フリクリとは何だったのか? アニメ「フリクリ」20周年を勝手に祝うコラム
フリクリを初めて見た日の衝撃――。
「フリクリ」は2000年から2001年にかけてリリースされたアニメシリーズで、今年は作品20周年に当たる。
2010年の10周年時にはBlu-ray BOXや新規ムック本が発売されたほか、監督の鶴巻和哉、キャラクターデザインの貞本義行、脚本の榎戸洋司らが登壇するトークイベントが催され、エヴァ新劇場版シリーズとの共同展覧会「ヱヴァクリ展」なども開催された。そんな華やかだった10年前に比べ、今年はまだこれといってフリクリ関連の情報は流れてきていない。
2020年夏は本来、「エヴァ」の話題で持ち切りとなるはずだった。ところが既報の通り「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は公開延期となり、新たな公開時期についても未定となっている。もしも「シン・エヴァ」が秋〜冬に公開された場合、「フリクリ」の20周年にどっぷり思いをはせるタイミングが永遠に失われてしまう可能性もある。祝うべきタイミングとは、今なのでは?
そんなわけで、ねとらぼではこの“「フリクリ」20周年イヤー”を勝手に祝うべく、学生時代にthe pillowsのコピーバンドをやっていたほどのファンだという将来の終わり氏を召喚。フリクリ愛を自由に語ってもった。
初めて見た日の衝撃は、もう思い出せない
「自由に書いていいですよ」と言われて、スラスラと筆が動くことはない。大抵の場合、既存のものを確認したり、あるいは周りの人がどんなふうにやっているかをチラ見しつつ、求められる自分らしさを混ぜ込む程度に終わる。
あらゆる行為はコピーだとの言葉を引くまでもなく、真のオリジナリティや独創性というものは類稀なものである。それはきっと、アニメ制作においても同様だ。20世紀の終わり、 GAINAXから突如放たれた「フリクリ」。社会現象となった「新世紀エヴァンゲリオン」の完結と、「彼氏彼女の事情」の放送を挟んで現れたこの“オリジナル”作品は、そんな固定観念を宇宙の果てまで吹き飛ばすほどの衝撃を与えてくれた。
パッケージに描かれていたのはベースギターを構えた謎の女性のみ。ストーリー紹介は医療機器メーカーとロボットが出てくること以外まるで意味不明。舞台役者を中心にセレクトされた出演声優の名前もほとんどわからない……。こんなにも突き抜けて謎に満ち、不親切さを隠す気もなく、それでいて”“好き”と“自由”を詰め込んだ作品と出会ったことはなかった。
こうして見始めた全6話の物語は、非常に説明が難しい。というより、文章にしたところで良さの1割も伝わらない。
「すごいことなんてない。当たり前のことしか起こらない」と日常に退屈しきり、渡米してしまった兄の彼女(?)サメジマ・マミ美と共に退廃的な小学生ライフを過ごすナンダバ・ナオ太のもとに、ベスパを乗り回す謎の女・ハルハラ・ハル子がやってくる。
彼女は出会い頭にナオ太の頭部をリッケンバッカーで殴りつけると、彼の頭からは次々謎のロボットが出現するようになる。街に鎮座する巨大アイロンの形をした医療機器メーカー・メディカルメカニカと少なからぬ関係があると思われるロボットとハル子の戦いに巻き込まれながら、宇宙からの飛行物体をフライングVで打ち返し、サバゲーに興じ、連続放火魔の正体を突き止め、学芸会の練習をサボり、一世一代の告白をする。
破壊されゆく日常の中でナオ太が学ぶのは、「大人であるということ」の定義と、同時に「子供らしさ」の真の意味である。
正味3時間足らずの作品の中にこれだけの要素を詰め込みながら、作品は全く駆け足でもないし、ましてや軽くもない。確かに舞台設定やキャラクターのバックグラウンドなどに対する言及は最小限に抑えられているが、1話1話にそれぞれきっちり解決すべき問題とその対応策が示されているためだ。
また、ハイクオリティなアクションシーンのつるべ打ちに加え、そこに音節まで完璧なタイミングをもって掻き鳴らされるthe pillowsのオルタナ・サウンドがとにかく心地いいのも本作の特徴だ。第1話冒頭にかかる「ONE LIFE」から、疾走感あふれる「Come Down」「Advice」といったハイチューン、第3話「マルラバ」の「STALKER」にディストーションがかかるタイミング。そして何より第6話、「クライマックスだ!」の掛け声とともに響き渡る「LAST DINOSAUR」にはアドレナリンが全放出される。
出鱈目に格好いいアニメーションが、ゴキゲンなギターロックと混ざり合い、ピタっと決まる心地よさはそれまでに全く見たことのないものだった。
イースターエッグ探しやセリフの深読みといった、既存作品に通用したこちら側の読解を嘲笑うかのようなパロディと楽屋落ちの連発。明らかにパースや絵作りがおかしいカットについてもそれを逆手に取ったような演出を繰り返し、全く飽きさせない絵作り。それらに翻弄されながら、物語全体を貫く、明らかに用意されている縦軸に今一歩手が届かない。
その例えようもないもどかしさに狂いそうになりながら何度もDVDを見返した。何かに気がつくたびに、それは大したことじゃないと制作陣に笑われているようだった。面白そうだからやっているんだろう、と笑い飛ばしてしまいそうなシーンに、実は重要な意味があるんじゃないかと、無理筋な謎本に書かれていそうな突飛な解釈に飛びついたりもした。物語の仕組みに合理的な説明がつけられさえすれば、この感情に名前がつけられるのだと思っていた。
ここまで回想するような書き方になってしまっているが、フリクリを初めて見た日の衝撃はもう思い出せない。
立て続けに出版されたムック本に書かれた関係者インタビューを読み、海外版DVDに収録された監督コメンタリーを聞き、その背景を多少なりとも知ってしまっているから。ノベライズの存在を知り、本編で描かれなかったキャラクターの立ち位置やその時々の感情を理解してしまっているから。それは当時に比べて自分が少なからず大人になってしまったということだし、もちろん作品を深く楽しむ形として間違ってはいない。
それでも寂しい気持ちはある。「よくわからないけどすごい」という、あの日に確かに手にした感情はもう手に入らない。人は何かをなくしてしまったとき、その喪失に酔うことができる。そしてフリクリは、間違いなくその切なさをも同時に描いている。その青春の喪失と、古傷を見続けるような行為に、どうしようもなく囚われ続けてしまっている。だから退屈な日々に嫌気がさしたり、ゲンナリするような続編に頭を抱えた際には、この作品を見返しながら、自分で自分に問いかける。「フリクリってなんだ?」。知るかそんなの。フリクリはフリクリだ。
(将来の終わり)
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