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» 2020年10月17日 20時00分 公開

「ファイナルファンタジーらしさ」とは飛空艇でありシドであり大して強くないアルテマである水平思考(ねとらぼ出張版)

なぜFFシリーズの飛空艇は「速い」のか?

[hamatsuねとらぼ]

 2020年9月17日、「PlayStation 5 Showcase」が開催され、ファイナルファンタジーシリーズ最新作、「ファイナルファンタジーXVI」(以下「FF16」)が発表された。



ライター:hamatsu

hamatsu プロフィール

某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。

Twitter:@hamatsu



 近年のシリーズタイトルで見られた近未来的な要素が影を潜めた、中世ファンタジー的な世界観を全面に押し出したティーザームービーはシリーズの原点回帰として歓迎する声が挙がったが、それに対して「FF」シリーズとはそもそもシリーズの原点からして王道のファンタジーではないという声もまたあがっている。


 ぶっちゃけて言ってしまえば、上に挙げた2つの記事は両方とも言いたいことは良く分かるし、どこか違うようにも思える。

 かつて「FF」と言えば、天野喜孝のイラストを全面に押し出したりとか、「FF1」でやたらと格好のいいオープニング画面が「ゲームをちょっと進めてから」表示されたりとか、そこで流れる植松信夫の音楽とか、ジャンプでいうと「ドラゴンボール」ではなくて「ジョジョの奇妙な冒険」みたいな、王道からちょっと外れたオルタナティブな匂いがビンビンしてくる感じのゲームだった。

 そして「FF」シリーズと言えば、続編をリリースするごとにキャラクターや成長システム、バトルシステムを大胆に変更し、面白そうな要素は節操なく取り入れ、ジャンプの後ろの方に載ってたかと思いきやグイグイ人気を上げて気付けば看板タイトルの仲間入りしているようなゲームでもあった。

 そんな絶えず変化し続けるシリーズに対して「原点」や「らしさ」を見出だすことは難しい。だが、それでも「FFらしさ」というものは確かに存在するのではないかと私は考えている。



「テクノロジーの発達」を否定しないということ

 「FFらしさ」とは何か?

 それは「飛空艇」であり、「シド」というキャラクターであり、そしてめちゃくちゃな苦労と犠牲の果てにゲットしたにもかかわらず対して強くない「FF2」の「アルテマ」である。

 「飛空挺」や「アルテマ」というゲーム中で実際に操作することができる乗り物や魔法を通して、「テクノロジーの発達」を言葉による説明や映像による描写ではなく、「体験」させてくれるゲーム、それが「FF」なのである。

 既に述べたように、「FF」というシリーズはタイトルごとの共通点を探す方が難しいくらいにあらゆるものが変わる。

 そんなシリーズにおいて、ほぼ皆勤賞状態で登場している要素が、空を自由に移動できる乗り物「飛空艇」であり、その開発に携わるキャラクター(シリーズによっては関わらないこともある)「シド」である。


ファイナルファンタジーらしさ 「FF1」から登場している飛空艇(Wii Uバーチャルコンソール版の紹介ページより)

 なぜ「FF」シリーズにとって「飛空艇」と「シド」という要素は重要なのか?

 それは、「FF」とは最新のテクノロジーを誰よりも巧みにコントロールすることによって初めて生まれる「体験」をゲームという形で表現してきたシリーズであり、それをする上で「飛空挺」と「シド」という要素が欠かせないからだ。

 「FF」は「テクノロジーの発達」を否定しない。それが原因で世界が窮地に陥ることがあったとしても、それ以上にテクノロジーを使いこなすことによってそれを制していくのが「FF」である。

 だからこそ「飛空艇」は「速い」。「FF1」の時点で速かった「飛空艇」は「FF2」でさらに倍になり、「FF3」でそのさらに倍になる。

 なぜ「飛空艇」はシリーズを重ねるごとにより「速く」なるのか?

 それは「テクノロジーの発達」をプレイヤーに「体感」してもらうためだ。

 そして多くのシリーズに置いて「飛空挺」開発に携わり、それをプレイヤーに託す「シド」こそがファイナルファンタジーにおける開発者の分身ともいえる存在なのである。

 「飛空艇」の性能に絶対の自身を持つ「FF2」の「シド」というキャラクターの格好良さとは、他タイトルの追随を許さないほどにファミコンというハードを使いこなす開発者の格好良さでもあるのだ。


型落ちのテクノロジーを一顧だにしないという姿勢

 「飛空挺」と「シド」という要素の他に、もう一つ「FFらしさ」を象徴していると私が考えるのが、「FF2」における、手に入れるまでの苦労に全く見合わない「アルテマ」の弱さである。



ファイナルファンタジーらしさ ファイナルファンタジーポータルサイト内「FF2」紹介動画より

 それについては下記のエントリーが詳しい。

実際に社内でプレイした時に、もちろん問題になり、「どうしてこんなことになっているんだ、直せ」と言った。
ところが作った人間は…
伝説のなんちゃらなんて、はるかに昔の技術がない時代のものでしかない。今の目から見たらどってことない、見劣りのするものが当たり前なんだ。だから『アルテマ』の性能が悪いのは当たり前だ。そして、苦労した挙句に、役に立たたないものが手に入るということは人生でよくある…というか、苦労に見合ってないのが普通なんだ。だから直さない!」

(「ファミコン版FFIIのアルテマはなぜ弱かったのか?」より/『マル勝ファミコン』の座談会の場で、坂口博信さんが語ったという内容)


 まあ飲みの席のオフレコ話ということである程度割り引いて考える必要があるとはいえ、これほど「FFらしい」エピソードもない。

 「テクノロジーの発達」を圧倒的に肯定する「FF」は同時に「型落ちのテクノロジー」に価値を認めない。だから1作ごとにまるで過去作のことなど無かったかのように大胆に中身を変えてしまう。

 だからこそ「FF」シリーズでは、「型落ち」商品である過去のナンバリングタイトルをリメークをするにしても、今年リリースされた「FINAL FANTASY VII REMAKE」のように根本的に手を加えすぎてほとんど別のゲームのようになってしまう(個人的には「FF5」あたりは比較的普遍的な面白さと持っていると思うし、「FF2」のフルリメークとかやったらぜひ遊んでみたいと思うのだけど)。

 「ドラゴンクエスト」シリーズが、グラフィックのリファインと多少の追加要素とバランス調整を施したリメークをコンスタントにリリースし、人気を博しているのとは対照的だといえるだろう。

 良くも悪くもゲームの内容と、当時の時代状況、テクノロジー水準が分かちがたくリンクしてしまっているのが「FF」というシリーズの最大の特徴なのである。だから例えば「FF11」で、当時家庭用ゲーム機ではまだまだ発展途上だったオンラインRPGを、シリーズのナンバリング最新作にしてしまうという暴挙や、それに全力で挑む姿勢などはまさしく「FFらしい」といえる。

 「FF」というシリーズを支持する熱狂的なファンが数多く存在するのはそんな「時代と共に寝る」姿勢に共感するからではないだろうか。


「FF」シリーズが陥った隘路(あいろ)と最新作への期待

 「テクノロジーの発達」を否定せず、最新のテクノロジーだからこそできる表現や体験を誰よりも早く一つの作品として結晶化させてきた「FF」シリーズだが、近年においては誰よりもその「テクノロジーの発達」に振り回されてきたような印象を受ける。

 高度かつ美麗なグラフィック表現は「FF」の大きな特徴であり、人によってはそれこそが「FFらしさ」だと思う人もいるかもしれない。

 だが、グラフィックスとはゲームにおいてはあくまでも手段であって、目的ではない。

 他でもないスクウェア・エニックスの開発者自身が、再生される以前の旧「FF14」についてグラフィックスクオリティーにこだわり過ぎた点を否定的に振り返っている。


 そして、この旧「FF14」を終わらせ、再生の主導権を握った張本人こそが、最新作「FF16」でもプロデューサーを努める吉田直樹氏なのである。

 直近のナンバリングタイトル「FF15」においてもグラフィックスクオリティーを追及しつつも、同時にそこで得られる「体験」も重視するという姿勢は見られたが、「FF16」への吉田氏の起用は、冒頭に挙げた記事とはまた別の意味での原点回帰、「FFらしさ」への回帰への期待が高まる。

 「FF16」はどんな「テクノロジーの発達」を「体験」として表現してくれるのだろうか。続報を待ちたい。


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