意味がわかると怖い話:「親切な老人」(1/2 ページ)

白いキノコには……。

» 2020年09月27日 21時00分 公開
[白樺香澄ねとらぼ]

 ひとたび気づくと、なにやら違う光景が見えてくる……「意味がわかると怖い話」を紹介する連載です。

親切な老人

「親切な老人」

 ウェブ連載のための調べ物中、辿り着いた観光情報のまとめブログで、地元のI山が紹介されているのを見た。地主がキノコ狩りをしたい地元民のために山を開放しているという。

 俺のアパートから自転車で行ける距離だ。何かのネタになりそうだと思い、行ってみる気になった。と言っても、キノコ狩りなんてしたことがない。図書館で良さそうなポケット図鑑を借りて持って行くことにした。

 I山は、山というより丘に沿って広がる雑木林と言った方が良い、なだらかな里山だ。普段履きのスニーカーで十分、分け入って行ける。

「おひとりでキノコ狩りですか?」

 不意に背後から声をかけられた。振り返ると、大きなリュックを背負ってヘルメットをかぶった、人の好さそうな老人が立っていた。老人は左腕に巻いた「森林ボランティア」と書かれた腕章を見せ、

「危険な場所がないかの見回りや、キノコ狩りに来た人のサポートをしとります」

 それはご苦労様です、と俺が頭を下げると、老人は目を細めて、

「キノコの毒は怖いですから。去年もほら、このあたりで3人家族がみんな死んじまったってことがあったでしょう? 何か、ガイドブックはお持ちですか?」

 尋ねられ、俺がポケット図鑑を出して見せると老人は険しい顔になった。ひったくるように図鑑を取って、老人は言う。

「ちょっと良くないですね。8年も前の本だ。キノコが怖いのはね、食用と思われていた株に、後から毒性が見いだされることがままあるんです。例えば、スギヒラタケという株は長く無害と信じられてきましたが、十何年か前に中毒死が相次ぎ、特定の疾患がある人に致命的な毒作用があると分かったんです。だからキノコ図鑑は毎年、最新のものを買わなきゃならんのですよ」

 熱心で博識を感じさせる口調に、俺は頼もしさを覚えた。「良かったら付き添って、毒キノコの見分け方などレクチャーしますよ」という老人の申し出を、俺は有難く受けることにした。

 老人の話は面白かった。色や裂け方で見分ける方法は例外の方が多いのだという。

「かじってみれば分かるなんて乱暴なことを言う人もいますがね、猛毒のベニテングダケなんかは非常に旨いそうですよ」

 ちょっとした崖のようになっている窪地で、老人は足を止めた。「こりゃすごい」

 楕円の卵のような傘を持った、ひょろりとした白いキノコが群生していた。

「ユキヨダケですよ。お兄さんがお持ちのような図鑑にはまず載ってない、珍しいキノコでね。私もこの山で見たのは初めてです」

「食べられるんですか?」

 俺が訊くと、老人は興奮した様子で目を輝かせた。

「珍味中の珍味です。運の良い方だ。そのまま焼いて醤油をかけるだけで、アワビのような味がします。……人によっては食べすぎると翌日、おなかをくだすことがありますが、心配には及びません。なんでも旨み成分が強すぎて下痢をするんだとか」

 腹をくだすほど強い旨み、あるいは下痢をしてでも食べたい珍味……想像もつかないが、そこまで言われたら俄然、食指が動く。言われるままにその真っ白なキノコを採ってポリ袋に詰めた。何本か分けようかと申し出たが、「せっかく初めて来たんだから全部持って帰りなさい」と固辞された。まったく親切な人だ。

「ユキヨダケは隠して歩け、なんて言葉がありましてね。その美味しさゆえ、『それは毒キノコだ、俺が捨ててやろう』と言って騙し取ろうとする人があったそうです」

キノコでいっぱいになった袋を両手に下げ、別れ際には老人に請われて記念撮影までした。リュックから取り出して見せてくれたアルバムには、笑顔で老人と一緒に写る人の写真が何枚も貼られていた。

 帰り際、俺はすぐに老人が語った通りの体験をすることになった。

 自転車を置いた場所まで戻ると、ちょうど軽トラックを停めて降りてきた目つきの悪い中年男が俺を呼び止めた。

「兄ちゃん! その白いの、猛毒だぞ。捨ててけ」

 キノコ泥棒は昔の話じゃないのかよ。俺は苦笑し、男の言葉を無視して自転車を走らせた。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/12/news010.jpg 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
  2. /nl/articles/2404/09/news079.jpg お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  3. /nl/articles/2404/11/news030.jpg 夫婦ゲンカ翌日の“やり返し弁当”、白飯に「バカ」だけと思いきや…… 「仕返し最高です」「めちゃめちゃおもろい笑」
  4. /nl/articles/2404/12/news017.jpg ダイソーのバケツでオクラを育ててみたら…… 最強の省スペース栽培に「今年の夏は是非やってみます」「すごい!すごすぎます!」
  5. /nl/articles/2404/12/news182.jpg 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  6. /nl/articles/2404/11/news026.jpg 庭に直植えして大後悔した巨大木の伐採を、YouTuberにお願いしたら…… 流血沙汰の結末に「色々と考えもんだなぁ」「あんなんなるんだ」
  7. /nl/articles/2404/09/news009.jpg “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  8. /nl/articles/2404/11/news095.jpg カビ・石けんカス・水アカはどの順番で落とせばいいのか―― プロが教えるお風呂掃除が参考になる「見事です!」「感動しました!」
  9. /nl/articles/2404/12/news009.jpg 猫素人だった息子と、元野良猫が出会って3年…… 徐々に距離を縮める様子に「ジーンとしました」
  10. /nl/articles/2404/12/news015.jpg 万能「ストライプシャツ」の“コレジャナイ感”を解決するには…… 印象激変の着こなし術に「できそう!」「ちょっとした工夫ですね」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  2. 500円玉が1つ入る「桜のケース」が200万件表示越え! 折り紙1枚で作れる簡単さに「オトナも絶対うれしい」「美しい〜!」
  3. 赤ちゃんがママと思ってくっつき爆睡するのはまさかの…… “身代わりの術”にはまる姿に「可愛いが渋滞」「何回見てもいやされる!」
  4. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  5. 日本地図で「東京まで1本で行ける都道府県」に着色 → まさかの2県だけ白いまま!? 「知らなかった」の声
  6. 中森明菜、“3か月ぶりのセルフカバー動画”登場でネット沸騰 笑顔でキメポーズの歌姫復活に「相変わらずオシャレで素敵」「素敵な年齢の重ね方」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. もう別人じゃん! 「コロチキ」西野、約8カ月のビフォーアフターが「これはすごい」と驚きの声集まる
  9. 娘がクッションを抱きしめていると思ったら…… 秋田犬を心ゆくまで堪能する姿が440万再生「5分だけ代わっていただけますか?」「尊いなぁ…」
  10. 業務スーパーの“高コスパ”人気冷凍商品に「基準値超え添加物」 約1万5000個販売……自主回収を実施
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」