殺人鬼も性差別しない時代へ 価値観の変遷をスラッシャーホラーで確かめる摩訶不思議体験 「クライモリ」リブート版レビュー

オリジナル版とは全くの別物!!

» 2021年10月16日 20時00分 公開
[城戸ねとらぼ]

 10月15日に日本公開が始まったサバイバル・ホラー映画「クライモリ(2021)」。カップルの死に様をこよなく愛する、同シリーズの大ファン・城戸(@sh_s_sh_ma)がさっそく鑑賞した最新作について語りたいそうです。

※PG15相当のショッキングなシーンがあります。

そもそも「クライモリ」って何?

 2003年に公開されたサバイバル・ホラー映画「クライモリ」をご存じでしょうか。

 森に迷い込んだ若者たちを食人一家が襲う! そんな至極単純なプロットながら、山道や木の上を縦横無尽に走り回る食人鬼、弓やワナを使ったアクション劇、魅力的なキャラクター。そして何より、ハードな残酷描写。……先人たちの土台を継承しつつ(この映画自体が20年近く前の作品ですが)、各パラメータを底上げしたような傑作アクションホラーです。

オリジナル版「クライモリ

 帰れるのは、悲鳴だけ。という、うまいのか何なのかよく分からない日本コピーも魅力的。ちなみに原題は「Wrong Turn」。現在、Amazonプライムビデオでは「間違ったターン」という直訳で配信されています。

 「クライモリ」は全世界でヒットを飛ばし、続編が5つも作られてしまいます。「1が売れたからって…」とけしからん状態ですが、しかしクライモリシリーズの一味違うところは、「もうやれることは1作目でやってるんだから、後はもうふざけ倒そうぜ」という姿勢。

 その証拠に、1作目がシリアスな猟奇ホラーだったのに対し、2作目にあたる「クライモリ デッドエンド」の仕上がりはほとんどコメディー。ビデオスルー(日本で言うVシネマ)前提で作られており、アホな若者たちが森で四肢を欠損しながら死んでいくという、1に登場した食人一家が再登場するだけで中身はそこらのB級スプラッターと何一つ変わらないありさまだったのですから。

 しかし、その開き直りが功を奏しました。いや、本当に功を奏しているのかは知りませんけど、少なくとも私個人としては功を奏しました。「クライモリ」は、ある程度のクオリティーのB級スプラッターを定期的に輩出してくれるお下品シリーズとして生まれ変わったのです。

 「それが一体何なんだよ」と思われるでしょうが、“人里離れた地で若者たちが殺人鬼に襲われる”というようなありふれた映画を、私はずっと観ていたい。「またこれかよ」とニヤけたいのです。悲鳴からのみ摂取できる栄養素を欲しがっているホラーファンは全国に大勢いると思います。

 とはいえ「2」以降のシリーズは、客観的に見て出来が良い作品ではありません。ですから、初代「クライモリ」のリブートが作られるなんて、まったくの予想外だったわけです。

 そりゃ最近は「ハロウィン」だってリブートされたわけだけど、それは原作(と監督)の知名度があってこそ。下品なエログロスプラッターなんて、ホラーファン以外からしたら棚にウンコが並んでいるのと同じです。まあ、どうせ日本ではビデオスルーとかなんでしょ。「クライモリ」なんて今日び誰も覚えていないのだから……。

 なんて言ってたら、まさかの劇場公開ですよ。監督は、傑作アクションホラー「ドメスティックス」を撮ったマイク・P・ネルソン、さらに、「1」の脚本家アラン・B・マッケルロイがまたしても脚本を担当という、かなり期待のできる布陣です。急いでオンライン試写会に申し込み鑑賞いたしました。

品行方正に生まれ変わった新生「クライモリ」

あらすじ

休暇を楽しむために、バージニア州のとある小さな町にやってきた3組のカップル。キャンプをしに山へ入るが、地元民の警告を無視して登山道を外れた一行は道に迷ってしまい、とある悲劇に見舞われる。大雨に降られ、徐々に険悪になっていく一行は、森で何者かの視線を感じ……。(R-15指定作品)


 鑑賞してまず実感するのが、シリーズ過去作とはまったく異なる質感であること。森に迷い込んだ若者たちが何者かの襲撃を受ける点だけを踏襲し、その他の要素は大胆にアレンジしています。

 “標的”となるキャラクターたちも、単なるバカ者ではなく、都会で自立した生活を送るエリートたち。「カップル3組のうちの1組」として男性同士のカップルが登場し、当たり前に受け入れられている点もすばらしい。

 従来のホラー映画、特にこういったスラッシャー映画は、殺害シーンでカタルシスを与えるために、被害者側のキャラクターに差別的な言動をさせがちでした。同性カップルを揶揄(やゆ)したおじさんが無残に殺されてスッキリするような、演出の一環として利用されてしまっていたわけです。

 そもそも“処女だけが生き残る”というホラー映画の定石も、男性目線の性差別そのもの。しかし本作では、こうしたステレオタイプが徹底的に排除されています。前述の新生「ハロウィン」がそうだったように、このような軌道修正は今まさに求められているものでしょう。

画像は予告より

誰だお前ら!? 食人一家の代わりを務める「顔面破壊」

 さらに、物語にも大きく手が加えられています。手が加えられているというか、完全に別物です。だって襲撃者の正体が食人一家ですらないのですから。

 オリジナル1作目は食人鬼たちの猟奇的でインモラルな魅力、2作目以降はコミカルでチャーミングな魅力がウリでした。そんな彼らが今回は不在。シリーズファン(いるのか?)なら「そんなのクライモリじゃない!」と憤ってもおかしくない変更です。

 ですが、ちょっと待ってください。本当にあなたの求めているものは「食人一家」なのでしょうか? “ドリルを買う人が欲しいのは穴である”なんて格言がありますが、少なくとも私が見たいのは彼らが繰り広げる殺戮シーンの方。要は「クライモリ」なんてグロけりゃなんでもいいんですよ!

画像は予告より

 そうした意味では、本作のそれも期待を裏切らない出来。シリーズ2作目以降はCGを多用した荒唐無稽コミカル・グロテスクに終始している印象でしたが、本作は原点回帰を目指したのか、よりリアル志向なグロを追及していて非常に好印象。特に顔面破壊のこだわりようはなかなかのものです。

 日本でも大ヒットした「ミッドサマー」や、映画ファンの間で好評を博した「バクラウ」にも目を見張るような顔面破壊シーンがありましたが、もしかして最近のトレンドなんでしょうか。こんなにうれしいことはないですね。

 オリジナルの「クライモリ」は脚の切断シーンが屈指の出来でしたが、本作は切断系のグロが一切無し! 断面が見られない代わりに4つの顔面が破壊されます。特に顔面破壊第1号の死体は相当なモンで、割とハッキリ見せてくれます。顔面破壊といえばドイツの鬼才オラフ・イッテンバッハですが、本作はその魂を……なんて話は求められてないと思うのでやめておきましょう。

画像は予告より

 他にも暴力や殺人行為のオンパレード。ホラーファンならそれだけで許してしまうような要素が連続します。正直、流血と破壊にごまかされているだけの気がしなくもないですが、「クライモリ」のリブートなんか別にそれでいいのです。

画像は予告より

摩訶不思議体験を味わいたい方は劇場へ

 ネタバレなしで率直な感想を述べるとすると、オリジナル版とまったく違う作品である点は賛否の分かれるところでしょう。「クライモリ」というタイトルでなければ、関連作品だと気付けないくらいです。

 また、お話としてはほとんど目新しい点がありません。ホラー・スラッシャー映画が築き上げてきた枠組みからは外れず、現代に合わせて“価値観”というステータスをレベルアップさせたようなリブート。それはくしくも、オリジナル版「クライモリ」に感じた印象と近いものです。私はそもそもホラー映画に目新しさをあまり期待していませんから、典型的なストーリーとの対比で浮き彫りになる現代的な配慮が非常に好印象でした。

“食人要素が一切カットされたクライモリ”という意味では、シリーズファンからすると面白い体験ができるかもしれません。食人描写がなくなったぶん、恐怖が減っているのは否めませんが、その代わりに展開される社会派サスペンスはなかなか興味深いところ(画像は予告より)

 “B級ホラー”というジャンルに根付く差別的な要素をゼロ年代に担っていた「クライモリ」シリーズが、2021年に品行方正なリブートを遂げたことは、映画史において非常に大きな意味を持つのかもしれません。時代と共に進んでゆく価値観の変遷を「クライモリ」で実感するという摩訶不思議体験を、ぜひ劇場にて!

おすすめ記事

photo

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/17/news022.jpg 【追記あり】夫に「油買ってきて」と頼んだのに、手ぶらで帰宅した理由はまさかの…… とんでもないオチに「やめてww」「久しぶりに大爆笑」
  2. /nl/articles/2403/18/news022.jpg 1歳息子の“はじめての寝落ち”が140万再生 10歳兄のやさしい行動に「なにこの平和でかわいい世界」「最高に癒やされる」と絶賛の声
  3. /nl/articles/2403/17/news063.jpg 「予言者いた」「先見の明」 大谷翔平選手&真美子さんの結婚を2021年時点で予言(?)している投稿が発掘され話題に
  4. /nl/articles/2403/17/news047.jpg 北海道内の移動距離を本州と比較したら…… 感覚がバグるマップ画像に「これが北海道」「大きすぎる」
  5. /nl/articles/2403/18/news042.jpg 生後1カ月の赤ちゃん「ぼく泣かないもんねっ」 うるうるおめめとへの字口が「はぁ〜たまらん!」「ぐぁぁああああっっ」取り乱すほどかわいい
  6. /nl/articles/2403/15/news126.jpg 「一番イチャイチャしているように見える」 大谷選手が公開した写真でドジャース山本由伸選手の“手つなぎ”?が話題に 「そっちに目が行く」
  7. /nl/articles/2312/29/news019.jpg 「妻の服を勝手に着て脱げなくなったムキムキ夫とデカワンコ」に爆笑の嵐 シュールすぎる状況が500万表示突破
  8. /nl/articles/2403/18/news025.jpg “おしりが5日で変わる”トレーニング! 「明日からやるか」「1日1回だけなら続けられる」と累計3000万再生突破
  9. /nl/articles/2403/18/news056.jpg 大好きなボールを100個プレゼントされたときのワンコの表情に「放心ww」「引いてない?」 直視できない姿がSNSで話題
  10. /nl/articles/2403/18/news064.jpg 赤ちゃんが妙に静かだと思ったら…… 思わぬものへの“真剣モード”に笑顔になる人続出「たれたもちもちほっぺたまらん!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  2. 昭和時代に“無かった物”が写っている……? 細かすぎて伝わらない「未来から来たことがバレた写真」に6万いいね
  3. 「マジで汚い」「こんなもんです」 辻希美、“大散乱”のリビングと“新”キッチンの差を公開し共感の声集まる
  4. 双子の赤ちゃん、姉が全力でくしゃみして…… 被害にあった妹の反応に「生後3ヶ月でドリフのコントw」「めちゃどっちもカワイイ」と絶賛の声
  5. 「よくも病院に連れてきたな……」とにらむ猫、先生が来た瞬間 驚きの変貌に爆笑の声「これがほんとの猫かぶり」
  6. 急に片耳がたれたワンコ、慌てて病院にいった結果…… 「こんな可愛い診断結果初めて見たよw」「笑っちゃった」と反響
  7. 「何羽いる?」一見普通の“草むら”、よく見ると……? 思わず絶叫まちがいなしの1枚に「どっさりいるw」「まさに迷彩!」
  8. 店員に「この子は懐きませんよ」と言われたチンチラ、家に来て3日後…… 人を信じる姿に「愛が伝わったんですね」
  9. 元SDN48光上せあら、目を離した隙に……子どもが商品を触り“全買取” 「子連れママに厳しすぎないか?」
  10. 柴犬を子どものように育てた結果、人間みたいな行動をするようになった 何気ない幸せな日常に「完全に家族の一員」「全部が愛くるしい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」