「痛みを感じる光だけが君を救う光になる」
イラストレーター・ふせでぃと小説家・鏡征爾による現代を生きる女の子を描くイラスト小説。ふせでぃが描く“現代の等身大の女の子”と鏡征爾の少女的な感性かつ繊細な文体が誰かの心に寄り添いますように。
しなければならないことが多すぎて苦しい。
気にしなければならないことが多すぎて息苦しい。
それでも私をみてほしい。
この世界は承認欲求と息苦しさの爆裂的な幻だ。
Twitter、Instagram、YouTube。
みんなが気にするのは閲覧数。フォロワー数。
あらゆるものが数値化される。
数値がのびないものはばかにされる。
それでも、どれだけいいねの数が増えても心は増えない。
それどころか、数が増えれば増えるほど目減りしていく。
私たちは幻にとらわれた消耗品だ。
(もっと。もっと。もっと。もっと。のびろ)
そうやって、数が増えることに苦心しているうちに、
自分が本当は何をやりたかったのかわからなくなる。
いや、本当にやりたいことが何かさえわからないのだ。
本当にやりたいことなんて最初からないのだ。
私はからっぽな人間だ。大人たちは言う。
「やりたいことをみつけなさい」
そうやって、やりたい夢が大学に行けばあるかのように誘導する。
そうやって、大学にいくために塾や予備校で高額商品を勧誘する。
「一流大学にいけばやりたいことが叶いますよ」
やりたいことをやっているようにみえない大人たちがそう呟く。
夢を謳って、金をとる。
「そのままじゃヤバいですよ」
不安をあおって、煽動する。
そして簡単に、私たちはだまされる。入塾する。入学する。
そして後になって、後悔する。
五月病は、そんな葛藤の生みだす現象だ。
@itakimi_shoujyojigoku
私たちは、年長世代の生み出す、奴隷じみた存在だ。
0:33 - 2019年5月20日
4件のいいね
なんてことを、ツイートする。
@itakimi_shoujyojigoku
ところで奴隷は英語でslaveというらしい。
私たちは、人類最初の、自由を謳われたホモ・スレイヴだ。
0:34 - 2019年5月20日
6件のいいね
そんなコメント付きの自撮り画像を、
奴隷じみた首輪のチョーカーをつけて、
制服を着て、煌びやかな洋服を着て(1980円)、
Instagramに投稿する。
幻に、虚しさをフルベットする。
@itakimi_shoujyojigoku
私たちは無力で無意味で無価値で、幻にとらわれた存在だ。
0:38 - 2019年5月20日
2件のいいね
SNSは幻だ。
触れられない。近くにいない。
いつでも。どこでも。会いにいけない。
もちろん幻にも利点がある。
あらゆるものが数値化されるかわりに、
目にみえない誰かとつながる。
利害もなければ被害もない。
実益もなければ損失もない。
からっぽのいれものだ。
徹底的に周囲の視線にがんじがらめにされたいれものだ。
監視された牢獄のような世界だ。
私はそんな牢獄のような水族館で泳ぐお魚だ。
そうなのだ。
私はからっぽで最低で最悪で牢獄につながれた醜いアヒルで、
未来に希望さえもてない後ろ向きな人間で、
何一つ、誰かに誇れるものがなかった。
やりたいことも、なかった。
140文字のツイート。
1000ピクセル四方のインスタ画像。
その画面ごしの幻だけが、世界のすべてだった。
それでも私はその幻の世界で、
君に出会った。
(Illustration by ふせでぃ/Novel by 鏡征爾)
痛みを感じる光だけが君を救う光になる
ふせでぃ
イラストレーター・漫画家。
武蔵野美術大学テキスタイルデザイン専攻を卒業。
現代の女の子たちの日常や葛藤を描いた恋愛短編集『君の腕の中は世界一あたたかい場所』(KADOKAWA)は発売即重版が決定。
最新作――『今日が地獄になるかは君次第だけど救ってくれるのも君だから』(KADOKAWA)
鏡征爾
小説家。
『白の断章』が講談社BOX新人賞で初の大賞を受賞。イラストも務める。
ほか『群像』や『ユリイカ』など。東京大学大学院博士課程在籍中。魚座の左利き。
最近の好きはまふまふスタンプと独歩。
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