四肢の大部分を失った英国人男性は、なぜ車椅子&義手でエチオピア最高峰にチャレンジしたのか
ロンドン・インディペンデント映画祭で上映された「Alex Lewis: Mountain」を紹介します。
新人監督に映画制作の土台を築く機会を提供するため、監督1作目、2作目の作品を上映するロンドン・インディペンデント映画祭が4月14日から23日(現地時間)にかけてイギリスで開催。こちらの記事では、オープニング上映された、サイモン・ラティガン監督の「Alex Lewis: Mountain(アレックス・ルイス: マウンテン)」を現地の登壇コメントとともに紹介します。
四肢を失った男性が命をかけた挑戦へ
コマーシャル映像を専門にしてきたラティガン監督の監督映画1作目となる同作は、アレックス・ルイスが車椅子と義手でエチオピアの最高峰ラスダシャン(4550メートル)に挑む様を追ったドキュメンタリーです。
2013年11月、アレックスは倒れ、ウィンチェスター病院に運ばれました。彼は当時33歳のパブ・オーナーで、パートナーと3歳の息子がいました。はじめは、のどの痛みなど風邪のような症状でした。それが意識を失ってから2〜3時間のうちに臓器を機械につないでサポートしなくてはいけない状態に。溶血性連鎖球菌による毒素性ショック症候群です。
生存率3%以下という最初の3日間を脱し、何とか一命はとりとめましたが、両足の腿から下、右腕の肘から先、左腕の肩下から先と、顔の一部をなくし、1年間、手術とリハビリを重ねました。
しかし、アレックスのチャレンジはそこでは終わりませんでした。人生を変えた病を、信じられないほどポジティブに受け止めます。「それは自分を、父親であること、パートナーであること、人間であることについて、これまでとは違う考えにさせました」と表現しています。
アレックスはパブを営んでいた頃を「僕はアル中でした」と振り返ります。それが、退院してから数年後には、車椅子開発、またさまざまなチャリティーへの協力や、自分の体験と気付きについての講演など、精力的に活動。そして2019年10月、ラスダシャンに挑むことに。
もちろん単独ではなくチームで。準備にも時間が要ります。アレックスが先をフックのようにした義手を使いボルダリングで訓練する一方、技術チームにより太陽光エネルギーを取り入れ力強く進む手動車椅子の開発が進められます。
それでも、車椅子が使える場所は限られます。使えないところでは、ボルダリングの成果を発揮。義手で岩をつかみながら登ります。当然、生身の体にも負担がかかり、映画では、擦れて血がにじむ足の切断面に軟膏を塗りこむ様子も出てきます。
最後の切り立った岩壁は、義手でつかめるようなものではなく、アレックスは体にロープを巻き、先に登ったチームに引き上げてもらいます。まさに命をチームに預けての登頂でした。
映画への思いを語るアレックス
上映後、ラティガン監督とアレックスが観客の質問に答えました。制作費を問われると、監督は「ゼロです」と即答。2年かけて仕上げた監督はじめ、みなが無償、ボランティアで働いたようです。
またアレックスは、映画の感想を「とても感慨深いです」とし、ラスダシャン・チャレンジ、そして映画制作を支えた人々への熱い思いを述べた後、「そして息子が、僕がこの全てをした理由です。彼が僕の原動力です」とかみしめるように語りました。
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