画像生成AIで描かれた『サイバーパンク桃太郎』、実験的な漫画制作から見えたこと Rootportインタビュー(1/3 ページ)
『サイバーパンク桃太郎』誕生秘話。
画像生成AI「Midjourney」を使って作られたフルカラーコミック『サイバーパンク桃太郎』が、新潮社から3月9日に発売されます。
OpenAIによるDALL・E2の他、Midjourney、Stable Diffusionなどが登場し、画像生成AIへの注目がひときわ高まった2022年。『サイバーパンク桃太郎』は、『ドランク・インベーダー』『神と呼ばれたオタク』『女騎士、経理になる。』などの作品でも知られるRootportさんがTwitterで2022年夏に発表して話題になったSF作品です。
画像生成AIが注目を集め、小説の挿絵をMidjourneyで生成するなど活用が進んでいく中、Rootportさんは漫画制作にMidjourneyを活用。誰もが知る童話「桃太郎」をベースに、画像生成AIを使って描かれた漫画は大きな話題を呼びました。
以下では、作者のRootportさんにインタビュー。実験的な漫画制作への思いや反響、そこから見えてきた可能性などについて聞きました。
「こんな光景を目にしたのは初めて」――思いがけない反応
―― 『サイバーパンク桃太郎』を発表し、最も印象的な反応はどういったものでしたか?
Rootport まずは渾身(こんしん)の一発ネタで書いた『DONG BRA KO』を、たくさんの読者さんに笑ってもらえてうれしいです。大変光栄なことに、Twitter上の反応は“絶賛の嵐”でした。
これほどたくさんの読者の目に触れていながら、感想の9割以上が褒め言葉で、批判的なものは数えるほどでした。その批判ですら「こうすればマンガとしてもっと良くなる」という建設的なものばかり。長くインターネットで遊んできましたが、こんな光景を目にしたのは初めてです。
―― 『サイバーパンク桃太郎』の投稿期間中は、どんな思いで取り組まれていたのでしょうか。
Rootport 『サイバーパンク桃太郎』の投稿期間中は、2つの言葉をずっと胸中で繰り返していました。
1つは「これは“絵”ではない、物語を伝えるための“記号”だ」というもの。もう1つは、マーク・ザッカーバーグ氏のものとされる「Done is better than perfect.(完璧よりもまず終わらせろ)」という言葉です。
画像生成AIは、人間の漫画家のように「そのシーンにぴったりの一枚」を描けるわけではありません。マンガに使用する場合には、必ずどこかで妥協が必要で、ときには「ストーリーが伝わればいい」という割り切りも必要でした。
一方で、画像生成AIは「そこそこな品質の画像」を「高速で大量に生産すること」が得意です。よって、あらかじめ喜怒哀楽の表情をそれぞれ数百枚ずつ「素材」として生成しておき、シーンに適した表情を選んで貼り付ける……というマンガの作り方が可能になります。これはAIならではの制作手法でしょう。
「AIで作画」は当たり前に?
―― 画像生成AIの画力を上げるために、どういった創意工夫がありましたか?
Rootport 『サイバーパンク桃太郎』は、Midjourneyの「Ver.3」で描かれています。このバージョンでは、人物画はバストアップになりがちで複雑なポーズは描けず、さらに「手」を描くのは不可能でした。まして全身像を描かせようとすると、顔がぐちゃぐちゃに崩れてしまうものでした。
本作はこうした制約の下で、どうにか読めるものにしようと知恵を絞りながら組み立てました。したがって、創意工夫は生成AIの画力を上げることではなく、生成された画像を「CLIP STUDIO」でまとめる過程において必要でした(編注:CLIP STUDIO:マンガ制作の現場で普及している画像編集ソフト)。
―― Midjourneyで生成した画像を漫画にしたケースは、海外だと『Zarya of the Dawn』があります。こちらは米著作権局がイラストの著作権を認めない見解を出しましたが、Rootportさんはこれをどのように見ましたか?
Rootport 『Zarya of the Dawn』のニュースを見て、「AIを使用した画像は全て著作権を認められない」と受け止めている方もいますが、それは間違いです。まず、あくまでも米国著作権局(USCO)の判断で、裁判所の司法判断ではない点に注意が必要です。
また、あのケースは、修正があまりに軽微な画像にはカシュタノバ氏の創作的寄与が認められなかったというものです。言い換えれば、カシュタノバ氏が描いたというよりも、Midjourneyが描いたと呼ぶ方がよいような画像に、著作権が認められなかったわけです。
―― いわばMidjourneyから「取って出し」されたに過ぎない画像だと。
Rootport そうですね。『サイバーパンク桃太郎』は「AIで作画したこと」を宣伝文句にしています。しかし、これが成立するのは、2023年3月という今のタイミングが最後でしょう。早ければ1年後、遅くとも3年以内には、作画補助にAIを利用することは「当たり前」になっているでしょうから。わざわざ表立って「AIを使いました」と誰も言わなくなるし、言うメリットもなくなるでしょう。
誰もがAIを使うのが当然になった時代――それはごく近い将来ですが――には、現在の著作権をめぐる議論にも、何かしらの合意や結論が生まれていると思います。
―― 「LoRA」「ControlNet」など『サイバーパンク桃太郎』制作時にはなかった実装も登場しています。こうした動きはどう見ていますか? それらを用いた創作の予定はありますか?
Rootport 半年前に投稿した『サイバーパンク桃太郎』は、今見ると「試作レベル」のものでした。LoRAやControlNetの登場により、画像生成AIは「現場で使いものになるレベル」に到達したと感じます。ただし、重要な点として、LoRAやControlNetは通過点でしかありません。半年後には、より便利な機能が実装されているでしょう。
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