ガイドブックにない生々しい京都満載 京都出身による京都漫画「はんなりギロリの頼子さん」

京都ロケ地作品への違和感、「いけず」文化……「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第75回は、京都生まれ滋賀育ちの社主が心揺さぶられる「京都漫画」を紹介。

» 2016年09月25日 14時00分 公開
[虚構新聞・社主UKねとらぼ]
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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 「ダウンタウンと明石家さんまと島田紳助が話す関西弁は全部別物ですね」。先日東京の人と会ったときにふと関西弁の話題になったので、この話をしたらずいぶん驚かれました。

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 ダウンタウンとさんまさんの言葉の違いは、何となく雰囲気で分かると思いますが、紳助さんが京都弁だと分かる人は少ないのではないでしょうか。けれど、関西人にとって彼のアクセントは聞き逃せないほどに京都弁。明らかに「浮いている」のです。

 言葉遣いから性格まで、京都人が醸し出す独特の存在感は、隣県・滋賀に住む社主には京阪神の中でも特に際立っているように見えます。ダウンタウンが今ではずいぶんマイルドなテレビ向け関西弁を話しているのに対して、紳助さんが引退するまで京都弁を貫き通したのは、彼の京都人としての自意識の強さがあったのではないかなと思います。

 さて、前置きが長くなりましたが、今回紹介するマンガは、そんな京都という街と京都人の暮らしを紹介する、あさのゆきこ先生の「はんなりギロリの頼子さん」(~2巻、以下続刊/徳間書店)。WEBコミック「ぜにょん」で連載中です。

はんなりギロリの頼子さんはんなりギロリの頼子さん 「はんなりギロリの頼子さん」第1巻&第2巻

ディープな京都を“ギロデレ”で紹介

 タイトルにもなっている主人公の頼子さんは、京都市内に住むタバコ屋のお姉さん(バツイチ)。目つきが怖く、気合いが入ると眉間にしわが寄るせいか、ギロリとにらみつけるような目つきになってしまう彼女が、修学旅行生や国内外の観光客など、古都を訪れる人たちとの交流を通じて、ガイドブックよりもディープな京都の魅力を紹介していく1話完結の作品です。

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はんなりギロリの頼子さん ギロリの目つきが魅力(?)の頼子さん

 どう見ても接客には向いてなさそうな頼子さん、けれど道に迷った外国人観光客に自転車を貸してあげたり、若者の相談に乗ったり、タバコ屋の前を通る困った人を見かけると、そわそわして助けずにはいられない、実はとても良い人なのです。

 自分から声をかけることはしないけれど、声をかけられると、めんどくさそうなそぶりを見せつつ、全力で力を貸してしまう――。そんなツンデレならぬ「ギロデレ」が彼女の魅力でもあります。その上、人が見てないところではいつもすごくいい笑顔をしているんですよね、頼子さん。

はんなりギロリの頼子さん いい笑顔です!(※人が見てないところでは)

 人助けのような人情話に加え、本作に描かれる京都のエピソードは、作者・あさの先生自身が京都出身ということもあってかなりリアル。「そうそう、よう分かってはるわ」という京都あるあるも満載です。

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 中でも「あるあるだなあ」と感じたのは、頼子さんがライトノベル「ぼっちだけどアンタとは友達になれない。」の考証を任されるお話(第19話)。「京都のシーンがあるので地元に住む人の意見を聞かせてほしい」と、彼女のもとを訪ねてきたラノベ作家から渡された原稿を読みはじめます。

 4月のある日曜日、夕方の鴨川河川敷で出会った高校生の少年少女。その後2人は嵐山の竹林で夕日を眺め、日が暮れると円山公園のライトアップされた枝垂れ桜の下でついに打ち解ける――。

 まさに「京都の見どころ詰め合わせ!」な感動的ロケーションですが、少しでも地元を知っている人なら「こんなん笑うわ」という話でもあります。

 どこがおかしいか分かりますか?

 実際に試してみれば気付きますが、鴨川の河川敷から嵐山までは結構距離があって、電車や市バスを乗り換えて向かうと、着いた頃には日が沈んでいます。そして頼子さんも指摘しているように、桜が見ごろになる4月の京都市内は、どこもかしこもいつも以上に観光客であふれかえっていて、ここに描かれているような「今世界にいるのは俺とあいつだけ」みたいな情緒も風情もへったくれもあったもんじゃない。この頼子さんのツッコミに対して、ラノベ作家がどうやって難局を切り抜けたか、その超展開はお楽しみに取っておきましょう。

 しかし、こういう時空のゆがんだロケーションは、みなさんが見ているテレビの2時間ドラマでも起きていて、その度に「地元民しか知らんと思て、ええ加減なつなぎ方してるな」とツッコんでいます。あるサスペンスでは、四条河原町で「ちょっとこっちに来い」と腕を引っ張られた女が、7キロ離れた北山まで徒歩で連れて行かれるシーンがあって、「腕ちぎれるわ!」と家族で総ツッコミしていたこともありました。京都は毎日のように誰かが謎のトリックで殺されるほどサスペンスの舞台として定番ですが、その人気の割に作りがいい加減なこともしばしばです。

雑談かと思いきや嫌味 リアルな京都人らしさ

 さて、本作もう1つの見どころは、作品から「京都人らしさ」」がにじみ出ているところです。

 例えば、京都人の「いけず」のお話(第22話)。京都に住んでいない人のことを「よそさん」と言いますが、この回では扇子屋の女性店主が、よそさんに「お客さんやったらシュッとしてはるから これやのうても なんでもようお似合いになりはるんちゃう?」と語りかけるシーンがあります。

はんなりギロリの頼子さん よそさんには難しい京都人の「いけず」

 何も知らないと単なる雑談としてスルーしてしまいそうなこの言葉。裏に隠れているのは「わざわざうちの扇子を買わなくても」、さらに転じて「うちの品物を売る気はありません」なのです……! こういう遠回しな嫌味やいじわる、すなわち「いけず」は京都人ならではと言われます。元をたどると角が立たないようにするための気遣いなのですが、こういう言い回しがよその人にとってはいけずに映るのでしょう。これが大阪人なら直球で「売る気ないからはよ帰ってくれ!」と言うんじゃないでしょうか。

 ただ、人付き合いという点から京都人を見ると、最初はとっつきにくいけれど、いったん打ち解けると急にやさしくなって気遣ってくれる人が多いように思います。京都の女性が「付き合いたい地方女子」の上位に必ずと言っていいほどランクインするのは、言葉遣いの柔らかさだけでなく、急にデレる落差に魅力を感じる男が多いのかもしれません。そういう意味ではギロデレ頼子さんは典型的な京都人と言えるでしょう。

 滋賀県民として京都人の京都アピール&滋賀ディスにうんざりしつつ、なのに自分の言葉の端々に残る京都弁にハッとさせられる日々を過ごす京都生まれの社主にとって、本作はざわざわと心揺さぶられるものがありました。それだけここに描かれる京都の姿が生々しいということでもあります。「お寺!紅葉!京料理!」から、もう一歩地元の空気に寄り添ったリアルな京都らしさを味わってみてください。

 今回も最後までお読みくださりおおきにでした。

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