「漫画村出稿メール」を独自入手 「偽名営業」「取引先は海賊版サイト」元代理店従業員が語る異常な実態(1/2 ページ)
漫画村の実質的窓口にも取材。
社会問題となっている海賊版サイト「漫画村」「Anitube」「MioMio」に関与する広告代理店A社の元従業員がねとらぼ編集部の取材に応じ、「取引先はほぼ著作権侵害サイト」「偽名での営業」「たびたび労基がやってくる異常な社内環境」などの業務実態を語りました。また広告代理店と出稿主との生々しいやりとりのメールを独自入手。漫画村の実質的窓口となっていたというX社にも迫ります。
なぜ広告代理店は海賊版サイトに広告を出すのか
情報提供者はA社とそのグループ企業(以下、A社グループ)で今年まで営業関係を担当していた人物。「私の行った過ちを明かすことで少しでも人の役に立てるなら」と取材に協力してくれました。
――早速ですが、A社はどのようなサイトと取引しているのでしょうか。
情報提供者:「漫画村」「Anitube」「MioMio」はもちろん、ほかの海賊版サイトも含めると1000件近くのサイトとアドネットワーク(※)で取引があります。取引先は著作権を侵害しているサイトばかりで、「ほとんどがアウト」というような状態です。
(※)アドネットワーク……広告代理店が広告媒体となるサイトを集めて「広告配信ネットワーク」を作り、いろいろなジャンルのサイトに広告が表示されるというシステム。
――A社は日本インタラクティブ広告協会(JIAA)にも加盟していますよね。なぜそのような海賊版サイトと取引をするのでしょうか。
情報提供者:会社から営業担当者が非常に厳しいノルマを課されているからです。本当はみんなクリーンな広告に携わりたいはずです。しかし、結局ノルマが達成できないということで、「違法なサイト」と認識しながらもアクセス数が多い海賊版サイトやグレーなアダルト系のサイトに手を出してしまうんです。
――ノルマはそんなに重要なことなのでしょうか。
情報提供者:もしもノルマが達成できないとなると、役員に呼び出されて非常に厳しい叱責を受けます。また部署内でも「ノルマが達成できなかった人」というような雰囲気を出されてしまい、強い疎外感を感じます。こうした雰囲気や、偽名で営業をさせられることなどに気を病んで会社をやめてしまう人は少なくありません。
――偽名で営業とはどういうことなんでしょうか。
情報提供者:私が働いていたA社グループにはいくつもの関連会社や子会社があり、日によっては「A社の田中です」と名乗ったり、「B社の鈴木です」「C社の山中です」と偽名を名乗ることになっていました。またA社やB社、C社の間にはバーチャルオフィスに登記されたいくつものペーパーカンパニーが挟まれていて、お金の流れや会社の実態が表面化しにくいような構造が巧妙に作られています。
――営業というのは具体的にどういうことをするのでしょうか。
情報提供者:新しいアフィリエイター(Webサイトを運営して広告収入を得る人)の開拓であったり、企業に出稿を持ちかけたりといった業務です。
「Facebookで見つけた無関係の人を勝手に広告塔に――」広告代理店の信じられない宣伝ページ作り
――広告代理店は営業以外にどんな仕事をしているのですか。
情報提供者:筋力増強サプリの案件を例に説明すると、まずサイトに設置するバナーを制作します。次にバナーを押して表示される広告宣伝のページ、通称“訴求”の画面を作ります。怪しい商品のバナーをクリックすると、縦長でずら〜っと「これさえあればムキムキ!」「強い男を作る!」というような効果を説明する画面が出てきますよね。あれがまさに“訴求”です。
――確かによく見ます。余談ですけれども、あのような製品って本当に効果があるんでしょうか。
情報提供者:ほとんどないです。例えばサプリを飲む前と飲んだ後のビフォーアフターの画像ってよく見ませんか。あれはサプリに全く関係のない人の画像をFacebookなどで探して合成していることが多いです。
――知らない間に商品の広告塔になっているかもしれないということですよね。それって詐欺なんじゃないですか。
情報提供者:全ての案件がそうだとはいいませんが、多くが詐欺ですね。しかもビフォーアフターの比較対象が別人ということもザラにありますから、本当に問題だと思います。
――広告主はそれを了解しているのでしょうか。
情報提供者:あまりよく見ずに「これでいい」といっているのだと思います。
――優良な広告主もいるのでしょうか。
情報提供者:ある大手ECサイト運営会社はかなり優良だと思います。この会社からは度々「出稿NGサイトリスト」が送られてきていました。
――どんなサイトがNGだったんでしょうか。
情報提供者:漫画村、Anitubeはもちろん、同人誌の違法アップロードサイトも含めると300件近いNGがありました。最近だとMioMioが4月にNGリストに入ったようです。
「漫画村での利益は――」 広告代理店の取り分
――既報の記事「『二度と掛けてくるな』 “漫画村”広告主への取材一部始終、広告は取材後に消滅」では、漫画村の元広告主を取材しました。その際、「『違法サイト』だとか大事にならなければ引き続き出稿したいという気持ちもありました」という発言がありましたが、漫画村はやはり“もうかるサイト”なのでしょうか。
情報提供者:商品へのクリック数が多いサイトではありましたが、広告代理店としてはそんなにもうかるわけではない、むしろもうからないサイトだと思います。
――商品のページがクリックされたら代理店に利益が入るのではないのですか。
情報提供者:例えばGoogleなどがやっている広告では「1クリックで何円」といった利益が入ってきますが、私が担当していたアドネットワークの場合は、商品の利益が確定しないと広告代理店は報酬を得られませんでした。
――広告とお金の流れを説明していただけますか。
情報提供者:まず広告主は広告代理店に広告料を支払います。この広告料を元手に、広告代理店が広告枠を持ついくつかのサイトに商品の広告を載せます。それを見たサイト利用者が商品を購入し、代金が広告主に届くと利益確定になります。この状態を広告業界では“発火”(※)と呼びますが、発火後、広告主がどこの広告(サイト)から商品が売れたのかを調べて、先に支払っていた広告料のうちから数十%を広告代理店に支払うことを承認します。
(※編集部注)発火、発生、コンバージョンなどさまざまな呼び方がありますが、この会社では実際に発火という用語を用いていました。
――つまり商品が売れないと、広告代理店には利益が入らないんですね。
情報提供者:そうです。そしてさらに広告代理店の売上の中から数十パーセントはアフィリエイターに支払われるため、広告代理店の実際の利益は微々たるものです。例えば代理店の売上が30万円だとすると、そのうち17〜18万円はアフィリエイターの手元に入ります。
――漫画村は広告代理店にとって利益率の高いサイトだったのでしょうか。
情報提供者:2017年末の場合、漫画村に貼られた広告のアクセスは月に数万件あるものの、発火件数は毎月50件程度と非常に少ないです。つまり割の良いサイトではありません。
――漫画村には毎月どれぐらいの利益が入っていたのでしょうか。
情報提供者:最近でいうと、2018年の1月が最もアクセス数と発火件数が大きかったのですが、A社グループのブランドの一つ「D」から漫画村の窓口会社へ支払われた報酬はたった数万円です。あれだけアクセス数があるサイトなのに1カ月で数万円、これは異常な低さです。A社グループの別ブランドではこの数字の10倍近い発火(売上)が上がっていたようですが、それでも数十万円程度です。
――先ほど漫画村の窓口会社、という言葉が出てきました。運営には法人が関与しているのでしょうか。
情報提供者:都内の広告代理店、X社が漫画村の窓口です。各代理店が漫画村関連で連絡を取りたいときは、漫画村に連絡するのではなくてX社を通すことになっていました。運営にはさらにいくつかの会社や人が関与している可能性がありますが、私は実質的な運営はX社自身が行っている可能性もあると感じていました。
たびたび労働基準監督署がやってくる異常な社内環境
――情報提供者さんは、すでにA社を退社されているんですよね。退職理由はなんだったのでしょうか。
情報提供者:自分がこんなことを言うのはどうなのかとも思うのですが、やはり良心が痛んだというのが一番大きいです。
――何かきっかけになる出来事があったんですか。
情報提供者:営業の仕事に慣れてきたころ、明らかに著作権を侵害しているサイトを発見し、上司に「問題だ」と伝えましたが、「サイトが開ければ内容はどうでもいい」と相手にされませんでした。それでも私が「でもこういうサイトに広告を出すと、(掲載されていた作品の)著作権者は困りますし、まずいんじゃないですか」と意見したら、「でもね、あなたもこれでメシ食ってるんですよ」と言われてしまったんです。この「これで(違法なサイトの広告で)メシを食っている」という言葉はかなりショックでしたし、心に重くのしかかりました。ほかにも労働基準監督署がたびたび訪ねてくるなど、会社の中は異常でした。
――労働基準監督署が来たというのはどういうことでしょうか。
情報提供者:A社のグループではハローワークに出している求人募集の内容にウソがあったり、先ほど伝えたような実態のないペーパーカンパニー問題、何の理由もなく給与を減額、タイムカードの偽装打刻など数々の問題があり、労働基準監督署がたびたび立ち入っていました。正直今も労働基準法違反問題の対応に追われていて、漫画村問題どころではないのではないかと思います。
――A社グループの資料を拝見しました。ずいぶんと人の入れ替わりが激しいみたいですね。
情報提供者:定着率は非常に低いですね。1カ月に2〜3人入ってきて、6人辞めるというようなこともありました。広告業界と言えば一見華やかなイメージがありますが、実際はとても地味ですし、休日出勤はあたりまえで、顔が真っ白になって働いている人の姿も見てきました。アフィリエイターを囲って独立するという人もいますが、やはり会社の異様な雰囲気に耐えかねる人が多いのではないかと思います。
――異様というのは。
情報提供者:ある社員が「昼食休憩は1時間欲しい」というようなちょっとした愚痴を飲食店でこぼしたところ、すぐに社長に呼び出されて叱責を受けました。会社のある区でなにかするとすぐに社長の耳に入るのも怖かったですし、役員のパワハラも厳しかったです。
――お給料は良かったんですか。
情報提供者:普通のお仕事に比べると初任給は良い方だったのではないかと思います。しかしある程度の責任が伴ってきても給料が上がることは少ないので、そのあたりで悩んでいる人も多いと思います。
――今、何を思いますか。
情報提供者:クリエイティブなものの作者様、関係者が正当に評価される世の中になってほしいです。私も学生時代に海賊版サイトを利用してしまったことがありますが、とても後悔しています。現在はサイトで閲覧してしまった作品の単行本などを自分のお金で購入していますが、海賊版サイトを見る人が一人でも減ってくれればと思います。
生々しい漫画村出稿依頼とその対応メール
また、ねとらぼ編集部ではA社グループのB社 M氏が漫画村に関わっているという決定的な証拠メールを独自に入手しました。
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