夏休みに読みたい“クマのウンコ”採集エッセイ のべ3000個のウンコを集めたウンコソムリエ研究者が教えるすごいウンコ、人生が面白くなるヒントとは
クマと人間、共存のカギは“ウンコ”にあり?
集めたウンコの数は3000個以上――日本のツキノワグマ研究の第一人者、東京農工大大学院教授・小池伸介先生(以下、小池先生)の新刊『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら〜ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記』が7月10日に発売されました。
本書は25年にわたってウンコを拾い続けた小池先生の数奇な研究人生や、凶暴なイメージを覆すかもしれないクマの本当の姿を語る自然科学エッセイ。小池先生がこれまでに拾ったウンコの数は、論文になったクマのウンコだけで2580個、論文にならなかったものや他の動物のものを合わせるとゆうに3000個を超えるといいます。
小池先生の研究は、野生のクマの生息地におけるフィールドワーク(※)がメイン。獣道を分け入りウンコに目を光らせた学生時代や、断崖絶壁をよじ登りクマを追跡する日々、時には返り討ちに遭ってしまった(!?)エピソードなど、体を張ったこれまでの研究人生をユーモアたっぷりに振り返ります。
※研究テーマに即した場所を実際に訪れ、観察や調査、採取など、学術的に客観的な成果を挙げるための調査技法
また本書では、ウンコの中身を分析する「糞分析」によって見えてきたクマの知られざる生態や、森林全体においてクマが果たしている重要な役割なども紹介。小池先生がこれまでに出会った強烈なキャラクターのクマや、“ハニー”トラップに弱く、実は寝てばかりといった意外な一面、“森のお宝”であるクマのウンコの魅力を語り尽くします。
ねとらぼ生物部では今回、著者の小池先生にインタビューを実施。印象に残っているすごいウンコやクマの知られざる生態、人生が面白くなるかもしれないメッセージなど、たくさんの楽しいお話をうかがいました。
――本書で紹介されているのウンコのたくましい見た目や、意外なにおいのエピソードに驚かされました。3000個以上のウンコを拾った中で、この他に印象に残っているウンコがあれば教えてください。
小池先生:ズミやツツジの花を食べたときのウンコは蜂蜜のような甘い良い匂いがしました。また、ツキノワグマは春先にササの新芽をよく食べるのですが、この時のウンコはササ茶の出がしらと同じような良いにおいでした。
一方で、糞の中からクマの毛と小さな爪が出てきたこともあります。おそらく、オスが子殺しをした後に、子熊を食べたときのウンコと思われます。ウンコを通じて、クマの繁殖期の厳しさを感じたこともありました。
また、クマがドングリを食べるときに、丁寧に殻を外して食べるクマとそのままバリバリ食べるクマがいることもウンコから分かりました。つまり、かみ砕かれた殻がいっぱいあるウンコと、粘土上のきれいなウンコがあるということです。こういったクマの個性を感じることができたのも、ウンコを通じた学びです。
――野生のクマが食べるものはほとんど全て試食されたそうですが、「クマってグルメだな」と思った食べ物があれば教えてください。
小池先生:クマはアリのさなぎ、特に大きな女王アリのさなぎが好きなのですが、試しに食べてみると意外とクリーミーで美味でした。これは、クロスズメバチのさなぎも同じくでした。
春先に彼らが食べる葉っぱはどれも柔らかく、いやな後味もなかったですね。テンナンショウ(自然毒のリスクがある高等植物)以外はどれも食べられましたが、彼らが食べていない木の葉っぱはえぐくて、おいしくなかったです。
また、数日前までにクマが滞在していた場所を捜索した際、きれいに赤くなったキイチゴだけが一粒ずつ取られ、まだ熟していない緑色や黄色のキイチゴだけが残っている光景を見たときは「やるな」と思いました。
――本書を通じてウンコとの出会いは喜ばしいことであることを知りました。われわれ一般人が実際に「ある日、森の中でクマさんのウンコに出会った」場合に、“喜ぶ”以外にすべき行動があれば教えてください。
小池先生:書いておいてなんですが、まずはその場を立ち去ったほうがいいです。ウンコが新鮮であればあるほど近くにクマがいる可能性がありますし、ウンコがあるような魅力的な場所(食べ物を探したり、休んだりする場所)は、他のクマもいる可能性がありますので。
その場で感傷に浸る気持ちも分かりますが、ひとまず本に書いた方法でジップロックで採取して、安全な場所でにおいをかぎ、中をじっくり見たり、棒でいじくったりすることをおすすめします。そのためには、かばんには糞拾い用の“厚めのジップロック”を入れておくといいでしょう。
――研究に熱心ではなかったという小池先生がたくさんの方と関わり、フィールドワークを主にした研究の道をまい進、今ではツキノワグマ研究者になられたことに人生の面白さを感じました。現在学生の人、将来について悩む人にメッセージがあれば教えてください。
小池先生:まじめな学生ではなかったのでおこがましいのですが、まずはその時(例えば20歳前後)でしかできないことを楽しむのがいいと思います。先のことを考えるだけでは何かが変わるわけでもないので、まずは今を楽しみ、やってみたいことがあればやることですかね。
将来はいくらでも変わる可能性を秘めているし、何かをしたいなら、何かをする以外はないですからね。また、何かをするにしても、きちんと成果を出していけば誰かがその姿を見ていてくれるはずなので、中途半端にならずにやり通すことが大事なのかなと、今にして思います。
何かに悩んだときは、人間の人生に比べてはるかに長い、悠久の時間をかけて出来上がってきた森へ行き、身を置くといいかもしれません。「自分の悩みはなんてちっぽけなんだ」と思うことが、私自身はよくありました。ちなみに私は林床に寝転がり、林冠を見ながら昼寝などをしていました。時々シカが近づいてきてびっくりすることもありますが。
……ですので、何かに悩んだら森へ行きましょう! 人間の小ささ、悩みの大したことのなさに気付いたり、場合によっては良い解決策が浮かんだりするかもしれません。
(了)
“不真面目な学生だった”という小池先生が、ツキノワグマ研究の第一人者として現在に至るまでの経緯や葛藤、クマのチャーミングな生態を明かしながら、人とクマの共存のカギを探っていく『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら〜ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記』。価格は1650円、四六判288ページ、各書店やAmazonなどで販売中です。
(三日月 影狼)
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