SNS中心に「短歌」ブームが到来? 歌人でヒット小説家・錦見映理子さんに聞く、めくるめく短歌の魅力(1/2 ページ)
著書『恋愛の発酵と腐敗について』がヒット中の錦見映理子さんを取材しました。
TwitterやInstagramを中心に広がっている短歌ブーム。短歌の魅力とは何なのか。なぜ今Z世代に短歌が刺さっているのか。歌人・小説家として活動する錦見映理子さんにお話を伺いました。
東京都出身の錦見さんは、20代のときに短歌と出会い、『NHK短歌』の連載を始めラジオ出演などをマルチにこなす歌人。その後は処女作の『リトルガールズ』が第34回太宰治賞を受賞して小説家デビューを果たし、新作『恋愛の発酵と腐敗について』はApple Books限定先行配信で1位をマークするなど、話題の作家です。
和歌・短歌・俳句の違いは
――最近SNSで短歌がブームと聞きますが、そもそも短歌ってどういうものなのでしょうか。和歌や俳句との違いを教えてください。
錦見:古来「和歌」といわれていたものの中で、5・7・5・7・7の形式のものを「短歌」といいます。「長歌」といってもっと長い形式も昔はあったんですが、短歌だけが残っていまだによく作られています。短歌の唯一のルールは5・7・5・7・7の5句31音であることですが、現代短歌はカタカナ用語や外来語を使っても良いですし、しらべが良ければそれよりも多くても少なくても許されます。
よく混同されがちなのは5・7・5を基本とした定型詩の「俳句」で、季語を使うのが特徴です。テレビ番組で夏井いつき先生が添削されているのも俳句ですね。夏井先生の添削は本当に的確で素晴らしいので、私もよく拝見しています。
――短歌の楽しみ方はどのような形なのでしょか。着物を着て「○○や〜」という感じで詠み上げるイメージもあります。
錦見:そういうイメージありますよね(笑)。以前短歌を始めたいという人が「でも私、十二単を持ってないんです……」とおっしゃったことがあるのですが、今の時代はもっとカジュアルに短歌を楽しんでいて、むしろ着物を常に着てくる人なんていないんですよ。
また詠み方についても基本的に黙読がメインで、音読する機会があっても淡々と音読する感じで詠みます。和歌の時代は印刷物がなかったので、披講(新しく作られた和歌を読み上げたのち、節をつけて歌うこと)していたのですが、印刷物の発展とともに黙読がメインとなっています。
――短歌に対して必要以上に身構えてしまっていたかもしれません。
錦見:短歌は昔の言葉を使ったりしないといけないイメージがあったりしてハードルが高いと思われがちですが、実は身近なものなんです。最近は現代語で作る短歌が増えてきていて、例えば俵万智さんの『サラダ記念日』は現代語で作られた短歌の代表作です。誰もが知っている言葉に古語をうまく交ぜて使うことによって、現代人にも内容が分かりやすく、それでいて複雑な恋愛感情も伝わる歌がたくさんの人の共感を呼び、大ベストセラーになりました。
――短歌を作るうえで大事なポイントはどういうところですか。
錦見:助詞の使い方ですね。助詞は単語の接着剤ですし、特に短歌ではとても重要な働きをします。1文字助詞を変えるだけで全く印象が変わります。私もやっとちゃんと使えるようになってきました。
――いくつか短歌を拝見してみると、若干ラップとも近いところがあるのかなと思いました。
錦見:韻を踏むところや文字の縛りなど、近いところがあると思います。ちょっと違うところでいうと、ラップは脚韻といって最後の韻を踏んでいくことが多いのですが、短歌は頭韻といって、頭の方をそろえると心地いい感じになる気がします。音の響きで五感に訴えるというところは短歌とラップの共通点ですね。
――短歌を詠む人を歌人と呼びますよね。具体的にはどういうお仕事をする方なのでしょうか。
錦見:新聞や専門誌などから依頼に合わせて新作の歌を作ったり、短歌を教える教室の先生をしたりというのが基本的な仕事になります。短歌の世界には流派として「結社」というものがあり、結社の中には歌の良しあしを決める「選者(せんじゃ)」という立場の人がいるのですが、選者は短歌雑誌だったり、新聞だったりに掲載する歌を決める仕事をやっている場合があります。しかし、それだけで生活していくのは難しいので、たいてい他の職業を持ちながら、短歌の仕事もやっています。
――錦見さんも結社に所属しているのですか。
錦見:私の場合は「未来短歌会」という短歌結社に所属しています。昔は結社のこともあまりよくわからなかったので、どこにも所属せずに歌集を出したりしていたので、フリーでい続ける私のことを心配したお知り合いから「一度未来の歌会にきませんか?」と誘われたのが未来とのかかわりのきっかけです。
未来短歌会にも選者はいるのですが、「先生と呼んではいけない」というルールがあったり、歌人同士が非常にフラットな関係性だったりと居心地がよく、気づいたら「未来に所属していないのに10年も歌会に通っている」という状態になっていたので、かかわりをもって10年の記念に所属を決めました。
――一般の人から歌人になるためには、どうすればいいのでしょうか。
錦見:「角川短歌賞」「短歌研究新人賞」「歌壇賞」の3大新人賞に応募して受賞するのが一番早い気がします。歌集の賞もあるので、良い歌集を出してそれを目指すこともできます。最近は自費出版で安く歌集を作ることができますから、比較的歌人になりやすくなってきたのかなと思います。
25年前は1冊の歌集を出すのに、100万円以上費用が掛かると言われており、「歌集は一生に1冊出せるかどうか」という雰囲気だったのですが、今は1冊30万円程度からできるそうで。本当に良い時代になりました。
――なぜ最近短歌がブームになっているのだと思いますか。
錦見:まず歌集が出版しやすくなったことで歌集が手に入りやすくなり、読む人が増えたのだと思います。学校で習うような和歌のイメージとはだいぶ違いますから、今本屋さんに並んでいるような歌集を初めて読むと、こんなに新しいんだ! と驚きがあるのでしょう。先ほど挙げた3大新人賞以外の新人賞が増えたというのもありますし、最近では出版社が募集して歌集を出すという企画もあったりするので、ライト層の方が短歌に触れやすくなりました。
あとは投稿する文字数に制限があるSNSと短歌は少し似たところもあるのかなと思います。最近は特定のハッシュタグをつけて短歌を詠む――というSNSのイベントも流行していますから、興味を持っている方はぜひSNSなどから短歌に触れていただければうれしいです。
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