中庸狙わずフルスイングで振り切った結果がこれだよ! 英勉監督に聞く映画「ぐらんぶる」
すがすがしいほどの脱ぎっぷりとアルコールにあふれる作品はこうして爆誕した。
「かけがえのない夏の思い出ができました。ほぼ裸でしたが」「来る日も来る日も裸。裸、裸、裸」「裸が衣装」「出演者の親が4回泣いた」――8月7日に公開となった映画「ぐらんぶる」は、出演者のコメントも宣伝も、他の作品にみられない語句ばかりが並ぶ。ビジュアルからしてギリギリである。
原作は、ライトノベル『バカとテストと召喚獣』も知られる井上堅二さん原作、吉岡公威さん作画で『good!アフタヌーン』(講談社)で連載中の同名漫画。大学進学を機におじの家に身を寄せることになった主人公・北原伊織が、スキューバダイビングに青春を懸ける熱すぎる男たちや美しく成長したいとこと出会う、というストーリー。
2018年にはテレビアニメ化されたものの、脱ぎっぷりのよすぎるキャラクターばかりということもあって、実写化はさすがに難しいだろうと思いきや、「ヒロイン失格」「あさひなぐ」「映画 賭ケグルイ」などでも知られる英勉(はなぶさ・つとむ)監督によりまさかの実写化。
竜星涼さんが演じる史上最も服を着ていない主人公・伊織と、犬飼貴丈さんが演じる無駄にイケメンなオタク・今村耕平の心も体も開放感あふれるキャンパスライフを彩るのは、ダイビングサークル「ピーカブー」の屈強な先輩たちをはじめ、乃木坂46の与田祐希さん(古手川千紗役)や朝比奈彩さん(千紗の姉・古手川奈々華役)、そして高嶋政宏さん(伊織のおじでダイビングショップのオーナー兼ダイビングサークルのOB・古手川登志夫役。高ははしご高)ら。
実写映画化が発表された当時、英監督が寄せた「『男子ってバカねっ』って映画を作ろうと思ったんですが、『男子ってバカ! ほんとバカ! クズ!』って映画になっちゃいました」というコメントが、完全に的を射ている同作。スクリーンに映るのは、圧倒的な異物感、圧倒的なバカバカしさ、そして圧倒的に暑苦しい男たち。宣伝をみても「出演者の親が4回泣いた」など中身がまるで分からない悪魔的に秀逸なキャッチコピーが並べ立てられ、開放的で爽快感のある真っすぐでバカバカしい映画となっている。
原作を知る人なら誰もが心配してしまう裸体だらけの全力脱衣系青春グラフィティ「ぐらんぶる」をなぜ実写化してしまったのか、以下では、英監督に聞いた。
「何も変わってないじゃん」というのがやりたかった――
―― すごくバカバカしい作品が、ねとらぼでいうところの“爆誕”してしまいました。過去のインタビューで監督は自らをよく“受注型の監督”と自称されていますよね。ぐらんぶるには当初どんなイメージを持たれていて、どこに魅力を感じオファーを受けたのですか?
英監督 企画プロデューサーから原作を渡されてそれを読んで、「何でこれ実写化するんですか」という思いが一番でした(笑)。僕自身、「どうやる気なんだろう?」とハテナがいっぱいついてましたから。
でも、原作を読むとすごく面白いんです。キャラクターもせりふも面白いので、それはしっかりやろうと。それに加え、マッパ(真っ裸)で酒飲んで騒いでいるやつを劇場で見て、“嫌な思いをしない”というか、それをどう表現しようかと。
要は、酒飲んでワーワー騒ぐのを「こう描きたいと思うが、それでよければやらせてください」と。ただ騒いでいるだけでなく、見ている人もノレるような表現――最終的にはダンスや歌につながっていくわけですが――をやってよければ、という感じでした。
―― そうなんですね。監督もお酒はたしなまれますか?
英監督 はい。あまりいい飲み方はしないですけど。劇中のような痛々しい飲み方をつい最近までやってました。
―― スピリタスの消費がすさまじいですよね。監督が近年手掛けられた作品は、「ヒロイン失格」「あさひなぐ」「賭ケグルイ」「映像研には手を出すな!」など漫画原作のものも少なくありません。そうした作品と比べて、今作で特に表現したいと思ったものは?
英監督 他の作品と「ぐらんぶる」が全く違うのは、“ゼロポイントで始まってゼロポイントで終わる”、というか、全く進んでいないこと。そこを気分よく見たいというか。「何も変わってないじゃん」というのが僕はやりたかったので。
青春映画って別に成長しなくても、葛藤しなくても、バッキバキに輝いていて「楽しかったらいいんじゃない?」というのが、今までいろいろ作ってきたものと圧倒的に違うなと。だから不思議な映画ですね。
あとは飲んで騒いで、というのをどう表現するか。海ものの作品のタイプって、パニックかビューティーくらいしかなくて、その中で笑えたりグッときたりするものはなかなか少ないので。
―― 実写映画化が発表された当時、プロデューサーのコメントで興味深いものがありました。端的にいうと、市場のニーズに沿ったマーケットイン的な発想ではこの作品の価値は分からないというものです。
英監督 今作がまさにそうですけど、“中庸”を取らなくてよいというか、しっかり振り切っていいものはやっぱりやる気が出ますね。プロデューサーに「行くとこまで行ってください」といってもらえたのはありがたかったです。そう言われるとちょっと不安にもなって「こんなもんでやめときません? 大丈夫ですか?」とひよりたくもなりましたけど(笑)。そんなにヤンチャじゃないので。
作品を見た人が「実は好みの一人がいる」というのがやりたかった――
―― なるほど。ところで、私、監督が手掛けられた実写「賭ケグルイ」で浜辺美波さんにインタビューさせて頂いて、監督が毎日のようにメイクルームに来てコミュニケーションしてくださったという話を聞き、役者さんとのコミュニケーションを密にされる方なのだなと当時思いました。今作で、監督が俳優さんたちに伝えた提案や指示で記憶に残っているものはありますか?
英監督 竜星君と初めて会ったとき、「どお?」みたいな雑な問いかけをしたんですが、「何の不安もないっス!」みたいに言うんで「よしっ」と思って。犬飼君もやりたがりで、本読みの段階からアイデアをガンガン練ってきていて、2人が好き放題に動いてくれるのを楽しく見ていました(笑)
―― 圧倒的放置プレイ(笑)。
英監督 そういう意味では、女性陣の方が、キャラクターだったり、やることだったりをお話した覚えがあります。やっぱりそこがしっかりしていると、あの二人もまたいっそう面白くなるので。
―― 作品からは監督がおっしゃるところの「男子ってバカ! ほんとバカ! クズ!」というのがありありと感じられましたが、それと比べると、女性陣がややおとなしいようにも感じました。例えば、伊織のいとこのクーデレ美少女、古手川千紗を演じた与田さんの魅力と作品をどう共存、あるいは両立させていこうとされたのでしょうか?
英監督 与田ちゃんも含め、作品を見た人が「実は好みの一人がいる」というのがやりたかったんですよね。与田ちゃんに踏まれることがどんだけたまんないことかとか、意外とケバ子(石川恋さん演じるケバめ女子の吉原愛菜)がかわいいとか。
―― 青春を謳歌(おうか)する男子が女子のいないところで話す内容じゃないですか。
英監督 そうそう。原作もそこのバランスがよく取れていたので、「ちきしょーあんな女いたらなー」「たまんねー」ってなるようにそこのバランスをひたすら考えましたね。
―― それは演出でそれぞれのベクトルをそうしていったのか、それとも演者の個性を生かすアプローチだったのですか?
英監督 そういう個性もあったかもしれませんが、どちらかといえば前者です。ご本人たちは割と気持ちのよい人たちばかりで、与田ちゃんも実際は乱暴者などではなくて、ド天然(笑)。そこも生かしつつ。撮っている最中は割とキャラにはめようとしたんですが、やっていくうちに、竜星君や犬飼君とのバランスで天然要素も入れていくとすごく面白くなったりもしたので。ただ、ドSなところだけは「俺も踏まれてぇ〜」とか思いながらひたすら頑張って撮りましたけど。
―― そういう意味では、伊織のおじでダイビングショップ「グラン・ブルー」のオーナー兼ピーカブーのOBを演じた高嶋政宏さんは怪演でした。まさかあそこまで。
英監督 大好きで。高嶋さん。僕が中学生くらいだったら、「パイセンずっとついて行きます!」って言っちゃいそうなくらい面白くて、博識で――。
―― 変態紳士で(笑)。
英監督 そう(笑)。大御大ですのでふわっと「どうですか」と聞いたら「面白い」と。最初にお会いしたとき、撮影はまだひと月くらい先なのに、もうこんがりと日焼けされていて。最高でしたね。
コロナ禍で映画の方向性はどう変化するのか――
―― 少し話を戻して、すがすがしいほどの脱ぎっぷりとアルコールにあふれる作品ですが、コンプライアンスが叫ばれる現代でここまで振り切った内容は挑戦的です。昨今のコンプライアンス規制にはどんなお考えをお持ちですか?
英監督 逆手に取れる間はいいと思うんですよね。コメディーなら、例えば悪い人が車に乗って逃亡するときシートベルトしていたとしても、うまく逆手に取りようもあるんですが、逆手にとれないとき、たまに切なく感じることはあります。そこはもうケース・バイ・ケース。盗んだバイクで走り出したくなるときもあるだろと思うんですけどね。
―― ところで、2020年は英監督の作品公開ラッシュですよね。「前田建設ファンタジー営業部」にはじまり、「映像研には手を出すな!」「ぐらんぶる」「妖怪人間ベラ」、その後には公開延期が発表されましたが「東京リベンジャーズ」。なぜこの時期にこれほど集中したのかというのと、それぞれの作品でテーマの違いのようなものはあるのですか?
英監督 予定として2020年にこうやって出していくのは決まっていました。
後者について真面目な話をすると、映画のフォーマットというか黄金律とされているようなものを相当いじろうとやりました。そういう意味では他と比べて挑戦的。「いける!」と確信的にとらえていたというよりは、「うまくいくといいな」と思いながら撮っていました。先ほどお話ししたように、構造的にもゼロポイントからゼロポイントへという何も変わらないけど、キラキラして後味がよいものをやろうとしたので。
―― 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、「ぐらんぶる」も一度は公開延期となりました。映画館では客席を減らして営業再開となりつつありますが、アンテナの感度が上がるような映画体験が以前と変わらず味わえるかは疑問です。コロナ禍で映画の方向性はどう変化すると思われますか?
英監督 古いと思われるかもしれませんけど、僕は劇場に足を運んでみてもらいたいという思いがやっぱりどこかにあります。お金を払って同じ空間で知らない人と見る、という体験はなかなかすぐには代替できないのではないかと。
―― “映画”と業界が受け止めるかは別にすれば、映画館と配信との同時公開なども選択肢としてはありますよね。中期的にはおっしゃったような体験も変わっていくと思われますか?
英監督 変わっていくと思います。ただ、友達とデカイ声出して見るとか、終わった後近くのフードコードでメシを食うとか、まだもうちょっと頑張りたい気はするんですけどね。やっぱり、そうやって大勢で見て楽しむというのは歴史が長くて、なかなかそんなにパッとは諦めきれないんじゃないかと思います。
―― さまざまな要素がある中で、監督は何に面白みや新規性を感じられるのですか?
英監督 話の中身もそうですし、出演者という部分もありますし、あとはそれを世に出していくやり方。基本的には全て“企画があるかないか”。例えば、配信で世に出すとして、それの独自性って何? という本質的なことです。今作だと、劇場公開で真っ裸の人がうろうろする、そこに独自性を感じたわけです。
映画でも配信でもライブでも舞台でも、システムが独自でオリジナリティーがあればそれはそれで面白いと思うんです。だから、配信だからいい、映画だからいい、とかじゃなくて、そのフォーマットの中にオリジナリティーがあるかどうかが僕にとって重要ですね。
キャスト:竜星涼、犬飼貴丈、与田祐希、朝比奈彩、小倉優香、石川恋/高嶋政宏
監督:英勉
原作:井上堅二・漫画:吉岡公威『ぐらんぶる』(講談社アフタヌーンKC刊)
(C)井上堅二・吉岡公威/講談社 (C)2020映画「ぐらんぶる」製作委員会
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