「やりすぎでは」「ただの私刑」 “バイトテロ”投稿主の個人情報暴露、法的に責任はないの?

弁護士は「不適切動画問題と、再拡散や特定拡散は別の問題」と語ります。

» 2019年02月18日 14時00分 公開
[Kikkaねとらぼ]

 SNSでの不適切投稿を元に、撮影者や投稿者の個人情報を暴いて拡散する「さらし行為」が社会問題となっています。こうしたネット私刑に問題はないのか、弁護士に見解を聞きました。


不適切投稿 バカッター バカスタグラム 某すしチェーン店での不適切投稿について個人情報を暴露するアカウント(現在は削除済み/キャッシュより/画像は一部編集部で加工しています)

 2019年1月ごろから目立つようになった不適切投稿に関する個人情報暴露問題。過去にSNSへ投稿された牛丼チェーン「すき家」の従業員が調理器具を股間に当てる動画回転寿司チェーン「くら寿司」の従業員が切り身魚をゴミ箱に投げ入れた後、再びその切り身をまな板に載せる動画などが意図的に拡散され、“特定アカウント”を名乗るユーザーらが元の投稿者や撮影者などの氏名、住所、学校名などを次々に暴く展開となりました。

 中でも注目を集めていたのは、「ax(@a__x__0)」を名乗るTwitterアカウント(現在は削除済み)で、「本日の早朝に特定が完了しました」「このぐらいなら10分で行けるかと思います」などと炎上投稿主の特定をうたい、「#拡散希望」と付けたうえで複数人の個人情報を掲載しました。


不適切投稿 バカッター バカスタグラム 「ax(@a__x__0)」を名乗る自称特定アカウント(現在は削除済み/キャッシュより/画像は一部編集部で加工しています)

 こうした行為には一部から称賛の声が上がった一方で、「やりすぎではないか」「ただの私刑」といった声も上がるなど賛否両論の状態が続いていました。そうした中、ax氏が「活動継続のために支援をして頂きたいと思っております」などと「iTunesカード」を求める投稿をしたことから状況は一変。

 ax氏自身も炎上の様相を呈することとなり、活動継続をするかどうかのアンケートを行った後に、「自分はしばらくネット上に浮上しないことにします。理由は訴訟される危険があるからです。現在、個人の特定をしてる人がいるかもしれませんが、やめた方がいいです。他人のことを少しでも拡散すると訴訟に繋がる危険があるからです。本当に申し訳ございませんでした。さようなら。」「誤った情報を流すのは危険です。それにより私は法的措置をとられるかもしれません。私みたいにならないように気をつけてください」と投稿し、「引退しました。普通の大学生に戻ります」と、アカウントを削除しました。

弁護士「不適切動画問題と、再拡散や特定拡散は別の問題」

 前述のax氏は姿を消しましたが、投稿された個人情報のキャッシュはまだネット上に残っている他、投稿情報が別のユーザーによって転載、拡散されているケースやネット上の不確かな情報だけで個人情報を特定しようとする動きも依然続いています。


不適切投稿 バカッター バカスタグラム 個人情報を特定したとする暴露ツイート。しかし信ぴょう性については不透明(現在は削除済み/キャッシュより/画像は一部編集部で加工しています)

 こうした炎上投稿における「個人情報の暴露」に法的な責任はないのか、グラディアトル法律事務所の北川雄士弁護士にお話を聞きました。

――過去の不適切動画を再拡散する行為、また不適切行為に及んだ人物の名前や所属などを特定し拡散する行為について、法的な問題はありますか。

北川弁護士刑事上の問題と民事上の問題がありますので、以下分けて詳述します。刑事上の問題について。まず、不適切行為を行った人物やその所属先に対する名誉毀損罪となる可能性があります

 刑法230条1項により、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁固又は五十万円以下の罰金に処する」とされています。そして、不適切動画の再拡散や不適切行為を行った者の人物の名前や所属などを拡散することは、「公然と事実を摘示」しているとはいえ、その人物や所属先の社会的評価を下げるものであるから、「人の名誉を毀損した」といえます。なお、「人の」とありますが、これには法人も含まれます。

 もっとも、刑法230条の2より、一定の場合には名誉毀損行為であっても罰しないとされています。具体的には、名誉毀損行為が(1)公共の利害に関する事実に係り、(2)その目的が専ら公益を図ることにあり、(3)真実であることの証明があるとの3つの要件を満たす場合には、違法性がないとされます。しかし、今回のケースでは、意見は分かれるでしょうが、(2)の専ら公益を図る目的という要件を満たさないと思われます。なぜなら、不適切行為につき、過去に拡散されている上、不適切行為者の名前や所属などが自らで判明したとしても、適切な対処を求めるためには所属先や警察への通報で十分果たされるものだからです。

 従って、不特定多数の者が閲覧できるネット上へまで拡散した行為は、違法なものとして、名誉毀損罪となる可能性が高いでしょう。

 また、拡散の時期や手法によっては、拡散されたことによるもろもろの対応業務に追われ、本来の業務が妨害されたとして、所属先に対する業務妨害罪(刑法233条、234条)が成立する可能性もあります

――民事上の問題についてはいかがでしょうか。

北川弁護士不適切行為を行った人物やその所属先に対する不法行為となる可能性があります。民事上も、判例上、刑法230条の2と同様の要件を満たせば違法性がないとされています。しかし、前述のように、意見は分かれるでしょうが、公益目的を満たさず不法行為となり、損害賠償請求をされる可能性が高いと思います。

――この場合、拡散した側にはどのようなリスクがありますか。

北川弁護士あくまで、不適切行為やそれに関する動画そのものの問題と、再拡散や名前や所属などを特定しての拡散することの問題は、別の問題として判断されます。ですので、再拡散する行為も、名前や所属などを特定しての拡散行為も、自ら新たな拡散を行ったと判断され、当初の拡散とは別問題として、前述した刑事上、民事上の責任を追及される可能性があることになります。

――Instagramの「ストーリーズ」機能のように、一定期間後に消滅する前提である動画を保存し、再拡散しているケースもあります。この場合法的な問題はありますか。

北川弁護士一定期間後の消滅が前提であれど、公開時点でその動画が誰かに保存され、再拡散が行われることは、十分に投稿者も想定できることです。ですので、消滅が前提であることをもって、結論が異なる可能性はなかなかないと思われます。すなわち、通常の事案と同じく、投稿者、拡散者は刑事上・民事上の責任を追及される可能性があることになります。

――ビッグエコーのケースでは「今回当該映像が新たにインターネット上に掲載されたことにつきましては、あらためて、厳正に対応していく方針」とのコメントを発表していますが、この場合「厳正に対応」というのはどのようなことが考えられますか。

北川弁護士まず、名誉権侵害等を理由に、拡散動画の削除および投稿者を割り出すための発信者情報開示請求を行うことが考えられます

 そして、発信者情報が開示されて投稿者が判明すれば、投稿者に対し、民事上の損害賠償請求を行ったり、捜査機関に名誉毀損罪等で刑事告訴する可能性まであります。


 ネット上で暴露されている個人情報の中には誤った情報や風評被害を含むものも含まれています。安易な暴露投稿や拡散は控えるべきでしょう。また銀行口座の詳細、未公開の住所などの個人情報を開示するツイートについては、Twitterの規約で禁止されています。

(Kikka)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
先週の総合アクセスTOP10
  1. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  2. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  3. しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
  4. 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  5. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  6. 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  7. 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  8. 顔の半分は童顔メイク、もう半分の仕上がりに驚がく 同一人物と思えない半顔メイクが860万再生「凄いねメイクの力」
  9. 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  10. スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評