一軒家に核爆弾が落ちる、老夫婦の日常アニメ映画 「風が吹くとき」がいま公開される意義(1/3 ページ)
「外部のことがわからない」からこそ、怖い。
1982年に発表されたイギリスの作家レイモンド・ブリッグズの漫画を原作とし、日本では1987年に初公開されたアニメーション映画「風が吹くとき」が、2024年8月2日からリバイバル上映中だ。
絵柄はかわいいのに、怖い
同原作者による短編アニメ映画「スノーマン」は「セリフなし」で動き出した雪だるまとの冒険を描く、かわいらしくて幻想的な魅力に満ちた、子どもから大人までおすすめできる名作として知られている。この「風が吹くとき」でも絵柄は親しみやすく、ほのぼのとしていてクスッと笑える場面はある。
しかし、「風が吹くとき」でまず思い起こされるのは、「トラウマ級の怖さ」だ。それも、血や内臓が飛び出るといった直接的な残酷描写ではない。レーティングはG(年齢制限なし)であり、子ども見られる内容といえる。しかし、後述するショッキングな場面と、戦争の一側面を切り取るアプローチがとてつもなく恐ろしいのである。
今回のリバイバルでは、森繁久彌と加藤治子が老夫婦の声を担当し、「戦場のメリークリスマス」の大島渚監督が演出を担当した日本語吹替版での上映となっている。素朴だが奥行きのある声質と演技が淡々とした会話劇にとてもマッチした内容となっていたので、この機会に劇場で見てほしい。さらなる特徴と魅力を紹介していこう。
不確定な情報に頼る怖さ
「風が吹くとき」の舞台はほぼ「一軒家」のみで、基本的には「老夫婦の会話がずっと続く」内容だ。
ただしその2人には、「世界戦争が起こり3日以内に核爆弾が落ちて来る」という知らせが届いている。お互いへのグチをこぼしつつも愛情が感じられる会話劇が恐ろしく思えてくるのは、差し迫った状況下でも「不確定なはずの情報に頼り切っている」「深刻に捉えずに(あるいは一種の諦観のまま)日常を過ごしている」からだろう。
中でも目立つのは、おじいさんが作ろうとする「政府推薦の屋内シェルター」で、これが「3枚のドアを並べて立てかけただけのもの」なのだ。しかもおじいさんは「ドアの角度は60度にするのが理想」という指定に従うために分度器を買おうとし、あろうことかその分度器が街では売り切れたりするのである。
この簡易的にもほどがあるシェルター作りは、劇中でもおばあさんから「新しい冗談ですか?」とツッコまれ、おじいさん自身も「考えてみれば角度が何度でも変わらないな」「こんなのは一時凌ぎだ」と冷静な言及を見せていた。しかし「結局はそうすること」がまた怖い。
一連のシーンがあまりにバカげていると思う方もいるだろうが、劇中でおじいさんがシェルター作りの参考にした、政府発行の冊子「PROTECT AND SURVIVE(守り抜く)」は実際にイギリス政府が1974年から展開していたキャンペーンで、1980年にはリーフレットとして配布していたものだ。
知識も経験も役に立たない怖さ
また、老夫婦は2度の世界大戦をくぐり抜けているのだが、その知識と経験が役に立たないどころか、視野狭窄につながっている側面も描かれる。特におじいさんは過去の戦争での「畑の上を飛ぶ戦闘機」といった出来事を「懐かしい日々」とポジティブに振り返るばかりか、「あの頃は口ひげのスターリンなどがわかりやすくて良かったな、今は誰がいるのかさっぱりわからん」と、「今の戦争への無知」をはっきり露呈するのだから。
関連記事
- なぜ「オッペンハイマー」はノーラン監督の集大成なのか 過去作からその理由を読み解く
欺瞞を暴く物語でもあった。 - アニメ映画版「ルックバック」レビュー 「創作」の意義を見つめた、ひとつの到達点
上映時間58分で駆け抜ける、藤本タツキの経験も反映した青春。 - ドラッグ、大量殺人、そして反戦……ヤバすぎるスペイン・フランス合作のアニメ映画「ユニコーン・ウォーズ」レビュー
「地獄の黙示録」×「バンビ」の化学反応。 - 「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」ネタバレレビュー 「戦後」と「血」への鎮魂歌
悲しく恐ろしい物語だけど、救いは確かにあった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
-
高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
-
ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
-
「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
-
「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
-
プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
-
間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
-
「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
-
走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
-
グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
- 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
- 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
- ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
- 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた