ネット激震の「邪悪」な主人公はこうして生まれた 『連ちゃんパパ』作者・ありま猛インタビュー(2/3 ページ)
ありま 勉さんについて行くとヤクザに出くわすわ……とにかくあちこち引きずり回されて、なんだこの人って(笑)。「充はあんだけ単行本出しててよ、お前も単行本出してよ。俺なんかあんなに描いて、1冊しか単行本出てねえよ。しかもその1冊が『実録あだち充物語』……」なんて、自分で言ってましたね(笑)。人として面白かったし面倒見も良かったですけど、ネタ的な部分での影響も大きいです。
――先輩たちの遊びに、たくさん付き合わされたんですね。
ありま 当時古谷さんが20歳くらいのアシスタントを集めて、「お前たちは将来漫画家になるために俺のところにいるんだろう。それならもう25までは漫画描かなくていいから、広く浅く遊びなさい」って言ったんですよ。ただし、絶対に深入りはするなと。「お金がなかったら貸してやる」って言ってくれて、本当に借りましたからね、僕は。
――ネタを増やせということですね。
ありま 他のアシスタントの人たちは、描くなって言われると描きたくなっちゃうんですよ。でも僕は師匠が言ってるんだから間違いないと思って、本気で遊びました(笑)。結果的にそういうものがネタになって、デビューした後に使える引き出しがいろいろできました。
――しかし、どれだけパチンコにのめり込んでいたんですか?
ありま 70年代くらいの話ですけど、当時のパチンコは今のとは全然違って、チューリップ台がやっと出てきた時代で。自動ではなく手打ちで、椅子がなく立って打つ台もありました。もう給料日前に全部有り金使っちゃって、仕方がないから食料を買うお金だけ人に借りて、それを持って買い物に行く途中でパチンコ屋に寄っちゃう(笑)。『連ちゃんパパ』のまんまですよ。なにやってんだろうと思いながら打っちゃう。「やめないと」と思っていても打っちゃうから、もう開き直って「やめることをやめた!」なんて言ってました。
――『連ちゃんパパ』の劇中にもそんなセリフがありましたね……。どこかのタイミングで、パチンコからは抜け出せたんですか?
ありま それがねえ、ある日打ってたら、大当たりしてジャンジャン出てきたんですよ。でもなんか無性に悲しくなっちゃって、涙がボロボロ出てきたんです。もうどうしようかと。とにかく「これを両替しちゃうと元に戻るから、このまま置いて帰ろう!」と思って、玉でいっぱいの箱がたくさんあるのに、そのまま置いて店を出ました。それがやめたきっかけ。20歳ぐらいのころの話ですね。
『連ちゃんパパ』は、時事ネタと実体験と想像のミックス
――壮絶ですね……。それなのに、どういう経緯で『連ちゃんパパ』の仕事を受けたんでしょうか?
ありま その後独立して、そこそこ仕事もあったんです。そういう時に辰巳出版の『パチプロ7』さんからパチンコマンガ描いてくれって言われて。なんせ自分も依存してたから、パチンコのイメージは悪かったんですよ。他の仕事もあったし、これはもう断ろうと思ってたんです。
で、「僕にはパチンコは依存症のイメージしかないし、依存症でボロボロになっていく人の漫画だったらネタはあるけど、それでもいいの?」と言ったら、「いいよ」って言われちゃったんです(笑)。断られると思ってたのに。描き進めてみると、編集部ではバカ受けでした。読者からのアンケートでは、ずっと3〜4位くらいでしたけど。
――なるほど、だからあのような内容になったんですね。
ありま 内容に関しては実体験も反映しているし、そういう類の人も知ってはいるんですけど、当時の社会事情もヒントにしてますね。例えば当時発生してたフィリピンのマニラでの保険金殺人事件とかは、もろに話に盛り込んでます。そういう当時の社会事件と、依存症みたいなものをドッキングさせて、あとはもう想像です。
――読んでいて強烈だったのが、進が弁当屋さんをパチンコにハメる回で、言質を取られないように一応進が弁当屋さんに「パチンコやめなよ」って止めるところとかなんですが、ああいうテクニックとかも想像なんですか?
ありま あれは取材したとかじゃなくて、自分がハマった経験からですね。あの頃「パチンコなんかやめなよ」みたいなことを周りから言われたそのまんまです。大体ハマってる人はみんな同じように「もうやめる」って言うけど、抜けられないだろうなっていう。たぶんそういう依存症は他人がああだこうだ言ってもやめられないと思いますよ。自分から何か行動しない限りやめられない。
――ネットでは、借金取りになった進が債務者の子どもが通う学校にまで押しかけるシーンも話題になりました。
ありま 進が子どもの同級生たちに「いけないよね〜」って言うシーンも想像で描いてます。僕が学校に通ってた頃、よく給食費を払ってない人が先生に名前を呼ばれたりしてたんですよ。で、僕は施設にいるから給食費も施設が払うってのは学校の先生も知ってるんだけど、その施設にも事情があって、払えないこともあるんです。そういう時にもわざわざ僕の名前を呼ばれて「そんなの知らないよ、僕に言ってもしょうがないだろう」って思ったんですよね。そういう経験を元に想像したシーンです。
――想像であそこまで具体的に殺伐とした展開が描けるんですね……。
ありま 依存症を描くのに、お情けをかけちゃいけないと思ったんです。例えば雅子を見つけた時に、布団の中に他の男がいる。あのシーンを描くのはどうしようかと思ったんですよ。でもまあ、一応青年誌だし。それにここで怯んだら、依存症の話も手ぬるくなるんじゃないか、ここは描くべきだろうと。僕の絵で興奮する人もいないだろうし(笑)。学校の先生を進が襲うシーンとか、自分で描いてても嫌なんですよ。
――覚悟を決めた上での描写だったと。
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