「庵野秀明らしさ」とは何か? 「シン・エヴァ」「シン・ウルトラマン」を控え振り返る「シン・ゴジラ」(1/3 ページ)

「シン・ゴジラ」は、「好き」の全てが注ぎ込まれたベストセレクション。

» 2021年01月30日 11時30分 公開
[将来の終わりねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 2015年4月。「ゴジラ」新作の製作発表と共に公開された庵野秀明によるコメントは、衝撃の言葉で始まった。

「2012年12月。エヴァ:Qの公開後、僕は壊れました。所謂、鬱状態となりました。6年間、自分の魂を削って再びエヴァを作っていた事への、当然の報いでした。(略)自分が代表を務め、自分が作品を背負っているスタジオにただの1度も近づく事が出来ませんでした」

カラー公式サイト「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』及びゴジラ新作映画に関する庵野秀明のコメント」より

 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の公開と、それに伴う賛否両論の渦が治らぬ中で発表された「シン・ゴジラ」の製作は、必ずしも全ての映画ファンにもろ手を挙げて受け入れられたとはいえなかった。私を含め、彼らが待っていたのは「エヴァの完結作」であり、それ以外のものではなかったからだ。

 これまで見てきたように、庵野監督による実写作品は決して多くなく、万人に向けたエンターテインメント作品でもなかった。「シン・ゴジラ」の製作は秘密裏に進められ、公開日までに公になった情報といえばキャストと主要スタッフ、ならびにわずかな時間の予告編のみ。「蓋を開けてみれば何も分からない作品」かつ、蓋を開ける側もその出来に半信半疑。そうした状況の中、2016年7月26日に「シン・ゴジラ」は公開された。


 「エヴァンゲリオン」がついに完結する。庵野秀明は、今再び、何を作ろうとしているのか? それを探るには過去の庵野作品を見ていくしかない。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開前のアンカーはもちろん、「シン・ゴジラ」。庵野監督の2016年時点での総決算ともいえる同作を通じ、あらためて「シン・エヴァ」に備える。


連載記事一覧


「シン・ゴジラ」(2016年)

 公開されるや、「シン・ゴジラ」への評価は絶賛であふれた。シリーズ歴代興行収入新記録を打ち立てたのみならず、日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀監督賞を含む7冠という偉業は、作中で防災担当大臣が繰り返すように「想定外」だったといえるかもしれない。

 ゴジラという災害に立ち向かう日本国政府を主人公とするポリティカル・フィクションに、東日本大震災=日本に住む者が誰しも心の奥で苦しんだ直近の悲劇のメタファーを用い、否応なく多くの観客の感情を震わせた。

ゴジラ上陸後の様子(画像は「シン・ゴジラ」より)

 物語が大きく虚構に傾く後半パートにはやや冷たい声があるものの、物語中のリアリティーラインの設定が絶妙であることから、そこまで気にはならない。ある種のご都合主義を、あまりにも現実的である世界に持ち込むことによる違和感。

 本作でそれを和らげているのがキャスティングだ。庵野の盟友であり、かつ監督・特技監督を務める樋口真嗣の前作、実写版「進撃の巨人」でいかにもアニメ的なキャラクターを演じた長谷川博己・石原さとみ。庵野による実写版「キューティーハニー」の市川実日子の起用がうまく作用している。

 加えて、それまでのエンターテインメン邦画が陥りがちだったゆったりとした描写を極限まで削ぎ落としたことも特徴だ。会議シーンのみならず、すさまじい早口で行われる会話の応酬、目まぐるしく移り変わるカット。次々と変化・進化して緩和を許さないストーリー展開に、時折目を引く奇妙なアングル。場面や人物が移り変わる際に表示される字幕テロップ。

 これらが岡本喜八、市川崑、そして実相寺昭雄のオマージュであることは公開当初より既に多数の評論が書かれているが、彼ら先駆者たちの手法がこの時代に「新鮮」として受け入れられたということにあらためて感動する。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
先週の総合アクセスTOP10
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議