【大人の学び直し】ゾウの鼻はなぜ長い? 仲間の死を悲しむ知的生物・ゾウの意外と知らない進化の不思議(1/2 ページ)

寝る前にじっくり見たい。

» 2023年11月27日 19時00分 公開
[土屋真理菜ねとらぼ]

 ゾウの鼻が長い理由を分かりやすく解説した動画がYouTubeで注目を集めています。動画は記事執筆時点で2万4000再生を超え、「生き物って不思議」「面白い進化」といった声が寄せられています。投稿者は、サイエンスライター兼イラストレーターの北村雄一さん。奇跡とも呼べる進化の過程と、意外と知らない“長い鼻”の秘密に思わずうなります。

ゾウの鼻はなぜ長い? 地球の歴史 その50 鼻を操作器官にすることで準知的生物に至ったゾウ。彼らはどのようにして鼻を伸ばしたのか?その進化を探ります。
象の鼻 これなら分かりやすい! とても面白く、ためになる解説です

4足歩行のまま進化することができたゾウ

 ゾウの鼻はなぜ長いのでしょう。まずは、ゾウを含む脊椎動物の進化を探っていきます。脊椎動物および、知的生物である人間とオウムは、それぞれ前足、または後ろ足を“手”として扱えるよう進化しました。これは4足のうち2足を“手”に転用する必要があったためといわれています。

 ところがゾウは違いました。長く伸びた鼻を“手”として扱えるようになり、4足歩行のまま進化することができたのです。

地球の脊椎動物は四足 ゾウの場合は鼻を手に転用

偶然がもたらした奇跡の進化

 時代を3700〜3000万年前へさかのぼります。このころエジプトにいた「メリテリウム」という種類が、ゾウの初期の姿といわれています。大きさは2メートルぐらいで、水辺に住むカバのような動物でした。頭骨を見ると鼻は頭部の前にあり、一般的な哺乳類と同じ構造です。このころは今のように鼻が伸びていなかったことが分かります。

メりテリウム こちらは初期のゾウ
鼻の位置は以下の通り 頭骨を見るとこんな感じ

 その後「フィオミア」という種類へ進化し、鼻孔は目の前の辺りへ移動。長い鼻を持つバクと同じような見た目になりました。このころ鼻の付け根が筋肉で構成され、自由に鼻を動かせるようになります。

鼻をはっきりと伸ばしたのはフィオミア 鼻が伸び始めた……!
フィオミア頭骨 鼻孔が後退しています

 「ゴンフォテリウム」という種類へ進化すると、上顎と下顎が長く伸びました。それと同時に鼻も伸び、現在のゾウの姿と近くなります。

ゴンフォテリウム だんだんゾウっぽくなってきました
ゴンフォテリウム頭骨 下顎がかなり長い!

 さらにその後「ステゴテトラベロドン」という種類へ進化し、牙が長くなります。また土台である上顎と下顎の縮小が始まり、伸びた鼻はそのまま残りました。下顎の骨の先端が下を向いたことで、現在のゾウとよく似た姿形になります。

ステゴテトラベロドン 牙が長いのが特徴
これは現在のゾウとよく似た特徴 骨が短くなり、伸びた鼻はそのまま

鼻の進化は“脳の進化”も促した

 さて、現在のゾウの姿を見てみましょう。下顎の牙が失われ、長い鼻が残っています。ゾウの鼻は、これまで長かった下顎が支えていたからこそ伸びることができ、完成された器官として残すことができたのです。

登場した歴代のゾウ 左上が現在のゾウ

 またゾウは仲間の死を理解し、遺骨を慈しむ高度な認知能力を持つといわれています。この認知能力は、鼻を操作するためには脳の発達が必要とされることから、向上したとされています。鼻の進化は結果として、脳の進化も促したといえるでしょう。

 北村さんいわく、このような進化をたどった哺乳類は他にいないとのこと。さまざまな偶然が重なり、自由に扱える鼻を手に入れた過程は、まさに奇跡といえますね。

生き物の進化は面白い

 この動画には、「貝が浮力を得たことで足がフリーになってタコのように賢くなれたみたいな感じですね」「象だけは器用に操作できる鼻という新しい『脚』を獲得していて、おもしろい進化だなって思う」「生き物って不思議です」と、生き物たちの進化の過程に再注目する声が寄せられています。

 生物進化から天体まで幅広い分野で活躍する北村さん。著書『ダーウィン『種の起源』を読む』(化学同人社)では、科学ジャーナリスト賞大賞2009を受賞しました。YouTubeチャンネル「サイエンスライター北村雄一の地球放送」では、地球や宇宙、そこに住まう生物の歴史を分かりやすく解説しています。

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画像提供:YouTubeチャンネル「サイエンスライター北村雄一の地球放送」

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