「ファイナルファンタジーらしさ」とは飛空艇でありシドであり大して強くないアルテマである:水平思考(ねとらぼ出張版)
なぜFFシリーズの飛空艇は「速い」のか?
2020年9月17日、「PlayStation 5 Showcase」が開催され、ファイナルファンタジーシリーズ最新作、「ファイナルファンタジーXVI」(以下「FF16」)が発表された。
ライター:hamatsu
某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。
Twitter:@hamatsu
近年のシリーズタイトルで見られた近未来的な要素が影を潜めた、中世ファンタジー的な世界観を全面に押し出したティーザームービーはシリーズの原点回帰として歓迎する声が挙がったが、それに対して「FF」シリーズとはそもそもシリーズの原点からして王道のファンタジーではないという声もまたあがっている。
- こんな『FF』を待っていたーー『FINAL FANTASY 16』は原点回帰の王道中世ファンタジーに(ReanSound)
- FFに原点などない(ジスロマック/note)
ぶっちゃけて言ってしまえば、上に挙げた2つの記事は両方とも言いたいことは良く分かるし、どこか違うようにも思える。
かつて「FF」と言えば、天野喜孝のイラストを全面に押し出したりとか、「FF1」でやたらと格好のいいオープニング画面が「ゲームをちょっと進めてから」表示されたりとか、そこで流れる植松信夫の音楽とか、ジャンプでいうと「ドラゴンボール」ではなくて「ジョジョの奇妙な冒険」みたいな、王道からちょっと外れたオルタナティブな匂いがビンビンしてくる感じのゲームだった。
そして「FF」シリーズと言えば、続編をリリースするごとにキャラクターや成長システム、バトルシステムを大胆に変更し、面白そうな要素は節操なく取り入れ、ジャンプの後ろの方に載ってたかと思いきやグイグイ人気を上げて気付けば看板タイトルの仲間入りしているようなゲームでもあった。
そんな絶えず変化し続けるシリーズに対して「原点」や「らしさ」を見出だすことは難しい。だが、それでも「FFらしさ」というものは確かに存在するのではないかと私は考えている。
「テクノロジーの発達」を否定しないということ
「FFらしさ」とは何か?
それは「飛空艇」であり、「シド」というキャラクターであり、そしてめちゃくちゃな苦労と犠牲の果てにゲットしたにもかかわらず対して強くない「FF2」の「アルテマ」である。
「飛空挺」や「アルテマ」というゲーム中で実際に操作することができる乗り物や魔法を通して、「テクノロジーの発達」を言葉による説明や映像による描写ではなく、「体験」させてくれるゲーム、それが「FF」なのである。
既に述べたように、「FF」というシリーズはタイトルごとの共通点を探す方が難しいくらいにあらゆるものが変わる。
そんなシリーズにおいて、ほぼ皆勤賞状態で登場している要素が、空を自由に移動できる乗り物「飛空艇」であり、その開発に携わるキャラクター(シリーズによっては関わらないこともある)「シド」である。
なぜ「FF」シリーズにとって「飛空艇」と「シド」という要素は重要なのか?
それは、「FF」とは最新のテクノロジーを誰よりも巧みにコントロールすることによって初めて生まれる「体験」をゲームという形で表現してきたシリーズであり、それをする上で「飛空挺」と「シド」という要素が欠かせないからだ。
「FF」は「テクノロジーの発達」を否定しない。それが原因で世界が窮地に陥ることがあったとしても、それ以上にテクノロジーを使いこなすことによってそれを制していくのが「FF」である。
だからこそ「飛空艇」は「速い」。「FF1」の時点で速かった「飛空艇」は「FF2」でさらに倍になり、「FF3」でそのさらに倍になる。
なぜ「飛空艇」はシリーズを重ねるごとにより「速く」なるのか?
それは「テクノロジーの発達」をプレイヤーに「体感」してもらうためだ。
そして多くのシリーズに置いて「飛空挺」開発に携わり、それをプレイヤーに託す「シド」こそがファイナルファンタジーにおける開発者の分身ともいえる存在なのである。
「飛空艇」の性能に絶対の自身を持つ「FF2」の「シド」というキャラクターの格好良さとは、他タイトルの追随を許さないほどにファミコンというハードを使いこなす開発者の格好良さでもあるのだ。
型落ちのテクノロジーを一顧だにしないという姿勢
「飛空挺」と「シド」という要素の他に、もう一つ「FFらしさ」を象徴していると私が考えるのが、「FF2」における、手に入れるまでの苦労に全く見合わない「アルテマ」の弱さである。
それについては下記のエントリーが詳しい。
- ファミコン版FFIIのアルテマはなぜ弱かったのか?(Colorful Pieces of Game)
実際に社内でプレイした時に、もちろん問題になり、「どうしてこんなことになっているんだ、直せ」と言った。
ところが作った人間は…
「伝説のなんちゃらなんて、はるかに昔の技術がない時代のものでしかない。今の目から見たらどってことない、見劣りのするものが当たり前なんだ。だから『アルテマ』の性能が悪いのは当たり前だ。そして、苦労した挙句に、役に立たたないものが手に入るということは人生でよくある…というか、苦労に見合ってないのが普通なんだ。だから直さない!」
(「ファミコン版FFIIのアルテマはなぜ弱かったのか?」より/『マル勝ファミコン』の座談会の場で、坂口博信さんが語ったという内容)
まあ飲みの席のオフレコ話ということである程度割り引いて考える必要があるとはいえ、これほど「FFらしい」エピソードもない。
「テクノロジーの発達」を圧倒的に肯定する「FF」は同時に「型落ちのテクノロジー」に価値を認めない。だから1作ごとにまるで過去作のことなど無かったかのように大胆に中身を変えてしまう。
だからこそ「FF」シリーズでは、「型落ち」商品である過去のナンバリングタイトルをリメークをするにしても、今年リリースされた「FINAL FANTASY VII REMAKE」のように根本的に手を加えすぎてほとんど別のゲームのようになってしまう(個人的には「FF5」あたりは比較的普遍的な面白さと持っていると思うし、「FF2」のフルリメークとかやったらぜひ遊んでみたいと思うのだけど)。
「ドラゴンクエスト」シリーズが、グラフィックのリファインと多少の追加要素とバランス調整を施したリメークをコンスタントにリリースし、人気を博しているのとは対照的だといえるだろう。
良くも悪くもゲームの内容と、当時の時代状況、テクノロジー水準が分かちがたくリンクしてしまっているのが「FF」というシリーズの最大の特徴なのである。だから例えば「FF11」で、当時家庭用ゲーム機ではまだまだ発展途上だったオンラインRPGを、シリーズのナンバリング最新作にしてしまうという暴挙や、それに全力で挑む姿勢などはまさしく「FFらしい」といえる。
「FF」というシリーズを支持する熱狂的なファンが数多く存在するのはそんな「時代と共に寝る」姿勢に共感するからではないだろうか。
「FF」シリーズが陥った隘路(あいろ)と最新作への期待
「テクノロジーの発達」を否定せず、最新のテクノロジーだからこそできる表現や体験を誰よりも早く一つの作品として結晶化させてきた「FF」シリーズだが、近年においては誰よりもその「テクノロジーの発達」に振り回されてきたような印象を受ける。
高度かつ美麗なグラフィック表現は「FF」の大きな特徴であり、人によってはそれこそが「FFらしさ」だと思う人もいるかもしれない。
だが、グラフィックスとはゲームにおいてはあくまでも手段であって、目的ではない。
他でもないスクウェア・エニックスの開発者自身が、再生される以前の旧「FF14」についてグラフィックスクオリティーにこだわり過ぎた点を否定的に振り返っている。
- 【GDC 2014】「新生FFXIV」吉田Pが、「旧FFXIV」が失敗した理由を余さず語る(Game Watch)
そして、この旧「FF14」を終わらせ、再生の主導権を握った張本人こそが、最新作「FF16」でもプロデューサーを努める吉田直樹氏なのである。
直近のナンバリングタイトル「FF15」においてもグラフィックスクオリティーを追及しつつも、同時にそこで得られる「体験」も重視するという姿勢は見られたが、「FF16」への吉田氏の起用は、冒頭に挙げた記事とはまた別の意味での原点回帰、「FFらしさ」への回帰への期待が高まる。
「FF16」はどんな「テクノロジーの発達」を「体験」として表現してくれるのだろうか。続報を待ちたい。
関連記事
- 水平思考(ねとらぼ出張版):敗北を知りすぎた悲しき中間管理職 「ダイの大冒険」魔軍司令ハドラーはなぜ“最大最強の好敵手”へと返り咲くことができたのか?(後編)
敗北を知りすぎた男、どん底からの復活。 - 水平思考(ねとらぼ出張版):敗北を知りすぎた悲しき中間管理職 「ダイの大冒険」魔軍司令ハドラーはなぜ“最大最強の好敵手”へと返り咲くことができたのか?(前編)
魔軍司令という名の中間管理職。 - 水平思考(ねとらぼ出張版):「いきなりメラゾーマ」の衝撃 『ダイの大冒険』をあらためて読んで分かった「漫画のドラゴンクエストを作る」ということ
なぜ『ダイの大冒険』は「ドラゴンクエスト」の漫画化としてここまでの成功を収めることができたのか? - 水平思考(ねとらぼ出張版):「SEKIRO」のGOTY受賞から考える、なぜ今日本のゲームが世界のゲームアワードを席巻しているのか
日本のゲームは世界のゲームシーンに「追い付いた」のか? - 水平思考(ねとらぼ出張版):『岩田さん』という本のこと、永田泰大という編集者のこと
かつてファミ通に「風のように永田」という編集者がいたことを覚えていますか。 - ぶっちゃけ、電ファミって利益出てました? 「電ファミニコゲーマー」編集長・TAITAI氏に聞く、独立の裏側、これからの野望
2016年のオープンから3年、大きな転機を迎えた電ファミは今後どうなる? - なぜ「ドラクエV」はここまで「語られる」のか? “ビアンカフローラ論争”がいつまでも終わらない理由と「ドラクエV」というゲームの巧妙さ
「ドラクエV」とは、ストーリーで発生した「欠落」を、プレイヤーがゲームシステムによって補間するゲームである。 - 「名探偵ピカチュウ」は2019年の「ブレードランナー」である “ポケモンと暮らす都市”が描くポケモンの本質とは
「名探偵ピカチュウ」は、これ以上ないほど「ポケットモンスター」の本質、原理にのっとった映画だった。 - 縦のものを横へ ロッテリアの「エビ・絶品ツインバーガー」がナナメ上
ここにエビバーガーと絶品チーズバーガーがあるじゃろ?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
-
60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
-
「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
-
皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
-
真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
-
71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
-
新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
-
家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
-
ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
-
「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」