とうとう5回目! 「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい!2018(3/3 ページ)

» 2018年01月21日 21時00分 公開
[虚構新聞・社主UKねとらぼ]
前のページへ 1|2|3       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

第7位『モズ 葬式探偵』(吉川景都)

『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい 2018 ねとらぼ 虚構新聞 社主UK モズ 葬式探偵 『モズ〜葬式探偵の帰還〜』単行本(試し読み)(C)吉川景都/集英社クリエイティブ

 第7位は吉川景都先生の『葬式探偵モズ』(全1巻/角川書店)、そして『モズ』(全3巻/集英社)シリーズです(※掲載誌の休刊に伴い、移籍後の全3巻は巻数ではなく『葬式探偵の挨拶』『葬式探偵の憂鬱』『葬式探偵の帰還』副題表記になっています。)

 本作は、遺影や塔婆に囲まれた不吉感あふれる研究室に身を置く、上陽大学民俗学教授・百舌一郎(モズ)と、自称助手の原田都が行く先々で遭遇した事件を解決していくミステリー作品。日本各地に残される伝統的な葬儀について調査するモズは、葬式に関する知識を駆使して各地で起こる奇妙な事件を数々解決していったことから、彼のもとにはいつのころからか「葬式探偵」として、事件解決の依頼が舞い込むように。

 「橋の上に現れた白い服を着た女の幽霊」「なまはげのようなお面を身に着けた男の写真と秘宝伝説」「旧家当主の3人娘の遺産争い」など行く先々で起こる、まるで昭和の探偵小説のような事件を、モズは葬儀の準備と並行させて解決していきます。

 ミステリーとしての見どころもさることながら、習俗としての葬儀をテーマとした目の付け所が秀逸

 故人の関係者が提灯や旗、地域によっては神輿を担いでお棺を墓地まで運ぶ葬列「野辺送り」のような、昔ながらの仏式葬儀だけでなく、神道にのっとって神楽を舞う神式葬儀(神葬祭)まで、「日本にはこんなに変わった葬儀があったのか」と驚かされることでしょう。「日本の喪服は本来白色で、昭和に入って初めて、西洋文化の影響で黒い喪服が一般的になった」というのも本作で初めて知りました。

 社主が子どもの頃は、親族や生前親しかった人を自宅に呼んで行う葬儀が、まだぎりぎり普通だったような記憶がありますが、最近はセレモニーホールのような会場を借りて身内だけで済ませる家族葬の方が一般的になってきたように思います。火葬だけで済ませてしまう直葬が増えているとも聞きます。

 「ドライブスルー式葬儀場」のような虚構新聞ばりの弔いが本当に登場してしまう現代。負担が少ない簡略化した葬式は、助かる面が大きいけれど、合理化が良しとされる時代だからこそ、本作で描かれるような時間と手間をかけた葬儀を通じて「葬儀本来の意味とは何か」を考えさせられた一作です。


第8位『アメとハレの風の旅』(新堂みやび)

『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい 2018 ねとらぼ 虚構新聞 社主UK アメとハレの風の旅『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい 2018 ねとらぼ 虚構新聞 社主UK アメとハレの風の旅 『アメとハレの風の旅』1、2巻(全2巻、試し読み

 第8位は新堂みやび先生の『アメとハレの風の旅』(全2巻/徳間書店)です。

 気持ちがたかぶると雨を降らせてしまう少女・アメと、同じく気持ちがたかぶると木々が燃えるほどの日照りを起こしてしまう少年・ハレ、そしてネコのようなお供・ミズタマの3人が、旅の途中で見つけた珍しい苗木を、もともと生えていた「ツイノスミカ」と呼ばれる土地まで運ぶ旅物語。

 3人は浮き島のように海を漂うツイノスミカを目指し、道中、砂漠の国、樹木の国、硝子の国などさまざまな地方をめぐります。どうして、アメとハレはこんな力を持っているのか。かつてその力のせいで、人を悲しませたり傷つけたこともある2人は、旅の最後にその本当の理由を知ります。

 本作の魅力は、表紙を見ても分かるように、絵本のような温かみある画風と表現。スクリーントーンを全く使わず、手描きの線だけで濃淡をつけるなど、やさしい物語にフィットしたやさしい表現がステキです。

 今回が初めての掲載作ということで、マンガとして分かりにくいところがまだ若干見受けられますが、本作にはそれを補って余りある個性があります。次回作も楽しみにしています。


第9位『エマは星の夢を見る』(高浜寛)

『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい 2018 ねとらぼ 虚構新聞 社主UK エマは星の夢を見る 『エマは星の夢を見る』(全1巻、試し読み))

 第9位は昨年の本企画で1位に選んだ『ニュクスの角灯』の作者・高浜寛先生の『エマは星の夢を見る」(全1巻/講談社)です。

 ホテル・レストランガイドとして有名な「ミシュランガイド」の格付けを決めるため、日々各地を巡る元ミシュラン調査員。本作は数少ない女性調査員であるエマニュエル・メゾンヌーヴ(エマ)が、ミシュランの入社試験から新人調査員としてフランス各地、時には日本を巡る体験まで漫画化した作品です。

 ミシュラン調査員と言えば、昔に見たイギリスのコメディで、シェフが「おい、今ミシュランが来てるぞ……!」と小声で話すと、そのままカメラがパンして、ビバンダム(※ミシュランのイメージキャラクター)の着ぐるみがカウンターに座っていたというコントを思い出すのですが、本当の調査は身元がバレないよう細心の注意を払い、料理のメニューや味、接客態度、店内の様子などあらゆる情報を店を出るまでメモも取らずに記憶しておかねばならないというかなり難しい仕事でもあります。

 秘密のベールに包まれたミシュラン調査員の仕事を垣間見ることができる点も面白いですが、とりわけ興味深かったのは、エマが来日するエピソード。

 それまではフランス料理の話が続いて、正直なところ、味の描写にピンとこなかったこともあったので、精進料理や寿司が紹介される日本ならもう少し想像できるのでは、と思って読み始めたのですが、普段舌が慣れているはずの和食ですら、本作を通すと何だか異国の料理に見えるのです。

 「動物性タンパクが一切使われてない… バターもクリームもないのに なんてバラエティー豊かな味わいなの…」

 これは精進料理を味わったエマの感想。寿司職人についても「武道の師範のような」と形容しています。「フランス人の視点で日本料理を表すとこういう表現になるのか」と、日本のマンガなのに、まるで海外の作品を読んでいるかのような不思議な読後感が味わえます。


第10位『さよなら、またね。』(優)

『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい 2018 ねとらぼ 虚構新聞 社主UK さよなら、またね。 『さよなら、またね。』

 とうとう最後までやってきました。第10位は優先生のフルカラー短編集『さよなら、またね。』(一迅社)です。

 小学生のころ、難病であまり学校に来なかった篠原くんと、その篠原くんを励ますための寄せ書きにお化けのような透明人間の似顔絵を描いて泣かせてしまった井上さん。間もなく篠原くんは亡くなってしまったけれど、その7年後、篠原くんは井上さんが描いた透明人間の姿で、再び彼女の前にお化けとして現れます。

 そんなある夏の日のやりとりを描いた表題作「さよなら、またね。」のほか、同人誌として発行していた7本の短編をフルカラーで収録。全体的に日常やSFをモチーフにした作品が多く、また登場人物も幼なじみ、クラスメイト、先生と生徒、兄妹など関係性は違えど、全体としてふたりの甘酸っぱい関係を描いた内容が多いです。

 個人的に好きな短編は、川に落ちそうな少女の飼い猫を助けようとしたクラスメイトの少年が、猫と一緒に川に落ちたところから始まる「猫の日」。身を投げ出して猫を助けてくれた勇敢さではなく、自分がクラスになじめないことに共感してくれたところが、彼女にとって「キュン」のポイントになっていたところがステキだなと。

 少し話はそれますが、優先生は昨年7月、急性心不全により急逝。以前この連載では、離島の少年少女が正体不明の敵と戦うため、理不尽に徴兵されていく『五時間目の戦争』(全4巻)を紹介しましたが、その賛否分かれる最終回にせよ、本作前半に収録されている短編にせよ、「生きること」を真摯な態度で描いてきた方でもあります。「次はどんな作品が読めるのだろう」と期待していただけに、突然の訃報は昨年ショックを受けた大きな出来事の一つでもありました。


 というわけで、昨年完結したおすすめ10作品を紹介しました。長文おつきあいありがとうございました。

 今回は特にハッピーエンド、大団円を迎えたストーリー作品を上位に選びました。エロやグロといったインパクトにパラメータを全振りしたようなマンガが話題になりやすい昨今ですが、腰を据えてじっくり読み続けられ、なおかつ読後の満足度が高い作品に触れるきっかけになれば幸いです。

 今年も「まだあまり知られていないけど面白い」マンガを掘り出していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

過去の「『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい!」

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2407/24/news014.jpg 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  2. /nl/articles/2407/25/news017.jpg 「これが生えたら庭終了」 プロも降参する“何をやっても全部ムダな最恐雑草”の正体が400万再生「ほんとこれ厄介」「土ごと変えないと不可能」
  3. /nl/articles/2407/26/news151.jpg イトーヨーカドー春日部店が閉店へ 「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパーのモデル 「残念」「寂しい」惜しむ声
  4. /nl/articles/2407/25/news012.jpg 夜、山中の側溝をのぞいてみたら…… 思わず声がもれる“あらぬ生物”の姿に「ヤバいw」「生で見てみたい」
  5. /nl/articles/2407/25/news007.jpg 水槽の中で卵を発見→慎重に見守って1カ月後…… 小さな命の誕生に飼い主も視聴者もメロメロ「まじで可愛すぎるほんとに可愛い」
  6. /nl/articles/2407/25/news138.jpg 「お父さんはママのオタクだった」 母親が「元・おニャン子」のタレント、アイドルとオタクが“つながっちゃいけない理由”を問いかける
  7. /nl/articles/2407/25/news050.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」 中1の“斜め上の解答”に「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」
  8. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  9. /nl/articles/2407/26/news119.jpg 工藤静香、15歳の愛犬が天国へ 感謝の言葉つづるも……「泣いてばかり」「心が追いつかない」と悲痛な思い
  10. /nl/articles/2407/26/news008.jpg 外国人が来日して“3年後”…… マクドナルドの“オーダーの変化”に「胃袋が日本人のそれなんよw」とツッコミ
先週の総合アクセスTOP10
  1. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが360万再生「凄すぎて笑うしかないww」「チーズが、、、」
  2. 6年間外につながれっぱなしだったワンコ、保護準備をするため帰ろうとすると…… 思いが伝わるラストに涙が止まらない
  3. 「お釣りで新紙幣来た!!!!!と思ったら……」 “まさかの正体”に「吹き出してしまった」「逆に……」
  4. 赤いカブトムシを7年間、厳選交配し続けたら…… 爆誕した“ウルトラレッド”の姿に「フェラーリみたい」「カッコ良すぎる」
  5. ダイソーで買った330円の「石」を磨いたら……? 吸い込まれそうな美しさが40万回表示の人気 「夏休みの自由研究にもいいのでは?」
  6. 「これ最初に考えた人、まじ天才」 ダイソーグッズの“じゃない”使い方が「目から鱗すぎ」と反響
  7. もう笑うしかない Windowsのブルースクリーン多発でオフィス中“真っ青”になった海外の光景がもはや楽しそう
  8. アジサイを挿し木から育て、4年後…… 息を飲む圧巻の花付きに「何回見ても素晴らしい」「こんな風に育ててみたい!」
  9. スズメの首は、実は……? 「心臓止まりそうでした」「これは……びっくり!」“真実の姿”に驚愕の声
  10. 【今日の計算】「8×8÷8÷8」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. 18÷0=? 小3の算数プリントが不可解な出題で物議「割れませんよね?」「“答えなし”では?」
  2. 日本人ならなぜかスラスラ読めてしまう字が“300万再生超え” 「輪ゴム」みたいなのに「カメラが引いたら一気に分かる」と感動の声
  3. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  4. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  5. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  6. かわいすぎる卓球女子の最新ショットが730万回表示の大反響 「だれや……この透明感あふれる卓球天使は」「AIじゃん」
  7. 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  8. 天皇皇后両陛下の英国訪問、カミラ王妃の“日本製バッグ”に注目 皇后陛下が贈ったもの
  9. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  10. 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」