浮世絵に描かれた玩具を再現してみた ある同人誌を読んで感じた“自分で生み出すことの楽しさ”元司書みさきの同人誌レビューノート

なんとも味わい深い姿。

» 2024年08月18日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 夏の公共図書館は、自由研究や読書感想文などで子どもさんが来館される機会も多い時期です。宿題はおっくうでしたが、観察をしたり工作をしたりと実は楽しくもあったな、なんて思い出すこの頃。今回は好きな形をご自分で作ることにチャレンジされたご本です。

今回紹介する同人誌

『浮世絵の玩具を再現してみた話』A5 12ページ 表紙、本文カラー

著者:むゆう舎


同人誌『浮世絵の玩具を再現してみた話』 絵をもとに立体で再現

江戸時代の浮世絵をもとに手作りで再現

 丸みのある形のなんだかかわいい姿……これらの置物は江戸時代に描かれた絵がもとになっています。浮世絵に残る玩具の変わったフォルムに心ひかれた作者さんは、ご自身でその姿を再現することにしたそうです。国立国会図書館や東京都立中央図書館などの所蔵する資料がインターネット上で公開されており、そこから「これ!」という姿を決めたら、和紙をのりで張りながら形を作る張り子という方法で6点の玩具を再現。ご本には制作の流れと、モデルにしたもとの絵とともに完成した写真が掲載されています。

同人誌『浮世絵の玩具を再現してみた話』 もとの絵と完成品を紹介

観察眼と想像力で導き出す愛嬌と立体感

 張り子の玩具たちはざっと200年ほど前、はやり病のまじない絵として描かれたもの。なんともしみじみとかわいらしい姿です。みみずくやうさぎをモチーフにした特徴的なライン、雪だるまのようななだらかな肩、見開かれたまんまるの目が飄々(ひょうひょう)とした雰囲気をにじませてキュート! 魔除けの意味を持つ赤い色も効いてポップさを添えます。こんなにチャーミングな子たちの、200年の時を経ても新鮮さを感じるデザインの力に感嘆するとともに、このかわいらしさを発掘した作者さんの着眼点に驚きます。

 実はもとの絵を見てみると、この玩具が絵の中心にいるとは限りません。街中の風景の一つとしてそっと置かれていたり、病気のお見舞いグッズとしてだるまや猫などのいろいろな型と混じって描かれていたりする場合もあります。必ずしも全体像が分からないことすらある1枚の絵から立体物を完成させる、まなざしと想像力のパワーを感じます。

同人誌『浮世絵の玩具を再現してみた話』 このすきまからのぞいている姿! これを見つけ出す観察眼、すごいです

どこに目をつけるか? 自分で生み出す楽しさ

 パワーを感じると書きましたが、ご本は淡々とした内容。元絵と完成品と、そっと一言添えられた文章がメインです。しかし、そのシンプルな構成からでも、立体となった玩具たちの愛らしさ、味わい深さがにじみ出ますし、それにひかれてじっと見ていると、立体化するにあたり、あちこちに作者さんの解釈があることが見えてくるんです。

 あくまでもとの絵の印象を大切にしながら、色を補ったり、線を省略したりといった細部に変更があるように見受けられます。しかし、それこそが、自分のひかれたものを自分の手で再現する楽しさ、そして作り手がどう解釈したのかを読み手側が受け取る、面白みの部分でもあると思うのです。

 200年ほど前のかわいさを自分で見つけ、形作る楽しさ、魅力が伝わってきます。

『浮世絵の玩具を再現してみた話』 ご自身で試された作り方や材料も掲載

サークル情報

サークル名:むゆう舎

次回イベント参加予定:おもしろ同人誌バザール神保町(11月3日)

X(Twitter):@muyuusha


今週の余談

 公開されている図書館資料からこんな楽しみ方が! と、デジタル画像の活用の仕方としてもとても面白いですね。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2409/11/news132.jpg 第5子妊娠中の宮崎麗香、子どもたちとの“奇跡の1枚”が撮影される ギャップ満載な“現実”ショットも話題に
  2. /nl/articles/2409/08/news001.jpg 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  3. /nl/articles/2409/11/news038.jpg 「僕ですかこれ」 垢抜けたい男性が“劇的イメチェン”→その大変身に「すげええ!」「泣けたわ」と仰天
  4. /nl/articles/2409/11/news024.jpg たまりがちなスタバ紙袋、リメイクで予想外の“便利グッズ”に大変身 580万再生のアイデアに「天才かよ」「素晴らしい……」
  5. /nl/articles/2408/18/news012.jpg 「これは思わず……」 田舎のホビーオフに1万5400円で売っていた“まさかの商品”に仰天 「何でも売ってる」
  6. /nl/articles/2409/10/news038.jpg 50代女性、尋常性白斑によりホワイトヘアに→ばっさりショートにすると…… 誰もが見惚れる姿に「どハンサム」「本当にカッコ良すぎ」
  7. /nl/articles/2409/08/news032.jpg 「コレ入れると草が生えない」 外構工事のプロがやっている“究極の雑草対策”に注目
  8. /nl/articles/2409/07/news027.jpg “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  9. /nl/articles/2408/10/news024.jpg 「こんなものも売ってあるの?」 ホビーオフに13万2000円で売っていた“まさかの商品”に「超欲しい」
  10. /nl/articles/2409/10/news191.jpg 「さすがに不快」 PARCO「ラブベリ」展でファッションモデルの“ほぼ全裸”投稿に批判 主催者「削除依頼している」
先週の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  3. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  4. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声
  5. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  6. 猛毒ガエルをしゃぶった30分後、口がとんでもないことに…… 直視できない異常症状に「死なないで」「この人が苦しむってよっぽど」
  7. 33歳の「西郷どん」二神光さん、バイク転倒事故での急逝に衝撃 1年前の共演者は“願い”明かし「叶わないなんて」
  8. 「コレ入れると草が生えない」 外構工事のプロがやっている“究極の雑草対策”に注目
  9. 「へー知らんかった」 わずか7年で“消えた駅” 東京メトロが明かす“知れば納得の歴史” 「だからあんなに……」
  10. 秋葉原のトレカ店が“買い占め被害” 近隣店とその常連客が共謀し“全口購入の人員確保” 「大変遺憾で残念な限り」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ったら……飼い主も驚きの姿に「もはや魚じゃない」「もう家族やね」 半年後の現在について飼い主に聞いた
  2. 「もうこんな状態」 パリ五輪スケボーのメダリストが「現在のメダル」公開→たった1週間での“劣化”に衝撃
  3. 「コミケで出会った“金髪で毛先が水色”の子は誰?」→ネット民の集合知でスピード解決! 「優しい世界w」「オタクネットワークつよい」
  4. 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  5. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  6. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  7. 「昔はたくさんの女性の誘いを断った」と話す父、半信半疑の娘だったが…… 当時の姿に驚きの770万いいね「タイムマシンで彼に会いに行く」【海外】
  8. 鯉の池で大量発生した水草を除去していたら…… 出くわした“神々しい生物”の姿に「関東圏では高額」「なんて大変な…」
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「なんでこんなに似てるの」 2つのJR駅を比較→“想像以上の激似”に「駅名だけ入れ替えても気づかなそう」