「Fit Boxing」はなぜシリーズ累計200万本のヒット作になったのか? イマジニア担当者と振り返る「異例のジワ売れ」の軌跡

「声優が無駄に豪華」かつ「めちゃくちゃキツい」ことから大きな話題に。

» 2021年12月09日 13時00分 公開
[真ゲマPR/ねとらぼ]
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 イマジニアが手掛けるNintendo Switch向けエクササイズゲーム「Fit Boxing(フィットボクシング)」シリーズの全世界累計出荷販売本数が200万本を突破しました。

フィットボクシング

 本シリーズは、石田彰さんや緑川光さん、上坂すみれさんなどの人気声優が演じるインストラクターに応援されながら、本格的なボクシングエクササイズが楽しめることで多くのユーザーから高い人気を誇っています。元々、1作目は発売当初から大いに注目されていたわけではなく、SNSでの口コミからジワジワと話題になり、ついにはミリオンヒットを達成したという経緯があります。

 そんな異色のエクササイズゲームを制作したイマジニアに、ゲームの誕生秘話、ヒットの裏側、今後の展開などを聞いてきました。

(聞き手:池谷勇人、真ゲマ 構成:真ゲマ)

まずは「Fit Boxing」の“祖先”の話に

フィットボクシング コンシューマ向けゲームの責任者・萓沼恒三さん

萓沼恒三さん(以下:萓沼さん):「Fit Boxing」をはじめとしたイマジニアのコンシューマ向けゲームの責任者を担当している萓沼恒三と申します。よろしくお願いします。

――「Fit Boxing」シリーズ累計200万本突破おめでとうございます!

萓沼さん:ありがとうございます! 1作目の「Fit Boxing」は、“Nintendo Switch初のエクササイズゲーム”としてリリースしたことで同ジャンルの代表作になり、2年で100万本を突破しました。「Fit Boxing 2」では、1年で100万本を突破するというスピードに驚いています。

――まずは「Fit Boxing」の話の前に、2008年にイマジニアさんが発売した(※)Wii向けソフト「シェイプボクシング Wiiでエンジョイダイエット(以下:シェイプボクシング)」についてお聞きしたいです。

 「Fit Boxing」のゲームシステムは、同じボクシングエクササイズゲームの「シェイプボクシング」の段階ですでに完成されていたと思います。あれは「Fit Boxing」シリーズの前身という位置づけなのですか? それとも“血の繋がっていない祖先”みたいなものですか?

※「シェイプボクシング」はイマジニアの子会社であるロケットカンパニーが販売・開発したタイトル。ロケットカンパニーは、2016年の組織再編によってイマジニアに吸収合併された。

萓沼さん:血の繋がっていない祖先の方が正しいと思います(笑)。「シェイプボクシング」は安定した売り上げを記録していましたが、同じジャンルといっても「Fit Boxing」とは、ゲームシステムからプロモーションの仕方までだいぶ差があります。それに「Fit Boxing」は“Nintendo Switch初のエクササイズゲーム”という強みがありましたが、「シェイプボクシング」は任天堂さんの「Wii Fit」を追いかけるように参入したエクササイズゲームだったという点も違いますね。

フィットボクシング

――「シェイプボクシング」はどのようなきっかけで開発したのですか?

萓沼さん:最初のきっかけは任天堂さんがWiiを初公開した時です。後に発売される「Wii Fit」でも任天堂さんは“これまでのゲームの遊び方とは違うものを提供する”というコンセプトを明確に打ち出していました。そこで当時、エクササイズゲームで何か新たな遊びを提供する上で、Wiiリモコンをふたつ使って遊ぶ「ダブルWiiリモコン」というアイデアが出たんです。

――当時はモーションを使って遊ぶゲームって、今ほど多くはなかったですよね。実際作ってみるまでは、Wiiリモコンを両手に持ってパンチするのが本当に面白いのか、半信半疑なところはありませんでしたか?

萓沼さん:ありましたね。でもゲームの開発ってそういうものだと思います。

 パンチをしたとき、Wiiリモコンが振動するのはわかりやすい楽しさがありましたし、リズムゲームのようにプレイできる手ごたえを感じました。そして「シェイプボクシング2」では、楽曲にJ-POPを追加して、リズムゲームの要素をより強調しました。

フィットボクシング

――Switch標準搭載のJoy-Conでそのまま遊べる「Fit Boxing」に比べると、Wiiリモコンを2つ用意しなければならなかった(※)「シェイプボクシング」は、ユーザーからするとけっこうハードルが高かったのでは。

(※ヌンチャクでも一応プレイは可能でした)

萓沼さん:それが「シェイプボクシング」は、Wiiが普及してから発売されたタイトルなので、多くのユーザーがWiiリモコンが複数ある環境になっていて、「ダブルWiiリモコン推奨」でも十分に勝負できたんです。

 「シェイプボクシング」は、Wiiのエクササイズゲームが求められる中、早めのタイミングでリリースしたおかげでエクササイズゲームとして定番化しました。それにボクシングの動作は、他のエクササイズより認知度とわかりやすさがありましたし。

 ただ、当時はSNSが発展していなかったので、「Fit Boxing」であったネットの口コミなどのようなユーザーのフィードバックはそこまでありませんでした。一応、「シェイプボクシング」のダイエット効果を見せるブログなんかもやっていたのですが、反響は身内だけでしたね(笑)。

口コミでジワ売れして品薄状態になった「Fit Boxing」

フィットボクシング

――「Fit Boxing」は、「シェイプボクシング」シリーズから意識して変えた部分はありますか?

萓沼さん:キャラクターデザインを作り込んで人気声優を起用したり、ユーザーに対して褒めて伸ばすようなセリフを言ったりと、キャラクターに愛着を感じてもらうようにしたほか、プレイを継続してもらうように力を入れています。やはり、クリアがあるゲームではないので、毎日続けられるように工夫をしなければなりません。それはゲームの中だけではなく、プロモーションでも意識しています。

――とはいえ「Fit Boxing」は発売当初は「超注目作!」という感じではありませんでしたよね。どのあたりから「これはいける!」というムードに変わっていったんでしょう?

萓沼さん:「Fit Boxing」は2018年12月20日に発売されましたが、ほとんどのゲームって正月明けのタイミングで売り上げが落ちるんです。ところが「Fit Boxing」の売り上げ推移を見ていると正月以降もまだ売れていて、私も「何かがあるな」と感じていました。その“ジワ売れ”について取り上げていただいた記事(関連記事)がねとらぼさんで掲載されてからネットで大きな反響があって状況が変わりましたね。しばらく品薄状態が続きました。

――ネットでここまで大きな反響があったのは、人気声優のキャラクターが応援してくれる要素とスポーツジムさながらの「ガチでキツい」という要素の両方があったからですよね。

萓沼さん:人気声優によるキャラクターの要素は狙い通りだったのですが、本格的な“ガチでキツい”エクササイズが多くのユーザーに好意的に受け入れられるとは考えていませんでした。本格的なエクササイズが自宅でもできることを重きにおいていたものの、ユーザーの中で「キツいエクササイズだからこそやる」というニーズがこれほどあったんだなと驚いています。

――ユーザーの反応の中で一番印象に残っているものはありますか?

萓沼さん:私としては「声優が無駄に豪華!」と揶揄されたことです(笑)。RPGと違ってエクササイズゲームで人気声優を起用するのは珍しく、そこにユーザーは魅力を感じてくださったのではないでしょうか。人気声優の要素がなければ、キツさが伴う「Fit Boxing」の面白さが伝わらなかったと思います。2作目では、声優さん好きなユーザーにプレイを継続してもらうためにフルボイスにしてキャラクターのセリフを増やしました。

――「声優が無駄に豪華」というのはネットでは最大の誉め言葉ですよね(笑)。声優さんの人選はどのようにして決めましたか?

イマジニアのプロモーション担当:ここは私からお答えします。なるべく声優陣を豪華にしたいという狙いはありましたが、キャラクターの設定はすでに決まっていたので、そのイメージに合うように声優さんを探していました。

――「この声優さんがインストラクター役!?」という驚きがあるなど、キャラクターの多彩さも話題になった要因ですよね。特にユーザーから反響があったキャラクターは?

イマジニアのプロモーション担当:「Fit Boxing 2」から登場する石田彰さんのヒロですね。同作では、3人のインストラクターを追加したのですが、優しい声質で応援するヒロは多くの反響がありました。そういえば発売当時は、石田彰さんが猗窩座役を演じている「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が人気で、よくSNSでヒロと猗窩座をごっちゃにするネタがバズっていましたね(笑)。

Fit Boxing 2インストラクター紹介:ヒロ(CV.石田彰)

 もちろん、キャラクターそのものに魅力を感じていただいているユーザーもいます。中村悠一さん演じる熱血タイプのエヴァンもとても人気がありますよ。

Fit Boxing 2インストラクター紹介:エヴァン(CV.中村悠一)

――男性キャラのほうが人気が高いのはちょっと意外です。ユーザーの男女比は女性の方が多いのでしょうか?

イマジニアのプロモーション担当:ユーザーの男女比は、1作目は男性が7割で女性が3割、2作目は男性が6割で女性が4割と徐々に増えています。これは、Nintendo Switchの市場が変化し、女性層からも受け入れられているタイトルが増えているのも要因ですが。

 あとはSNS上だと、女性層のほうがゲームについてオープンに語っている傾向があるからかもしれません。各インストラクターのセリフを全て聞くためにTwitterで情報交換を行っているファンの方もいらっしゃって、そうやってSNS上でゲームが話題になることで、それを見て気になった人がタイトルで検索したり、プレイ動画を観てくださったりして、新たなユーザーが増える呼び水になっているのかもしれません。

――「Fit Boxing」シリーズは海外での売り上げも好調ですが、海外版の声優にも力を入れているのですか?

萓沼さん:「あの声優が!」という盛り上がり方は日本だけのものですね。それでも売り上げが好調なあたり、世界的にみてもエクササイズゲームの市場が出来上がりつつあるのだと考えています。

――エクササイズゲームといえば、任天堂の「リングフィットアドベンチャー」とうまく棲み分けたところも良かったように感じました。「筋肉をつけるなら無酸素運動ができる『リングフィット』、体重を落とすなら有酸素運動ができる『Fit Boxing』」のように、両作の違いを説明しているツイートも話題になっていました。

萓沼さん:そうそう。実は、任天堂さんから「リングフィット アドベンチャー」が発売された週に「Fit Boxing」の売り上げも伸びたんですよ。ユーザーがどちらもプレイしてくださるなど、良い棲み分けにできたのは幸運でした。

SNSの意見を反映させてより便利になった「Fit Boxing 2」

フィットボクシング

――こうしたエクササイズゲームで続編を作る際に工夫している点についてもお聞きしたいんですが、「Fit Boxing 2」で前作から意識して変えた部分はありますか?

萓沼さん:「より便利に」を意識しています。例えば、デイリーモードではその日の体調やスケジュールに合わせて「軽め」や「短時間」でも遊べるようにしましたし、マンション住まいでステップの足音が気になるユーザーのために、ステップの動作をカットできるようにしています。

――ステップ、単純に難しいという声も多かったですしね(笑)。

萓沼さん:他にも、前作からプレイを継続してくださっているユーザーのために、セーブデータの引継ぎも可能です。これらの新要素は、SNSのユーザーの意見を反映させた結果です。

イマジニアのプロモーション担当:プロモーションの面では公式Twitterを立ち上げて、ゲームをプレイしていただいているユーザーだけではなく、声優ファンの方々に届くようにツイートをしています。

 今でこそイマジニア公式Twitterのフォロワー数は6万人以上ですが、立ち上げ当初は、プレイ動画をアップするなどをしてもフォロワー数が20人程度しかいませんでした。そこからSNSによる口コミの効果で多くの方々からフォローしていただき、最終的に6万人以上のフォロワー数になりました。そこから独立する形となった「Fit Boxing」の公式Twitterも5万人以上になっています。

――20人からアカウントを育てたってすごい……! そこまでのフォロワー数になるまでに何か特別なことを?

イマジニアのプロモーション担当:ゲームのことをつぶやいたユーザーにリプライを送ったり、「企業公式Fit Boxing対抗戦」を開催して15社以上の企業の中の人にゲームをプレイしていただいたり、プレゼントキャンペーンを行ったりと、あの手この手で「Fit Boxing」を前面に押し出しました。企業さんは、他社のゲームタイトルというより「話題のダイエットツール」として捉えて気軽にコラボしていただきましたね。ここまでフォロワー数が増えたのはユーザーをはじめとした多くの方々に協力していただいたおかげです。

フィットボクシング お話を聞かせてくれた萓沼さん(写真左)とイマジニアプロモーションチームの皆さん

――そうしたユーザーの盛り上がりから火がつき、今や「大ヒット作」の仲間入りを果たした「Fit Boxing」シリーズですが、今後はどんな風に展開していくんでしょうか?

萓沼さん:まずはIPとしての「Fit Boxing」を強化すること。その一環が、アニメ作品「キミとフィットボクシング」です。他にも、「Fit Boxing」のキャラクターを新たなゲームタイトルで生かす構想を練っているところです。エクササイズゲームでそのような展開をするのは他に類を見ないことですが、ここまで多くのユーザーから支持を受けているキャラクターを大事にしなければならないと思っています。

――今回はありがとうございました!

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アイティメディア営業企画/制作:ねとらぼ編集部/掲載内容有効期限:2021年12月15日