読んでみな、トぶぞ 商業BLオタクが半額セール中の「onBLUEコミックス」8作品を紹介する

セールは10月14日まで!

» 2020年10月07日 21時30分 公開
[高島鈴ねとらぼ]
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 10月14日まで、Kindleが大型セールを実施しています。今回はボーイズラブ(BL)漫画の名門レーベル「onBLUEコミックス」から、イチオシの作品をご紹介します。今回のセール対象作品は、その多くが半額以下になっています。

 私の故郷の村には、「困ったらonBLUE」という古い言い伝えがあります。どのBLを読むか迷ったらとりあえずonBLUEコミックスを読めという意味です。そういうことなので、この機に読みましょう。

新宿ラッキーホール(雲田はるこ)


おすすめBL漫画 Amazonより

 『昭和元禄落語心中』でおなじみの雲田はるこが送る名作『新宿ラッキーホール』が、2巻まとめて半額になっています……!

 主人公は元カリスマAV男優にして現アダルトビデオ会社の社長・苦味(くみ)。今でこそお金に困ったかわいそうなオトコたちをひょうひょうとアダルトビデオの世界に誘う「悪い大人」ですが、かつては親の借金によってやくざに売られたひとりの子どもでした。

 苦味は組長に思いを寄せたことで組から鼻つまみ者扱いされているやくざ・サクマとの出会いを通じ、必死に生きる道を模索していきます。

 後ろ暗いことだらけの夜の新宿を生きる人たちを描く群像劇であり、奇妙に絡み合ったおかげで生きる道を得た苦味とサクマの人生を描き出す濃密な人間ドラマでもあります。筆者は2巻収録のやくざの跡取り息子と彫師のカップリングが好きです。

ばらの森にいた頃(雲田はるこ)


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 雲田はるこ作品からもう一作、短編集である『ばらの森にいた頃』が半額になっています。

 表題作は、不老の吸血鬼・正宗と、何度も転生し続ける正宗の恋人・陽の物語です。ある時はネコに、ある時は虫に、ある時は植物に生まれ変わり、そのたびに正宗によって見つけ出されてきた陽ですが、今はようやく人間の姿で正宗とともに暮らしています。いつか吸血鬼になることを夢見る陽と正宗の長い長い蜜月には、多くの人が胸を締め付けられることでしょう。

 このほか、地味なおじさん俳優が海外のスター俳優とまさかのアバンチュールを遂げる「モンテカルロの雨」、ヤンキーふたりが偶然から距離を縮めていく「ヨシキとタクミ」、裏垢男子が先輩を翻弄する「Be here to love me」など、雲田ワールドを堪能できる満足感たっぷりな一冊です。

アキちゃんは好きで魔性なんじゃない(河馬乃さかだち)


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 性に奔放なキャラクターを主役にしたBLは多数作られていますが、本作はその中でも一線を画す名作ではないかと思います。勝手に「魔性の男」に仕立てられた青年「アキちゃん」が、その傷をじっくりと回復させていく物語です。

 風景のほかには何も誇れるものがない海辺の地方都市で、主人公の小柳レオは流行らない喫茶店を営んでいます。この街同様変わり映えのしない毎日を送るレオは、ある日いわくつきの同級生・ 押之見暁斗――通称アキちゃん――と7年ぶりに再会してしまいました。いわくつきというのは、アキちゃんは学年じゅうにポルノ画像を回され、その後突然退学してしまったからです。ひそかにアキちゃんに思いを寄せていたレオの人生は、この再会を機に突然色づき始めます。しかしレオに向かってセクシーにほほ笑むアキちゃんは、実はすでに自分の力では抜け出せない場所にいたのでした。

 悪い男に騙され、暴力を振るわれ、苦しめられ続けていたアキちゃんが、レオのまっすぐな気持ちで次第に再生していく過程を描く、痛くて優しい作品です。性暴力描写が苦手な方にはあまりおすすめしません。

3番線のカンパネルラ(京山あつき)


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 彼氏に振られた傷を引きずる主人公が、駅のホームで偶然出会った高校生――タイトルの「3番線のカンパネルラ」とは彼のことです――と交流を始める……。この筋書きだけ見れば、主人公と高校生の恋愛を描く物語かと思われそうですが、全く違います。ここが本作の特異点であり魅力であると言えるでしょう。

 主人公である加納は、自意識過剰で周囲とも過剰に距離を取りがちな、コミュニケーション下手な人物として描かれています。「人間が出来てない」となじられた記憶を風呂で反芻し、「うるせえうるせえ ワシャどうせ魔物じゃ」と独りごちる加納の姿には、感情移入せざるを得ませんでした。

 失恋の傷でやさぐれ、「魔物」になりかけていた一人の大人が、明るく生きる高校生に偶然助けられたことで、職場の店長とのぎこちない恋愛に新しい一歩を踏み出します。何かが終わってもまた何かが始まっていくし、もしかしたらそれはずっと続くかもしれない。そんな平凡な希望を描く名作です。

もういちど、なんどでも。(阿仁谷ユイジ)


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 ラブストーリーの王道、記憶喪失ものですが、胃に来るタイプの悲しい物語ではなく、切ないながらも笑える、セクシーなラブコメディに仕上がっています。

 主人公の多郎は、高校から付き合い、卒業後には同棲までしていた恋人・貴博が、事故で2年間の記憶を失ってしまったことを知らされます。あまたの困難を乗り越えてお付き合いまでこぎつけたはずの関係性が、突如ただの同級生に戻ってしまったのです。一方で貴博は、自ら空白の2年間に何があったか知らされないまま、「ルームシェアしていた」と説明されていた多郎に惹かれていく自分に気付いていきます。

 悲しい記憶喪失ものは読みたくない人にも、「ちゃんと甘いので安心してください」と太鼓判を押せるシリーズです。今回は割引対象となっていませんが、アフターエピソードがいろいろな意味で面白いので、こちらも併読をお勧めします。

赤のテアトル(緒川千世)


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 華やかなファッション業界の裏側でうごめく人間の苦悩としがらみを描く、むごくて美しいラブストーリーです。

 天才女性デザイナーであったユリヤ・アバルキンの死を経て、その権威が失墜するかと思われたパリの女性靴ブランド・アバルキン。しかしユリヤの葬儀にブランドアイコンであるハイヒール姿で現れたユリヤの息子・ユーリが、その場でユリヤの地位を継ぐと宣言し、鮮烈なファッションアイコンかつ新たな天才デザイナーとして、アバルキンをさらに急成長させていきます。しかしその裏側には、ユーリによる徹底的な枕営業と、ユーリに替わって靴のデザインをするゴーストデザイナー・アダムのいびつな関係がありました。

 アダムのためなら何でもすると言い、足の形を変形させながらハイヒールを履いてメディアに露出し続けるユーリと、ユーリを愛しながら全く手を出そうとしないアダム。やがて女性を抑圧するものとしてのハイヒールが時代の終わりを迎え、アバルキンもブランドとして衰えを食い止められなくなったとき、ふたりの癒着した運命はいかに転がっていくのか? ファッションと時代という不可分な流れに翻弄される人々の愛と業が、胸に刺さります。

ボーイズラブ!(松本ミーコハウス)


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 1対1の関係を描くものが多いラブストーリーの世界にあっては珍しい、「3人交際」のボーイズラブです。

 平凡ですが優しい少年・凪は、学年主席の天才・豪、元俳優の母を持つ美形の悟から告白されますが、どちらかを選ぶことができず、3人での交際を開始します。最初は豪と悟の反目など波乱含みの関係性でしたが、それぞれが抱えている家の問題や心の傷に3人で立ち向かううちに、絆を深めていくのです。

 「ボーイズラブ」を冠したど直球のタイトル通り、少年たちが自分たちには解決しきれない問題に悩みながら、自分たちなりの/自分たちだけの関係性を築いていく過程を描く、ひとつの成長物語です。全3巻なので、すべて半額になっている今がチャンスです!

夜が終わるまで(西田ヒガシ)


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 主人公は堅物検事・日浦。司法研修所の同期であった弁護士・影山が暴行を受けて失踪した事件を任されることになり、その心中は穏やかではありません。

 それは日浦の「よき友人」であった影山が生死すら不明のまま消えたことへの心配でもあり、なぜか影山に抱かれる夢を何度も見ているせいでもありました。事件の糸口が掴めずにいたある日、日浦の前に影山に瓜二つの弟・直人が現れます……。

 「今夜はいい夜だ… これからずっといい夜さ」。死んだかもしれない、と思った瞬間印象的に回顧され始める影山の記憶に翻弄(ほんろう)され、明けない夜のように影山を探し求める日浦が、「いい夜」を取り戻すまでを描く、印象的な物語です。日浦と影山、ふたりは手を伸ばせば握れたかもしれない瞬間を何度も逃しながら、それでも繋ぎなおす機会はもう一度巡ってきます。

 

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