オーストラリア・タスマニアの原生林で、絶滅の危機にある極めて珍しい植物の新たな生息地が見つかりました。
発見されたのは、タスマニア固有種「キングス・ロマティア(学名:Lomatia tasmanica)」。これまで確認されていたのは、500〜600株からなるたった1つの群落だけでした。そこへ新たに第2の個体群が見つかったことで、長らく不安視されていた種の存続に希望が見えてきているとされます。
この歴史的発見のきっかけをつくったのは、南西部の僻地を歩いていたハイキンググループでした。
ハイカーが見つけた“世界で最も珍しい植物”の新たな群落
今回発見されたのは、タスマニア州南西部の人里離れた原生林です。未踏に近い低木林を進んでいたハイカーたちが、見慣れない植物に気づき、植物学者へ報告。その後、専門家による確認を経て、キングス・ロマティアの第2の個体群であることが判明しました。
確認されたのは、少なくとも3個体。詳しい場所や発見者の身元は公表されていません。これは、絶滅危惧IA類に指定されるこの植物を守るための措置です。タスマニア州天然資源環境局(NRE Tas)は、土壌病原菌の侵入や人為的な影響から守るため、厳重な管理が必要だとしています。
キングス・ロマティアは1934年、タスマニアのブッシュマンで環境保護活動家でもあったチャールズ・デニソン・“デニー”・キングによって初めて記録されました。
以来、長いあいだ知られていたのは1つの群落だけ。そのため今回の発見は、植物学界にとって大きなニュースとなっています。
種を作れないのに4万年以上も生き続ける不思議な植物
キングス・ロマティアが特別視される理由は、その極めて珍しい生態にあります。この植物は三倍体で、通常の植物とは異なり3組の染色体を持っています。この特徴のため有性生殖ができず、種子を作れません。
増える方法は、地下茎を伸ばしたり、枝が地面に倒れて根を張ったりする栄養繁殖のみ。つまり、既知の群落はすべて遺伝的に同一のクローンとされます。
1989年には、タスマニア大学のグレッグ・ジョーダン教授らが約4万3600年前にさかのぼる化石を確認。この植物は、世界最古級の植物クローンのひとつと考えられています。
ジョーダン教授は「別の個体群が存在する可能性は考えていたが、見つけるのは極めて難しいと思っていた」とコメントしています。
もし今回見つかった個体群が遺伝的に異なることが分かれば、この植物の進化史そのものを書き換える発見になる可能性もあります。
極めて稀な条件下で有性生殖が起きたのか、それとも別の進化の過程があったのか。新たな謎が浮かび上がっているそうです。
第2の個体群がもたらす希望と新たな課題
この植物にとって最大の脅威は、「フィトフトラ・シナモミ」と呼ばれる土壌病原菌です。
根を侵し、植物を枯死させるこの病原菌は根絶が難しく、人の靴や装備に付着して広がることもあります。そのため関係者は、発見場所を探しに行かないよう強く呼びかけています。
タスマニア州ではすでに、既知の群落を山火事から守るため計画的な焼却管理を実施。ロイヤル・タスマニア植物園でも、2004年から保険的な保存個体群の維持が続けられています。
それでも栽培は難しく、自然環境での保全が欠かせません。
ジョーダン教授は、「第2の個体群が存在するということは、この種が長期的に生き残る可能性を大きく高める」と話しています。
たったひとつしかないと思われていた命の拠点が、もうひとつ見つかった。今回の発見は、タスマニアの深い森に、まだ科学が把握しきれていない自然が残されていることを改めて示した出来事といえそうです。
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