理に見えるのです。
「動物性タンパクが一切使われてない… バターもクリームもないのに なんてバラエティー豊かな味わいなの…」
これは精進料理を味わったエマの感想。寿司職人についても「武道の師範のような」と形容しています。「フランス人の視点で日本料理を表すとこういう表現になるのか」と、日本のマンガなのに、まるで海外の作品を読んでいるかのような不思議な読後感が味わえます。
第10位『さよなら、またね。』(優)
とうとう最後までやってきました。第10位は優先生のフルカラー短編集『さよなら、またね。』(一迅社)です。
小学生のころ、難病であまり学校に来なかった篠原くんと、その篠原くんを励ますための寄せ書きにお化けのような透明人間の似顔絵を描いて泣かせてしまった井上さん。間もなく篠原くんは亡くなってしまったけれど、その7年後、篠原くんは井上さんが描いた透明人間の姿で、再び彼女の前にお化けとして現れます。
そんなある夏の日のやりとりを描いた表題作「さよなら、またね。」のほか、同人誌として発行していた7本の短編をフルカラーで収録。全体的に日常やSFをモチーフにした作品が多く、また登場人物も幼なじみ、クラスメイト、先生と生徒、兄妹など関係性は違えど、全体としてふたりの甘酸っぱい関係を描いた内容が多いです。
個人的に好きな短編は、川に落ちそうな少女の飼い猫を助けようとしたクラスメイトの少年が、猫と一緒に川に落ちたところから始まる「猫の日」。身を投げ出して猫を助けてくれた勇敢さではなく、自分がクラスになじめないことに共感してくれたところが、彼女にとって「キュン」のポイントになっていたところがステキだなと。
少し話はそれますが、優先生は昨年7月、急性心不全により急逝。以前この連載では、離島の少年少女が正体不明の敵と戦うため、理不尽に徴兵されていく『五時間目の戦争』(全4巻)を紹介しましたが、その賛否分かれる最終回にせよ、本作前半に収録されている短編にせよ、「生きること」を真摯な態度で描いてきた方でもあります。「次はどんな作品が読めるのだろう」と期待していただけに、突然の訃報は昨年ショックを受けた大きな出来事の一つでもありました。
「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい! 2018 結果
- 【第1位】『のぼさんとカノジョ?』(モリコロス)
- 【第2位】『ライアー×ライアー』(金田一蓮十郎)
- 【第3位】『魔女くんと私』(縞あさと)
- 【第4位】『飴菓子』(群青)
- 【第5位】『大正処女御伽話』(桐丘さな)
- 【第6位】『めがはーと』(横槍メンゴ)
- 【第7位】『モズ 葬式探偵』(吉川景都)
- 【第8位】『アメとハレの風の旅』(新堂みやび)
- 【第9位】『エマは星の夢を見る』(高浜寛)
- 【第10位】『さよなら、またね。』(優)
というわけで、昨年完結したおすすめ10作品を紹介しました。長文おつきあいありがとうございました。
今回は特にハッピーエンド、大団円を迎えたストーリー作品を上位に選びました。エロやグロといったインパクトにパラメータを全振りしたようなマンガが話題になりやすい昨今ですが、腰を据えてじっくり読み続けられ、なおかつ読後の満足度が高い作品に触れるきっかけになれば幸いです。
今年も「まだあまり知られていないけど面白い」マンガを掘り出していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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