「飼育放棄の約7割が“飼い主の高齢化”」「保護犬・猫を悪用したビジネスも」 ペットブームに潜む犬猫たちの現実(3/3 ページ)
忘れられないのは、新宿での犬の多頭飼育崩壊。23匹の犬が死んでいた
――犬猫を保護してきたなかで、最も印象に残っているケースを教えてください。
2020年夏に起こった、新宿での犬の多頭飼育崩壊が忘れられないですね……。ごみ屋敷の住人が孤独死して、たくさんの犬たちが屋敷内に取り残されてしまいました。私どもは基本的に一般家庭から依頼を受けて引き取り保護に伺うので、こういったレスキューを普段はやっていないのですが、犬たちの命が危険にさらされており緊急性があったので、急遽(きゅうきょ)向かいました。
しかし、連絡を受けて保護に向かったのが土曜日だったので、どの行政機関に連絡しても「月曜日まで待ってくれ」といわれてしまい家の中に踏み込めず……。月曜日になってやっと中に入れたのですが、残念なことに23匹全ての犬が死んでいました。土曜日にはこの耳で、ドア越しに鳴き声を聞いたのに……。
中は壮絶な現場になっていて、ごみだらけで床一面が糞尿(ふんにょう)で固められ、高さ40センチほどにもなっていました。この中で犬たちが取り残され、助けられずに死んでしまったことを思うと、今でも怒りがこみあげてきます……。
この件で新宿区から公文書を取り寄せて調べた結果、行政には12年も前から犬たちへの苦情が入っており、行政側は問題を認識していたことが分かりました。私たちが確認しただけでも、飼い主が死亡するまでに保護するチャンスが2〜3回はあったようです。しかし、結局犬たちは保護されることなく、飼い主の死亡によって放置され、死んでしまいました。
――Instagramで当時の動画や画像を拝見しました、想像を超えるものでした……。
今でもその時のことを思うとやりきれません、令和の時代に新宿のど真ん中で、こんな悲しい多頭飼育崩壊が起こったことは、忘れてはいけないですし、二度と起こってほしくないです。
現在日本には、保健所や動物愛護センターなど動物を扱う行政機関はいくつかありますが、そのどれもが「基本的に人間のために動く」機関なんですよね。1つでいいので、「動物のために動く機関や窓口」を作ってほしいと強く思います。
コロナ禍のペットブーム、“命の重み”を考えた1年だったのに……
――コロナ禍のペットブームに思うことはありますか。
日本ではペットブームが起こるたびに、比例して飼育放棄も多くなります。昭和、平成、令和になってもその傾向は変わりません。この現状を変えるためには、日本人の“命に対する意識”を高めていかなければならないと考えています。
この1年は新型コロナウイルスの感染でたくさんの人が亡くなり、“命の重み”を考える1年になりました。しかし、同じ命であるはずのペットの命は考えていただけなかったんだなと……。コロナ禍で「命を大切にしましょう」と叫ばれていることとは相反する状況がとても残念です。
――日本人の意識を高めていくにはどういったことが必要だとお考えですか。
子どもの内から教育の一環として「動物愛護」についての時間を作ってもらいたいと考えています。「命を守るためには具体的にどうしたらいいのか」「命の重さについて」を子どもの頃から学べる時間を作っていただきたいです。
そして、繰り返しになりますが高齢者の人には「飼わない」という選択肢も考えていただきたいです。うちやたくさんの愛護団体で、「預かりボランティア」「お世話のボランティア」を募集しています。預かりボランティアなら、自分の体調に合わせて預かることができ、「一生飼う」という責任の重さはなく動物たちと触れ合い、癒やしをもらうことができる。うちでは70歳の預かりボランティアも活躍されています。ペットの命を大切にするために、そういった選択をしていただきたいと思います。
(了)
NPOみなしご救援隊 犬猫譲渡センター 東京支部
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