東日本大震災の被災地である宮城県南三陸町のラジオ局を舞台にしたドキュメンタリー映画「ガレキとラジオ」にやらせ演出があったとする朝日新聞の報道に対し、制作側が公式サイトやFacebookページで謝罪している。
震災直後に開局した臨時災害ラジオ局のスタッフと、そのラジオ放送で元気づけられる被災者たちを描いた内容になっているが、朝日新聞によると作中に登場する仮設住宅周辺は災害ラジオ局の電波が届いていなかったため、ラジカセを撮影班が用意し、ラジオではなく地元中学生の合唱のCDを聴かせ、実際の撮影中にラジオを聴く機会はなかったという。加えて、ラジオ局が町でイベントをする場面ではボランティアについて「(ラジオ局の)リーダーが東京から呼び寄せた」とのナレーションが入っているが、実際には制作側が集めたことを認めた。
同町で被災した70代女性は制作側から「(ラジオを)いつも聴いている」「音がないと寂しい」などのセリフを強いられ、ラジオを聴くふりをしていたが、映画が評判になるにつれて罪悪感を覚えたと同紙の取材に答えている。
映画を企画制作したのは大手広告会社・博報堂。神戸が出身で自らも阪神大震災で被災した経験があるという監督・梅村太郎氏は自身のFacebookで、「ドキュメンタリーとして許される範囲の『演出』として考えておりました。しかし、それがドキュメンタリーを逸脱したものだというご指摘は真摯に受け止めたいと思います」とコメント。「私たちはできることであれば、今後も、『映画で東北を知る支援』の活動を継続していきたいと願っています」と本映画の趣旨に理解を求めた。
また、映画のエグゼクティブプロデューサーである山国秀幸氏も「被災地支援を目的に製作した映画が、逆に被災者の方を傷つけてしまっているという事が事実であれば、それは一番あってはならないと考えています。まずは、映画に出演頂いた女性に心よりお詫び申し上げます。申し訳ございません」と謝罪した上で「報道や監督コメントにありました一部の演出の考え方につきまして、本映画のプロデューサーとしましても、それはドキュメンタリーを逸脱したものだと考えます」と述べている。
本作でナレーションを担当した俳優の役所広司氏は公式ブログにおいて、復興支援という企画内容に賛同しボランティアで参加したという経緯とともに「真実の部分は多々あると思いますが、この『ヤラセ』の部分の演出を知っていて作品を完成させた制作側に、大きな責任があると思っています」と発言。さらに「そしてご遺族のご遺体が見つからない苦しみに加え、ドキュメンタリーでやってはならない演出で出演された女性の方に、新たな苦しみを与えてしまったこの映画は、今後二度と上映されるべきものではありません」と今後の厳しい対応を望んでいるようだ。
映画は2013年春から公開され、現在も市民らによる自主上映会が続いていたが、今回の騒動を受け制作側は、予定していたすべての上映の中止を要請している。また、新規の上映会の受付も中止し、公式サイト上での募集案内は削除した。しかし、さまざまな考えや事情により上映会を開催する場合には、上映前に観客へ今回の報道に対する監督や博報堂からのコメントを紹介するなど、映画に出演した女性に最大限配慮した対応を取るとしている。
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