朽ちる、崩れる、誰もいない――“廃墟”で繰り広げられる物語は切なくも温かい「フラジール 〜さよなら月の廃墟〜」レビュー(1/2 ページ)

シャッターばかりの地下商店街に、無人の遊園地、寂れたホテル……。美しくたたずむ廃墟を冒険するRPG「フラジール〜さよなら月の廃墟〜」。オリジナルの新作として期待を集めた個性派タイトル。その世界が醸し出す雰囲気は、何とも言えず魅力的だった。

» 2009年02月04日 14時37分 公開
[立花裕壱,ITmedia]

廃墟という、まるで時の止まった世界

 写真集といえばアイドル系が一般的だが、ここ数年、密かに人気があるのが廃墟写真集。出入りする人間もいなくなって、ただ風化するばかりの廃墟は、本来価値のない建造物。だが、その光景が人の心をとらえるのだ。

 無人のまま、時が止まったかのような空間……。それは寂しくもあり、ちょっとした恐怖でもあり、日常から半歩踏み出した非日常でもある。廃墟写真を見ていると、複雑な感情が胸の中でないまぜになる。

 「フラジール 〜さよなら月の廃墟〜」は“廃墟ゲー”とファンから呼ばれている。公式のジャンル名もズバリ“廃墟探索RPG”。これまでも「SIREN」シリーズのように、廃墟というシチュエーションを舞台にしたゲームはあったが、ジャンルにまで打ち出しているのは珍しい。

 その着目点と美しいビジュアルイメージから、発売前から一部で熱い注目を浴びていた。期待が高かった分、リリース後には幾分厳しい声も聞かれるが、廃墟という存在がたたえる物悲しさと、シナリオの切なさが相まって、その空気感、雰囲気は申し分ない。

photo Wiiのタイトルとしては異色にも映る、作品性の高いオリジナルRPG。繊細なセンスを感じさせる
photo オープニングムービーの担当は「FREEDOM」などで知られる神風動画。公式サイトにあるPVも一見の価値あり

 屋根が崩れ落ちて青白い月光が射し込む廃駅。レトロなポスターがペタペタと貼られた地下街。柔らかい光が緑の蔓草に覆われた室内を照らすホテル……。

 こうした廃墟を探索して、物語を進めていく。ゲームボリュームは、プレイ時間にして15時間前後とやや少なめで、やり込み派のゲーマーには正直、物足りないだろう。アクションRPGのシステムにのっとって、敵を倒してレベルアップする要素もあるが、戦闘がメインというわけではない。むしろ、小説や映画のワンシーンに入り込んだような不思議な感覚を味わいたい、そんなプレイヤーにこそオススメだ。

 制作プロデューサー兼シナリオは、かつてプレイステーション 2で際立つゲーム性とスタイリッシュなビジュアルが話題となった「7〜モールモースの騎兵隊〜」「ヴィーナス&ブレイブス〜魔女と女神と滅びの予言〜」を手がけた川島健太郎氏。ゲームデザインとグラフィックディレクションは、同じく7〜モールモースの騎兵隊〜のチームが行い、さらに開発は「トラスティベル〜ショパンの夢〜」のトライクレッシェンドが担当している。こうしてスタッフの過去作を見ていくと、その作家性の高さと美しいグラフィックにはうなずけるものがある。

photo 懐中電灯片手に回る、地下の薄暗い商店街。前半のステージは屋内の閉塞感がある場所が多い
photo ゆがんだ鉄柱のかなたに見える赤い鉄塔。こうしたグラフィックに思わず見とれてしまう

ひとりぼっちの少年が旅に出る

 ――今からほんの少し先の未来、人類が滅びてしまった地球。少年セトは小さな天文台でおじいさんと2人で暮らしていた。ところが、セトが15歳になったある日、おじいさんがこの世を去ってしまう。
 遺された手紙を読んだセトは、ほかにいるかもしれない同じ人間の生き残りを探して天文台を出ていく……。

 天文台をあとにしたセトは、月の下で歌う銀の髪の少女と出会い、彼女を追いかけて地下駅へ向かう。RPGとはいっても、人類が滅びた世界なので、基本的には町の住人はいない。それでもステージごとにセトはさまざまな存在と出会い、心を通わせていく。本作のキャラクターは、個性は強いが非常に魅力的だ。

photo

●セト(CV:桑島法子)
「必ず、君に会いにいくからね」

 本作の主人公。静寂の廃墟を旅する15歳の少年。ナイーブで繊細な性格に映るが、旅を続けるうちに次第に成長し、自分の意志を曲げない、まっすぐな力強さを見せる。


photo

●レン(CV:吉川未来)
「だれ? だれかいるの?」

 月光の下、折れた柱の上で歌っていた銀髪の少女。柱から落ちた彼女の頬にセトは一瞬触れるが、すぐに逃げてしまった。その後、セトは彼女を探すことに。廃墟のあちこちでのびのびとしたレンの落書きを見ることができる。


photo

●PF(パーソナル・フレーム)(CV:庄司宇芽香)
「すみません、今ちょっと気を抜いてました」

 背中に背負って使用する携帯対話型AI。「助けてくださーい」と叫んでいたところをセトが駅長室で発見した。人間顔負けのおしゃべり好きで、心細かったセトの最初のパートナーになるが……。


photo

●クロウ(CV:園崎未恵)
「気安く話しかけんな。いーか、俺様が先に話すんだ」

 遊園地で出会う、元気でイタズラ好きの少年。初対面のセトから首のロケットを奪い、さんざんバカにして逃げ回るが……。意地悪そうに見えて、徐々にセトとの友情に目覚めていく。クロウの秘密とは……?


photo

●サイ(CV:広橋涼)
「へー。人間って、まだ生き残ってたんだ」

 ホテルで出会う少女の幽霊。セトよりは少しお姉さんで、セトをからかってみたり、心配してアドバイスをくれたりする。彼女の他愛ないおしゃべりはプレイヤーの心も和ませてくれる。


photo

●アイテム屋(CV:麻生智久)
「あなたさまと私め、どうやら不思議なご縁があるようですな」

 セトが焚き火に当たろうとする時、声をかけてくる謎の男。片目が取れたニワトリの着ぐるみの頭と、ボロボロになった執事風の服という異様な格好をしている。キラキラ光るものを集めており、交換にアイテムを売ってくれる。


 ストーリーのメインテーマは出会いと別れ。想いを残したままさまよう人々とセトが触れ合う。温かいのに、ふと胸が締めつけられ、感動的なのに、どこかほろ苦い。リアルであって幻想的。とても不思議なプレイ感覚だ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/01/news077.jpg ミュージカル『ディズニー くまのプーさん』、舞台が見えづらいとの指摘に謝罪 「視認性の改善を講じる」
  2. /nl/articles/2404/30/news015.jpg 【今日の計算】「500×99」を計算せよ
  3. /nl/articles/2404/30/news156.jpg 「葬送のフリーレン」の勇者一行、ネモフィラ畑に現る 名場面にちなんだコスプレが「これを花畑を出す魔法か」と23万いいね
  4. /nl/articles/2402/21/news158.jpg 業務スーパーの“高コスパ”人気冷凍商品に「基準値超え添加物」 約1万5000個販売……自主回収を実施
  5. /nl/articles/2405/01/news092.jpg “スケスケ成人式コーデ”が物議のモデル、「3度見される服」を披露 「コレは見ちゃうわ」「洗っても大丈夫なのか」の声
  6. /nl/articles/2405/01/news095.jpg 秋元康、AKB48卒業の柏木由紀に送った手紙が物議 “冒頭の一文”に「昭和丸出し」「嫌すぎる」
  7. /nl/articles/2405/01/news014.jpg 1歳娘、ちょっと目を離したら衝撃の光景が……! リアル過ぎるワンオペ現場が190万再生「わかりみすごすぎです」
  8. /nl/articles/2404/29/news009.jpg 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  9. /nl/articles/2403/21/news104.jpg 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  10. /nl/articles/2405/01/news011.jpg 息子「あしたから下敷きいるって」母「ええやつあるで(ドヤ」 母の愛がつまった手作り下敷きに「なにこれめっちゃほしい!」と注目集まる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  2. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  3. しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
  4. 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  5. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  6. 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  7. 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  8. 顔の半分は童顔メイク、もう半分の仕上がりに驚がく 同一人物と思えない半顔メイクが860万再生「凄いねメイクの力」
  9. 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  10. スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評