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「シン・エヴァンゲリオン劇場版」ネタバレレビュー 驚くほど親切な「エヴァ」が突き付けた、庵野作品の面白さ(1/2 ページ)

「シン・エヴァ」は、驚くほど親切だった。

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 納得できる終わりだった、と思う。面白かったかどうかは、公開3週間を経た今も分からない。この複雑な気持ちは初日以降、何度劇場に足を運んでも変わらなかった。

※本記事は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のネタバレを含みます。


 「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の評価は4月4日現在、Yahoo!映画で評価4.28点(5点満点中)。名作と評される「Air/まごころを、君に」の3.9点を超えるばかりか、多くのファンを文字通り魅了した快作「:破」の4.1点をも上回り、シリーズ最高をマークしている。常に賛否両論を巻き起こし、制作陣に向けた罵詈雑言と隣合わせだった25年にわたる長寿シリーズの完結作は、くしくもこれまでで最も多くの観客に受け入れられた、といっていいだろう。


 これについて要因は多くあるだろう。1つは「エヴァンゲリオン」の物語を庵野秀明自身の手で、しっかりと終わらせたこと。「エヴァンゲリオン」という巨大な物語に付き合わされてきたキャラクターたちを開放したこと。そして何より、「:Q」に対する「:A」ともいうべきさまざまな謎への解答、不親切さに対するフォローアップを明確に行ったことだ。

 本作はとにかく脚本面・演出面において、驚くほど親切だった。伊吹マヤの「これだから若い男は」に対する印象の反転。式波・アスカ・ラングレーのシンジに対する態度の変遷。葛城ミサト、碇ゲンドウらの過剰ともいえる内面吐露、マイナス宇宙での虚構世界が表すもの。無論「ゴルゴダオブジェクト」や「イスカリオテのマリア」などというジャーゴンはいつも通り登場するものの、誰が何を考え、これを行うと何が起こり、誰が何を守り、また阻止したがっているかが誰の目にも明白である。

 ラストにおける世界の再構成についても、貞本義行による漫画版で引かれた補助線が理解を助けている。メディアで紹介されるたび「緻密な心情描写」に加え「難解なストーリー展開」と称されるシリーズにおいて、語りすぎているほどだ。

新宿バルト9ロビー

 エヴァにおいて「謎」は欠点でありながら利点でもある。旧シリーズは「Air/まごころを、君に」をもってしても多くの謎を含んだまま終わり、今語られるほどの高い評価も受けていなかった。

 私自身、旧劇の「他人がいてもいいんじゃないの」「でも、やっぱり怖い」というテーマを最初から読み取れていたかといえば嘘になるし、当時は中盤以降の狂ったような演出にとにかく度肝を抜かれるばかりであった。テレビ版第弐拾四話「最後のシ者」の渚カヲルが弐号機を起動させてからのシーンはセリフを今でも暗唱できるほど見返したが、彼らが何を言っているかなんてさっぱり分かっていなかった。だからこそ何度も反復し、その虜になっていったのだ。だから、ほぼ謎を残さず、さっぱりとした本作の終わりには強い寂しさを覚えざるを得なかった。

新宿バルト9ロビーのスタッフサイン入りポスター

 先日放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」における庵野秀明の「面白さ」に対する言及は議論を呼んだ。本作の分かりやすさが「:Q」の反省なのか、あるいは庵野が指摘する「謎に包まれたものを喜ぶ人が少なくなっている」ことを踏まえてのものなのかは分からない。売上を完全に度外視したアート映画としての難解さを追求したのが「式日」であるとすれば、本作はその真逆といっていいだろう。

 結果、本作はあらためて自分にとって「エヴァンゲリオンの面白さとは何なのか?」を考える機会になった。「碇シンジが成長し、自身の決断で物語を進める」ことが面白さなのか? 「Air」の弐号機VSエヴァシリーズ、「:破」の第8の使徒戦にみられる、ダイナミックなアクションシーンが好きなのか? 物語に翻弄され続けてきたキャラクターたちが救われることが幸せなのか? 

 このような思いが沸き起こること自体、あまりにも長い期間触れてきたシリーズであればこそだ。完璧な作品だとはもちろん思わない。特にアクションシーンの多くにおいて、少なくとも視覚的に目新しいものは感じられなかったし、詰め込んだ駆け足気味の脚本が言い訳くさく感じなかったこともない。虚構世界におけるゲンドウとの戦いのチープさは、やろうとしてることは理解したうえで、それでも異質が過ぎ、アディショナル・インパクト時のドラッギーな演出は旧シリーズの衝撃に遠く及ばない。しかし今後の自分の人生で、このような長いスパンで1つの作品のことを考え続ける機会は訪れないだろう。


 「プロフェッショナル」は、庵野が次の仕事に向かうところで幕を閉じる。公開が予定されている「シン・ウルトラマン」なのか、それ以降の次作品なのかは分からない。ここまで庵野作品を追ってきて分かったことは、何をもって「面白い」とするのか、彼自身の中でも大きく変遷があっただろうことだ。

 パロディーに多くを割きながら、熱血ロボットアニメに直球で挑んだ「トップをねらえ!」。少年少女のジュブナイルから大人と子供の対称性に向き合う「ふしぎの海のナディア」。とにかくカメラアングルによる絵力にこだわった「ラブ&ポップ」「式日」。持ちうる限りの能力と、“好き”とを詰め込んだ「シン・ゴジラ」。

 次作となる「シン・ウルトラマン」、そして昨日(4月3日)急遽発表された「シン・仮面ライダー」において、庵野は果たしてどのような「面白さ」を見せてくれるのか? これらの伝説的特撮作品は、庵野の映像づくりに影響を与え続けてきた根幹的な作品だ。令和の時代、これらのキャラクターを年少人口のみならず、誰もが心動かす作品とするハードルは非常に高いだろう。だが死したゴジラに再び命を与えた手腕には、どうしても期待が高まってしまう。

 これからも、自身の思う面白さを追求し続けてほしい。

将来の終わり

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