ゲームに疲れたあなたに送る、お散歩ゲームの大傑作「A Short Hike」を全力でオススメする:水平思考(ねとらぼ出張版)
ブログ「水平思考」のhamatsuさんによるおすすめのゲーム紹介。今回は、さくっと遊べて、プレイ後には爽やかな余韻を残す名作お散歩ゲーム「A Short Hike」。
インディー系のゲームを遊んでいてしみじみと良いなと思うのは、内容が必要以上に重厚長大にならず、「サクッと終わる」ゲームがいくつも存在するということだ。
数十時間、ときには数百時間、ヘタをすれば数千時間という時間を一つのゲームに注ぎこむこともそれはそれで悪くはない。インディー系と雑にくくってしまったが、湯水のごとく時間を吸い取るインディータイトルだって数多く存在する。その時間を使ってちょっとした資格の一つも取れたのでは……と思うことだってなくはないが、それでも人生の一部を投じて得たゲーム体験とその記憶は何物にも代えがたい宝物だ。
とはいえ、そんな人生の一部をささげるゲームを何本も遊んでいてはいよいよ人生そのものをささげかねないし、世界中を旅して回るかのような膨大な時間と労力を費やすゲームばかりではなく、気分転換にサッとその辺をブラつくお散歩のようなゲームだってしたくなる。それが人の心というものだろう。
というわけで今回紹介したいゲームはサクッと遊べてサクッと終わる、現時点におけるマイベストお散歩ゲーム、「A Short Hike」(Switch / Windows)である。
ライター:hamatsu
某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。
Twitter:@hamatsu
シンプルながらも非常に完成された「行きて帰りし物語」
このゲームの特徴は、そのプレイ時間の短さ(数時間程度で終わる)もさることながら、そこで表現される内容の適度な「軽さ」と「重さ」にある。
ちょっとした悩みを抱えた主人公が、気分転換がてら夏休みの間だけ叔母の住む島で過ごすことになり、そこを探索(ハイキング)することを通して得られるひと夏の経験、このゲームで表現され、体験できるのは「A Short Hike」というタイトル通りのごくごく小さな規模の、小さな冒険だ。
ゲーム内容的には、高いところから滑空する能力を当初から持っている、鳥をモチーフとしたキャラクターである主人公が、黄金の羽根というアイテムを手に入れることで壁にしがみついて登ることができるようになり、黄金の羽根の所持数が増えれば増えるほどにより高い壁にも登れるようになるという、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の壁登りに近い要素と、カメラの視点をキャラクターを上から見下ろす俯瞰の位置にすることで、プレイヤーとその周辺の状況が把握しやすい「どうぶつの森」シリーズのようなお手軽さを併せ持つゲームとなっている。
スコップや釣り竿といった要素や、ほのぼのと温かみのあるグラフィック表現などからも「どうぶつの森」との共通点を感じる人は多いのではないだろうか。
そして、基本的には頂上を目指して山を登るゲームと呼べるであろう本作のもう一つの特徴に島の住人たちとの交流がある。「A Short Hike」というゲームをプレイして、このゲームが好きになる人の多くは、この愛すべき住人たちとの交流を通してこの世界に愛着を持ち、最終的にはゲーム全体が好きになる人が多いのではないかと思う。
このテキストメインで行われる住人との交流の魅力を説明するならば、「MOTHER」シリーズや「UNDERTALE」のような、キャラクターが話す言葉の「行間」を読ませるタイプのテキストであるということだ。これらのゲームが持つ、テキストの「行間」からにじむ背景を想像しながらゲームを味わうことが好きな人ならばぜひともプレイをオススメしたい。
「ゼルダ」と「どうぶつの森」と「MOTHER」の魅力を1つに凝縮したゲーム。そのように説明すると、複数の要素が天丼になった重厚な「重い」ゲーム内容を想像してしまうかもしれない。しかし、「A Short Hike」が素晴らしいのは、それらの要素をギュッと詰め込みながら、どこまでも小さな冒険を小さいままに描き切っている点にある。このゲームには命のやりとりや世界の存亡をかけた危機は存在しない。しかし、主人公をはじめとするキャラクターたちがそれぞれに抱える「思い」、それがときには主人公の道のりへの動機にもなり、または障害ともなりうるような、「切実さ」だけが存在する。
そしてさらに、一応の最終目的地である山頂に登り、そして元居た場所へ帰るという小さいけれど、確かな成長を感じる道のりの中に、原初的な物語構造を折り込むことにすら本作は成功しているのである。
安全安心な日常を保障する安定した場所にいる主人公が、冒険への好奇心、日常への不満などから、非日常的な体験が待っていそうなここではないどこかへと「行って」そこで得た新しい経験を携え元の場所へと「帰る」。そうすることで、もともといた場所が、新鮮なものに刷新されたかのように感じられる。これは、「行きて帰りし物語」とも呼ばれる、物語の古典的かつ原初的な構造なのだが、この構造を非常にシンプルな形で落とし込んでいるゲーム、それが「A Short Hike」なのだ。
こうやって言葉で理屈っぽく説明してしまうとなにやら面倒臭い印象を受ける人も多いかもしれないが、端的に言ってしまえば、プレイヤーのあなたなりの道のりで山に登り、そこでの出来事を経てからの帰り道、そこであなたが何を感じ、何を思うのか。それこそがこのゲームで体験する物語なのである。
※「行きて帰りし物語」の代表例としては、少年たちが死体を探してひと夏の冒険の旅に出る『スタンド・バイ・ミー』が挙げられるだろう。そしてそれにオマージュをささげ、ゲームという形式に落とし込んだのが「ポケットモンスター」である
短くコンパクトにまとめられたゲームの中に、さまざまなゲーム的魅力が的確かつコンパクトに詰め込まれ、クリアすると一つの映画や小説を読んだときのような物語的満足感も得られるという、いやらしい言い方をしてしまえば非常にコスパの良い、可処分時間とお財布に優しいゲーム(Switch版は850円! 安い!!)、それが「A Short Hike」なのだ。ゲームをやりたいけどやりたくない。超大作を遊びすぎて若干胃もたれ気味、“パズドラくらいしかやる気がしない”(映画「花束みたいな恋をした」より)、そんなあなたにこそぜひともオススメです!
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