「庵野秀明らしさ」とは何か? 「シン・エヴァ」「シン・ウルトラマン」を控え振り返る「シン・ゴジラ」(1/3 ページ)
「シン・ゴジラ」は、「好き」の全てが注ぎ込まれたベストセレクション。
2015年4月。「ゴジラ」新作の製作発表と共に公開された庵野秀明によるコメントは、衝撃の言葉で始まった。
「2012年12月。エヴァ:Qの公開後、僕は壊れました。所謂、鬱状態となりました。6年間、自分の魂を削って再びエヴァを作っていた事への、当然の報いでした。(略)自分が代表を務め、自分が作品を背負っているスタジオにただの1度も近づく事が出来ませんでした」
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の公開と、それに伴う賛否両論の渦が治らぬ中で発表された「シン・ゴジラ」の製作は、必ずしも全ての映画ファンにもろ手を挙げて受け入れられたとはいえなかった。私を含め、彼らが待っていたのは「エヴァの完結作」であり、それ以外のものではなかったからだ。
これまで見てきたように、庵野監督による実写作品は決して多くなく、万人に向けたエンターテインメント作品でもなかった。「シン・ゴジラ」の製作は秘密裏に進められ、公開日までに公になった情報といえばキャストと主要スタッフ、ならびにわずかな時間の予告編のみ。「蓋を開けてみれば何も分からない作品」かつ、蓋を開ける側もその出来に半信半疑。そうした状況の中、2016年7月26日に「シン・ゴジラ」は公開された。
「エヴァンゲリオン」がついに完結する。庵野秀明は、今再び、何を作ろうとしているのか? それを探るには過去の庵野作品を見ていくしかない。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開前のアンカーはもちろん、「シン・ゴジラ」。庵野監督の2016年時点での総決算ともいえる同作を通じ、あらためて「シン・エヴァ」に備える。
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「シン・ゴジラ」(2016年)
公開されるや、「シン・ゴジラ」への評価は絶賛であふれた。シリーズ歴代興行収入新記録を打ち立てたのみならず、日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀監督賞を含む7冠という偉業は、作中で防災担当大臣が繰り返すように「想定外」だったといえるかもしれない。
ゴジラという災害に立ち向かう日本国政府を主人公とするポリティカル・フィクションに、東日本大震災=日本に住む者が誰しも心の奥で苦しんだ直近の悲劇のメタファーを用い、否応なく多くの観客の感情を震わせた。
物語が大きく虚構に傾く後半パートにはやや冷たい声があるものの、物語中のリアリティーラインの設定が絶妙であることから、そこまで気にはならない。ある種のご都合主義を、あまりにも現実的である世界に持ち込むことによる違和感。
本作でそれを和らげているのがキャスティングだ。庵野の盟友であり、かつ監督・特技監督を務める樋口真嗣の前作、実写版「進撃の巨人」でいかにもアニメ的なキャラクターを演じた長谷川博己・石原さとみ。庵野による実写版「キューティーハニー」の市川実日子の起用がうまく作用している。
加えて、それまでのエンターテインメン邦画が陥りがちだったゆったりとした描写を極限まで削ぎ落としたことも特徴だ。会議シーンのみならず、すさまじい早口で行われる会話の応酬、目まぐるしく移り変わるカット。次々と変化・進化して緩和を許さないストーリー展開に、時折目を引く奇妙なアングル。場面や人物が移り変わる際に表示される字幕テロップ。
これらが岡本喜八、市川崑、そして実相寺昭雄のオマージュであることは公開当初より既に多数の評論が書かれているが、彼ら先駆者たちの手法がこの時代に「新鮮」として受け入れられたということにあらためて感動する。
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