作り手の“鋼の意志”をたたえたい 「鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成」レビュー(1/3 ページ)
(たぶん)誰もスタッフとキャストに諦めろなんて言わなかった。
まずはスタッフとキャストに「お疲れ様です」と、ねぎらいの言葉をかけたい。皮肉なしで、努力が報われてほしいと心から願う。何がって、6月24日より上映されている「鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成」のことである。
何しろ、2017年公開の1作目はビジュアルの発表時点から炎上し、公開後も本編が酷評のオンパレードだった。だが、誰もが続編はないと思っていたはずの完結編の第1部「復讐者スカー」は、多くの観客から「意外と良かった」「悪くない」などと好意的に評されており、筆者も1作目の反省点を生かしてより良いものを作るため、無謀な企画に全力で挑んだ作り手の熱意を大いに感じたので、掛け値なしに支持したくなった。
そして今回の完結編の第2部「最後の錬成」を実際に鑑賞したところ、これはいい……いいじゃないか! と、一切の忖度なしに思えた。もちろん気になるところがないとは言わない(いや正直大いにある)が、原作のクライマックスを全力かつ誠実に描ききるという、作り手の熱意と愛情がスクリーンから伝わってきたし、作品としては若干の切なさも覚えつつも素直に「面白かった!」と思えたのだ。その具体的な理由を記していこう。
※以下、本編の核心的なネタバレは避けていますが、ごく一部の展開に触れています。
「1人4役」の内野聖陽を筆頭とする俳優陣の輝き
今回の「最後の錬成」のMVPは、内野聖陽ではないだろうか。第1部の「復讐者スカー」でも佇まいやしゃべり方が原作のイメージにピッタリだと称賛を浴びていたが、今回はメインキャラクターとしてラストバトルに参加しており、さらには「ヴァン・ホーエンハイム」と「お父様」の1人2役を演じていて、しかも「フラスコの中の小人」の声も務めており、さらにはお父様から変化した黒い生命体のCGも内野聖陽の動きをベースにしているという。実質「1人4役」なのだ。
少しとぼけたところがあり、息子のエドからは憎しみに近い怒りもぶつけられたりもするが、抱えている複雑な内面を少しずつ、時には大胆に見せていくホーエンハイム。それと相対する、底知れぬ闇と恐ろしさを伺わせるお父様。言われなければ内野聖陽だと気付けないほどの「無邪気さ」こそが怖くなるフラスコの中の小人の声と、あらゆる方面での内野聖陽という俳優のすごさを思い知らされた。まずは、彼のファンは必見と言っていい。
他にも1人2役を演じた俳優がいる。同じく「復讐者スカー」から続投している渡邊圭祐だ。今回の彼は、グリードというホムンクルス、いわば怪物に身体を乗っ取られそうになる役柄を熱演している。ひょうひょうとしながらも確かな信念を持つリンと、不敵で粗暴なグリードという全く違うキャラクターを演技力そのもので表現する様にも感動があった。
さらなる注目は、「復讐者スカー」には登場していなかった、オリヴィエ・ミラ・アームストロング役の栗山千明。その鋭い眼光や攻撃的なキャラクターは「バトル・ロワイアル」や「キル・ビル Vol.1」の頃の彼女をほうふつとさせながらも、成熟した大人としての威厳をも見せつけており、その近寄り難さも含め、有り体に言ってカッコ良よくて惚れ惚れとできる。一挙一動が原作のイメージそのままでもあり、「いちばん好きなタイプの栗山千明がそのままアームストロング少将に重なる」様には感動すらあった。
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