推しが出ていない! “予告編にあったシーンが本編になかった”とファンの男性が約8億の賠償求めた珍裁判が決着(1/2 ページ)

気持ちはわかる。

» 2024年04月18日 19時01分 公開
[城川まちねねとらぼ]

 4月12日、2019年の映画「イエスタデイ」の予告編と本編の内容に食い違いがあったとして、配給元へ賠償を求めた裁判が和解に終わりました。この裁判は、予告編では俳優のアナ・デ・アルマスが出演していたことを確認したのち、本編を見たところ当該シーンがカットされたことを知った2人の男性が米国内で起こしたものです。なお和解の詳細条件については明かされていません。

映画「イエスタデイ」予告編のアナ・デ・アルマスのシーンを巡る裁判に決着 予告編では出演していたアナ・デ・アルマス(画像はYouTubeから)

「予告詐欺だ!」が本当の裁判になる

 予告編では存在したはずのシーンを楽しみにいざ本編を鑑賞すると、どこにも出てこなかった――そんな経験がある人は少なくないはず。ある2人の男性は同作をAmazonプライム・ビデオでレンタルしたところ、予告編では確認できていたアナのシーンが最終的にカットされていたことにショックを受けてしまいます。ここまではよくある話ですが、なんと2022年に2人は「虚偽広告で、レンタル料3.99ドル(記事執筆時のレートで約600円)をだまし取られた」と配給元のユニバーサル・ピクチャーズを訴えました。

 同作は、売れないシンガー・ソングライターがあるきっかけから、“自分だけが「ビートルズ」を知っている”世界に変わったことへ気付くことから始まるストーリー。20世紀を代表するロックバンド=「ビートルズ」が存在しない世界で、名曲「イエスタデイ」を歌ってみせたことで、主人公はあれよあれよと大スターに成りあがっていきます。アナは映画の後半で主人公が出会う芸能人ロクサーヌとして登場していましたが、最終的に出演シーンはカットされていました。

予告は芸術作品か、広告か

映画「イエスタデイ」予告編のアナ・デ・アルマスのシーンを巡る裁判に決着 「ブレードランナー 2049」でホログラムのジョイを演じ注目を浴びたアナ(画像はアナ・デ・アルマスのInstagramから)

 原告は、同作主演のヒメーシュ・パテルらがアナに比べ知名度も低いため、彼女を予告編に登場させることでその人気を映画の宣伝効果として利用したなどと主張して、視聴者を代表し最低500万ドル(約7億7000万円)の賠償を求めました。

 被告であるユニバーサル側は原告側の言い分に真っ向対立。予告編は“芸術作品”であり、もし単なる広告として扱われるなら、本編が予告編にふさわしくないと感じるたびに観客は訴訟を起こさなくてはいけないとの立場を取りました。

 これに米連邦地裁判事は被告の「予告編は芸術作品」という主張はしりぞけ、予告編は虚偽広告の対象となる“コマーシャルスピーチ”であると原告の主張を一部認めています。

1200円のために費やされた膨大なお金と時間

 しかしユニバーサル側は、ほとんどの人はアナとは関係ない理由でこの映画を見た、予告は見ていない可能性も高いと主張。この主張をひっくり返すため、原告側が観客・視聴者全員が“予告編にだまされて”同作を見たと証明することは事実上不可能と考えられ、たった7.89ドル(約1200円)のために2年の時間と多額の弁護士費用が費やされていくことになります。

 さらに被告側は、スラップ訴訟を防ぐ「反スラップ法」に基づき弁護士費用を2人の男性へ請求。判事が虚偽広告の訴えを認めつつ、一方で反スラップ法への訴えも認めたため、ユニバーサルを訴えた2人の男性が支払う弁護士費用は請求よりも減額された12万6705ドル(約1959万円)となりました。

和解条件は非公開 弁護士は「ばかげた訴訟」

全ての原因となったアナが登場する予告

 時間もお金もひたすら浪費されるばかりとなった今回の裁判について、被告側の弁護士は「ばかげた訴訟」と述べ憤りをあらわにしました。

 しかしファンからすれば「大好きな俳優が出ると思って見たのに出演していなかった」ことは重大な裏切りのように感じてしまうものかもしれません。キューバ生まれのアナは地元の演劇学校を中退後、祖父母を頼ってスペイン国籍を取得。移住先で頭角を現し、現在は米国を拠点に活躍しています。2017年公開の「ブレードランナー 2049」のジョイ役で世界的な注目を集め、「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021年)のパロマ役としてボンドガールの栄誉を授かります。

 マリリン・モンローにうり二つと話題になった「ブロンド」(2022年)は賛否両論となりつつもアカデミー賞をはじめとしたアワードノミネートを呼び込む話題作となり、今後には「ジョン・ウィック」のスピンオフ「バレリーナ(原題)」(2024)など注目作も控えています。とかく近年引っ張りだこだったことや、その人気故に引き起こされた奇妙な裁判といえるかもしれません。

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