ネット激震の「邪悪」な主人公はこうして生まれた 『連ちゃんパパ』作者・ありま猛インタビュー(2/3 ページ)

» 2020年06月14日 12時30分 公開
[しげるねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

ありま  勉さんについて行くとヤクザに出くわすわ……とにかくあちこち引きずり回されて、なんだこの人って(笑)。「充はあんだけ単行本出しててよ、お前も単行本出してよ。俺なんかあんなに描いて、1冊しか単行本出てねえよ。しかもその1冊が『実録あだち充物語』……」なんて、自分で言ってましたね(笑)。人として面白かったし面倒見も良かったですけど、ネタ的な部分での影響も大きいです。



――先輩たちの遊びに、たくさん付き合わされたんですね。

ありま 当時古谷さんが20歳くらいのアシスタントを集めて、「お前たちは将来漫画家になるために俺のところにいるんだろう。それならもう25までは漫画描かなくていいから、広く浅く遊びなさい」って言ったんですよ。ただし、絶対に深入りはするなと。「お金がなかったら貸してやる」って言ってくれて、本当に借りましたからね、僕は。

――ネタを増やせということですね。

ありま 他のアシスタントの人たちは、描くなって言われると描きたくなっちゃうんですよ。でも僕は師匠が言ってるんだから間違いないと思って、本気で遊びました(笑)。結果的にそういうものがネタになって、デビューした後に使える引き出しがいろいろできました。

――しかし、どれだけパチンコにのめり込んでいたんですか?

ありま 70年代くらいの話ですけど、当時のパチンコは今のとは全然違って、チューリップ台がやっと出てきた時代で。自動ではなく手打ちで、椅子がなく立って打つ台もありました。もう給料日前に全部有り金使っちゃって、仕方がないから食料を買うお金だけ人に借りて、それを持って買い物に行く途中でパチンコ屋に寄っちゃう(笑)。『連ちゃんパパ』のまんまですよ。なにやってんだろうと思いながら打っちゃう。「やめないと」と思っていても打っちゃうから、もう開き直って「やめることをやめた!」なんて言ってました。


『連ちゃんパパ』第16話より

――『連ちゃんパパ』の劇中にもそんなセリフがありましたね……。どこかのタイミングで、パチンコからは抜け出せたんですか?

ありま それがねえ、ある日打ってたら、大当たりしてジャンジャン出てきたんですよ。でもなんか無性に悲しくなっちゃって、涙がボロボロ出てきたんです。もうどうしようかと。とにかく「これを両替しちゃうと元に戻るから、このまま置いて帰ろう!」と思って、玉でいっぱいの箱がたくさんあるのに、そのまま置いて店を出ました。それがやめたきっかけ。20歳ぐらいのころの話ですね。


『連ちゃんパパ』は、時事ネタと実体験と想像のミックス

――壮絶ですね……。それなのに、どういう経緯で『連ちゃんパパ』の仕事を受けたんでしょうか?

ありま その後独立して、そこそこ仕事もあったんです。そういう時に辰巳出版の『パチプロ7』さんからパチンコマンガ描いてくれって言われて。なんせ自分も依存してたから、パチンコのイメージは悪かったんですよ。他の仕事もあったし、これはもう断ろうと思ってたんです。

 で、「僕にはパチンコは依存症のイメージしかないし、依存症でボロボロになっていく人の漫画だったらネタはあるけど、それでもいいの?」と言ったら、「いいよ」って言われちゃったんです(笑)。断られると思ってたのに。描き進めてみると、編集部ではバカ受けでした。読者からのアンケートでは、ずっと3〜4位くらいでしたけど。

――なるほど、だからあのような内容になったんですね。

ありま 内容に関しては実体験も反映しているし、そういう類の人も知ってはいるんですけど、当時の社会事情もヒントにしてますね。例えば当時発生してたフィリピンのマニラでの保険金殺人事件とかは、もろに話に盛り込んでます。そういう当時の社会事件と、依存症みたいなものをドッキングさせて、あとはもう想像です。


『連ちゃんパパ』第28話より

――読んでいて強烈だったのが、進が弁当屋さんをパチンコにハメる回で、言質を取られないように一応進が弁当屋さんに「パチンコやめなよ」って止めるところとかなんですが、ああいうテクニックとかも想像なんですか?

ありま あれは取材したとかじゃなくて、自分がハマった経験からですね。あの頃「パチンコなんかやめなよ」みたいなことを周りから言われたそのまんまです。大体ハマってる人はみんな同じように「もうやめる」って言うけど、抜けられないだろうなっていう。たぶんそういう依存症は他人がああだこうだ言ってもやめられないと思いますよ。自分から何か行動しない限りやめられない。


『連ちゃんパパ』第22話より

――ネットでは、借金取りになった進が債務者の子どもが通う学校にまで押しかけるシーンも話題になりました。

ありま 進が子どもの同級生たちに「いけないよね〜」って言うシーンも想像で描いてます。僕が学校に通ってた頃、よく給食費を払ってない人が先生に名前を呼ばれたりしてたんですよ。で、僕は施設にいるから給食費も施設が払うってのは学校の先生も知ってるんだけど、その施設にも事情があって、払えないこともあるんです。そういう時にもわざわざ僕の名前を呼ばれて「そんなの知らないよ、僕に言ってもしょうがないだろう」って思ったんですよね。そういう経験を元に想像したシーンです。


『連ちゃんパパ』第8話より

――想像であそこまで具体的に殺伐とした展開が描けるんですね……。

ありま 依存症を描くのに、お情けをかけちゃいけないと思ったんです。例えば雅子を見つけた時に、布団の中に他の男がいる。あのシーンを描くのはどうしようかと思ったんですよ。でもまあ、一応青年誌だし。それにここで怯んだら、依存症の話も手ぬるくなるんじゃないか、ここは描くべきだろうと。僕の絵で興奮する人もいないだろうし(笑)。学校の先生を進が襲うシーンとか、自分で描いてても嫌なんですよ。

――覚悟を決めた上での描写だったと。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/05/news022.jpg 「クレオパトラみたい」と言われ傷ついた55歳女性→カット&パーマで大変身! 「本当にびっくり」「素敵なマダムに」
  2. /nl/articles/2410/05/news040.jpg 伝説の不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」放送から41年、キャストの現在→75歳近影が「とても見えません」と話題
  3. /nl/articles/2410/02/news116.jpg 余りがちなクリアファイル、“じゃないほう”の使い方で食器棚がまさかのスッキリ 「目からウロコ」「思いつかなかった!」と反響
  4. /nl/articles/2410/05/news023.jpg 七五三で刀を持っていた少年→20年後には…… “まさかの進化”に「好きなもの突き進んでかっこいい!」
  5. /nl/articles/2410/05/news018.jpg 野良猫が窓越しに「保護してください」と圧をかけ続け…… ひしひし感じる強い意志と表情に「かわいすぎるw」「視線がすごい」
  6. /nl/articles/2410/05/news012.jpg 「あのお客さんに幸あれっ!」 小銭の出し方が完璧な“神客”にレジ店員感激 会計がスムーズになる配慮が参考になる
  7. /nl/articles/2410/04/news048.jpg 「こういうの好き」 割れたコップの破片を並べたら…… “まさかの発想”で息を飲むアート作品に 「すごいセンス良い」「前向きな考え」
  8. /nl/articles/2410/04/news040.jpg 50代女性「モンチッチみたいにしてほしい」→美容師がプロのワザを見せ…… 別人級の変身に「めっちゃお洒落」「すごい!」
  9. /nl/articles/2410/04/news025.jpg 「これが免許証の写真???」 コスプレイヤーが公開した“信じられない”免許証が話題 コスプレ姿との比較に「両方とも可愛いすぎる」
  10. /nl/articles/2410/05/news032.jpg 大型犬が18年間、ドアを開け続けた結果……そうはならんやろな驚きの末路に「どうしたらこんな風になるのよ」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声