自分を変えるチャンスもあるー「神は見返りを求める」吉田恵輔×「空白ごっこ」セツコが明かす激動の時代の創作(2/3 ページ)

» 2022年06月23日 12時00分 公開
[斉藤賢弘ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

「“音楽で人を変えたい”という野心が全くなくて」

―― 作品の内容についてもうかがっていければ。田母神が「(若い世代の)私たちとは作る作品のセンスにズレがある」っていう厳しい言葉を食らっていたシーンがグサッと刺さりました。クリエイターにはついて回る宿命的な問題ですが、お2人はどのように捉えていますか?

吉田 ミレニアル世代やZ世代から見て、俺はもう2世代上の人間だけど、一応今も監督として走っているじゃないですか。ただ、こうした世代を意識して作品を撮っているかというと撮ってはいないんですよ。

 ※執筆者注:「ミレニアル世代」は1980年から1995年の間に生まれた世代、「Z世代」は1995年から2010年ごろに生まれた世代を一般的に指す。

 それは、「俺の感性で作っているものが、まだ受け入れられている」ということだと思いますけど、その1点がズレたときが俺の引き際だなと。「センスにズレがあるんじゃないですか?」っていわれたら、「じゃあ帰ります!」って(笑)。

 「自分のカラーと完全に同じではないけど、ちょっとだけなら合わせられる」ということができたとして、そもそもの根本姿勢がズレてきてしまったらダメですよね。

―― 裏を返すと、「まだ自分は前線でやっていけているぞ!」という自信がある?

吉田 ですね! 今の段階ではこうやって需要があるしいろいろやれてもいるから、まだ大丈夫なのかなとは感じています。もっと早く終わりが来ると思っていたんですけど。

―― セツコさんは?

吉田 Z世代でしょう?

セツコ (笑)。私の中で音楽が今のところ、生活の中心になっていますが、「音楽でどうにかしたい、人を変えたい」といった野心がもともと全くなくって。

 逆にズレていくことを意識することで音楽活動を重くしんどくさせない、「あまり深刻に考えずにやっていいんだよ」という“免罪符”になっているところがあります。

吉田 面白いですね。

時代が追い付いた「神は見返りを求める」

―― 興味深いです。……同作では「かなりきわどいこと」をやって、視聴回数を稼いでいるYouTuberたちがいました。ただ昨今では、危うさのある創作に厳しい目が向けられるようになってきていますが、現状をどう感じていますか?

吉田恵輔監督の「神は見返りを求める」 同作では炎上スレスレの行為に打って出るYouTuberも

セツコ みんなイライラしていて閉塞(へいそく)的な空気を感じます。世界がこれまでにないような状態におかれてしまっている分、今までだったらみんな心に余裕があったので、衝突するにしてもうまい落としどころを見つけられたのが、ここにきて良い部分も悪い部分も一気に浮き彫りになってきているなって。

―― そんな厳しい状況の中、どういうスタンスで創作をやっていきたいと考えていますか?

セツコ 自己満足のために創作するのだったら別に世に出す必要がないので。

 さまざまなところに配慮した上で作品を出して、それでも批判されてしまったら周囲の人の意見を聞きます。その上で、「確かにここの部分がダメだったな……」と自覚できるなら仕方ないのかなと。

―― 吉田監督はいかがでしょうか?

吉田 世間一般の話で考えると、攻撃的に排除する方向へ物事が日々進んでいるようにみえます。それはSNSがあるから可視化されたのであって、昔から多分そうだったんだろうなって。

 何かを排除する空気に対しては、「……それなら、あなたに降りかかったら、あなたの子どもに降りかかったら、どうします?」という感情を抱いているので、みんながもうちょっと別の目線に立って考えられるといいなと感じています。

 あと、「自分の発した言葉の責任はちゃんと取らないとダメだよね」とも思う。無責任な言葉を吐くっていうのは、実は相手を殴るのと変わらない可能性がありますから。

 ただ一方で、“弱者の声”のように取り入れていくべきものがちゃんと目に見えるようになった側面も今の流れにはありますよね。「自分を変えられる」チャンスもいろいろあるでしょう。言葉ひとつ取っても、「気を付けるようになろう」「もうちょっと冷静に言おう」と考えることで困る人や嫌な人は誰もいません。それは悪いことではないからです。

―― 全くその通りですね。この映画は世の中の流れとリンクしているようにも思えました。

吉田 作中に“ゴッティー”という暴露系YouTuberを出したら、似た名前の人が出てきたり(笑)。インスパイアされて撮ったと思われちゃう(笑)。

セツコ あの場面で本当にビックリしたんですよ!

吉田 時代の方が追い付いちゃった(笑)。

―― とすると、社会がこうした状況になる前に作られたんですか?

吉田 そうです。2018年ごろに脚本執筆と企画会議が始まって、2020年に撮影しているから、かれこれもう4年ぐらい前にさかのぼりますね。

―― 監督にとって同作は、“世間を写す鏡”といった思いがあるのでは?

吉田 全くです。でも、敏感に生きてると「世の中は今後こうなるだろうな」という予感がするんですよ。その中でイヤな予想を作品の形にしたくなるんですけど……。リアルになってしまうと「キツいな」と思います(笑)。

「神は見返りを求める」を作った吉田恵輔監督

(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

吉田恵輔監督の「神は見返りを求める」ティーザー

公開情報

6月24日から全国の映画館で公開

監督・脚本:吉田恵輔 企画:石田雄治 プロデューサー:柴原祐一、花田聖

主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」 挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン) 音楽:佐藤望

出演:ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、柳俊太郎(「柳」は木へんに夘)、田村健太郎、

中山求一郎、廣瀬祐樹、下川恭平、前原滉

配給:パルコ 宣伝:FINOR 制作プロダクション:ダブ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. /nl/articles/2412/14/news019.jpg ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. /nl/articles/2412/17/news163.jpg 柄本佑、「光る君へ」最終回の“短期間減量”に身内も震える……驚きのビフォアフに「2日後にあった君は別人」「ふつーできねぇ」
  4. /nl/articles/2412/17/news060.jpg 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  5. /nl/articles/2412/16/news079.jpg “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  6. /nl/articles/2412/17/news049.jpg 「品数が凄い!!」 平愛梨、4児に作った晩ご飯に称賛 7品目のメニューに「豪華」「いつもすごいなぁ」【2024年の弁当・料理まとめ】
  7. /nl/articles/2412/17/news183.jpg 「秋山さん本人がされています」 “光る君へ”で秋山竜次演じる実資の“書”に意外な事実 感動の大河“最終回シーン”に反響 「実資の字と……」書道家が明かす
  8. /nl/articles/2412/17/news144.jpg 「私は何でも編める」と気付いた女性がグレーの毛糸を編んでいくと…… 「かっけぇ」「信じられない」驚きの完成品に200万いいね【海外】
  9. /nl/articles/2412/17/news033.jpg セリアのふきんに、糸で“ある模様”を縫っていくと…… 思わずため息がもれる完成形に「美しい」「やってみます」
  10. /nl/articles/2412/16/news082.jpg これはヤバい! おでんに入れる“意外な具材”が100万再生の反響 「今度やる!」「天国はここにあった」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」