「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」レビュー 資本主義社会で大人が忘れがちな大切なメッセージ(1/2 ページ)

行き過ぎた「成果主義」の問題も描かれる。

» 2023年11月12日 21時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」が11月10日より劇場公開中だ。2019年公開の第1作も大きな評判となったが、今回は3作目にして最高傑作との声が多く届いている。Filmarksの初日満足度ランキングは、あの「ゴジラ-1.0」を超えて1位となった。

「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」レビュー 資本主義社会で大人が忘れがちな大切なメッセージ 「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」本ポスター

 見ればその評価の高さも納得。子どもが楽しめるのはもちろん、この資本主義の社会で大人こそが大切なことを学べる、そしてポロポロと涙がこぼれる誠実な「お仕事映画」だったのだ。その理由を記していこう。

「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」本予告

すみっコたちが得意なことを生かして働き始めるけど……?

 あらすじは、「つぎはぎだらけの古い工場にやってきたすみっコたちが、“くま工場長”にさそわれておもちゃ作りをはじめる」というもの。まず見ていて楽しいのは、すみっコたちそれぞれの得意なことを生かしての仕事だ。

「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」レビュー 資本主義社会で大人が忘れがちな大切なメッセージ 画像は本予告より。くま工場長は理想の経営者に思えるが……?

 例えば、しろくまは器用な手先を生かしてミシンを担当。ぺんぎん?は得意の観察力で虫眼鏡での検品、といった具合。とかげは初めこそ布を切る作業を失敗してしまったとおもいきや、くま工場長からは「はじめてにしてはうまい!」という言葉をかけてもらっていて、「褒めて伸ばす」ことの大切さも思い知らされる。

「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」レビュー 資本主義社会で大人が忘れがちな大切なメッセージ 画像は本予告より。みんなでの企画会議も楽しそう。

 その後もすみっコたちは楽しく仕事を続けて、平和で楽しい時間が流れていく……はずだったのだが、次第に不穏な空気が漂い始める。くま工場長はなぜか焦りだし、おもちゃの「生産数」を過剰に求めてしまい、行き過ぎた「成果主義」の価値観に染まってしまうのだ。

ちょっぴりホラー、そしてハリウッド顔負けのサスペンスアクションへ

 つまり、「楽しいはずの仕事場がブラックに突き進んでいる」ことが分かるので、働いた経験がある大人こそがゾッとするというわけだ。毎日の生産数のノルマに急にとんでもない数字が表示される場面や、とある事実が明らかになる様は、ほぼほぼホラーと言ってもいい(とはいえ、子どもが泣いて怖がるようなものでもない)。

「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」レビュー 資本主義社会で大人が忘れがちな大切なメッセージ 画像は本予告より。とかげにいきなり大量の布が届けられて……。

 もちろん、すみっコたちに過剰労働を課すだけでこの物語が終わるわけがない。そこからは工場からの脱出と、はたまた外部と連絡し状況の改善を図るための計画が進行する、ハラハラドキドキのサスペンスとなるのだから。さらに、ハリウッド映画顔負けのカッコいい演出も生きた、派手なカーアクションまで飛び出す。

「映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」レビュー 資本主義社会で大人が忘れがちな大切なメッセージ 画像は本予告より。追いかけてくるのはいったい……!?

 わずか70分の上映時間で、初めはすみっコたちが楽しく仕事をしている様を描き、ちょっとだけホラー的な雰囲気になったと思っていると、いつの間にかハラハラドキドキの脱出サスペンスアクションまで展開する。小さなお子さんでも飽きずに楽しめる、次々にジャンルが変わっていくエンタメ作品として申し分のない内容というわけだ。

すみっコぐらしの精神にリンクする、やさしいメッセージ

 劇中ではメインのすみっコたちが工場で働く物語と並行して、しろくまが夢で見ている過去の記憶も語られている。見ている間はこの2つはまったく関係のないようにも思えるが、もちろんそこにこそ「仕掛け」が施されている。「つながった」瞬間に、身震いするほどの感動があったのだ。

 そこで提示されるのは、資本主義の世の中で働いてきた大人こそが忘れがちな、「仕事で1番うれしいこと、大切なこと」に関するメッセージ。同時に、映画「トイ・ストーリー」や「バービー」にも通ずるおもちゃの意義や可能性を示すことに成功している。

 さらに、そのメッセージは、「すみっコぐらし」というコンテンツのコンセプトそのものにもリンクしている。

 例えば、すみっコたちは「しろくまなのに寒いのが苦手」「ねこは気が弱くて恥ずかしがり屋」といったように、「他とはちょっと違う個性」を持っていて、それはコンプレックスにも思える一方で、「あなたはそのままでいい」と心から思えるすみっコたちのかわいらしさやけなげさでもあり、最も共感できる部分でもあるという構図がある。

 とあるキャラクターへの「救い」をもってして、その「すみっコぐらし」の精神を見事にすくい上げたときに、筆者はつい涙をこぼしてしまった。それは働いた経験のある、これから働く大人にとって福音となるものでありつつ、押し付けがましくなく「その人らしさ」や「与えられた役割以外のこと」を尊ぶ多様性の素晴らしさを説いた、教育上の観点からも素晴らしいものだった。

 そもそも、ほのぼのとしてやさしい世界観のすみっコぐらしと、仕事(労働)という物語の発端は、かなり相反する要素とも思える。実際に劇場パンフレットには脚本家の角田貴志がまさにそのことを心配していたと書かれているのだが、だからこそ制作チームが真摯に物語に向き合い、ここまでの作品が生まれたことも分かる。

 そして、本作は何よりも映画館で、エンドロールの最後まで見届けてほしい。劇場にいるみんなで最後まで一緒に見てこそ感動できる、さらなる仕掛けが用意されているのだから。

たぴゅーむ「すみっコディスコ」

この秋は「お仕事映画」が大充実!

 最後に、この2023年の秋に、優れた「お仕事アニメ映画」が、この「映画 すみっコぐらし」の他にも同時期に劇場で上映されているというミラクルが起こっているので、それぞれ簡単に紹介しておこう。

「駒田蒸留所へようこそ」

 「駒田蒸留所へようこそ」は、「花咲くいろは」「SHIROBAKO」などの制作会社P.A.WORKSによる“お仕事シリーズ”最新作。経営難の蒸留所の女性社長と、やる気のないニュースサイトの男性記者が出会い、ぶつかり合いながらも共に成長するドラマが描かれる。早見沙織の儚さと芯の強さのある声の演技で耳がずっと幸せ。

映画「駒田蒸留所へようこそ』」主題歌「Dear my future」(駒田琉生/CV.早見沙織)スペシャルMV

「北極百貨店のコンシェルジュさん」

 「北極百貨店のコンシェルジュさん」は、同名漫画が原作。お客さんが全て動物という不思議な百貨店でコンシェルジュとして働き始めた新人のお姉さんが主人公で、コロコロと表情を変えたり、「動物そのまま」に思えるキャラクターの動きがとても愛らしく、老若男女が楽しめる。終盤にはあっと驚く秘密も明かされる。

映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」主題歌PV Myuk「Gift」Produced by tofubeats

 どちらも別ベクトルで、「自分も今の仕事をもう少しがんばってみようかな」と思うことがきっとできる、とても誠実な作品なので、ぜひ合わせて見てみてほしい。

ヒナタカ

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news174.jpg 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  2. /nl/articles/2404/26/news154.jpg 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/12/news174.jpg 築年数不明の平屋にある、ボロボロ床板をはがしてみたら…… 発覚したヤバい事実に「ビックリ!」「大丈夫でしたか?」心配と驚きの声
  5. /nl/articles/2404/26/news022.jpg ママの足にくっつく生後7カ月の赤ちゃん、甘えてるのかと思いきや…… 計算された行動と「ちいこい後ろ姿がかわいすぎ」て目が離せない
  6. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  7. /nl/articles/2404/25/news069.jpg “作画軽減ガンダム”をガンプラで作成 → 使用パーツも最小限の再現ぶりに「完全に一致」「部品軽減ガンダム」
  8. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  9. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  10. /nl/articles/2404/26/news024.jpg 0歳赤ちゃん「(ママ来たっ!)」→喜びが抑えきれなくて…… 尊すぎるダンスが300万再生「心が浄化されていく」「朝から癒やされました」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」