令和にちょんまげ・和装で暮らす人がいる……!? 自身のスタイル貫く“現代の侍”の暮らしぶりを聞いてみた(1/3 ページ)

「丁髷のまま働いてOK」と飲食店に採用されたことで話題の、とりにくさんを取材しました!

» 2024年05月05日 12時00分 公開
[沓澤真二ねとらぼ]

 この21世紀に、毎日丁髷(ちょんまげ)を結って暮らしている青年がX(Twitter)で注目を集めています。編集部は話題の人・とりにく(@tarakosan114)さんに、丁髷を結い始めたきっかけや暮らしぶりについてお話を聞きました。

丁髷 ほぼ毎日和装で過ごすとりにくさん。髪は頭頂部をそり、地毛を結って丁髷にしています
丁髷 遊ぶときもこのスタイルです

 とりにくさんの丁髷はカツラなどではなく、地毛を結った本物。月代(さかやき。額から頭の中央にかけて半月形にそりあげた部分を指す)をそり、鬢(びん)付け油で固めて、日々自分で結い上げているそうです。

丁髷 日常の整髪風景

 服装はオンもオフも和装。絵を描くときのメガネはひも掛け式ですし、眠るときは高枕ですし、Xへの投稿には時代劇めいた写真が並んでいます。

丁髷 時代劇で「じい」がかけていそうなメガネで作画に取り組むとりにくさん
丁髷 そうして生まれた作品の1つ。これは「自画像」の課題作なのだとか
丁髷 髷が崩れない高枕
丁髷 古典的なカメラで撮ると、完全に「日本史の教科書に出てくる人」

 そんなとりにくさんが注目を集めたきっかけは、飲食店のアルバイトへの応募。ふざけていると思われたらどうしようと悩みつつも、自分の髪型やポリシーを伝えたうえで丁髷に和装というスタイルで面接に臨み、「丁髷のまま接客でなんら問題ない」と採用されたといいます。

 合格を報告したポストは広く拡散され、「こんなに髷が似合う現代人がいるとは。バイト頑張れー!」「これこそが多様性」「接客受けてみたい!」と、好意的な反応が多数寄せられました。経緯や現況など、とりにくさんに詳細を聞きました。

―― 丁髷を結い始めたいきさつを教えてください

とりにく もともと趣味が古くて現代的なファッションになじめず、まわりがおしゃれに精を出しているなか自分は何を着ていいか、「これだ!」と思うものが見つからず模索していました。

 しかし高校生のときに「日本人なら1着は着物を持っておきたい、着てみたい」と思い立って買いにいったとき、「無理に洋服を着る必要はないんだ! 自分はこのスタイルで行こう!」と気付き、服装のスタイルが確立しました。

 それから毎日和服で暮らしていたのですが、次に「じゃあ髪型はどうしよう」となりました。背伸びをして派手髪にしたこともありましたが、自分の骨格にも性にも合わずまた迷ってしまいました。

とりにく そうこうしているうちに散髪をサボった時期があり、伸びた髪をなんとなく殿様風にまとめてみたところ「そうか! 丁髷にすればいいんだ!」と思いつき、そこから髷に走っていきました。そりを入れたのは2年半ほど前です。

―― 髷を結ったとき、友人や親族からの反応はいかがでしたか?

とりにく 友人たちは「髪型が変わったところで、君はもともと変わってるから何とも思わないし、中身見て付き合ってるんだし外見で友だちやってるわけじゃないから。それに似合ってるからいいじゃん! なんか前よりイキイキしてるよね」と。家族や親戚は諦めたように「まぁやりたいならやれば、飽きたら坊主にすればいいんだし」といった感じでした。

―― ズバリ、丁髷の魅力は?

とりにく 何といっても月代の青白さと髷の黒との対比ですね。メリハリがあって美しいですし、極めて奇妙な髪型なのに、おおむね「かっこいい」に帰結する珍しい髪型なのではないでしょうか。

―― 丁髷は普段、どのように結っていますか

とりにく 私はふんわりとした束よりも、硬い油でシャープに結い上げるのがスタイリッシュで好みです。所要時間は早くて5分、時間をかければ20〜30分ほど。柘植(つげ)のくし数種類(特に床山が使う「床山櫛」)と、元結(もとゆい。髪を結ぶひものこと)と、特注の鬢付け油を使っています。

―― 髷にして困ったことはありますか

とりにく 特にありません。強いて言うならば、「冬場は風呂上がりの長い髪が冷たい」「お葬式などの堅い場面でカツラをかぶらなければいけないのが面倒臭い」といったところです。

―― 丁髷で暮らすと、和服しか着なくなるものなのでしょうか。洋装をすることはありますか?

とりにく 髷を結う以前から、毎日和服で過ごしています。まれにTPOの都合でカツラを被り洋服で出かけたりもしますが、年に片手で数えるほどです。

―― 髷を結ったことで変わったこと・変わらなかったことなどを教えてください

とりにく 変わらなかったのは友人関係ですね。こんな奇抜な格好をしていても、「いいじゃん、外見だけ見てお前と親友になったと思う?」と、本当に私を大事に思ってくれる人は変わらず離れませんでした、むしろ関係が強固になったと言っても過言ではありません。見た目の好みで付き合っていた(であろう)方が何人か離れていったこともありましたが。

―― 今の仕事を始める前は、髷のせいで決まらなかったりしたのでしょうか

とりにく 「こんな髪型で行くのは世間的にはふざけていると思われても仕方ない」と物おじして、多数は受けていなかったのですが、やはり普通にアプリなどで募集されているアルバイト――特に接客業は難しいところがありました。単発のモデルのお仕事はいくつか経験しましたが。

―― アルバイト先でのお客さんや同僚からの反応はいかがですか?

とりにく 「すごい頭だな! いいなぁかっこいいよ!!」「それって、カツラ……ですよね? 地毛ですか!?」と驚くお客様もいらっしゃいますが、意外にも大きな反応をする方はあまりいらっしゃいませんでした。まさか店員が丁髷とは思わず、「何かの見間違い」とどこかフィルターをかけて見ているのかもしれません(笑)。

 従業員の方々からは、「めちゃくちゃかっこいい! 清潔感あるし接客もいいしインパクトあるし一石三鳥じゃん!」「あらためてこう、まじまじ見ると侍が普通に接客してるの面白い光景だなぁ」「初めは固まるけど見慣れちゃうと案外自然だよね。むしろシュッとして見える」と好評をいただきました。

―― 髷を結ったことで将来の展望などの変化はありますか?

とりにく 恋愛や流行に気分を乱されたり流されれたりしなくなりました。自分は自分、他人は他人、人と違ってもいいんだ! と思えるようになりました。人と違いすぎるとは思いますが(笑)。今までは絵描きの道を考えていましたが、この髪型と服装にしてから、何かしらの形で日本文化を守る仕事に就きたいと思うようになりました。

―― 一連の投稿に多くの反響がありましたが、特に印象に残っている反応などはありますか?

とりにく 総じて好意的な反応が多かったということに尽きますね。初めは「たまたま面白がられて採用されただけ」「目立ちたがり」「社会の規範から外れたわがままな人」と批判的な意見が多く寄せられるのでは……と思っていましたし、それが普通だと思っていました。

 ところが予想に反して「自分を貫いていてかっこいい」「似合っている! 清潔感もあるしうちでも雇いたい」「自分が人事部だったら絶対雇う!」「手間のかかる髪型をこれだけ続けるのだから几帳面な人なんだろう」と言った意見が多数あり、肩の力が抜けたと同時に今まで以上に自信が持てるようになりました。


 とりにくさんは現在、都内の沖縄料理店で同僚から「しげしげ(※)」の愛称で呼ばれつつ、張り切って働いているそうです。

※漫画『銀魂』の将軍「徳川茂茂」が元ネタと思われる

画像提供:とりにく(@tarakosan114)さん

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