ネット激震の「邪悪」な主人公はこうして生まれた 『連ちゃんパパ』作者・ありま猛インタビュー(3/3 ページ)

» 2020年06月14日 12時30分 公開
[しげるねとらぼ]
前のページへ 1|2|3       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

ありま 描かないと言う手もあるんだけど、それじゃあ主人公に情けをかけちゃう気がしてしまって。覚悟がいりましたね。できることなら避けたいんだけど、他人を犠牲にしてでも、使えるものはなんでも使っちゃうっていう依存症の人のことは、こういうところを避けると描けない。

――あそこまでエグい話をありま先生の絵柄で読まされると、ギャップがすごいですよね。

ありま 絵柄とのギャップは、計算してやりました。この絵でこの話をやられるとキツいだろう、心を折れるかもって思ってました。もともと僕は赤塚一派の絵柄だから、同じ絵で同じようなパターンの話を描いたって絶対対抗できない。だから赤塚さんたちが描けないところを描いてやろう、それならこの絵でもできるっていう自信はあったんです。そういう狙いがあってその通りにやったんですけど、当時は失敗作扱いでしたね。時代が早かったのかな(笑)。


もうひとつのテーマは、「家族」

――進の息子の浩司も、絵柄がかわいいのにやたらとかわいそうで読んでいて辛かったです。

ありま 「子どもがかわいそうだ」って思って途中で読むのをやめた人もいたみたいですけど、そう思ってくれたなら大成功なんですよ。自分の子をこういう目に遭わせないでよ、これはひどいでしょ、っていうのが浩司の役目なんです。


『連ちゃんパパ』第32話より

――そこも狙い通りだったわけですね。

ありま 『連ちゃんパパ』は確かにギャンブルものですけど、僕が漫画でずっとテーマにしてるのは「家族」なんですよ。他の作品もそうだし、『連ちゃんパパ』も僕に言わせれば家族を描いた作品です。

 勉さんは群馬の人なんですけど、お母さんがたまに上京してご飯を作ってくれるんです。それで「僕、帰ります」って言うと「なんだ、一緒に食べてけ」って食べさせてくれるんですけど、あの雰囲気がもうすごく嫌で嫌で。僕自身が家族に縁がないから、どう振る舞っていいか分からないんですよ。食べてるうちに、勉さんがお母さんにボロクソ言い出したりして。「家族にそんなこと言っていいの!?」とか、「こういうのも家族なんだ」って。いろんな家族がいるっていうのをそれで知りました。

――親子や家族間の会話がどういうものか、分からなかったわけですね。

ありま 施設で育つと「君は施設で育ったけど、親をそう悪く言うもんじゃないよ」とか、そんなのはいっぱい聞かされるわけですよ。でも僕から言わせると、どんなに貧乏だろうが、喜怒哀楽を共にしていれば家族です。産んだだけで親だというのは、それはどうなんだっていうのがあって。だから喜怒哀楽を共にしたものが家族だと思ってるんですね。

 生みの親と一緒に生活すればそれで家族っていうのは違う。浩司の立場は「それでもいいから進と一緒にいたい」っていうものだし、そういう理由から浩司をああいうふうに描いたんです。雅子にしても、別に女性を悪く描こうっていうつもりはなかったんだけど、どうせなら両方が依存症の方がいいだろうって(笑)。ああいう人もいるじゃないですか。

――最終話のあのラストも、微妙に後味が悪くてすごいですよね。

ありま あのラストは、「やめられない」っていうのがテーマにあるからこその「さあどうなるでしょうね?」っていう終わり方です。僕はとにかく自分で決めないとやめられないと思ってるから、たぶん進たちもやめられないだろうと考えてますけど(笑)。依存症は自分でやめると決めないと抜けられない、それとどんなにひどい目にあって人に後ろ指さされようが、それでも家族だっていうのがテーマですね。


次回作は『実録 あだち勉物語』?

――『連ちゃんパパ』でありま先生のことを知った人も多いと思います。そういう人に対して、次にオススメしたい作品はありますか?

ありま 『船宿 大漁丸』っていう作品がありまして、僕はどっちかというと人情ものが多いけど、これは連ちゃんパパと人情ものの間くらいの感じです。船宿の漫画なんだけど、タチの悪いお客さんが来たりとか。これは自分でも好きなんですけど、まだそこまで日の目を見てないんですよね。電子書籍で1巻は出てますが、残り十数巻分は未発売です。あとは『ほっこりゴルフ屋さん』っていうゴルフの漫画があるんですけど、あれなんかは自分でも大好きです。


『船宿 大漁丸』 - マンガ図書館Z


――ところで、ネット上で『連ちゃんパパ』が話題になっていたことは、どうやってお知りになったんですか?

ありま 近所の飲み屋のマスターが「ネットで大変ですよ」って教えてくれました。「なんのこと?」って感じで。よくくだらないことを電話してくる奴なんで、そのままほっといたんですよ(笑)。そしたらそのうちいろんな人がおんなじようなことを言ってくるんで、それでようやくネットを見たら「マンガ図書館Z」さんのサーバが落ちたとかで。「やらせじゃないの?」ぐらいに思ってましたね。宝くじに当たったようなもんですね。


マンガ図書館Zでの閲覧数は100万を超えている

――こういう形で注目されたことに関しては、どのような感想をお持ちですか?

ありま 作品として日の目を見たことはうれしいですよね。ああいう内容ですけど、自分の中では面白い作品の1つなんですよ。だから読んでくれる人がいるっていうのは描き手としてはうれしいです。自分でいくらいろいろ売り込んでも反応がなかったものが、ゾンビみたいに復活して(笑)。いいにせよ悪いにせよ、評価ってのは聞いてみたいもんですから、Twitterはちょこっと検索してみました。あんまり見てるとこっちがおかしくなりそうだからすぐやめましたけど(笑)。

――これだけ話題になったら、単行本化にも期待できそうですが……。

ありま そういうお話を数社からいただきました。今まで単行本にもなってないし電子書籍にもならなくて、「もういいよ!」って感じだったんですけどね(笑)。まだ正式には決まってないけど、9月か10月には……という予定です。

――それ以外で、ありま先生の現在のお仕事は?

ありま 実はここ2年ほど、体調も考慮して漫画家としては活動してないんです。ただ、勉さんのことは漫画にしたいと思っていて、ネームを進めています。今本当に描きたいのは、この勉さんのネタなんですよ。だから充さんに「描いていい?」って聞いたら、「まあ、ありまだったらいいだろう」って(笑)。

――勉さんの漫画は絶対に面白いと思います……! そちらも読める日が来るのを、楽しみにしております!

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/16/news007.jpg まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  2. /nl/articles/2411/16/news013.jpg 自宅のウッドデッキに住み着いた野良の子猫→小屋&トイレをプレゼントしたら…… ほほ笑ましい光景に「やさしい世界」「泣きそう」の声
  3. /nl/articles/2411/15/news016.jpg 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. /nl/articles/2411/17/news066.jpg 「ヤバすぎwwww」 ハードオフに1万8700円で売っていた“衝撃の商品”が690万表示 「とんでもねぇもん見つけた」
  5. /nl/articles/2411/16/news014.jpg 330円で買ったジャンクのファミコンをよく見ると……!? まさかのレアものにゲームファン興奮「押すと戻らないやつだ」
  6. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  7. /nl/articles/2411/11/news056.jpg 大量のハギレを正方形にカット→つなげていくと…… “ちょっとした工夫”で便利アイテムに大変身! 「どんな小さな布も生き返る」
  8. /nl/articles/2411/17/news038.jpg 58歳でトレーニングを始めたおばあちゃん→10年後…… まさかまさかの現在に「オーマイガー!!!」「これはAIですか?」【海外】
  9. /nl/articles/2411/17/news039.jpg 母犬に捨てられ山から転げ落ちてきた野良子犬、驚異の成長をみせ話題に 保護から6年後の“現在”は……飼い主に話を聞いた
  10. /nl/articles/2411/17/news004.jpg 「水曜どうでしょう」“伝説のシーン”そっくりな光景にネット騒然 「ダメだ笑っちゃう」「なまら怖い」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた