ニュース
» 2023年03月09日 12時01分 公開

画像生成AIで描かれた『サイバーパンク桃太郎』、実験的な漫画制作から見えたこと Rootportインタビュー(1/3 ページ)

『サイバーパンク桃太郎』誕生秘話。

[西尾泰三ねとらぼ]

 画像生成AI「Midjourney」を使って作られたフルカラーコミック『サイバーパンク桃太郎』が、新潮社から3月9日に発売されます。

『サイバーパンク桃太郎』著者Rootportインタビュー 画像生成AI「Midjourney」を使って作られたフルカラーコミック『サイバーパンク桃太郎』

 OpenAIによるDALL・E2の他、Midjourney、Stable Diffusionなどが登場し、画像生成AIへの注目がひときわ高まった2022年。『サイバーパンク桃太郎』は、『ドランク・インベーダー』『神と呼ばれたオタク』『女騎士、経理になる。』などの作品でも知られるRootportさんがTwitterで2022年夏に発表して話題になったSF作品です。

 画像生成AIが注目を集め、小説の挿絵をMidjourneyで生成するなど活用が進んでいく中、Rootportさんは漫画制作にMidjourneyを活用。誰もが知る童話「桃太郎」をベースに、画像生成AIを使って描かれた漫画は大きな話題を呼びました。

 以下では、作者のRootportさんにインタビュー。実験的な漫画制作への思いや反響、そこから見えてきた可能性などについて聞きました。

「こんな光景を目にしたのは初めて」――思いがけない反応

―― 『サイバーパンク桃太郎』を発表し、最も印象的な反応はどういったものでしたか?

Rootport まずは渾身(こんしん)の一発ネタで書いた『DONG BRA KO』を、たくさんの読者さんに笑ってもらえてうれしいです。大変光栄なことに、Twitter上の反応は“絶賛の嵐”でした。

 これほどたくさんの読者の目に触れていながら、感想の9割以上が褒め言葉で、批判的なものは数えるほどでした。その批判ですら「こうすればマンガとしてもっと良くなる」という建設的なものばかり。長くインターネットで遊んできましたが、こんな光景を目にしたのは初めてです。

―― 『サイバーパンク桃太郎』の投稿期間中は、どんな思いで取り組まれていたのでしょうか。

Rootport 『サイバーパンク桃太郎』の投稿期間中は、2つの言葉をずっと胸中で繰り返していました。

 1つは「これは“絵”ではない、物語を伝えるための“記号”だ」というもの。もう1つは、マーク・ザッカーバーグ氏のものとされる「Done is better than perfect.(完璧よりもまず終わらせろ)」という言葉です。

 画像生成AIは、人間の漫画家のように「そのシーンにぴったりの一枚」を描けるわけではありません。マンガに使用する場合には、必ずどこかで妥協が必要で、ときには「ストーリーが伝わればいい」という割り切りも必要でした。

 一方で、画像生成AIは「そこそこな品質の画像」を「高速で大量に生産すること」が得意です。よって、あらかじめ喜怒哀楽の表情をそれぞれ数百枚ずつ「素材」として生成しておき、シーンに適した表情を選んで貼り付ける……というマンガの作り方が可能になります。これはAIならではの制作手法でしょう。

『サイバーパンク桃太郎』著者Rootportインタビュー
『サイバーパンク桃太郎』著者Rootportインタビュー
『サイバーパンク桃太郎』著者Rootportインタビュー いいセンスだ

「AIで作画」は当たり前に?

―― 画像生成AIの画力を上げるために、どういった創意工夫がありましたか?

Rootport 『サイバーパンク桃太郎』は、Midjourneyの「Ver.3」で描かれています。このバージョンでは、人物画はバストアップになりがちで複雑なポーズは描けず、さらに「手」を描くのは不可能でした。まして全身像を描かせようとすると、顔がぐちゃぐちゃに崩れてしまうものでした。

 本作はこうした制約の下で、どうにか読めるものにしようと知恵を絞りながら組み立てました。したがって、創意工夫は生成AIの画力を上げることではなく、生成された画像を「CLIP STUDIO」でまとめる過程において必要でした(編注:CLIP STUDIO:マンガ制作の現場で普及している画像編集ソフト)。

『サイバーパンク桃太郎』著者Rootportインタビュー
『サイバーパンク桃太郎』著者Rootportインタビュー 桃太郎と書いてピーチ・ジョン。最高かよ

―― Midjourneyで生成した画像を漫画にしたケースは、海外だと『Zarya of the Dawn』があります。こちらは米著作権局がイラストの著作権を認めない見解を出しましたが、Rootportさんはこれをどのように見ましたか?

Rootport 『Zarya of the Dawn』のニュースを見て、「AIを使用した画像は全て著作権を認められない」と受け止めている方もいますが、それは間違いです。まず、あくまでも米国著作権局(USCO)の判断で、裁判所の司法判断ではない点に注意が必要です。

 また、あのケースは、修正があまりに軽微な画像にはカシュタノバ氏の創作的寄与が認められなかったというものです。言い換えれば、カシュタノバ氏が描いたというよりも、Midjourneyが描いたと呼ぶ方がよいような画像に、著作権が認められなかったわけです。

―― いわばMidjourneyから「取って出し」されたに過ぎない画像だと。

Rootport そうですね。『サイバーパンク桃太郎』は「AIで作画したこと」を宣伝文句にしています。しかし、これが成立するのは、2023年3月という今のタイミングが最後でしょう。早ければ1年後、遅くとも3年以内には、作画補助にAIを利用することは「当たり前」になっているでしょうから。わざわざ表立って「AIを使いました」と誰も言わなくなるし、言うメリットもなくなるでしょう。

 誰もがAIを使うのが当然になった時代――それはごく近い将来ですが――には、現在の著作権をめぐる議論にも、何かしらの合意や結論が生まれていると思います。

―― 「LoRA」「ControlNet」など『サイバーパンク桃太郎』制作時にはなかった実装も登場しています。こうした動きはどう見ていますか? それらを用いた創作の予定はありますか?

Rootport 半年前に投稿した『サイバーパンク桃太郎』は、今見ると「試作レベル」のものでした。LoRAやControlNetの登場により、画像生成AIは「現場で使いものになるレベル」に到達したと感じます。ただし、重要な点として、LoRAやControlNetは通過点でしかありません。半年後には、より便利な機能が実装されているでしょう。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/08/news180.jpg ミス東大の水着グラビアデビューに「東大まで行って」と失望の声 本人&現役グラドルも加わるネット論争に
  2. /nl/articles/2312/08/news148.jpg DAIGOの姉・影木栄貴、ノーメイク姿の姉弟ショットで美形ファミリーぶり際立つ 「目元瓜二つ」「すっぴんでも綺麗」
  3. /nl/articles/2312/09/news008.jpg ゲーム中も寝るときも……大好きなママから片時も離れない元野良ネコ 無防備すぎる寝顔が本当の子どものよう
  4. /nl/articles/2312/09/news030.jpg 飼い主、猫ちゃんの様子を見に行くとPCの前に座っていて……? 衝撃の展開に「独学で学んだ…?」「見なかったことにw」
  5. /nl/articles/2312/08/news013.jpg 愛猫が息を引き取る直前「ありがとう、楽しかったよ」と声を掛けたら…… 家族みんなが久々に集った夜の奇跡に涙
  6. /nl/articles/2307/04/news021.jpg 息子に「ラーメンでも適当に作って食え」→男子高校生らしい自作ランチが「天才」「ヨシ!」と大好評
  7. /nl/articles/2312/08/news109.jpg 小木博明の妻、52歳のサプライズ誕生日会に「負荷などありましたが嬉しくて」 “母”ら豪華メンバー集結に「みなさんいい笑顔」「ハッピーで最高」
  8. /nl/articles/2312/09/news012.jpg 12歳のシニアワンコをドッグランに放ったら…… 目を疑う脚力にびっくり「カメラが追いつけない」「愛されてるんだなぁ」
  9. /nl/articles/2312/09/news002.jpg 「ちいかわ」知らない母が“ガチャ”挑戦→「変なの出てきた」と思わず泣き顔…… 珍エピソードに「笑った」
  10. /nl/articles/2312/05/news140.jpg どこの温泉地に行くか迷ったら…… 「行きたい温泉が見つかるチャート」が参考になると話題に
先週の総合アクセスTOP10
  1. オール巨人、30年モノな“伝説の1台”に自負「ここまでキレイな車はない」 国産愛車の雄姿に称賛の声「気品がある」「凄くエレガント」
  2. 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
  3. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  4. 田中みな実、“共演した姉”の存在に反響「居るとは聞いていたけど」「激似やなぁ」 すらっとしたたたずまいに「品のあるお方」
  5. 藤本美貴、“全然かわいくない値段”のテスラにグレードアップ スマホ一つでの注文に「震えちゃ〜う!」
  6. マックで「プレーンなバーガーください」と頼んだら……? 出てきた“予想外の一品”に驚き「知らなかった」
  7. 伊藤沙莉、“激痩せ報道”の真相暴露→広瀬アリスの株が上がってしまう 「辱めったらない」告白に「アリスちゃん、ええ人や〜」
  8. 「あなたは日本人?」突然送られてきた不審なLINE、“まさかの撃退方法”に反響 「センス良い」「返しが秀逸」
  9. “鬼ダイエット”で激やせの「Perfume」あ〜ちゃん、念願の姿に「着れる日が来るなんて」と大喜び
  10. 900万再生のワンコに「電車で笑ってしまった」「つられてめちゃくちゃ笑っちゃうw」 “突然魔王になった犬”に腹を抱える人続出
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」