ジャケットより中身の方が面白い「逆ジャケ詐欺映画」で得した気分になろう
逆にうれしい。
「ジャケット詐欺」という言葉があります。ジャケットと内容があまりに懸け離れた作品のこと。AVに使われがちな言葉ですが、映画にもジャケ詐欺はまかり通っているんですね。こればかりは商売なので仕方がありません。有名スターの出ていない、誰にも知られていない映画を、配給会社はとにかく手に取ってもらおうと必死なのです。
ですが映画がAVと違う点は「ジャケットとは全然違ったけどこれはこれでアリ」「むしろ想像した内容より面白い」という逆転現象が往々にして起こりうること。今回はそんな逆ジャケ詐欺ともいえる作品をピックアップしてみたいと思います。
ちなみに、この手の映画は配給会社が邦題を付け、勝手にジャケットを大仰なものに変えて日本で販売しているパターンが多いのです。その差を感じていただくために、日本版のジャケと、海外版のジャケをセットで紹介していきますね。
「ブラックコマンド」
2015年のイスラエル映画です。日本版のジャケットはいかにも戦争映画を思わせるデザインですが、中身はなんとホラーコメディー。こんなジャケットで、ホラーどころか笑えるシーンがあるなんて誰も思わないですよ。とんでもない詐欺っぷりですが、どうせこんなB級は普通に売り出しても誰も借りてくれませんからね。信用されていないわれわれが悪いのです。
とある基地の警備に配属された、イスラエル国防軍に勤める主人公。内勤の兵士であった彼は、共に派遣された不良兵士3人組にいじめられながらも、なんとか任務をこなしていた。そんな中、誰もいないはずの基地内に何者かの気配を感じ……。
序盤はコメディー、中盤はホラー、終盤はバイオレンスといまいちジャンル分けの難しい本作。ジャケット詐欺に加え、そんな中途半端な内容からめっぽう評判の悪い作品ではありますが、個人的にはお気に入りの作品です。明らかな低予算映画ではありながら、コメディー部分の面白さや意外なミスリード、終盤のタネ明かしなんかも割と決まっていて、一風変わったホラー映画として見れば、なかなかアリな作品だと思います。
難を言えば、コメディー部分が割とよくできている分、メインであるホラーパートの低予算感が気になってしまうかもしれません。しかし、そのB級っぽさも含めて楽しめる作品なので、ジャケットは一切信用せずに鑑賞してみてはいかがでしょうか。
「リビング・デッド・サバイバー」
2018年のフランス製ゾンビ映画です。「進撃の巨人」みたいなフォントに、「進撃の巨人」みたいな燃え盛る街に、「進撃の巨人」みたいな服着た男女。講談社が版権持ってそうなジャケットですが、ド派手なアクションシーンは存在せず、そもそも主人公はほとんど家から出ようとしません。
ゾンビがうろつく外界を避け、孤独と戦いながらおうちタイムを楽しむ主人公。実際、もし現実世界でゾンビが発生してしまったら、ほとんどの人は家に引きこもって出ませんよね。この作品は、あくまで現実的な目線でゾンビの発生を描いているのです。ある意味今の世の中とマッチした内容かもしれません。
ゾンビとの激しいバトルはありませんが、代わりに喪失感と孤独感に苛まれる主人公の心情が丁寧に描かれます。日本版のジャケットに引かれて手に取った方からすれば怒り心頭の内容だと思いますが、そういう映画だと分かって鑑賞すれば、優れた心理ドラマを楽しめるでしょう。フランス映画が好きな方や、普通のゾンビ映画に飽きた方にぜひオススメです。
「プリデスティネーション」
お次は2014年のSFスリラーです。公開当時は日本でも話題になったので、ご存じの方も多いかもしれません。「え? 海外版もジャケは同じじゃん」と思うかもしれませんが、問題は「時空へ逃げても、追い詰める――」という日本版のキャッチコピーなのです。
舞台は1970年、連続爆弾魔の出没に恐怖するニューヨーク。とあるバーにやってきた青年ジョンは、軽口のバーテンダーに壮絶な過去を明かす。ある人間への復讐を心に誓うジョンの話を聞いたバーテンダーは、自らが時空警察であると明かし、ジョンの復讐を手助けすると言い出すのだが……。
ジャケットのうたい文句からは「時空警察vs爆弾魔のサイバーアクション!」みたいな、頭を使わないおバカな映画を想像しますが、実際の内容は真逆。集中しなければ到底追い付けないない濃密なミステリーが待ち受けています。
予備知識を入れずに見てほしいのでこれ以上は語りませんが、SFスリラーの大傑作です。日本版のジャケットから連想されるような内容ではないことだけ理解した上で、しっかり腰を据えて楽しんでください。
「ラスト・ボディガード」
2015年、フランス・ベルギー製のサスペンスドラマです。いかにもなB級アクションの様相を呈している日本版のジャケットに引かれて鑑賞してしまうと、このとにかく不安定で居心地の悪い心理スリラーを楽しむのは難しいと思います。そんなのもったいないよ。
PTSDに悩まされる元軍人の主人公ヴァンサン。その不安定な精神状態から軍への復帰を認められず、メリーランドの富豪の屋敷で、要人の妻ジェシーのボディガードの仕事を始めるが……。
セリフで説明するばかりではなく、役者の演技でグイグイ引っ張っていく作品。マティアス・スーナールツとダイアン・クルーガーという、国際的に活躍する演技派俳優が主演していることもあって見応えは抜群です。
人々の声や食器の音が脳内に反響し、ほとんど死んだような顔をしながら、それでも懸命に仕事をこなそうとする主人公。やがてヒロインに忍び寄る魔の手に気付き。必死に彼女を守ろうとするのですが、その魔の手って、ただの妄想では……?
爆弾を抱えたような主人公の言動に、全編に渡ってヒリヒリとした緊張感が持続します。とにかく“顔”で物語るマティアス・スーナールツのソリッドな演技も必見。「ある愛の風景」や「アメリカン・スナイパー」など、PTSDを描いた傑作と並ぶ作品です。ジャケットと邦題のことは忘れてください。
「奪還者」
最後はこちら。2014年オーストラリア製の世紀末ロードムービーです。
舞台は世界経済が崩壊した世紀末っぽいオーストラリア。大切な愛車を強盗団に盗まれてしまった無口な男エリックは、犯人を執拗(しつよう)に追いかける道中、強盗団の一員であるレイと出会う。瀕死の傷を負い置き去りにされていたレイは、仲間の場所に案内するとエリックに持ちかけるが……。
こちらも、ジャケットの構図はほとんど一緒なものの、惹句(じゃっく)やタイトルでまったく違う映画になってしまっている典型的な例。日本語版ジャケットには「俺の車を返せ!」「負け犬たちの逆襲」と過激な言葉が並んでいます。荒れ果てた世紀末が舞台なので、メーカーとしては「マッドマックス」的な売り出し方をしたいのでしょうけど、それを期待して観ちゃうとこの作品を楽しむことは難しいでしょう。
先ほどの「リビング・デッド・サバイバー」と同様、現実的な視点で終末世界というものを描いた傑作ドラマ。登場人物たちはトゲトゲの肩パッドを着けて奇声をあげるようなことはせず、食料や武器を売ったり、売春を斡旋(あっせん)したりしながら、ほそぼそと暮らしています。そんな世界を生きる主人公の行動を、肯定も否定もせず淡々と写していく様子は評価の分かれるところだと思いますが、唐突に飛び出すバイオレンスや、俳優陣の素晴らしい演技もあって、ハマる方はがっつりハマれる作品だと思います。特に、ロバート・パティンソンの演技がめちゃくちゃ良い。「トワイライト」に出てるイケメン俳優、くらいの認識で見るとビックリすると思います。
主人公とレイとの間に芽生える奇妙な絆にロードムービーとしての見応えも抜群。「人と車に乗ってるとき、本当は話したくないんだ。黙っててもいい人といたほうが落ち着くだろ」と、狂った世界の中でこんなにも普遍的な価値観を持つレイは、ある種の救いのように思えたり。「奪還者」なんてタイトルはいったん忘れて、ぜひ鑑賞していただきたい作品です。この映画を売り出すのに“負け犬”なんて言葉を使うのはさすがにセンスが無いよなあ……。
今回は特に大好きな「ジャケ詐欺映画」5作品を紹介してみました。内容がどんなに優れていても「ジャケットと全然違う、何これ?」とガッカリしてしまう人もいることでしょう。それはあまりにもったいない。
もちろんジャケットよりも全然つまらない“正しく”ジャケット詐欺な映画もたくさんありますし、というか劇場未公開のDVDは全て疑ってかかったほうがいいと言っても過言ではないのですが、広い心を持って、だまされるつもりで未知の映画をジャケ借りしてみるのも、ひとつのロマンですよ。
<城戸>
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