何気なくスマートフォンで撮影した写真が、長いあいだ確認されていなかった希少植物の再発見につながりました。
舞台はオーストラリア・クイーンズランド州北部。鳥類調査を手伝っていた園芸家が、現地で見つけた見慣れない植物を撮影し、市民科学アプリに投稿したところ、植物学者がその画像に注目。そこに写っていたのは、長年行方が分からなくなっていた“幻の植物”だったのです。
思いがけない発見は、研究者のあいだでも大きな話題に。一般の観察記録が科学研究の重要な手がかりになるとして、注目を集めています。
鳥の調査中に見つけた、ちょっと変わった植物
発見のきっかけを作ったのは、プロの園芸家アーロン・ビーンさんです。アーロンさんはクイーンズランド州北部の広大な自然地帯で、鳥の足環調査を手伝っていた際、地面に生えている低木に違和感を覚えました。
彼はその場でスマートフォンを取り出して植物を撮影。生き物の観察記録を共有する市民科学プラットフォーム「iNaturalist」に投稿しました。世界中で多くの自然愛好家や研究者が利用しているこのサービスですが、今回の投稿はアーロンさんにとって、ごく自然な記録のひとつだったようです。
ところが、その何気ない投稿が思わぬ展開を呼びました。
画像を目にしたクイーンズランド植物標本館の植物学者アンソニー・ビーンさんが、すぐに植物の正体に気づいたのです。
約60年ぶりに確認された「幻の植物」
写真に写っていたのは、「Ptilotus senarius(プティロトゥス・セナリウス)」という非常に珍しい植物でした。
紫がかったピンク色の、羽毛のようにやわらかな花を咲かせる低木で、オーストラリア北部のカーペンタリア湾周辺という限られた地域にしか自生していません。この植物が最後に確認されたのは1967年で、それ以降は発見例が途絶えていました。あまりに長く見られなかったことから、研究者のあいだでは、すでに野生から姿を消した可能性も指摘されていたといいます。
見つかりにくかった理由として、生息地が人の立ち入りにくい乾燥地帯であることに加え、近縁種と見た目がよく似ているため、見過ごされやすかったことが挙げられています。
今回の再発見を受け、この植物は「絶滅種」ではなく、「絶滅危惧IA類」として保護対象に位置づけられることになります。
注目される市民科学。スマホが研究の手がかりに
今回の出来事が大きな反響を呼んだのは、専門家による調査ではなく、一般の観察者による発見だったからです。
写真が投稿されたiNaturalistは、世界中の利用者が動植物を記録し、その情報を研究者が活用できる仕組みになっています。すでに128カ国にまたがる多くの研究論文で引用されており、生物多様性研究を支える重要なデータベースのひとつです。
特にオーストラリアのように広大で、研究者だけでは調査しきれない地域では、こうした観察記録の価値はますます高まっています。
専門家たちは、土地所有者や自然観察を楽しむ人たちに向けて、気になる植物や生き物を見つけたら記録を残してほしいと呼びかけています。
誰かが「ちょっと珍しいかも」と感じて残した1枚の写真が、失われたと思われていた植物の存在を明らかにしました。次の大発見も、案外そんな何気ない瞬間から生まれるのかもしれません。
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