【ネタバレ】「ドラえもん のび太の新恐竜」のスパルタ教育と根性論 誤った“多様性”の危うさを考察(3/3 ページ)

» 2020年08月22日 13時40分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
前のページへ 1|2|3       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 そもそも、人間の社会における多様性とは、その人の“らしさ”を肯定する言葉だ。弱者と共存するということはその定義から外れているし、弱者という言葉を使っていることも差別的に思えるし、「多様性がそういう話になりがち」と考えていることにも違和感がある。また“生物多様性”という言葉も、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という複合的な意味を有するものであり、「生物は他のたくさんの生物と関わっていて生きている」ということでもある。それらの概念を十分に鑑みておらず、「多様性は生物がサバイブするための必須条件」と短絡的に定義してしまっていることが、そもそも間違いだ。


4:「君の名は。」なクライマックスが生み出した違和感

 「生物の進化」についても、無理やりに思えてしまう論理展開がある。具体的には、キューが飛んだことが「恐竜から鳥への進化の瞬間を目撃した」と劇中で語られているが、進化とはそのようなピンポイントで起こるものではなく、生物の連続性があってはじめて成り立つものではないか。

 さらに、「他者を思いやる心。そんな感情は、人間だけが進化させた能力なのかもしれない」とも語られているが、前述した通りのび太のスパルタ教育と、その訓練からキューが逃げたという事実があるため、「他者を思いやる心」というのがひどく欺瞞的なものに思えてしまう。

 そして、クライマックスでさまざまな要素が組み合わさっていく、何より「隕石が落ちてきてみんなが死んでしまうかもしれない! 力を合わせて守るんだ!」という展開は、川村元気がプロデュースを手掛けた「君の名は。」とほぼそのままだ(おそらく「のび太と竜の騎士」も意識している)。

 「君の名は。」は夢の中で入れ替わった相手に恋をすることと、隕石が落ちる場所にいるみんなを助けたいと願うという気持ちがしっかりリンクしているからこそ、登場人物を応援できた。しかし、「のび太の新恐竜」では、(根性論で)キューが飛べるようになることと、(間違った)多様性の訴えと、(ピンポイントのはずがない)恐竜が鳥へ進化する過程を、強引につなげているように思えてしまう。

[ネタバレ]「ドラえもん のび太の新恐竜」のスパルタ教育と根性論の危うさを考察する 画像は予告編より

 「世界が終わるかもしれない」という展開は、確かにエモーショナルだ。しかし、本作は以上にあげたような論理展開による結論ありきで、いくつかの要素を組み合わせたおかげで、素直に楽しむためには、あまりにもノイズが多い作品になってしまっている。


まとめ

 この他にも、「のび太の新恐竜」にはノイズになってしまうセリフや展開が多い。ピー助(声:神木隆之介)が登場するファンサービスは設定としてどう受け止めれば良いのかわからないし、ドラえもんはなぜか“イナゴの缶詰”を何度も出すというポンコツぶりが目立つし、キューの対比となっている双子のミューの活躍の場面が少なすぎるし、途中でジャイアンとスネ夫が人工的な施設で見つけた恐竜たちの生態標本はなんだったんだと思うし、“飛んでいる”プテラノドンが完全に“敵”として描かれているのも納得がいかない。タイムパトロールが、結局はのび太たちの“歴史改変”を肯定してしまっているのも、モヤモヤが残ってしまう。

 総じて悲しいのは、やはり作り手の一方的な価値観の押し付けだ。それは物質的に豊かになり、多様な価値観があらわれている現代では、ひどく前時代的で独善的に思えてしまう。暴力を振るうようなコミュニティからは逃げてもいいし、飛べなくても、逆上がりができなくてもいいではないか。今は、弱肉強食の白亜紀ではないのだから。

 この映画を観て根性論やスパルタ教育を良きものとする、そのような風潮にならないこと願っている。それこそ、「ドラえもん」という作品の精神に最も反することだろうから。そして、本作が多様性や進化について調べたり考えたりするきっかけになるのであれば、それは喜ばしいことだ。

ヒナタカ

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/23/news213.jpg YUKI、大胆なスリット入った近影に驚きの声 「52歳なの意味わからんな」「ここまで変わらないって本当凄い」
  2. /nl/articles/2405/23/news036.jpg 【今日の計算】「9−9×9+9」を計算せよ
  3. /nl/articles/2405/24/news017.jpg 猫の見た事ない姿に「未だかつてこれ以上の2度見は見た事がありません」「可愛すぎて10回見た」 爆笑の瞬間が640万再生
  4. /nl/articles/2405/23/news204.jpg 「天才現る」 “富士山ローソン”を迷惑かけず撮影できる!? “持ち運べるローソン”が「商品化して」と話題
  5. /nl/articles/2405/24/news143.jpg 清原翔、約4年ぶりの“顔出しショット”が雰囲気変わりすぎて「別人みたい」 脳出血&3回手術後初のヒゲ解禁姿に「ポニテかわいい」「いい感じにダンディ」
  6. /nl/articles/2405/24/news135.jpg “元めちゃイケ”三中元克、卒業後8年で見た目もスキルも「別人レベル」になっていた “クビ体験”披露する貫録たっぷりの姿に共演者「元力士」「迫力ある」
  7. /nl/articles/2405/24/news128.jpg hitomi、48歳を迎え“急激な変化”に驚き 「少ないと思っていたんだけど」「48歳だもんね〜」
  8. /nl/articles/2405/24/news020.jpg 1歳妹の「いってらったぁい」に小学生兄がもん絶して…… かわいいが連鎖する朝の光景に「かぁぁぁって声でた」「朝からホンワカ」
  9. /nl/articles/2405/24/news026.jpg 「そんなバカな」 喫茶店で“ウインナー・コーヒー”を注文→出てきた予想外の商品に驚がく「ちょっと動揺」
  10. /nl/articles/2405/22/news098.jpg 「最高過ぎる」「すげー!」 ChatGPTに“手書きメモ”をアップすると…… 仕事がはかどる“衝撃の機能”に歓喜の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「現場を知らなすぎ」 政府広報が投稿「令和の給食」写真に批判続出…… 識者が指摘した“学校給食の問題点”
  2. 「二度と酒飲まん」 酔った勢いで通販で購入 → 後日届いた“予想外”の商品に「これ売ってるんだwww」
  3. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  4. 「なぜ今になって……」 TikTokで“15年前”の曲が大流行 すでに解散の人気バンド…… ファン驚き 「戸惑いが隠せない」
  5. どういう意味……? 高橋一生&飯豊まりえの結婚発表文、“まさかのタイトル”に「ジワる」「笑ってしまう」
  6. サーティワンが“よくばりフェス”の「カップの品切れ」謝罪…… 連日大人気で「予想を大幅に上回る販売」
  7. “世界一美しいザリガニ”を入手→開封して見ると…… 絶句を避けられない姿と異変に「びっくり」「草間彌生作のザリガニみたい」
  8. 「誰かと思った」 楽天・田中将大の“激変した風貌”にファン驚き…… 「一瞬わからなかった」
  9. 複数逮捕&服役の小向美奈子、“クスリ”に手を出した理由が壮絶すぎ……交際相手の暴力で逃亡も命の危機 「バレてバルコニー伝って入られて」
  10. 耐火金庫に“溶岩”を垂らしてみたら…… “衝撃の結果”に実験者も思わず「なんだって!!!」と驚愕【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評