「さようなら」の前に、「新世紀エヴァンゲリオン」テレビ版/旧劇場版を見る 碇シンジが導く、物語の一本線(2/3 ページ)
性的・暴力的なメタファー、アニメ視聴者に対する攻撃とも受け取れるメッセージ等を大量に詰め込んだ映画ならではの表現により強い衝撃を与えた同作は、やはり物語に「わかりやすい大団円」を与えない。ただし、物語を貫く一本線を明確に示してくれた。それはエヴァンゲリオンという物語が、碇シンジを通して他者との触れ合いを描いた物語であるということだ。
彼の世界との触れ合い方において、「旧エヴァ」は総じて3つのパートに分けられる。
碇シンジがネルフを通じて様々な人間と触れ合い、彼らを知るまでの「出会い」。彼らと徐々に親交を深め、共通の敵である使徒との戦いをメインパートとする「共生」。強大な力によって仲間との絆が徐々にほどけ、崩壊していく「離別」の物語である。
そして同作は、人類補完計画というカタストロフによってもたらされた壮大な離別ののち、碇シンジが再び他者に手を伸ばすシーンで幕を閉じる。この構成は、庵野の「新劇場版」の所信表明にも以下のように表されている。
「エヴァ」はくり返しの物語です。主人公が何度も同じ目に遭いながら、ひたすら立ち上がっていく話です。わずかでも前に進もうとする、意思の話です。曖昧な孤独に耐え他者に触れるのが怖くても一緒にいたいと思う、覚悟の話です。
もとよりエヴァンゲリオンは、「自分たちの時代にオリジナルというものはない」ということを制作陣が理解した上で作られた作品だ。それゆえに特撮・アニメ、実写映画等の数多のパロディが注ぎ込まれていることは既に多くの指摘がなされている。また、庵野秀明がオマージュ・コラージュの作家であるという事実は、これまでの連載でも触れてきた通りだ。しかし本作の根幹を為すのは、「他人が怖い。でも手を伸ばさなければ寂しい。それでも他人が怖い」という、やはり最も人間らしい、より普遍的な感情だ。
僕らは結局コラージュしかできないと思うんですよ。それは仕方がない。オリジナルが存在するとしたら、僕の人生しかない。僕の人生は僕しか持っていない。
『スキゾ・エヴァンゲリオン』(太田出版/1997年)より
今このタイミングであらためて、「エヴァンゲリオン」自体の大まかなストーリー、謎やトリビア、オマージュの元ネタを探ることが本作への誠実な向き合い方とは思わない。注目すべきは「エヴァンゲリオン」という物語の根幹、すなわち庵野秀明の人生観である。
そして今でもそれが変わっていないとするならば、「序」から大きくその筋書きを逸らし、「破」「Q」と紡がれてきた「新劇場版」のたどり着く先も、総じて似た問題意識の発露であるはずだ。そしてそれは今回も、決して万人がすんなりと飲み込める物であるとは限らない。だがそのときには、やはり「エヴァンゲリオン」と向き合うことが理解への補助線となるだろう。
公開まで残り3週間。今はただただ待ち遠しい。
(将来の終わり)
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