シシド・カフカの必要以上の真面目さに激しく共感 吉高由里子「わたし、定時で帰ります。」が丁寧に描いた、仕事旧世代の「定時で帰れない」問題

悪質なパワハラでひとは壊れます、壊れたあとの働き方が勝負。

» 2019年04月23日 11時20分 公開
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 「わたし、定時で帰ります。」(TBS系)の第1話が4月16日に放送された。「定時で帰る」が特別のことのようにドラマの題材になってしまうというのもすごい話である。


わたし、定時で帰ります。 定時で帰る女・東山結衣(吉高由里子)VS.皆勤賞女・三谷佳菜子(シシド・カフカ)のドラマ構図と思いきや……  イラスト/まつもとりえこ

第1話あらすじ「会社を辞めます。理由:先輩がウザイ」

 東山結衣(吉高由里子)はWeb制作会社で働くディレクター。入社以来、残業ゼロ生活を貫いている。そんな中、結衣の部署に元彼だった種田晃太郎(向井理)が副部長として異動してきた。吸収合併した会社からは仕事命の皆勤賞女・三谷佳菜子(シシド・カフカ)がやってきた。小泉咲(ついひじ杏奈)の教育係になった佳菜子は咲をきつく叱り、厳しく教育する。

 ある日、「会社を辞めます。理由:先輩がウザイ」と書き置きを残し、咲が姿を消した。佳菜子のパソコンのパスワードを勝手に書き換えるという暴挙付きだ。周囲から「考えが古い」と意見された佳菜子は、ショックで無断欠勤するように。結衣は佳菜子の家へ行き、定時で帰宅するようになった理由を告白した。翌日、佳菜子は会社に出社した。


わたし、定時で帰ります。 三谷佳菜子(シシド・カフカ)の不器用な真面目さに共感。解雇を恐れ、追い立てられて働いてきた旧世代の悲哀が迫った イラスト/まつもとりえこ

自らの経験値が通用しなくなった仕事旧世代の悲哀

 番組のTwitter公式アカウントは「定時の女vs皆勤賞女」を見どころに挙げていたが、定時帰宅と皆勤はそもそも対立概念になり得ないはず。それよりも、第1話は佳菜子による新人教育がメインテーマだった。

 このドラマは登場人物たちの特徴がわかりやすく描かれている。佳菜子が咲に行った教育の内容もわかりやすい。「始業30分前には出社しろ」「就職氷河期だった自分たちの世代は解雇を恐れ人の倍働いたものだ」など、いかにもなものばかり。ことごとく、佳菜子はズレている。まず、「始業30分前に来い」はサービス早出残業強要になる。「私たちの頃は〜」という説教は若手に一番響かない。その時代のことなんて知る由もないし、時代は変わるからだ。若手に対して価値観の押し付けは良くない。

 一方、新人・咲の態度もありえなかった。「新しい考え方こそ正義」と言わんばかりに露骨に反抗、そしてあっさり退職した。しかも、腹いせに佳菜子のPCのパスワードを勝手に書き換える愚行。もはや犯罪スレスレである。

 以前の会社で、佳菜子はパワハラを受けていた。「センスのかけらもねえな!」「空気読め!」「俺がやったほうがよっぽど早えよ!」「お前の代わりなんていくらでもいんだよ!」と怒鳴られる毎日。だから、「自分みたいにならないよう育ってほしい」という思いのもと、咲を教育した。それだけに、新世代から全否定された佳菜子がふびんだ。

 ネット上では「三谷の気持ち、めっちゃわかる」「決して間違ったことは言ってないと感じてしまう」と、佳菜子に共感する声が多数見受けられた。必要以上に佳菜子が真面目なのは、解雇を恐れ、追い立てられて働いてきたからだ。

だから仕事は面白い

 このドラマの旧世代の描き方に救われた部分がある。悪い部分を指摘しつつ、佳菜子を過度に滑稽に描いてない。無断欠勤した佳菜子について、上司の立場で晃太郎は評した。

 「三谷さんは何も間違ってない。仕事もしっかりできてる。分析も丁寧。三谷さんが何を大事に思って仕事してるのか、よくわかる

 結衣の現在恋人・諏訪巧(中丸雄一)の言葉も印象に残る。

 「学生時代って価値観が似た人たちと付き合うじゃない? それはそれでいいんだけど、仕事は全然違う考え方の人たちと協力して一つのことを成し遂げる。だから面白いんだよね」

 自分が味わった苦労を若手にも強要し、定時で帰る同僚を「やる気がない」とする古い価値観を引きずった世代。「新しい価値観こそ正義」と信じ、譲ろうとしない新世代。どちらにも良い影響を与える、意義あるドラマになってほしいと願っている。……のだが、このドラマを一番見てほしい人たちは、放送時間帯もきっとまだ働いているだろうという事実

 というか、「わたし、定時で帰ります。」の制作陣は定時で帰れているのだろうか? 試しにドラマスタッフの労働時間をガラス張りにし、我々に教えてみてほしい。それがあると、この作品をよりフラットに見ることができる。

寺西ジャジューカ

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まつもとりえこ

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