【ネタバレなし】なぜ「Outer Wilds」は「記憶を消してもう一度遊びたい傑作」と言われるのか:水平思考(ねとらぼ出張版)
ブログ「水平思考」のhamatsuさんによる不定期コラム。今回はついに追加DLC「Echoes of the Eye」が発表された「Outer Wilds」について。
ライター:hamatsu
某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。
Twitter:@hamatsu
成長する必要がないマリオ、成長するしかないリンク
「スーパーマリオブラザーズ」というゲームがある。今さらあらためて説明する必要すらない超有名ゲームだが、このゲームの主人公であり、プレイヤーが操作するキャラクターであるマリオは、ゲーム中に「成長」をしない。ゲーム開始早々にキノコをゲットすることで巨大化するなど、さまざまな形で「パワーアップ」こそするものの、せっかく得たはずのそれらの力は、敵キャラクターとの接触などによって簡単に失われてしまうものなのである。
「スーパーマリオブラザーズ」が優れているのは、ゲームの開始時点においてマリオというキャラクターにクリアに必要な機能が全て備わっているため、道中で登場するパワーアップアイテムを取っても取らなくてもどちらでも良いという、恐ろしいほどにプレイヤーに裁量を委ねている点、プレイヤーに必要最低限の義務しか課さず、自由度を高めているという点にある。
一方、そんな成熟した大人を主人公とした「スーパーマリオブラザーズ」の対極に位置するのが「ゼルダの伝説」である。主人公のリンクは、ゲーム開始時点ではクリアに必要な機能のほとんどを持ち合わせていない。なにせ敵キャラクターと戦うための「剣」すら持っていない。
「スーパーマリオブラザーズ」が、成長しないキャラクターを主人公に据えることで、プレイヤーの腕前が問われる純然たるアクションゲームを目指したのだとすれば、「ゼルダの伝説」は始まりは何もできない無力な少年である主人公リンクが、一つ一つ、新しい機能を獲得していくことで「成長」を体験として表現するゲームになっているのである。
ちなみに本題とはズレるが、道中で獲得できる「剣」の大半が消耗品という名の「パワーアップアイテム」と化しつつも、道中で課せられる義務が極限まで減少し、プレイ開始からクリアまで30分を切ることすら可能というシリーズ最新作「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」はこれまででもっともマリオ寄りのゼルダという言い方もできるだろう。
そろそろ、本題に入ろう。今回取り上げたいのは、このたび追加DLCの配信が発表され、当メディア、ねとらぼにおいても度々紹介されてきた、あまりにも紹介されすぎてきたゲーム「Outer Wilds(アウターワイルズ)」である(※)。
※編注:今回の記事はPS4版をプレイして書いています
「学び」という名の「成長」
さて、なぜ「Outer Wilds」を紹介する上で、「スーパーマリオブラザーズ」と「ゼルダの伝説」に触れる必要があったのか。それは、シンプルにこれら2作品の特徴と「Outer Wilds」の間に共通点があるからだ。そして「Outer Wilds」は、これら2作品とは異なる境地に立つことにも成功しているからだ。結論を言ってしまおう、「Outer Wilds」、すさまじい傑作である。10年に一度レベルという言葉も決して大げさなものではない。
この「Outer Wilds」というゲームでは、プレイヤーが操作するキャラクターは、プレイを開始してロケットに乗り込み宇宙に飛び出た時点で、ゲームをクリアまでに必要な機能はほぼ全て持ち合わせており、それが何らかのアイテムを獲得することで「パワーアップ」したり、「成長」したりすることはない。できることといえば、拾ったアイテムを別な場所に運んだり(ストック機能はないので基本的に手に一つ持てるだけ)、消耗していく酸素ボンベや燃料タンクの中身を補給したり、道中で受けたダメージを治療することくらいである。その点において、「Outer Wilds」の主人公はマリオに近い、プレイ開始時点において既に完成されたキャラクターだといえるだろう。
しかし、「Outer Wilds」においてプレイヤーに求められる行動は、調査に次ぐ調査、探索に次ぐ探索である。立ちふさがる敵を手際よく排除し、ステージを軽やかに疾走するマリオ的な快感はこのゲームにはほぼ存在しない。代わりにあるのは、それぞれが個性的な特徴とギミックが備えられている惑星を一つずつ探索し、調べ尽くしてはまた次の惑星へと向かうという「ゼルダの伝説」におけるダンジョンを一つずつ攻略していくかのようなプレイ感覚である。
既に述べたように本作のプレイヤーキャラクターは機能や性能的な意味においての「成長」をしない。プレイした人が誰しも指摘するように、宇宙の、特に無重力化でのキャラクターの操作にはかなりクセがあるため相応の習熟を要するものの、「スーパーマリオブラザーズ」的なアクションゲーム的な習熟とは方向性が違う。幾つかある操作難易度が高い、いわゆるアクションゲーム的なレベルデザインが施されている箇所もあるにはあるが、逆にそれらの要素はあまり本作には必要なかったのではないかとすらクリアした今では思えてくる。
では、ただただ惑星探索を繰り返すストイックなゲームプレイを強いられる「Outer Wilds」の面白みとはどこにあるのか?
それは、経験値やお金のようなゲーム内の数値、剣やブーメラン、弓矢のようなゲーム中で獲得するアイテムが存在しなくても、22分で爆発する宇宙をループしながら繰り返し探索することを通して蓄積される“ある要素”が鍵を握っている。
その要素とは「知識」だ。
「Outer Wilds」というゲームはその探索の繰り返しの過程において、各地に記された文字や絵画などのさまざまな過去の「記録」に触れることになる。恐らくは多くのプレイヤーが想定した以上の大量の「文字」を読まさせるゲームだったりもする。
それらの「記録」に触れることで、過去この宇宙で何があったのか、なぜ今現在、主人公がこの状況におかれているのか、そして探索の過程で出くわす不可思議な現象は一体なんなのかは次第に明らかになってくる。ちなみにそれらのゲームプレイ中に触れた「記録」だけは宇宙船にログとして蓄積されるので、新しく始める人はそれは先に知っておくとよいだろう。私は数時間プレイしてようやく気付いた。
だが、そうして得た「知識」をただただ「知識」として蓄えているだけではこのゲームをクリアすることは難しい。それらの「知識」を寄り集め、この宇宙で起きている不可思議な現象を解く「鍵」に変換できたとき、この「Outer Wilds」というゲームはその姿を一変させる。
「Outer Wilds」とは「知識」を「知恵」に変換し、それを武器として宇宙の謎に対峙するゲームなのである。
おぼろげな「知識」の断片が突如として像を結び「知恵」に変換できた瞬間、謎に満ちたあまりに広大過ぎる宇宙は、「攻略対象」に姿を変える。この転換点を体験するまでに私は恐らく10時間以上費やした。このあたりにこのゲームの抱える構造的な問題があると思うのだが、まあ仕方ないとも思う。勘のいい人ならすぐ気付いたりもするのだろうし、挫折する人がいたとしても無理のないことだ。
このゲームをもう一度記憶を消して遊びたいという人の気持ちはクリアした今ではよく分かる。「Outer Wilds」をプレイし「知恵」を得てしまった以上、もう元には戻れない。その「知恵」を得たからこそ分かることもあるのだから周回プレイも十分面白くはあるのだが、何も知らずに宇宙に放り出され、自分の寄る辺のなさをかみしめていたあのころにはもう戻れない。このゲームで体験できるのは、そんな世界の見え方が「知恵」を獲得する以前と以後で一変してしまうような、一種の畏れすら感じるほどに不可逆の、後戻りの出来ない「成長」である。
「知る」ことの意味
「Outer Wilds」でプレイヤーが遭遇する「知識」は、生き残るための切実な記録もあれば、ちょっとした遊びの記憶のような他愛のないものなどさまざまなものが存在する。
そして他愛のない遊びの記録の方に実はゲームをクリアする上で非常に重要なヒントが隠されていたりする点に「Outer Wilds」というゲームの本質であり、メッセージが隠されているのではないかと私は考える。
なぜ、われわれは遊んだり好奇心で冒険に出たりするのだろうか。なぜわれわれはそんな他愛のない出来事も含めて、自分の知識や経験を何らかの形で記録し残すのだろうか。そしてなぜわれわれは自分とは別の存在が残したさまざまな記録を後から読み解こうとするのだろうか。それらの行為には意味はあるのだろうか。「Outer Wilds」というゲームはそれらの問いに対する答えをゲームでしかできないやり方で提示する。
そんなゲームでしか表現しえない何かに好奇心を覚える人はぜひとも遊んでみてほしい。
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