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ねとらぼ
2026/11/04 18:15(公開)

どこまでも普通だからこそ尊い恋愛ライトノベル―― 『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』を読んで【サイン本プレゼントあり】

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「なんで強い体に産んであげられなかったんだろうって、悔やまなかった日はないです」

――作中より引用

 冒頭から自分語りで恐縮ですが、僕は不整脈をもって産まれました。大学生の時に最後の検査を受けるまで、数カ月に一度、心臓の検査を受ける生活を送っていました。

 小学生の頃の僕は正直、検査の日が楽しみでした。学校を休めるし、検査は午前で終わるから午後は遊び放題だし、親が帰りに欲しいもの買ってくれるしと、良いことづくめだったからです。少なくとも当時の僕は、不整脈で困ったと感じた経験がなく(激しい運動も普通にできた)、ゆえに病気の重さを実感することもなかったため、検査はたまにやってくる特別な休日に過ぎませんでした。

 その見方が変わったのは、大学生になる少し前のこと。父親から僕が生まれる前の母親の様子を教えてもらってからでした。

 母親は、僕がおなかにいる時、医師から我が子が心臓の病気をもって産まれてくる可能性が高いことを知らされました。突然の通知に母親はそれからしばらく、ずっと上の空だったようで、その後も何度も「なんでこの子が……」と申し訳なさそうにおなかをなでる日が続いたそうです。

 そんな親の気持ちも知らず、産まれた我が子は「やったー! あしたはけんさで、がっこうやすみだー!」とのんきに思っていたわけですが、この話を聞いて以降、さすがに当時の振る舞いを申し訳なく思っています。本作『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』(以下、『かけ恋』)を読んで、そんな当時のことを改めて思い出しました。といったところで、本題です。

提供:SBクリエイティブ
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ライター:だっく

Webメディア編集者(約15年 / アイティメディア、イード、NTTドコモ、オールアバウトなど)。20代~30代にかけて4年ほどニートになって公募に挑戦したラノベ好き。毎日10時間くらい誰かの配信を覗くホロリス。一番の推しはスバちゃん。最近は宙科そぴあさんの配信で大忙し。
note:@howaaaaa


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人嫌いの主人公と視力を失ったヒロインが織りなす、“ふつう”で尊い恋模様

 『かけ恋』は、ドラマ化やアニメ化もされた人気のライトノベル。がんで視力を失った大学生のヒロイン・冬月小春と、そんな彼女に恋をした同じく大学生の主人公・空野かけるの物語です。サークル合同の新歓コンパで出逢った2人は、大学の休み時間や大学祭を通じて親密になっていき、やがてかけるは小春に告白……するのですが、その日を境に、なぜか小春が大学に姿を見せなくなり、連絡も取れなくなります。かけるは寮のルームメイトの鳴海潮、小春の友人・早瀬優子と共に彼女を探し回り、やがて小春がある病院に入院していると判明。ですが、そこにいた小春は、なぜか3人と過ごした日々の記憶を失っており――その後、色々あった果てにかけるの告白が実るのかは、ぜひ読んで確かめていただければと思います。

 小春は小6で脳にがんが見つかり、中3でそれが網膜に転移して視力を失ってしまいます。ですが、大学でかけるが出逢った彼女は、誰よりも明るくポジティブ。過去の経験から「自分から人と関わることは嫌い」なかけるとは真逆に、誰とでも屈託なくコミュニケーションを取り、新しいことにどんどんチャレンジしていきます。

 だれかの印象に残ったり、記憶に残ったりする生き方。それって、それなりにパワーがいる。ひたすらに薄っぺらく生きる方が楽でいい。
 悪目立ちしないように返答ぐらいするし、空気を読んでその場に合わせたりはする。
 しかし、自分から人と関わることは嫌いだ。

――作中より引用

 冒頭のセリフは、物語の後半で小春の母親が、かけるに語ったものです。それでも彼女は、「私がつらい顔していたら、あの子がかわいそうじゃないですか。どうせ乗り越えなきゃいけないことなら、となりで笑ってあげないと」と、娘を笑顔で支え続けました。

 そんな母親を見て育ったからか、小春は自分のことを笑顔で「障がい者」と言い切り、過去の苦労話でさえ楽しそうに話すなど、かけるいわく「底抜けに明るい」です。そんな彼女を前に、かけるは最初どう接すればいいのか困惑します。

 わからなくなる。
 どこまで聞いていいのか。
 どんな言葉が冬月を傷つけてしまうのか。
 どうすればいいんだろう。ふつうに接していいのだろうか。
 そもそもふつうに接するってなんだろうか。

――作中より引用

 そんな彼に構わず、距離をグイグイ詰めてくる小春。かけるはそんな小春との交流の中で、彼女の過酷な境遇を知るうちに、それでも世界と笑顔で向き合っている彼女の生き方に劣等感めいた感情を抱いたり、その裏にある数々の苦悩を知って素直に尊敬の念を抱いたりと、少しずつ自分の気持ち、彼女との向き合い方を整理していき、その感情はやがて恋心へと変わっていきます。

 冬月と向き合うと、なんだか照れる。
 単純に美人だからか、僕にはない性格をしていて一種の尊敬になっているのか、とにかく、冬月を見ると鼓動が早くなる。

――作中より引用

 そして小春も、自分のことを理解しよう、フラットに接しようとしてくれるかけるの「やさしさ」に引かれていきます。

 そんなみんなに、私は「ふつうだよ」って言いたい。
(中略)
 案外、ふつうに生きている。
 ひとりでできないことも多いけれど、それでもなんとかなっている。
 できないときは、素直に人に頼ることができるようになった。
 そうして仲良くなった人もいる。
 だから、そんなに心配しないでほしい、と思う。
(中略)
 そう考えると、かけるくんは違った。
「その、目が見えないって、どういう見え方なの? 暗闇だったりするの?」
 わかろうとしてくれた。
(中略)
 この、やさしさが、たまらない。

――作中より引用(中略は本記事著者による)

 他人と“ふつうに”接することがどういうことか分からないかけると、“ふつうに”接してほしい小春。世界と向き合うことを避けてきたかけると、世界と笑顔で向き合い続けてきた小春。そんな対照的な2人であるがゆえに、その関係はどこか噛み合わないところから(半ば優子のゴリ押しによって)スタートし、互いに少しずつ歩み寄っていきます。

 物語中盤に小春の入院が判明するまでは、そんな2人が“ふつうに”交流します。一緒の講義の後に学生会館のテラスでお茶したり、小春の「花火、やりましょうよ!」の一言から一緒に花火を買いに行ったり。大きな盛り上がりはありません。イチャラブに興じるわけでもなく、くっつきそうでくっつかないムズキュンなじれったさもなく、ギスギスすることもなく、ただ境遇も価値観も違う2人が出逢い、さまざまな出来事を通じて相手のことを知っていき、その距離を少しずつ縮めていく――。文字に起こせば、本当にそれだけです。

 ただ、だからこそ相手をもっとよく知りたい、一緒にいたいと、一歩を踏み出す勇気がとても際立ちます。作品全体を通して、人を想うことの尊さに心を打たれる物語に仕上がっており、その随所で小春が見せるあどけない冗談や仕草に思わずほっこりします。

 そして後半、小春の入院が分かってからは一転、恋愛どころではなくなる展開が待っていますが、それでも困難にめげず彼女を想い続けるかける、それを受けてある大きな決断を下す小春の姿には、ただただ心を洗われます。

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歩み損ねた人生を追体験させてくれる、かけるという存在

 主人公のかけるは最初、やや斜に構えた人付き合いが嫌いな青年で、特技は気配を消して空気になること。新歓コンパの直後、優子から小春と同じ講義の時はサポートしてあげてほしいと頼まれた際は曖昧な返事で渋り、最終的に押し切られて「最悪だ」と思うあたり、当初は小春との付き合いを面倒事と思っていた様子が窺えます。

 それでも早瀬はしたたかに「連絡先、教えてよ」とか言ってくる。「いや〜」と断っている間にLINEで二次元コードを表示してきた。しぶしぶID交換に応じた瞬間、「もし小春ちゃんが困っていたらお願いね」と微笑んで、冬月の方へ駆けていった。
 最悪だ。

――作中より引用

 空気を読んで空気になる。関わらない。それがベストだと知った。顔色を窺い、無関心な領域はどこか、安全地帯はどこか、見極める。それがいつの間にか特技になった。

――作中より引用

 そんな彼が小春といっしょに過ごすうち、さながら彼女の笑顔に荒んだ心が溶かされていくように、自分という人間と少しずつ向き合い、変わっていきます。人付き合いが嫌いな青年が、一人の少女との出会いを通じて、世界と真っ直ぐに向き合う尊さ、人に思われる嬉しさを知っていく様子を眺めていると、「こんな斜に構えた時代、自分にもあったなぁ」と、どこか恥ずかしくもなり、それがいかにもったいない時間だったかを思い知らされるようでもあり……。かけるはそんな自分の分身のようで、若かりし頃の自分が歩み損ねた貴重な人生を追体験させてくれるような、そんな存在のようにも感じられます。

 屈託ない笑顔や素直な気持ちをストレートに伝えてくる小春に、最初こそ引き込まれないように警戒しているかけるですが、本人の意志とは無関係な形とはいえ交流を重ねていくうち、不意に優子から「いつからそんなに仲良くなったの?」といわれるほどの関係を築くに至ります。

 栞を手に取って、つんと指先に触れさせると、状況を察してくれたのか「拾ってくれたんですか。空野さんはいい人ですね」と冬月は笑った。
 その不意打ちのような笑顔に胸が高鳴る。
 そのことを意識したくなくて、冬月から目をそらしてしまった。

――作中より引用

「かけるくん?」
「ん?」
「どこか行っちゃったのかと思いました」
「気配、消してたからね」
「かけるくんのいじわる」
 少し黙って気配を消すと、冬月が言うには本当にいなくなったみたいだという。気配の消し方が他の人と一線を画しているらしい。
 なんとなく、「かけるくん」から始まるこの掛け合いが好きだった。

――作中より引用

 やがて、誰の目にもふれずに“空気”として人生を過ごしてきた青年は、もんじゃ屋で“空気”どころか店中の衆目を一身に集めて、およそ普通の人なら躊躇するであろう“ある行為”に踏み切るのですが、彼がそれほど人を想うようになった姿は、とても感慨深いものがあると同時に、「あのとき、ああしていれば……」「あのとき、こうしていれば……」、そんな後悔が胸中を去来するかのような、ちょっとうらやましい気持ちにもなります(いえ、べつに恋愛経験とかほぼないに等しいんですけどね、ええ)。

 かけると小春の境遇こそ重なる人は少ないと思いますが、2人の交流はどこまでも“ふつう”。ゆえに、自身の人生の鏡として映りやすく、だからこそ己の過去を後悔したり、未来への勇気をもらえたり、作中のかけるように作品を通して自身と向き合える、そんな物語になっています。

複雑に揺れ動く小春の心模様に、彼女の苦悩や本心を想像せずにはいられない

 そんなかけるを変えたヒロイン・小春は、前述の通り、どこまでも明るくポジティブ。その前向きさは危うさすら感じられるほどで、歩きスマホの他人にぶつかられても、「きっと大事な人から連絡が入ったんですよ」と笑顔で言い切ってしまうほど。

「けどさ」
「いいんです」
 ――よくあることですから。
 そう、冬月は続けた。
 まだ腹が立っていた。「けどさ」と反論すると、
「スマートフォンを持っていたんでしょ? きっと大事な人から連絡が入ったんですよ」
 冬月は笑ったのだ。

――作中より引用

 その生き様は、どこか刹那的にも映ります。作中で「人間、いつ死ぬとも限らない」と小春自身も言っていますが、天然さ、ゆるさすら感じさせる彼女の言動の裏に、残された人生を謳歌するうえで余計なことにはいっさい気を回さない、限られた“いま”という時間を邪魔されたくない……そんな強い意志が秘められているかのような。

 ただ、それゆえか、彼女の底抜けに明るく、いまを全力で生きている姿はどこまでも天真爛漫で、その様子を眺めているだけで癒やされます。些細なことでも嬉しくなって思わずスキップしちゃうところとか。自身の感情をとにかくストレートに打ち出す姿勢や、興味のあることにはなんでも挑戦する姿は、とてもまぶしく映ります。

 ただ、そんな小春でも、かけるに対する本心だけは“ある理由”から打ち明けません。正確には、物語の中盤で匂わせる行動は取るのですが、ストレートには伝えません。その後、彼女は“ある理由”から入院生活に入り、かけるたちと過ごした記憶を失い、その態度が硬化します。

「空野さん?」
「ん?」
「どこか行っちゃったのかと思いました」
「……気配、消してたからね」
 いつもの返しをした。
 いじわると、甘えるように怒る冬月が好きだった。
 あの、いつものやりとりが宝物だった。
 けれど、
「冗談はやめてください」
 そう冬月は尖った声を出した。
「聞いてます?」と不機嫌そうに言って追い打ちをかけてくる。思考が停止していく。

――作中より引用

 記憶を失った原因や態度が硬化した理由、そんな小春とかけるの関係が最終的にどこへ着地するのかは、ここでは伏せておきます。

 一つだけ書いておきますと、入院後の小春の揺れ動く心模様は、彼女が人生でどれほど自身の死と向き合ってきたのか、それゆえにどれだけのことを諦め、しかしそれでも抑えきれない想いをどれほど抱え続けてきたのか、いやがおうにも想像させられます。態度が硬化する一方、ときおりそれとは食い違うような行動を見せる小春の様子は、彼女の苦悩や本音が透けているようにも思え、ただただ心を打たれるばかりでした。

 物語は基本かけるの視点で進み、たまに小春の過去の回想が挟まれるのですが、彼女の過去はそこまで多く語られません。だからこそ生まれる想像の余地が、読み手の心を揺さぶってきます。小春が持ち歩いている人生で「やりたいことリスト」の内容や、彼女の母親の語りなど、随所で挟まれる要素が読者の小春に対する解像度を引き上げる程度も絶妙で、その効果をより最大化するように働きます。

 ラストについては一言だけ、小春のメッセージに涙が止まらなかった、とだけ書いておきます。

かけるの想いは届くのか、小春の想いは実るのか

 小春の入院後、かけるはそれでも彼女との関係を再び取り戻そうとします。かけるの想いは果たして届くのか? 小春のどんな本心を抱えており、それは実るのか? 結末はぜひ読んで確かめてみてください。「人間、いつ死ぬとも限らない」と言っていた小春と、そんな彼女を支え続けるかけるの姿は、誰かを想うことの尊さ、一度しかない人生の大切さ、その一度きりの人生を全力で生き抜くことの素晴らしさを、あらためて教えてくれることでしょう。

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