殺人鬼も性差別しない時代へ 価値観の変遷をスラッシャーホラーで確かめる摩訶不思議体験 「クライモリ」リブート版レビュー
オリジナル版とは全くの別物!!
10月15日に日本公開が始まったサバイバル・ホラー映画「クライモリ(2021)」。カップルの死に様をこよなく愛する、同シリーズの大ファン・城戸(@sh_s_sh_ma)がさっそく鑑賞した最新作について語りたいそうです。
※PG15相当のショッキングなシーンがあります。
そもそも「クライモリ」って何?
2003年に公開されたサバイバル・ホラー映画「クライモリ」をご存じでしょうか。
森に迷い込んだ若者たちを食人一家が襲う! そんな至極単純なプロットながら、山道や木の上を縦横無尽に走り回る食人鬼、弓やワナを使ったアクション劇、魅力的なキャラクター。そして何より、ハードな残酷描写。……先人たちの土台を継承しつつ(この映画自体が20年近く前の作品ですが)、各パラメータを底上げしたような傑作アクションホラーです。
帰れるのは、悲鳴だけ。という、うまいのか何なのかよく分からない日本コピーも魅力的。ちなみに原題は「Wrong Turn」。現在、Amazonプライムビデオでは「間違ったターン」という直訳で配信されています。
「クライモリ」は全世界でヒットを飛ばし、続編が5つも作られてしまいます。「1が売れたからって…」とけしからん状態ですが、しかしクライモリシリーズの一味違うところは、「もうやれることは1作目でやってるんだから、後はもうふざけ倒そうぜ」という姿勢。
その証拠に、1作目がシリアスな猟奇ホラーだったのに対し、2作目にあたる「クライモリ デッドエンド」の仕上がりはほとんどコメディー。ビデオスルー(日本で言うVシネマ)前提で作られており、アホな若者たちが森で四肢を欠損しながら死んでいくという、1に登場した食人一家が再登場するだけで中身はそこらのB級スプラッターと何一つ変わらないありさまだったのですから。
しかし、その開き直りが功を奏しました。いや、本当に功を奏しているのかは知りませんけど、少なくとも私個人としては功を奏しました。「クライモリ」は、ある程度のクオリティーのB級スプラッターを定期的に輩出してくれるお下品シリーズとして生まれ変わったのです。
「それが一体何なんだよ」と思われるでしょうが、“人里離れた地で若者たちが殺人鬼に襲われる”というようなありふれた映画を、私はずっと観ていたい。「またこれかよ」とニヤけたいのです。悲鳴からのみ摂取できる栄養素を欲しがっているホラーファンは全国に大勢いると思います。
とはいえ「2」以降のシリーズは、客観的に見て出来が良い作品ではありません。ですから、初代「クライモリ」のリブートが作られるなんて、まったくの予想外だったわけです。
そりゃ最近は「ハロウィン」だってリブートされたわけだけど、それは原作(と監督)の知名度があってこそ。下品なエログロスプラッターなんて、ホラーファン以外からしたら棚にウンコが並んでいるのと同じです。まあ、どうせ日本ではビデオスルーとかなんでしょ。「クライモリ」なんて今日び誰も覚えていないのだから……。
なんて言ってたら、まさかの劇場公開ですよ。監督は、傑作アクションホラー「ドメスティックス」を撮ったマイク・P・ネルソン、さらに、「1」の脚本家アラン・B・マッケルロイがまたしても脚本を担当という、かなり期待のできる布陣です。急いでオンライン試写会に申し込み鑑賞いたしました。
品行方正に生まれ変わった新生「クライモリ」
あらすじ
休暇を楽しむために、バージニア州のとある小さな町にやってきた3組のカップル。キャンプをしに山へ入るが、地元民の警告を無視して登山道を外れた一行は道に迷ってしまい、とある悲劇に見舞われる。大雨に降られ、徐々に険悪になっていく一行は、森で何者かの視線を感じ……。(R-15指定作品)
鑑賞してまず実感するのが、シリーズ過去作とはまったく異なる質感であること。森に迷い込んだ若者たちが何者かの襲撃を受ける点だけを踏襲し、その他の要素は大胆にアレンジしています。
“標的”となるキャラクターたちも、単なるバカ者ではなく、都会で自立した生活を送るエリートたち。「カップル3組のうちの1組」として男性同士のカップルが登場し、当たり前に受け入れられている点もすばらしい。
従来のホラー映画、特にこういったスラッシャー映画は、殺害シーンでカタルシスを与えるために、被害者側のキャラクターに差別的な言動をさせがちでした。同性カップルを揶揄(やゆ)したおじさんが無残に殺されてスッキリするような、演出の一環として利用されてしまっていたわけです。
そもそも“処女だけが生き残る”というホラー映画の定石も、男性目線の性差別そのもの。しかし本作では、こうしたステレオタイプが徹底的に排除されています。前述の新生「ハロウィン」がそうだったように、このような軌道修正は今まさに求められているものでしょう。
誰だお前ら!? 食人一家の代わりを務める「顔面破壊」
さらに、物語にも大きく手が加えられています。手が加えられているというか、完全に別物です。だって襲撃者の正体が食人一家ですらないのですから。
オリジナル1作目は食人鬼たちの猟奇的でインモラルな魅力、2作目以降はコミカルでチャーミングな魅力がウリでした。そんな彼らが今回は不在。シリーズファン(いるのか?)なら「そんなのクライモリじゃない!」と憤ってもおかしくない変更です。
ですが、ちょっと待ってください。本当にあなたの求めているものは「食人一家」なのでしょうか? “ドリルを買う人が欲しいのは穴である”なんて格言がありますが、少なくとも私が見たいのは彼らが繰り広げる殺戮シーンの方。要は「クライモリ」なんてグロけりゃなんでもいいんですよ!
そうした意味では、本作のそれも期待を裏切らない出来。シリーズ2作目以降はCGを多用した荒唐無稽コミカル・グロテスクに終始している印象でしたが、本作は原点回帰を目指したのか、よりリアル志向なグロを追及していて非常に好印象。特に顔面破壊のこだわりようはなかなかのものです。
日本でも大ヒットした「ミッドサマー」や、映画ファンの間で好評を博した「バクラウ」にも目を見張るような顔面破壊シーンがありましたが、もしかして最近のトレンドなんでしょうか。こんなにうれしいことはないですね。
オリジナルの「クライモリ」は脚の切断シーンが屈指の出来でしたが、本作は切断系のグロが一切無し! 断面が見られない代わりに4つの顔面が破壊されます。特に顔面破壊第1号の死体は相当なモンで、割とハッキリ見せてくれます。顔面破壊といえばドイツの鬼才オラフ・イッテンバッハですが、本作はその魂を……なんて話は求められてないと思うのでやめておきましょう。
他にも暴力や殺人行為のオンパレード。ホラーファンならそれだけで許してしまうような要素が連続します。正直、流血と破壊にごまかされているだけの気がしなくもないですが、「クライモリ」のリブートなんか別にそれでいいのです。
摩訶不思議体験を味わいたい方は劇場へ
ネタバレなしで率直な感想を述べるとすると、オリジナル版とまったく違う作品である点は賛否の分かれるところでしょう。「クライモリ」というタイトルでなければ、関連作品だと気付けないくらいです。
また、お話としてはほとんど目新しい点がありません。ホラー・スラッシャー映画が築き上げてきた枠組みからは外れず、現代に合わせて“価値観”というステータスをレベルアップさせたようなリブート。それはくしくも、オリジナル版「クライモリ」に感じた印象と近いものです。私はそもそもホラー映画に目新しさをあまり期待していませんから、典型的なストーリーとの対比で浮き彫りになる現代的な配慮が非常に好印象でした。

“B級ホラー”というジャンルに根付く差別的な要素をゼロ年代に担っていた「クライモリ」シリーズが、2021年に品行方正なリブートを遂げたことは、映画史において非常に大きな意味を持つのかもしれません。時代と共に進んでゆく価値観の変遷を「クライモリ」で実感するという摩訶不思議体験を、ぜひ劇場にて!
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