もしもビデオ通話に幽霊が降臨したら ロックダウン中に撮影された外出自粛ホラー「ズーム/見えない参加者」レビュー
舞台はZoomの画面の中。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のまん延により、英国政府がロックダウンを決行――ジョンソン首相の罹患もあって、遠いイギリスのニュースが日本でも大々的に報道されました。それでもウイルスは抑え込めず、同国は2021年1月時点で3度目のロックダウンの最中にいます。
しかし、そんな状況でもフィルムメーカーは創作を諦めなかった。今回は、都市封鎖中のイギリスで全編オンライン撮影されたホラー映画「ズーム/見えない参加者」を鑑賞したのでご紹介します。
ロックダウン中のイギリス。友人同士である女性5人は、刺激を求めZoomを使った降霊の儀式を行おうとする。何も起こるわけがないとふざけながら降霊の手順を踏んでいた彼女らだったが、徐々に不可解な現象が起こり始め……。
要は、Zoomの画面だけでお話が進んでいくという少々変則的な作品。とはいえ前例がないわけではありません。例えばデスクトップの画面だけで描かれる「SEARCH/サーチ」、その前にはスカイプの画面だけで描かれる「アンフレンデッド」、さらにその前にはチャットルーレット(世界中の人とランダムでビデオ通話ができるサービス)を舞台にした「デス・チャット」なんて作品もあり、むしろ近年では珍しい作風とはいえなくなってきています。
あらすじも超王道だし、正直そこまで新鮮味が感じられないな……と斜に構えた気持ちで鑑賞しましたが、これが素直におもしれーー! というわけで魅力をレビューしていきます。
現代ホラーとして非常に優れた恐怖演出
ホラーにおけるサブジャンルに“お化け屋敷ホラー”というものがあります。暗い屋敷をゆっくり進む主人公の目の前に怖いモノが飛び出してくる定番のアレです。そして本作もまた全体的な演出はこの“お化け屋敷ホラー”に準ずるつくり。王道に裏打ちされた面白さと、Zoomという強烈な個性が融合し、新鮮な気持ちで楽しむことができました。
例えば幽霊の描き方。一般的なびっくり演出であれば、徐々に輪郭が浮かび上がったり、急にワーーっとこちらに向かってきたりしますよね。それでも十分怖いんですが、本作の場合はZoomの顔認証機能が空間に反応するという、現代的かつ身近な方法で「なにかいるぞ」と恐怖の始まりを示唆してくるわけです。インターネットテクノロジーに眠る恐怖の萌芽を見事に抽出しています。
しかもその狙いがことごとく成功している。“こぼれた小麦粉に足跡がつく”とか“毛布を投げたら引っ掛かる”とか、Zoom関係なしに「自宅でこんなことが起きたら嫌だなー」という演出もばっちりキマっていて、古典と現代のいいトコどり状態なので、ホラーファンなら間違いなく楽しめるんじゃないでしょうか。
さらにホラー映画としての魅力がもうひとつ。それは恐怖と静寂の絶妙なバランスです。優れたB級ホラーには共通して、低予算をカバーする心地よいリズムが感じられるもの。一応文字で表現すると、「………フッ…キャー!……何だ気のせいか………バーン!!キャーー!!!…………」みたいな感じです。絶対に伝わりませんね。
とにかく静寂と恐怖のバランスには必ず正解があるんですよ。怖いモノが登場するタイミングだったり、あるいは消え方だったり。ヒロインの悲鳴や物音ひとつとってもそう。感覚の鋭い監督はその調律を決して崩しません。映画全体を貫く一本の線をたゆまず維持させなくてはならないと知っているからです。本作が批評家に高く評価されているのも、非常に優れたバランス感覚ゆえではないかと思うのです。
個人的に大好きだったポイントも語っておきます。それはテクノロジーに対して非常にフェアだった点です。
例えば前述したスカイプホラー「アンフレンデッド」には“勝手に通話に参加してくるお化け”が登場するのですが、こいつは追放ボタンを押しても会話から出て行かないんですよ。スカイプの画面だけで話が進む点が個性なのに、お化けがスカイプのルールを無視しちゃったらもう何でもありじゃないですか。そんなことできるなら直接出てきて呪い殺せばよくない?(私は「アンフレンデッド」も大好きですけど)
その点で本作のお化けは決してズルをしません。Zoomの機能を超えることはせず、あくまで恐怖の舞台として利用するだけ。だからこそ前述した“顔認証フィルター”のような演出が現実味を帯びるわけです。序盤で「なんか回線の調子が……」と不穏な空気が流れるんですが、その理由は本当にWi-Fiがクソだったから。すばらしい! お化けのフェアプレーに称賛を贈りたい。
最後に不満点をひとつ挙げるならば、ラストの展開だけはどうしても気に入らない。ネタバレになるので深く言及はしませんが、“ある人物の行動”が結末ありきの安易な動かし方に見えてしまって……。実際に観ていただければ、その“フェアじゃなさ”を感じていただけると思います。その分ラストシーンはかなりいい感じなんですけどね。
あ、そうそう。上映終了後、リハーサル中に撮影された本物の心霊映像が流れるので最後まで席を立ってはいけませんよ。まあ、あまり期待しない方がいいとは思いますが……。
自由に外に出られる時にあえて作ったインドア映画とは違い、本作は屋内で撮影を完結せざるを得なかった点が最大の特徴です。
だけど実際は「家から出られないのなら、自宅やインターネット上だけで完結する映画を作ってしまおう」と考えた人はたくさんいましたし、Zoomを使用して作られた映画も腐るほどありました。だってそれしかできないんですから。
逆に言えば、どんな金持ちとも、どんな有名監督とも、同じ条件で勝負ができるチャンスでした。自由に活動できないストレスを創作意欲に昇華させていたクリエイターも多かったことでしょう。そうしたライバルを押しのけて本作は劇場公開までこぎつけたわけです。その時点で面白さは保証されているようなもの。
本作は現在、鑑賞料金1000円のキャンペーンを実施しています。本編も68分と短いのでオカルト好きな方はフラっと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。このコロナ禍にリアルタイムで鑑賞するとより価値の上がる作品なのは間違いありませんよ。
余談ですが、前述した「アンフレンデッド」のプロデューサー、ジェイソン・ブラム氏は本作に絶賛のコメントを寄せています。そして本作の監督ロブ・サヴェージ氏は、ブラム氏率いるホラー映画プロダクション「ブラムハウス」にて次作を制作するとのこと。この時勢にすばらしい躍進です。
(城戸)
関連記事
- 「世にも奇妙な物語」「ブラック・ミラー」に続く“家族愛×恐怖”のオムニバス 「Welcome to the BLUMHOUSE」を見てほしい
「パラノーマル・アクティビティ」「セッション」「ザ・ハント」のスタジオが贈るオムニバスです。 - トランプ激おこの問題作「ザ・ハント」に感じた最高のカタルシス “セレブVS庶民”の人間狩りアクション
米国で公開延期になった「人間狩り」映画を観てきました。 - 「モロッコのアクション映画」「フィリピンの低予算B級映画」ってどんな感じ? Amazonプライムで珍しい国の謎映画を観賞しよう
「砂漠のアウトロー」、おすすめです。 - 仮面の男に監禁されるだけじゃない 変わったルールの「デスゲーム映画」おすすめ7選
マラソン、サバゲ―、結婚挨拶、な〜んでも地獄に。 - Amazonプライムにあふれる謎のB級映画を見てみるやつ 隠れた良作からZ級モンスターまで一挙レビュー
謎の映画紹介、3回目
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
【追記あり】夫に「油買ってきて」と頼んだのに、手ぶらで帰宅した理由はまさかの…… とんでもないオチに「やめてww」「久しぶりに大爆笑」
-
1歳息子の“はじめての寝落ち”が140万再生 10歳兄のやさしい行動に「なにこの平和でかわいい世界」「最高に癒やされる」と絶賛の声
-
「予言者いた」「先見の明」 大谷翔平選手&真美子さんの結婚を2021年時点で予言(?)している投稿が発掘され話題に
-
北海道内の移動距離を本州と比較したら…… 感覚がバグるマップ画像に「これが北海道」「大きすぎる」
-
生後1カ月の赤ちゃん「ぼく泣かないもんねっ」 うるうるおめめとへの字口が「はぁ〜たまらん!」「ぐぁぁああああっっ」取り乱すほどかわいい
-
「一番イチャイチャしているように見える」 大谷選手が公開した写真でドジャース山本由伸選手の“手つなぎ”?が話題に 「そっちに目が行く」
-
「妻の服を勝手に着て脱げなくなったムキムキ夫とデカワンコ」に爆笑の嵐 シュールすぎる状況が500万表示突破
-
“おしりが5日で変わる”トレーニング! 「明日からやるか」「1日1回だけなら続けられる」と累計3000万再生突破
-
大好きなボールを100個プレゼントされたときのワンコの表情に「放心ww」「引いてない?」 直視できない姿がSNSで話題
-
赤ちゃんが妙に静かだと思ったら…… 思わぬものへの“真剣モード”に笑顔になる人続出「たれたもちもちほっぺたまらん!」
- 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
- 昭和時代に“無かった物”が写っている……? 細かすぎて伝わらない「未来から来たことがバレた写真」に6万いいね
- 「マジで汚い」「こんなもんです」 辻希美、“大散乱”のリビングと“新”キッチンの差を公開し共感の声集まる
- 双子の赤ちゃん、姉が全力でくしゃみして…… 被害にあった妹の反応に「生後3ヶ月でドリフのコントw」「めちゃどっちもカワイイ」と絶賛の声
- 「よくも病院に連れてきたな……」とにらむ猫、先生が来た瞬間 驚きの変貌に爆笑の声「これがほんとの猫かぶり」
- 急に片耳がたれたワンコ、慌てて病院にいった結果…… 「こんな可愛い診断結果初めて見たよw」「笑っちゃった」と反響
- 「何羽いる?」一見普通の“草むら”、よく見ると……? 思わず絶叫まちがいなしの1枚に「どっさりいるw」「まさに迷彩!」
- 店員に「この子は懐きませんよ」と言われたチンチラ、家に来て3日後…… 人を信じる姿に「愛が伝わったんですね」
- 元SDN48光上せあら、目を離した隙に……子どもが商品を触り“全買取” 「子連れママに厳しすぎないか?」
- 柴犬を子どものように育てた結果、人間みたいな行動をするようになった 何気ない幸せな日常に「完全に家族の一員」「全部が愛くるしい」
- 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
- パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
- “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
- 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
- 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
- 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
- 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
- “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
- 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
- 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」