いや、これは、けっこう良いのでは……? 「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー」レビュー(1/3 ページ)
新キャストもハマりまくっていた。
けっこう良いのでは……? なんなら映画として面白かったし、原作ファンとして感動もしたぞ……!? 何がって、5月20日より公開されている実写映画「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー」のことである。
なぜなら、前作のダメだったところが軒並み目立たなくなり、反対に良かったところが前面に押し出されていたのだから。酷評オンパレードだった前作の汚名返上と呼ぶべき出来栄えであり、冗談抜きで支持したくなった。具体的なその理由を記していこう。
※以下、本編の核心的なネタバレは避けていますが、ごく一部の展開に触れています。
子役がわずかしか登場しなくなった
2017年に公開された前作「鋼の錬金術師」でどうしても擁護し難かったのは「子役のシーンが全部ひどい」ことだった。駄作とみればすぐに実写映画版「デビルマン」を持ち出す風潮は好きではないが、映画冒頭で子役2人が棒読みで話し合う様は絵面も含め「デビルマン」そっくりで頭を抱えた。中盤の幼女と遊ぶシーンもずっとスクリーンから目をそらし天井を見上げたくなった。
もちろん、問題はキャスティング担当者や演技指導にある。これは実際に演じた子役はもちろん、真剣に子役として活動している者たちにも失礼であり、世界中で子役が大人顔負けの名演をする作品が生まれている昨今に送り出す内容として、本当に恥ずかしいのでマジメに批判されて然るべきだ。曽利文彦監督作は「ICHI」(2008)や「あしたのジョー」(2011)も同じく子役の「言わせられている感」がひどすぎた。
だが、今回の続編「完結編 復讐者スカー」では子役が登場するシーンはごく少ない! 後述するそれはそれで愉快な寺田心と、戦争難民としてその背景を語る子役がいるくらいで、ほとんどノイズにならないのだ。子役の出演シーンの大幅な削減、それだけで映画としてのレベルが格段にアップしていた。
リン・ヤオ役の渡邊圭祐を筆頭とした東洋系キャラの大活躍
前作のさらなる問題点は、大前提として「キャストが全員日本人という時点で無理があった」ことだろう。
原作マンガはヨーロッパ系をはじめ国際色豊かな見た目のキャラが多いため、髪を金髪にしたり、服装を再現したり、どれだけ豪華なキャストを集め熱演をしたとしても、単純に見た目の違和感、言ってしまえばコスプレ感が気になってしまう。2.5次元ミュージカルなどでは観客のリアリティーラインが少し下がるので良いのだが、「信じられる作品内世界」の構築が必要な映画では大きな問題となってしまうのは致し方ないだろう。
だが、今回はその違和感はかなり後退している。単純に「慣れた」ということもあるかもしれないが、今回はリン・ヤオ役の渡邊圭祐、ランファン役の黒島結菜、フー役の筧利夫と、実力のある日本人俳優が東洋系のキャラクターに扮し大活躍しており、いずれも文句なしにハマっているからだ。
中国人のキャラを日本人が演じた実写映画版「キングダム」もおおむね好評であったし、今回のキャスティングも多くの人が称賛するのではないか。メイ・チャン役の中国人モデルのロン・モンロウがカタコトで話す様は賛否があるかもしれないが、個人的には許容範囲だ。
メインの敵キャラであるスカー役の新田真剣佑も(実際は母も父も日本人であるが)整った顔立ちから多国籍な印象を持つのであまり違和感はなく、何より復讐にとらわれた男をこれ以上はないほどに熱演していた。
キング・ブラッドレイ役の舘ひろしや、キンブリー役の山田裕貴の本格的な活躍はまだまだこれから、6月24日公開の「完結編 最後の錬成」のほうに期待という印象もあるが、今回だけでもそのカッコよさと、そこはかとなく放つ狂気に酔いしれるファンはいるだろう。
筋肉量がわずかに足りないが感動を与えてくれる山本耕史
突然だが、現在公開中の「シン・ウルトラマン」は、おおむね好評である反面、さまざまなポイントで賛否両論も呼んでいる。しかし、ほぼ全会一致で絶賛されているのが、山本耕史のハマりぶりだ。「本心を話しているんだろうけどぜんぜん信用ならない」「地球になじんでいるけど人外な雰囲気を放ち続けている」うさんくさい役への説得力が半端ではなかったのだから。
その「シン・ウルトラマン」の山本耕史が大好きな方は、今回のルイ・アームストロング役の山本耕史にも大興奮すること必死である。意外にも口髭が似合っているし、その話し方や雰囲気、すぐに脱いで筋肉を見せる様も、アニメで見たアームストロング少佐役そのまんまで、なんなら感動すらした。
しかも山本耕史はマッチョとしても有名であり、その肉体美も生かされているのだからたまらない。とはいえ、山本耕史の鍛え上げた肉体でも、さすがに原作のアームストロング少佐の現実離れした筋肉量には届いてはいない。だが、文句なしに再現するのだったら、日本人であれば他には鈴木亮平くらいしかいないし、それこそドウェイン・ジョンソンやハルク・ホーガンレベルじゃないと無理だと思うので、この程度の筋肉量の違いは誤差の範囲内だ。
ブックオフのCMに匹敵する煽りスキルを発揮する寺田心
前述した通り今回は東洋系のキャラがメインで活躍しており、それぞれの俳優も熱演しているのだが、その反面、前作の「急にただの大泉洋や國村隼が出てくる」ようなおもしろポイントが後退したような寂しさもある。しかしながら、国民的な子役である寺田心がやってくれた。
彼もやっぱり曽利文彦監督らしい、わざとらしい演技の演出をされているので、普通に考えればキツいはずなのだが、山田涼介演じるエドワード・エルリックの低身長を笑顔でなじるシーンは面白かった。ブックオフのCMの「ブックオフなのに本ねぇじゃん!」に匹敵する煽りスキルが、存分に発揮されていたのだから。
しかも、寺田心演じるセリム・ブラッドレイは「ある本心を隠している」キャラクターでもある。だから、このわざとらしい子ども然とした印象もハマっていると言えなくもない。
アクションならびにCGとVFXの素晴らしさ
キャストのことばかりに触れてきたが、今回の「完結編 復讐者スカー」は原作を再構成したマンガの映画化作品としても、一本の映画作品としても、存分に面白い内容に仕上がっていたと思う。アクション描写も今回はかなり良いのだ。
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